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空くんが調さんの方へ駆け出すと同時、智見さんが銃を連射した。
空くん目掛けて撃たれたそれを、私が『障壁』魔術を空くんの周囲に展開して防ぐ。
調さんも『魔力撃』を展開して弾幕を出すのも『障壁』で防ぐと、空くんはそのまま調さんへ釘を突き出す。調さんがそれを『魔装』で生成した杖で防ぎ、互いに後方へ弾かれる。
今度は調さんが杖を繰り出し、空くんが釘で止める。
同時に僅か後方へ跳び、空くんが先に釘を上から突き刺しにかかり、身体を横にずらして躱した調さんが彼の足元目掛け杖を払う。跳んで躱した空くんが釘を薙ぐと、彼女が屈んで避け、懐から杖を勢いよく繰り出す。彼が釘で杖を叩きつけて軌道を逸らした。
……空くん、いつもと比べて力んでるな。攻撃が重い。
観察しつつ、いつでも『障壁』を空くんの周囲に展開できるように準備をする。
そんな私に、智見さんの方から発砲音が聞こえた。
護身用に『障壁』を展開する準備もあったので、咄嗟にそちらを起動する……けど、何故かその『障壁』があっさり割れた。
「っ!?」
え、嘘、なんで!?銃弾くらい軽く防げるはずでしょ!?
思わず目を見開くも身体を何とか逸らして避けると、さらに2発ほど発砲音がした。『身体強化』を展開、起動して銃弾の軌道を確認、体勢を直しながら身体を捻ってそちらも避ける。
その間に智見さんに間合いを詰められてしまい、脇腹目掛けて蹴りを繰り出そうとしているのが見えたので、大きく後ろへ跳んで避けた。
そうしている間にも空くんと調さんは一歩も引かぬ攻防を繰り広げ、金属同士がぶつかる音が響いていた。
調さんが身体を回転させながら勢いよく杖を横に薙ぎ、それを空くんが釘で止める。弾かれた反動を利用して調さんが杖を引いた瞬間に空くんが釘を突き出したけど、杖で受けられてしまう。そのまま彼女が杖を傾けて釘を流すと、身を翻して杖を彼の鳩尾目掛けて突く。
空くんがそれを釘で止めようとしていたところに智見さんが発砲。空くんの足元に着弾し、大量の雪煙で調さんが見えなくなった。
空くんが敢え無く後退すると、その雪煙の奥から『魔力撃』が大量に飛んできたので私が準備していた『障壁』を空くんの周囲へ展開し防ぐ。
今度は智見さんが空くんへ『魔力撃』を放つ。こちらも『障壁』で無事に防げた。
それを見て、智見さんが「やはり、先に七世飛鳥を殺すべきか」と呟いた。
……確かに、さっきの戦いを見ていると、二人は互角で、調さんには空くんに対する決定打がほぼない。
手の内を隠している可能性もあるけど、その場合その切り札は自身が優勢の時に使いたいはず。そして、切り札を有効に使うなら、『障壁』『回復』を残存魔力など気にせず使いたい放題できる私が邪魔、と。
そしてそれは逆も然り。
つまり、私が智見さんを相手さえしていれば、空くんに危険が及ぶことはない。
智見さんも、私の注意を引きつければ、調さんが空くんに対して切り札を使いやすくなる。
「そうですか。奇遇ですね、私も智見さんを先に動けなくすべきだと思ってたんです」
薄らと笑みを浮かべながら挑発してみる。
智見さんは無表情のまま『魔力撃』を夥しい数展開した。
「……お前は、何と言って死ぬかな?」
「死なないよ。約束があるから」
私も『身体強化』を展開し、智見さんの方へ駆け出した。
『魔力撃』の雨を避けたり『障壁』で防いだりしながら距離を縮め、手刀を繰り出す。
右、左と私の動きに合わせて智見さんが躱すと、『魔装』の魔術式が展開され、彼の手元に二丁の銃剣が現れた。
そのまま左右の銃剣で交互に、素早く何回も斬りつけてくるのを、後退しながら屈んだり逸らしたりして躱していく。
「ふむ。どんな約束だ?」
「調さんと一緒にいたなら話は聞いてるでしょ、『二人ぼっち』でいる約束。私は空くんを独りには絶対しないって決めてるから、」
