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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部四章『預言者と選択者』
94/110

4-6

「はぁ。これが神の目論見か?だとすれば、滑稽としか言いようがないな!」


その言葉と共に銃剣が火を吹く。

それと同時に私は全力疾走で、一直線ではなくジグザグに駆け出した。

横へズレる度に智見さんが標準を合わせる。偏差射撃もしてくるので、どれがマズくてどれが大丈夫か、見極めるのも苦労する。それでも、着実に前へ、前へと距離を詰めていく。


「動く的には当てられない、とでも言うつもりか?」


智見さんが嘲笑を浮かべる。

別にそんな意図はないけど、そうやって油断してくれるなら好都合なので、何も返すことなく特攻し続ける。


「そこまで志瑞空に味方するというのなら是非もない。悔いを残して死ね」


連射が続く。私は変わらず特攻する。


「再度問う。お前は何と言って死ぬかな?」


死なないってば。

そんな内心は置いといて、充分に距離を詰められたので私は跳躍した。


「うりゃああああああああ!!!」


そして空中で回転し、智見さんの脳天目掛けて踵を勢いよく振り落とす。

智見さんは一瞬目を瞠るも、すぐに『障壁』を展開した。

流石に展開が早いね。……でも!

私の渾身の一撃が『障壁』を直撃、そのまま叩き割った。


「何っ!?」


ギョッと目を剥いた智見さんは咄嗟に腕を頭の上でクロスさせて腰を低くし、防御態勢をとった。そのまま智見さんに踵落としが直撃し、雪煙が激しく立ち、雪原に大きく罅が入った。

衝撃波でさらに周りの積雪が舞う。


「馬鹿な……っ、アレだけの弾をどうやって対処した!?全て『魔弾』だったんだぞ!?」


智見さんの額に冷や汗が滲んでいる。

しゅたっと着地した私はすんなり立ち上がりながら、返した。


「避けてませんよ」


その証拠に、どこもかしこも銃創だらけ。

凄く痛いし、血がだくだく出てるし、魔弾?とやらのせいで『回復』魔術を上手く展開できなくて使えないしで散々だ。


けれど、致命傷とか、深手は避けたから、まだ動ける。


「だが、」


智見さんはまだ食い下がった。


「当たったら魔術の行使を阻害する、つまり『身体強化』も使えないはずだと言うのに、あのバ火力はなんだ!?人間の素の身体能力では有り得ない!」

「勘違いしてるみたいだから、教えてあげますよ」


再び突貫した私に、慌てて智見さんが『身体強化』を展開する。私はどうせ何も展開できないので、気にせず距離を詰めて手刀を繰り出す。

智見さんも負けじと、銃剣を捨ててから手刀を素早く繰り出す。

私も、智見さんも回避を捨てて、ただ専ら手刀を繰り出し続けていた。躱したら致命傷を追いかねないという判断だった。

そうして段々と傷が増えていく。それに比例して、雪原に赤い模様が増える。


……血の温さで雪が溶けたのか、足元が滑った。

智見さんはその隙を見逃してくれない。『魔装』で双剣を素早く展開し、私の胸元を大きく切りつけた。


「……っ!」


あまりの痛さと熱さに意識が飛びそうになる。

……けど、まだ!


