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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部四章『預言者と選択者』
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4-3

こんにちは。

前半は御厨調の回想、後半飛鳥視点です。

退屈だ。

あまりにも退屈だ。気が狂ってしまいそうな程に。


ごく普通の一般家庭に生まれた私は、辟易していた。

平々凡々、特に突出した長所もない、魔術師なんかしたって特に出世などせずにその辺の地位、役職で程々に活躍して、歴史に名が残るなんて有り得なさそうな私。

昔は表でも裏でも重要な立ち位置にあった名家だったにしてはあまりにも普通のサラリーマンで、共働きな両親。

その両親から煙たがられている、何をするにも上手くいかないどころか不幸まで招いてくる、まるで疫病神のような弟。


弟があまりにも不出来だからだろうか、私が少し良いことをしただけで両親は直ぐ私を持て囃す。門限も厳しく設定し、娯楽は何もかも禁止した。

別にどうでもよかった。そこに対する憤慨などなかった。私も、『弟がアレなら仕方ない』と諦めていたから。

単純に、今いる環境が気持ち悪く、生暖かく、窮屈で、退屈に感じるだけ。


ただ、それだけの問題を抱えているだけの、ありふれた家庭だったように思う。


なにか刺激的なことが起きないか。

いっそのこと、宇宙人とか、隕石とか、未来人とか。

そういった何かが降りてくればいいのに。


暇潰しに隣町のスラムまでふらっと出かけても、燻ってる人を一人見つけただけ。そいつ……智見識もこの世界を気持ち悪い、くらいに思っていそうだから自分の近所に連れ込んだのに、その退屈は、違和感は癒せなかった。


刺激的な何かにずっと飢えていた。


ある日。

普通に登校して、その帰り道のことだった。

曇天の大都市の閑静な住宅街、識から他愛ない雑談を聞き流していたら、耳鳴りがパチリとした。


『明日、雨が降る』


「……識、」

「どうしたんだ?調」


私がやっとマトモに返したからか、識は少し顔を綻ばせた。


「明日、雨は降る?」

「え、」


私からの質問に、識は少しだけ、何かを思い出すように天を仰ぐと、「いや?」と首を傾げた。


「天気予報だと、晴れだったと思う」

「あっそ」


それで会話を打ち切って、私は少しだけ早足で歩いた。

ストレスでついに気が触れたのかもしれないから、早く休もう。

自己憐憫も程々に、内心『明日、試しに傘でも用意してみようか』と思いながら。


その翌日は、私は物好きだなあと苦笑いをしながら、爽やかな快晴の青空の下、傘を持っていって、無事に奇異の目を向けられた。

まあ、そうだよね。識も私のことを心配そうに見てるし、これっきりにしておこう。あれは幻聴だった。疲れてるんだ、早く寝よう。


……それが覆ったのは、夕方、いざ下校しようとなった時のこと。

ザアザアと、昼までの快晴が嘘のように大雨が降ったのだ。


傘を持ってきた私は大忙しだった。傘は私しか持っていないから、傘に入れてと同級生が雪崩れ込んできたものだから。

とはいえ、同じクラスなだけの赤の他人に傘を貸してやる義理もない。強いていえば話し相手の識だけは入れてあげないこともないが、識の雑談もなかなかに騒がしい。たまには独りで帰ろう。

そう思い席を立つと、識が隣に立った。


「……傘に入れて欲しいの?」

「いや、いい。折り畳み傘を持ってきたから」

「ふうん。何で?」

「調がいきなり天気の話をしてきたから、少し気になって。ちなみに、どうして雨が降るって思ったんだ?」

「なんとなく」


本当はあの耳鳴りのせいだけど、何となく伏せた。


似たようなことは続けて起こった。

『この問題を勉強しろ』と言われれば明日のテストにその問題が出る。

『こっちの道を行くな』と言われて避ければ、不審者出没の噂が流れる。

『今体を反らせ』と言われて従えば、ボールをギリギリで避けられる。


そこまでやると流石に識に「最近、未来でも見えてるのか?」と突っ込まれてしまったが……隠すような事でもない。「そうだよ」と頷いておいた。


本当に些細なことから、割と命に関わることまで、色々と耳鳴りがして、予め知らせてくれる。


なるほど。どうやら私は『未来予知』の能力を手にしたらしい。

願ったり、縋った覚えはないし、『異常性』が後天的に出現するなんてどこを調べても載っていないことだけど。


でも、なかなかどうして面白い玩具が手に入った。

今自身に起きている『未知』に退屈が一気に吹っ飛んだ。

だって、これを上手いこと使えば『最適な温度』で生きられる。

自分の平凡性も、両親の過剰な期待と愛情も、出来損ないな弟への苛立ちも、拾ってきた識がトコトコこちらへついてくる鬱陶しさだって、無視できる。

私の不都合を『信じない』。そんな人生を過ごせる。


……だから。


私はランドセルを背負って、玄関を出る。

今日は終業式の割に荷物が多いけど、気にしない。

両親には『友達の家に泊まってくる』とでも誤魔化しておいた。私が教室で孤立していることなど知らない両親は、あっさり納得してくれた。

嘘はついてない。

今日は帰らないのは本当。

識が滞在してる、高架下の秘密基地跡地のようなところにお邪魔して、そのまま泊まるからそこも本当。……識が友達に該当するかどうかはさて置くけど。

変わったところといえばーーー明日以降、木偶の坊の弟を家で見ることは無いだろうということ。

両親の顔を拝めるかすら怪しい。両親は至って普通の一般市民だから、裏の人間に抗う術なんて持ち合わせていないと思う。


そっと、昨日聞いた『預言』を脳裏に浮かべる。


『明日は家に帰るな』

『攫われるから』


……さよなら、志瑞空。

私は、最適な温度で生きていく。


私『志瑞調』はこの日、家族を見捨てた。


☆☆☆


やっぱり。

調さんの言葉に、私はただ納得していた。

調さんと空くんは姉弟。調さんが見捨てた後、空くんは『評議会』の少年兵になったんだ。

そして空くんは、調さんに見捨てられたことを恨んでいるから、あんなに殺意を込めて睨みつけている。


……本当に?


空くんはかつて言った。


『虚構、虚像、虚言、虚名、虚勢、虚礼、虚栄、偽悪、偽善、不毛、不当、不幸、不運、理不尽、不合理、不条理、裏切り、二次被害、流れ弾、堕落、イカサマ、格差、不遇、巻き添え。その全てを、受け入れる。そうすれば、僕みたいになれるよ』


昔こそ『誰も空くんみたいになりたい人なんていないじゃん!』なんて思っちゃったけど……あれは、今にして思えば、『過負荷』なんてものに心を惑わされない為の、彼なりの心の防衛術だったのかもしれない。


何はともあれ、自分の不都合を一切信じない調さんとは真逆の価値観をしている彼。

本当に、この過去を乗り越えられていないのだろうか?

乗り越えるというか、『受け入れる』方かもしれないけど……それができていないとしたら、どうして?

彼の今抱えるどす黒い殺意は、本当はどこに向けられたもの?


違和感が拭えないまま、調さんの話は続いた。

はい。

というわけで、御厨調は志瑞調が本名で、志瑞空の姉でしたという話です。

いやー、この伏線は少し大変でしたよ。

御厨調とフルネームで呼ばせるのは怨み募らせる識名だけ、それも、識名も調の本名を知ってるから基本的には『調』と呼びますし。

彼女の過去を知らない人だけが『御厨』と苗字で呼ぶのと、空くんは姉だと知ってるからこそ役職名でずっと呼んでた、みたいな。

くぅ〜、疲れました。

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