そう言いながら『身体強化』を再度展開して銃剣の平地へ手刀を当てる。銃剣の刀身がパリィンと音を立てて割れた。
「っ、」
「だから、」
一瞬だけ動揺を見せた智見さんへ一気に距離を縮め、私は宣言する。
「地獄の果てまでも、ついていくの」
そのまま右、左、足でジャブ、ストレート、キックを繰り出していくのを智見さんがひらり、ひらりと避ける。
構わず私がその瞬間の気分と体勢次第でパターンを変えながら連打し続けていると、やがてバック転で智見さんが距離を取って着地した。
うーん。やっぱり体術について何も学んでないし、動きが読まれるか。
「大口を叩く割には、動きが簡単に読めるぞ?」
「素人相手にイキれて良かったね」
若干こちらが劣勢だけど、笑う。
空くんだって、いつも笑ってるから。
智見さんは咳払いをした。
「そもそも、所々単語は把握しているようだが、全容など何も知らないだろう。志瑞空は人類の敵かもしれなんだが、それは承知の上でそう言っているのか?」
「関係ない。私は英雄の器じゃないから。空くんを守れるなら『明白に嫌われた正義』で構わないって決めた」
「『JoHN』全権代行の前任が泣くぞ?」
「それは霧乃ちゃんのこと?霧乃ちゃんならきっと許してくれるよ。『普通』世界のためだけじゃ戦えないから」
『普通の女の子として笑って生きて欲しい』と霧乃ちゃんは言ってくれたから。
そう続けると智見さんは舌打ちだけして、『魔力撃』を連打し始めた。挑発も効果があったかもしれない。
基本は躱して、時々『障壁』で防ぐ。
すると、時々発砲音と共に銃弾が飛んできて『障壁』を割られるのでそれも避ける。
それを何度か繰り返して、ふと考える。
時々智見さんが使う銃弾。あれは一体なんなんだろう。
『障壁』は銃弾程度じゃ貫通できない。
魔力不足とか、魔術式の設定を間違えていたら強度が足りなくなるだろうけど、私は魔力依存で魔術を使っていないから不足することがないし、魔術式だって普段使っているものと同じ。
銃弾もどう見ても普通の代物だったし、銃身も一般的なものと変わらないように見える。
そもそも強度不足で割れたにしてはあまりに呆気なく割れていて、なんというか普通の割れ方じゃない。智見さんが撃った銃弾のせいで『障壁』が『消失』した感じに見える。
あと、無理やり魔術を解除しているような感覚もある。
となると、……この銃弾には魔術を『壊す』仕様があると考えるのが自然?
そんなの聞いたことないけど、『ITレンズ』なんてものを開発できる人がいるんだ。戦闘とか裏での命のやり取りを意識して『魔術を壊す』銃弾を開発できる人が存在しても不思議なことじゃない。
問題は、私には銃を使うのに、空くんには全くその気配がないこと。
正確には、私には身体を狙って発砲するのに、空くんには目眩し目的に足元の雪を撃つとか、そういう回りくどいことをする意味。
『当たったらその人は魔術を使えなくなる』から、魔術を最初から使ってない空くんには使わない、のかな?そして、智見さんはこれを使って私を仕留めようとしている。それが一番腑に落ちる。
……それなら、智見さんの私に対する有効打が本当に『コレ』なら、私は勝ち確定だ。
ただ、この仮説が間違ってたら一気に負けに近づく。
そう思うと、背筋がゾッとする。
だけど。
このまま膠着状態が続いても、この魔弾が何発あるか分からない以上ジリ貧。
私の集中力が切れるのが先か、智見さんの魔力が切れるのが先か……いや、魔弾を使うことに魔力消費がないなら、私はこのままじゃ防戦一方になる。
時間を稼がれると、調さんが空くんに切り札を使って成功しちゃえば、私に二人を一気に相手する技量がない以上詰み。
ーーー賭けに出るしかない。
智見さんは魔力切れを嫌ってか、刀身が割れた銃剣に持ち替えて引き金に指をかけた。
「はぁ。これが『神』の目論見か?」
智見さんが独り言を漏らす。
「だとすれば、滑稽としか言いようがないな!」
その言葉と共に連射が始まり、私は駆け出した。