「うああああああああ!!!」


大声で無理やり私の意識を覚醒させ、私は智見さんの鳩尾を力強く殴りつけた。


「ごパッ!?」


喀血しながら智見さんは吹っ飛び、遺跡廃墟の折れた柱に叩きつけられる。そのままズル、ズル、と地面に尻をついた。


智見さんが投げ捨てた銃剣を拾い上げて、弾数を確認する。

残り2発。全部魔弾……それなら足りるね。

ひとつ頷いて、私は智見さんの元へ歩み寄った。

智見さんはまだ意識を保っているらしい。私を睨みつけるだけだったけど。


「私にとって、魔術はおまけなんです」


まともに使えるのは『身体強化』『障壁』『回復』だけ。どれも、空くんについて行く為、護身目的でなんとか覚えたものばかり。

けれど、私は元から『人並み外れた身体能力』がある。皆が太鼓判を押すくらい、最早ゴリラ以上と言って過言ではないレベルを誇っている。私の自慢の一つだ。

魔術はただの補助輪。バフ代わりなので、魔術を封じられても戦闘継続ができる。

だから、『魔弾に当たっても良いか』くらいの気持ちで突貫した。

賭けだったけど、……まあ、私は昔から『賭け』には強いから。


「とりあえず、そこで大人しくしててください。……絶対、識名さんと現海さんに会わせますから」


そう言って、智見さんの掌目掛けて、智見さんが使っていた銃剣を発砲。無事に智見さんの手に当たった。

これで、智見さんは魔術を使えない。ここまで消耗したら邪魔なんかできなくなるはず。


……空くんのところに援護に戻ろう。

『ダークマター』製のおかげか、徐々に再生しつつある傷を横目に、私は空くんと調さんたちの方へ意識を向けた。


すると……空くんが力なく倒れていて、調さんがそれをなんの感情もこもっていない瞳で見下ろしていた。


……、……。

……?


一瞬思考が止まり、絶望が這い寄ってきた。

けれど、違和感にすぐ気づいた。


空くんは死んでも『呵責』の効果で自力で……というか自動で蘇生する。

そして、その『呵責』は魔術ではどうしても覆せない。

桜乃さんの『異常性』の『決意』の影響で空くんが死んだことならあったけど、あれも結局は空くんの『呵責』の弱体化によるものらしい。

ましてや、調さんは『異常性』所有者でなければ、人を直接殺せる内容の『過負荷』でもない。

なのに、空くんが蘇生していないということは。


「……魔術で昏睡させている?」

「あれ。この辺の魔術は何も教えてないのに、よくわかったね」

「……」


何故かあっさり肯定された。

別に確信だった訳じゃないけど……まあ、それならなんとか助けられそうかな。


私の思考を後目に、調さんはペラペラと種明かしを始めた。


「いやさー。志瑞空の1番厄介なのって『死なない』つまり『絶対的な敗北』がないことでしょ?でも、生かさず殺さずなら動きを封じられるかなあって」


たしかに、空くんの一番の弱点はその通り。

生きた状態で、『呵責』すら使えない程度に身動きを封じられると、空くんは何も出来なくなってしまう。

調さんは続ける。


「ほら、私ってこう見えても『陰成室』の『司書』だから。色んな魔術を知ることができるのさ。それで、1世紀くらい前に開発されて禁術指定食らってた『心象破壊』?って魔術を使ってみようかなって。半永久的に人の意識を封印できるらしいって、まさにうってつけだよね。私の意思次第でいつでも解除できるし」


……調さん、多弁だな。

まるで、罪を犯した人が誤魔化すような感じだ。


そもそも、そこまで空くんを追い詰めたならトドメを刺してしまえば、私は戦意喪失しただろうに。

……よく良く考えれば、調さんは、最初から『戦意』しか向けていない。

やっぱり、殺す気は無いって事?

なら、どうして殺し合いのようなことを?調さんはどうして戦いたがったの?

