1月 紡ぐ言葉
「・・・ごめん、でも決めてたんだ」
ぽつりと呟く姿は、さっきの強引な彼とは別人のようだった。
「イベントが終わったら動く、って。2月前には何とかしなきゃ、と思ってたから」
周平も、不安に思ってくれていたのか。冬と共に終わりになるかもしれない、この関係を。
「・・・何とか、って?」
小さな声だったが、真紀は勇気を出して問いかけた。だって聞かなきゃ、ずっとこのままだ。真紀の言葉に周平は大きく息を吸った。
「はじめは、危なっかしい真紀を俺が面倒見てるつもりだった」
周平は真紀の手首を握ったまま、もう一方の手で彼女の頬を包んで上を向かせた。切なげな視線に胸が締め付けられる。
「・・・でも、おにぎりもらった頃から、実はもう捕まってた。」
「え?」
「一生懸命だけど融通がきかなくて。いつも目一杯のくせに、人のこと心配して、その気がないのに俺を餌付けする」
すねたような言い草だ。
「去年仕事場が離れたときもどうってことないし。必死で同期会開いても何も変わらない。散々美砂たちに責められたよ。真紀が引っ越して初めて浅葱で見かけたときも声がかけられなかった」
「初めてって、あの時じゃなかったの?」
ふたりが電車で出会って、初めてバーナードカフェに行った日。
「・・・あの日休憩室で、バーナードのマグ使ってる真紀を見て、策を練った」
彼の顔は真っ赤だった。
「香りで分かるくらいラテが好きなのは嘘じゃない。だけど、」
こつんと額を合わせた。
「これが最後のチャンスかもしれないってしがみついた」
周平は額を離して真紀の両肩に手を置いた。ぐい、と後ろに押してふたりの身体を少し離し、真紀の目をじっと見る。見透かすように強く、熱の籠もった視線。耐えられなくて身をよじると、逆にぐっと引き寄せられた。周平の胸に倒れ込んだ瞬間、そのまま両腕で固く抱きしめられる。彼の体温、彼の匂い。彼の全てが次々と真紀の五感に飛び込んでくる。鼓動と吐息がマグマのようにたぎって、もうどちらのものなのかもわからなくなった。
「・・・俺のものになって。」
絞り出されるような声に震えた。
「お願いだ」
気が遠くなりそうだった。3年も彼が自分を思っていた事実と、目の前に突きつけられた熱情に。
「真紀」
自分の名前がこんなに自分を熱くするなんて。
真紀は身震いしながら彼の胸の中でこくりとうなづいていた。
「・・・駄目だ」
唸るような周平の声に顔を上げた。
「言って、ちゃんと」
「!」
なんて人。私をとことんまで追いつめる。真紀は涙目で周平を仰ぎ見ながら震える唇を開いた、その時。