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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部四章『預言者と選択者』
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4-2

こんにちは。

だんだん終わりも近づいています。


Switch2を買ったけど初期不良?で充電が出来なくて泣きそう。

未留山山頂。

そこには、遺跡の瓦礫のようなものが散見される、氷と雪の広間があった。

深々と雪が降る、ただ白だけがある空間。そこに黒い影が二つ伸びていた。

御厨さんと智見さんだ。

御厨さんは8ヶ月もの間失踪していたとは思えないほど清潔、身嗜みが整っていて、あまりに、以前私が会った時と変わらない姿。

智見さんも、御厨さんのことを探して依頼まで出したはずなのに、私たちの姿を見ても沈黙のまま、ただ御厨さんの隣に立っていた。そこが自分の居場所、と言わんばかりの様子だ。


「御厨さん、」

「近づくな」


今までどこに、と一歩駆け寄った私へ智見さんが銃口を向けたので、思わず立ち止まった。

今まで持っていなかったから、『魔装』の略式で展開したんだろう……魔術式が全く見えなかったけど。

『国際魔術連合』でトップなだけあって、魔術式の展開速度が速い。『歪み』で識名さんたちと一緒に戦った敵と同じくらいかもしれない。


「お前たちの旅は、これで終わりだ」


御厨さんを私から守るように、背に庇うように、決然と立つ智見さんは、雪のように冷たい声で私たちを威嚇する。

その隣で、御厨さんは、瞳に戦意を宿したまま、いつも通り……相変わらずの顔で微笑む。


「来ちゃったね。知ってたけど」

「『預言』で?」

「ただ小耳に挟んだだけだよ。『預言』なんて、今の私には無用の長物だから」


そう言いながら退路を塞ぐように背後へ回り込んだ御厨さんは、肩を竦めた。


「残念だなぁ」

「何でですか?御厨さんを連れて帰れば万事解決でしょうに」

「できれば七世飛鳥も、志瑞空も、二度と名前を呼ぶことが無ければいいと思ってたんだよ。その時は、こうするって決めていたから」

「……戦うしか、ないの?どうして?」


そう言いつつも、私も何となくわかっていた。

戦意を向けてくる二人。内一人は銃口まで向けている。

戦わざるを得なくなっている……説得も難しいことは。それほどまでに、御厨さんは、智見さんは、覚悟を決めた様子でそこに佇んでいるから。

ただ、どうして戦わないといけないのかが分からなかった。


御厨さんは私の疑問に、口を開いた。


「私は『預言者』……なんていうけど、結局コレってただの『チート』なんだよね。わかりやすく言うなら『過負荷』ってやつ」

「……」


それは、薄々分かってた。

識名さんの『超加速』での予知は色々と代償を払って、死にかけながらひいひいと発動して、それでも数秒先が限界で。

でも、御厨さんはノーコストで『明日』がわかってしまう。そんなの、魔術でも『異常性』でもありえない。

空くんと『依頼』の解決を始めて早二年の時間は、それを理解するには充分だった。


「志瑞空は必ず、『過負荷』所有者に釘を刺す」

「……」


それだって知ってる。

空くんは『過負荷』所有者を探して釘を刺している。

霧乃ちゃんが最初に空くんに『依頼』を選ばせたのも、霧乃ちゃんなりに空くんの目的に配慮してたんだと思う。

それがたまたま、私が『恩人』探しの本命にと保留しておいたものと噛み合っただけ。『恩人』が空くんだから必然だったかもしれないけど。

『過負荷』所有者を倒すことは、『ようさん』に勝つために必要なことなんだと思う。


「ならば、私は全力で抗うよ。『最適な温度』で生きるには、不要な存在を排除するしかない」


その言葉と共に御厨さんも『魔装』を展開し、構えた。


「……っ、」


思わず拳に力が籠る。歯軋りした。

こんなのおかしい。間違っている。

確かに空くんは『過負荷』を利用している人に釘を刺してきたけど、御厨さんは……調さんは。


「わかっててここに来た割に、随分と甘ったれね。志瑞空も戦う気満々だってのに」

「空くんも?」


その言葉に空くんへ視線を向けると、空くんは今までに見たことがないほどに殺意がこもった瞳で御厨さんを睨みつけていた。

……やっぱり、おかしい。

空くん、桜乃さんに対してもここまでドロドロとした黒い感情を向けることなんてなかったように思うのに。

まるで、復讐者みたいなーーー。


「戦うよ。僕は、『司書』ちゃんと戦う」


御厨さんを真っ直ぐ睨みつけたまま、空くんは口を開く。


「昔から僕の方針は変わらない。『エリート』は皆釘を刺す。そうすれば世界は平等で平和だ」

「……」


その言葉に、以前空くんから聞いた言葉を思い出した。


『いやー。なんもかんもぶっ壊せるのってエリートっぽいじゃん。エリートを皆殺しにすれば世界は平等で平和になるよね』


……確かに言ってたけど……。

