どこからか聞こえる
超短いショートショートです。
引っ越し先の、鉄筋コンクリート造のアパートで、どこからか声が聞こえる。男が何かを喋っている音だ。アパートにありがちな反響で、どこから聞こえているのかわからない。
寝ていると余計に響く。
『おのれ、ーーーーーーー、ーー、ーーーーーるぞ』
なんと言っているのかわからないが、何かを言っている。
今日は、疲れたからか余計に耳にうるさい。
『などーーーーー』
うるさい。
「っあぁ、うるせぇ」
手を探って、リモコンで電気をつける。
眠ろうにも気になる。
引っ越したばかりで疲れている上に、隣人の音で寝不足とか最悪だ。
電気をつけても音が消えることはないが、視覚情報が入るからか、気が紛れる。ついでにトイレに行っておこう。
トイレに入り、用をたし、水を流す。
『ーーーーーるぞ』
ガコッーーーザアアアアァアアアアァアア
水の流れる音がする。
台所に行き、蛇口をひねる。
『ーーー、などー』
ツドドドドドドジョーーーキュ
シンクに水が叩き落ち、グラスに水を入れ、蛇口を閉める。
水を一気に飲み干す。
『ーーー、などいきーーー』
なんとなく頭を振るが、ぼんやりしてスッキリしない。
「ニャア」
「あ、ハルさん」
『おーー、ーーいーー』
愛猫のハルさんがひょっこり顔を出した。
俺を見て、一瞬硬直する。まん丸の目がかわいい
「フシャァアァァアァァアアアア」
ガシャン
野生全開で俺に向かって飛び、頭の上を通過して、飛び越えていくハルさん。驚いてコップを割る俺。
『ーーー、っぐぅ』
『ごぉぉらぁぁぁあ』
いきなり声が変わる。聞こえていた声とは違う、どこか懐かしい声。
その瞬間に鳥肌が立った。
ずっとどこからか聞こえていた声。本当に他の家からだったのか。なぜ、寝室でも、トイレでも、台所でも。同じ聞こえ方をしていた?
「ハル、さん?」
「ニャア、ニアァァアニャア」
なんとなく、叱られた気がした。
後日、不動産屋に連絡を入れる。
「うちって、事故物件じゃないですよね?」
「少々お待ちください。・・・うーん、ないですね。もともと、築年数が浅いので。前の入居者が最初ですが、特に報告無いですね」
「そうですか」
「なにかありましたか?」
「いや、人の声が聞こえて」
「集合住宅なので、反響したんですかね?一緒に内見をした同居者も音を聞いていますか?」
「同居者」
「一緒に内見に来た、角刈りにスカジャンを着ていた男性ですよ。入居に反対していた。ほら、書類にも同居人に、・・・あっ、ペットですね・・・勘違いしていたみたいです、すみません。
とりあえず、人の声に関してはこちらではなんともいえないです。ご報告があったことは記録はしておきますね」
「・・・そうですか。ご回答ありがとうございました」
とりあえず、その日のうちに神社で購入した御札を部屋に貼った。
その日、夢を見た。
祖父と猫のハルさんに説教される夢だ。
「ハルさんに迷惑かけるなよ」
「ニァァアニンァアア、ニァアァニァアニャ」
「怖い目にあわないと準備しねぇんだからな、ちゃんと引っ越してすぐに御札を貼れよ。というか、引っ越せ。霊道だぞ、この部屋」
「ニャァ!」
「じいちゃん。ハルさん、ありがとう」
「おう、気をつけろよ」
夢の中の祖父は、生前に指定した遺影の写真と同じ、若い姿に角刈りの頭、竜が刺繍されたスカジャンを着ていた。
『おのれ、などいきたるぞ』
おまえは、どうして生きているのか。という意味で使いました。
どこからか聞こえる声。
本当に、家の外からなのでしょうか。




