1月 燻る気配
窓の雨粒を追いながらアイリッシュコーヒーを楽しむ。濃厚で甘く癖のある、彼好みのコーヒーカクテル。マスターは珍しいと言ってはいたけど、ここには他の誰かを連れてきてはいないのだろうか。あの青い焔を誰かと見たのだろうか。
ー不本意ながら、まだー
同じ言葉が耳の中で木霊する。私酔ってる?周平を見ると、彼もほわんと頬を明るませていた。
「大分あったまったな。真紀は?」
「うん、指がじんじんして熱いくらい」
ウイスキーのせいで冷たかった指先が温かくほぐれていた。周平はどれ、とコーヒーのグラスを持たない左手で彼女の手をするり、と掴んだ。真紀は驚いて一瞬引こうと思ったけれど、気まずくなりたくなくて、そのまま黙って手を預ける。
「酔った?」
焦った真紀ができるだけ落ち着いた声を出すと、
「うん、そうかもな、あれっぽっちで」
と他人事のように笑う。
「酔ったときは、つい油断してボロが出る、だから」
彼は彼女の淡いマニキュアを施した爪を指先で撫でた。
「なるべく飲まないようにしてるつもりだったけど。もう何度目になるかな、真紀と飲むの」
周平は残りのコーヒーを飲み干して、グラスを置く。最後にすっと彼女の指先に手を滑らせて、離した。まるでマッチだ。真紀の中でしゅっと音がして灯がともる。真っ赤になった真紀は触れられていた手を自分の胸に戻した。どうしよう。顔を上げてはっとする。
周平の視線は迷うことなくまっすぐに注がれていた、彼女に、彼女だけに。いつもほっとする安らかな空気をまとった彼なのに、いまは煮詰めた蜜のような、ねっとりとした熱い気配を絡ませている。
「・・・ほんとは素面の時に言うべきなんだろうな」
周平は目を逸らさずに語り始める。
「でも、これでももう随分時間をかけたつもりなんだ」
まさか、そんな。まだ自分の気持ちも朧げだっていうのに。その一方で自分の予想している彼の言葉が、ただの自惚れになることがたまらなく怖くなった。
「俺は・・・」