空くんの言う『エリート』が『過負荷』所有者なのは分かったけど、当時と今とで言葉の重みとか、微妙に意味合いが違う気がした。


「僕は悪くない。『ようさん』にいいように利用されている君が悪い。だから、殺す」


空くんは、『釘を刺す』という表現はしても、『殺す』なんて言わない人だ。それをよりによって、調さんに使う。調さんが齎した被害なんて今までないはずなのに。

……やっぱり、もしかして……。


ここにたどり着いたことで中断せざるを得なかった思考が、私の中で一気に現実味を増していく。


「『ようさん』が現れるその前に、『司書』ちゃん。君は飛鳥ちゃんの前から消えるんだ」

「あー。うん、来るんだ、『アレ』。初耳だなぁ」


いつもと変わらず明るく響くのに、寂しげにも聞こえる調さんの声。

……あれ?

『初耳』?『今の自分には無用の長物』?

何でだろう、空くんと戦うなら『預言』に縋りたいはずなのに。

まるでーーー。


「……調さん」

「何かな。まだ命乞いとか、停戦を求めてくるつもり?」

「いや、止めても無駄なのは理解しました」

「じゃあ、何?」

「私、まだ納得できないんです。ただ、今からの質問に答えてくれたら、ここで戦うことに少しでも意味を見出すことが出来るかもしれない」

「君の都合に合わせる義理はない」

「そうですか。でも私は意味がないなら今の調さんと戦いたくないので。勝手に質問しますね」

「……」


私を撃とうとトリガーに指をかけた智見さんを調さんが制止した。眉を顰めているけど、調さんは聞いてくれるらしい。


本当は、色々気になることがある。

けれど、それはあとから聞き出すことにするから……一先ず、この質問だけでも。


「『最適な温度』って結局何なんですか?それは、識名さんや霧乃ちゃんを切り捨てないといけない代物なんですか?」

「そうだけど?何か?」

「何でですか?識名さんや霧乃ちゃんは大切な友人じゃなかったんですか?」

「……」


初めて、調さんの表情が引き攣った。


「私には、調さん達が何の理由もなく、人を切り捨てる人だとは思えません。だって、何だかんだ私にも色々教えてくれたじゃないですか」


私が『恩人』の情報を求めて『陰成室』に来た時、調さんは私に嫌悪感を抱いていたように思う。

それなのに、魔術のマニュアルをくれた。色々講義してくれた。

そのマニュアルが、その時に得た知識が、『JoHN』全権代行代理となったプレッシャーで押しつぶされそうだった私の、何よりの支えだった。

本当に『最適な温度』で生きるつもりなら、私の事なんて見捨てたら良かっただけなのに。


「七世飛鳥。君に色々指南したのも、『最適な温度』には必要なことだよ。私が目的を達成できるかどうかが懸かっているから」

「……」


調さんは確かに言っていた。


『本当に癪なことに、どうやら君が無知無能のままだと、どうしても私のセカンドミッションは達成できないらしい。それどころかファーストミッションも怪しいんだって』

『急がば回れってことだろうね』


……識名さんの思ってる『最適な温度』とは何か、致命的なズレを感じる。

『ただ自分が生き延びれたらいい』のかな?

やっぱり、変だ。

昔はそうだったとしても、今は違う意味のように私には聞こえる。


「そう。全ては『最適な温度』で生きるため。それ以上でも以下でもない。ただそれだけ」

「霧乃ちゃんも、識名さんも、必要な犠牲だったって言いたいんですか?」

「……それは、」

「黙れ」


調さんが口を開いた瞬間、智見さんがトリガーを引く。

その威嚇射撃は私の足元に着弾した。


「これ以上喋ったら、」

「……っ、止めて、」


調さんはさらに顔を顰めて智見さんを止めた。


「だが、」

「いいの。どうもこの甘ちゃんは納得しないとダメみたいだし、戦う理由を私から作ってあげることにする」

「……、こんな奴に構う必要などない。『戦うことに意味は無い』。それを忘れたやつから死ぬのが裏の常識だろう」

「いいから。文句を言うのは賽子で七を出してからにしてね」


調さんのその言葉に智見さんは黙り込んだ。

それを一瞥して、調さんは私を真っ直ぐ見た。


「『最適な温度』にこだわりだした理由なんて特にない。ただ、退屈だっただけだよ」

「……退屈なだけ?」


暇潰しで、人を切り捨てるなんて。

そんな人だったっけ?


「それにしても、さっきから名前で呼んでくれるね。もしかしなくても、気づいてる?」

「……何に?」

「あはは、何にだろうね?」


何も面白くないけど、調さんはそう笑う。

そして、「だから、いいよ。その気にさせてあげる」と一旦構えを解いた。


「……」

「空くんもストップ。とりまこの話だけでも聞かせて」


殺意をビンビンに調さんたちへ向けていた空くんの手を握ると、空くんも一度、渋々と言った様子ながら、構えていた釘を消してくれた。

智見さんは銃口を向けたままだけど、引き金に指をかけていない。


調さんはそれを見て、語り始めた。

『預言者』に至るまでの道程を。

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