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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部四章『預言者と選択者』
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4-4

こんにちは。

引き続き、前半は調の視点、後半は飛鳥視点です。

あの後、翌日に帰宅したら案の定両親の遺体が転がっていて、弟は姿を消していた。

捜査に来ていた『軍』の魔術師によれば、『評議会』の仕業らしい。私に害を与えないなら至極どうでも良いことだから、被害届とかは一切手続きしなかった。

幸いなことに、血縁は私しか存命でなかったらしい。つい最近まで曽祖父が生きていたが、病死したとかなんとか。歴史的大スターの最期もやはりどうでも良い。

何はともあれ、そのお陰で多額の遺産を受け取れたので、学費はもちろん、生活も困ることはないだろう。

拾ってきた識がいつまでもホームレスというのも世間体が悪い。手に入れた金の一部と曽祖父のコネで『軍』全権代行に直談判し、なんとか識が暮らすためのまともな拠点を手に入れた。

識には感謝されたが、鬱陶しかったので数日無視したら大人しくなった。


さて、これで『最適な温度』に近づいた。

『預言』でトラブルを避けたり、実力面の評価を伸ばしたり、時々識が困ってたら、それもなんか気持ち悪いので暇潰しに解決してやったり。

そういったことをしているうちに識が桜坂学院に入学し、私に勧誘してくるようになった。


「こっちに来い。『最適な温度』により近づくぞ」


……識のくせに、なかなかどうして、私が無視できない文言を入れてくる。


まあいい。周りのレベルが低くて、私に媚びを売ってくるようになって気持ち悪かったところだし。こればかりは『預言』でも避けようがない。

自然体で接してくるのは識だけ。そんな現実に辟易する。たかが私にそんなぼろ負けで、プライドもへったくれも無さそうに媚び諂って、何が楽しいんだか。

でも、魔術師界隈で世界一の名門校なら、一人や二人くらいこの『気持ち悪さ』に共感してくれる人がいるかもしれない。


……果たして、その期待はいい方向に裏切られた。


クラスには、面白そうな人がいたんだ。

『JoHN』の跡継ぎ候補で落ちこぼれと風の噂で聞くけどだけど、私のこの『預言』についてなにか情報を握っているらしい城月霧乃。

明らかにコネ入学と思われるほどに運動音痴なのに、独自の魔術を落書き感覚でノートに雑に書きなぐっている識名佳糸。

ほか二人と比べるとぱっとしないけど、あの前全権代行の故・城月育のお気に入りで次期全権代行の呼び声高い現海悠。


特に識名は見ていて退屈しない。

オリジナルの魔術式をポンポン思いついてはサラサラとノートに書いていき、あっさりゴミ箱へ捨てるのがルーティーンなので、こっそりとそれを回収して研究してみるのが当時のマイブームだった。

『循環』『加速』『停止』をミックスして、擬似的な未来予知や音速を超えるレベルの超加速ができる魔術式を練っていたけど、これがまた面白くて。

なんと、開発し始めて1ヶ月の時点で既に完成度が高かった。要求魔力値が尋常じゃない事になるけど、そこさえ改善すれば、間違いなく世界の常識を塗り替えるような魔術になる。

