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後日談〜1月 ラテの冷めない距離(1)

10話の翌日のお話です。ついつい超極甘になってしまったので、お好みでない方はスルーしてください。

 日曜の待ち合わせはやっぱりバーナードカフェだった。あれからだめ押しのメールがきて。

 「明日10時、バーナードカフェ。待ってるから」

 昨日話して決めてあったのに。何度もその文面を見て、持ち帰ってしまった彼のマフラーに顔を埋めて。なかなか寝付かれないまま、朝を迎えた。

 待ち合わせの後はどこへ行くのか。映画とかだったらきっと寝てしまう。真紀は鏡の中の自分の頬を叩いた。シルバーグレイのUネックのニットを選んだのは、もらったチョーカーネックレスが合いそうだと思ったから。黒とグレイと赤のチェックのフリンジがついたスカート、黒のラメが入ったモヘアのジャケットを合わせた。最後にネックレスの金具を止める。雪の結晶のきらめきを見つめながら、昨日付けてくれた時のうなじに触れた指の感触を思い出して赤面した。私、こんな調子で今日1日もつんだろうか?もたもたしてブーツも上手く履けなかった。

 出掛けたのは待ち合わせより30分以上前で、5分程で着いてしまう。落ち着いて周平を待とうと思っていたのに、その彼がテーブル席から手を振ってくる。アイボリーのタートルネックのセーターにダークブラウンのジャケット。手には真紀と色違いの緑のマイマグ。

「・・・早いね」

 真紀が驚きを漏らすと、ふわふわの前髪の下で嬉しそうに目が細められた。

「待ってるってメールしたろ?」

 得意そうに言う。

「真紀は早いだろうと思ってたからね」

 真紀が席に近づいたタイミングで、耳元に口を近付け囁いた。

「少しでも早く会いたかった。それ、似合うよ」

 ばくん!あり得ない強さで胸が鳴る。胸を押さえて、彼の前に座った。心臓がもたない!彼のマフラーを入れた紙バッグを取り出す振りで下を向き、息を整えた。

「これ、ありがとう」

「・・・どういたしまして」

 意味深に微笑む。マフラーを取り出して首に巻くと、すっぽり顔半分まで埋まってから、

「真紀の匂いがする」

 と言った。   

「もう、やめてよ」

 真紀は涙目になって懇願する。

「何が?」

「こういうの、慣れないよ。周平君、人が変わったみたいなんだもん」

 誰に言っても信じてもらえないかもしれない、こんなに甘い周平を。

「慣れてけば?」

 他人事みたいに軽やかに言って周平は微笑んだ。

「そういや、朝ご飯食べた?」

 話が飛んでほっとする。そういえばコーヒーも買ってない。

「ううん、まだ。周平君は?」

「うん、このラテだけ。ここのサンドイッチでも買ってく?今日のはアボカドとチキンか、プロシュートとラタトゥユのフォカッチャか・・・」

「買ってくって?」

 公園にでも行くつもりだろうか?

「・・・真紀んち、行っちゃだめ?」

「!」

 何を言い出すのか。この男は!

「昨日、あの店員に邪魔されて、話途中だったよな?」

「ええっ!」

 まさかここで蒸し返されるなんて。うまくごまかせたと思ってたのに。周平は真紀の手を取った。

「行こ。せっかく早く来たのに、時間がもったいないよ」

 勝手に真紀のトートバックから赤いマグを取り出すと、カウンターに行き真紀のラテと本日のサンドイッチ2種類をさっさと買い、会計をすましてしまう。商品を待つ間も真紀を眺めながらにこにこしている。

「ね、本当にうちにくるの?」

 正直、これがデートの後なら(そうだ、これはまごう事なきデートなのだ!)考えてない訳じゃなかったけれど。まさか朝の10時前とは! 

「困る?」

 周平は無邪気に尋ねる。シューッとミルクがスチームに掛けられる音と一緒に、真紀の頬も上気する。

「・・・いいけど」

 仕方なく呟くと、周平は満面の笑みでふたり分の朝食を持って歩き始めた。



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