分からない。

分からないけれど……とりあえず、つまりは空くんを起こせば私たちの勝ちだ。

そのための手段が、今、私の手にある。


徐に、銃剣を構える。


「……何?銃で勝てると思ってるの?」

「はい」


調さんの問いに頷いた。


「連射されても対処は余裕だよ?」

「連射なんかしませんよ。1発しかないし」

「じゃあ、尚更だね。それとも心理戦?『預言者』にそんな勝負を挑んでくるのってかなり無謀だけど」

「そうですね」


でも、調さんは言った。

『預言は今の自分には無用の長物』だって。

ずっとおかしいと思ってたんだ。

『最適な温度』を欲しがっている人が、『預言』を宛にしないなんて変って。

……もう1回、私は賭けに出る。

賭けばっかりだな。戦略を立ててスマートに勝つなんて私にはできないから、こうして泥臭く価値を掴むしか無いだけなんだけど。


「調さんとタイマンして勝てるとか思ってませんよ。私って戦闘ど素人の脳筋ですし、できることなんて突撃くらいですから」

「そう。じゃあ諦める?そしたら愛しの空くんを解放してあげるけど」

「そんなことしたら、私のやりたいことができないじゃないですか。この銃弾1発で勝ちを掴んでやります」


引き金に指をかける。

調さんは身構えた。

それを見て、心の中で考えた。


バカ正直に真正面に撃ったって対処されるだけ。

だから……私の答えは、こう!


私は引き金を引いた。


明後日の方向に。


「……は?馬鹿にしてるの?」

「いえ、バカにしてませんよ。私は至って真面目に勝負してます」

「いやいや。これで君の唯一の勝ち筋は消えたよ?」


やっぱりこれが智見さんの魔弾だとバレてるらしい。

そうでなきゃ『唯一の勝ち筋』なんて言わない。

でも関係ない。もう賽は投げられたから。


「消えてませんよ?むしろ勝ち確定です」

「またまた、そんなハッタリ。というか馬鹿だねー、アレって結構貴重なんだよ?なんせ1世紀前の『放蕩の茶会』とかいう幻の魔術組織が『軍』との友好の証に開発したーーー」


調さんが豆知識を披露していた、その瞬間。

調さんの右手に、私が放った魔弾が命中した。


「……っ!?」


ぎょっとして調さんが右手を見つめる。

それを見て、私は確信した。

やっぱり。

調さん、『預言』が見えてない。


「え、あ、あれ……?なんで……?」

「跳弾ですね。絶対当たると思ってました」


酷く動揺しているのか、震えた声で、今まで仮面をつけていたような雰囲気だった調さんがキョドっている。

素の調さんは、酷く、頼りなく見えた。


「計算……?あの一瞬で……?」


私の言葉にそう慄く調さんに、私は微笑んだ。


「やだなぁ。私にそんな芸当出来るわけないじゃないですか。頑張っても『身体強化』『回復』『障壁』しか実践で使えるレベルになれなかった人ですよ?」

「でも、勝ち確って!」

「そりゃあ、私は昔から『賭け』とか『運ゲー』には強いですから」


昔から、本当に私はラッキーだった。

パチンコで資金稼ぎが簡単にできるくらいには。

だから、適当なところに撃っても跳弾で狙い通りの場所に当たってくれると、私の運を信じていた。


「さて。……識名さんや現海さんになんて言うか考えといてくださいね。変なこと言ったら私、承知しないので」

「ひぇ」


ひぇ、なんて酷いなぁ。

苦笑いを浮かべながら調さんの元へ歩を進める。


「まただ。いつも、僕は勝てない」


調さんの背後に、ゆらりと、かつて『這いよる混沌』と呼ばれた彼ーーー空くんが忍び寄る。

『心象破壊』とやらも無事に解除されたらしい。

そう安堵していたけれど、どこか様子がおかしかった。


両手に、大きな釘を握り締めて。

調さんに、確かな殺意を向けている。


私は慌てて駆け出した。


調さんは今、何も抵抗できる手段がない。

このままじゃ、空くんに殺される!

私も智見さんも今は魔術が使えない、つまり『回復』出来ないから蘇生すらできない!


間に合え、と祈りながら全力疾走する。

けれど、雪で滑って転んでしまう。

こんな時に限って!私のバカ!


「調さん!後ろ、危ない!」


調さんは私の声に反応して振り返るも、時既に遅し。

どうしても避けられないところまで、調さんの心臓目掛けて釘が振り下ろされている。


「やめてーーーっ!」


無情にも、釘はーーー。

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