歴史に名を残すタイプの魔術師だと思ったね。


……そんな感じで人間観察してたら、城月が識名に勝負を挑んで、識名が無茶してぶっ倒れるという珍事件があったんだ。

識名の特殊な体質はその時知ったけど、逆に凄く面白いと思ったんだよね。別の術式体系まで作れるかもしれないんだから。

そして、その日以降妙に識名と城月が仲がいい上にメキメキと実力を伸ばしつつある。

今まで厭世的に見えていたから観察に留めていたけど、識名に試しに無理やり絡んでみた。そしたら識名は若干前向きになってて。

だから、積極的に絡むことにした。

今度こそ、私のこの『違和感』が消えてくれると思って。


実際、忘れることはできたよ。

学年三位までを私と霧乃と佳糸とでずっと占領して、時々やりたい放題やって『問題児』なんて呼ばれたり、佳糸の魔術式の落書きに付き合ったり。

その時だけは、世界を気持ち悪いなんて思わなかった。『預言』だって降ってこなかった。

初めてだったよ、こんなにも心が暖かいのは。

気持ち悪いって感じなかったのも、窮屈さも無かったのも。

『最適な温度』とは、今、この瞬間のことなんだ。

識なんて要らなかった。家族も見捨てて正解だった。

本当に心からそう思った。


そうして関係が深まっていく中で、自然と情報も集まる。

霧乃の家の伝承によれば、私の『預言』は『混沌を望む神』の力……『過負荷』らしい、とかね。


霧乃たちには素直に言ったよ。『預言』という『過負荷』を持ってるって。『最適な温度』で生きるために使ってきたって。

私のことも手がかりになるよ、なんなら有効打になれるかもねって教えてあげた。


そうしたら、霧乃は私と佳糸を呼んで依頼解決に行くようになった。それも中々面白いものが多かったんだけど……まあ、それは今関係ないから割愛しようか。


そんな訳でヒーローごっこしてたらさ、霧乃から相談を受けたんだよね。潮彩郡の『歪み』の調査なんてきな臭い依頼があるって。

明らかに私の出番だと思ったよね。『歪み』を生み出せる『異常性』や魔術なんて知らないし、絶対『過負荷』じゃんって。

私と同じように『過負荷』を抱えてる人ってどんなもんだろうってワクワクしてた。


……まあ、行かなかったんだけどね。

遠征する予定を組んで、いざ翌日に控えたその日、久々に『預言』が降ってきたんだよ。


『明日は家から出るな』


って。


そう言われちゃ、仕方ないじゃん。

『最適な温度』でいる為なら、『預言』には従わないと。ろくでもないことになるし。

友情?絆?何それ、知らない。私はただ『最適な温度』にいたくって、ついさっきまではその為に霧乃たちが必要だったけど、要らなくなっただけ。

ただ、それだけの理由で。


私は、霧乃と佳糸との約束を破った。

その二日後、登校したら、二人とも欠席だった。

誰かが言ってた。


『霧乃と佳糸は激高難易度の異空間に挑んで、ラスボスに負けて』


……なんてね。あはは。

何でかなぁ。

最後までその話を聞いた記憶、ないんだよ。

気づいたら、トイレに駆け込んで、食べた朝ごはんを戻しちゃってた。それしか覚えてないや。


みっともない、はしたない、とんだ醜態。

なのに『預言』は教えてくれなかった。私が吐くなんて、まったく。

ただ、明日が雨だの、明日はバスに乗るなだの、どうでもいい情報ばかりよこしてくる。


違う。違う。そんなの求めてない。

いや、求めてる。欲しい。だって、それは『最適な温度』で生きるのに必要で、私の不都合を一切信じないのに必要で……、でも、それなら。

私は……私は、どうしてこんなに心が寒いんだろう。


その日以来、『最適な温度』が何か、分からなくなった。


☆☆☆


「……じゃあ、今の調さんにとって、『最適な温度』とは何ですか?」

「さあ。まだ分からない」


即答だった。

けれど、おかしい。絶対嘘だ。

よく分かりもしない『最適な温度』のために私や空くんと殺し合う?

調さんはそんな適当な人じゃない。


「霧乃ちゃん、言ってましたよ?調さんから『賽子で七を出したい。その器に私たちはなれないけれど、それが出来る存在を見出して導くことならできるはず。命懸けで、協力して欲しい』って頼まれたって」

「……」

「『賽子で七を出す』。空くんへの伝言でもそんなフレーズを言っていたはず。……それが、貴女が今思う『最適な温度』の必須条件ですよね?」


調さんの顔がさらに引き攣る。

識名さんがかつて聞いていた『最適な温度』の意味と、私が見てきた調さんの『最適な温度』のそれは、きっと違う。

勿論、『最適な温度』……最終的なゴール地点はまだ分かっていないけど、それがわかっただけでも進歩だ。


「……それで。戦う理由とやらは作れたかな?」


これ以上は騙るつもりがないらしく、調さんがそんなことを聞いてきた。

戦う理由……戦う意味。

それなら、やっと見つけた。


「ありがとうございます。調さんが色々話してくれたおかげで色々分かりました」

「そう。ならよかった」

「ええ、絶対勝ちますよ」


そう言って、私と調さんも各々構えた。


私の戦う意味ーーーそれは、この場にいない識名さん、霧乃ちゃん、現海さんの代わりに、あまりにも勝手すぎるうえに舞月さんをどこか彷彿とさせる、そんな調さんをぶん殴ることだから。


白い風が吹き荒ぶ。髪、服が風に靡く。

鼻の先がジン、とするような、凍てつきそうな風の音だけが木霊する。

ただの一人もその風に煽られることなく、じっと相手の動向を窺っている。

……そして、風が止んだ瞬間。


『姉弟喧嘩』が、始まった。

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