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飛鳥視点です。
舞月さんの話が終わって、辺りはシーンと静寂に包まれた。
空くんは普通にニコニコしてるように見えて、若干同情してるような雰囲気。現に、まだ舞月さんに釘を刺してない。……まあ、識名さんの前でくらい刺さないであげて欲しいので、別にいいんだけど。
識名さんはといえば、複雑そうな表情だ。
そうだよね、お人好しだもんね、識名さん。
自分のせいとかなんとか考えて、言いたいことが言えなくなっちゃってるんだろうなぁ。もしくは言いたいことが多すぎて全然まとまってないか。
私はといえば……無性にイライラしている。
だって、話を聞いてるとあまりにも勝手すぎるんだもん、この人。
識名さんより先に口を開くわけにはいかないと思ってるけど、このままじゃ、識名さんが色々頭と心の整理を終わらせる前に舞月さんが切り上げちゃいそう。
……うん。決めた。
意を決して、今の雰囲気を壊すつもりで、言葉を発した。
「バッカみたい」
識名さんが、舞月さんが、驚いたようにこちらを見た。
うん。識名さんはともかく、舞月さんは勝手に浸らずに人を見て話をすればいいんだよ。
『前回』とやらで識名さんに怒られたはずなのに、まだ懲りてないのかな。
空くんも識名さんも私を止めることはない。ありがたく、私は本音をぶっちゃけることにする。
「あのね、舞月さん。理想とかなんとか、そんな過去は知りません。どうでもいいです。よく知りもしないのにその辺の話についてガタガタ抜かすつもりもない。だから、それは一旦隅に置いときます」
「えっ」
舞月さんが口をあんぐりと開けた。
けど、まだ止まらない。
「けど、あまりにも勝手すぎやしませんかね。誰にも相談せず消えようとするとか、『自分のいない世界こそ答え』だの。本当に馬鹿みたい。人がそれを見聞きしてどう思うか考えたことあります?ないでしょ?どうせ『キャラクター』みたいに思ってんですよね?ヘラヘラしてましたもんね、あなた。本当に腹立たしいです。ぶん殴ってやりたいけどそれは識名さんに譲ります」
「えっうち?」
「識名さんしかいないでしょ、こんな自分がわかんなすぎて人すら分かんなくなってるバカタレをぶん殴れるの。というか頼むからぶん殴ってくださいよ、私の前で、憩さんのこと」
「え、え、え、」
識名さんが困ってるので、「ま、それは私の自己満足なんで置いといて」と切り上げた。
殴って欲しいけどね。
「話は戻りますが。貴女が勝手に消えたことでどれだけの人を振り回したと思ってます?『前回』とか何とか言われても、誰も『今回』の貴女しか知りませんよね」
「それは、もちろん」
「つまり貴女が何をどう思ってそんなとんでも結論に飛躍したのかなんて周囲は知りません。ご両親はどれだけ、貴女に親らしいことを言ってやれなかった、やってやれなかったと悔やんで責めたでしょうか」
「そんな。私が悪いのであって」
「だから、その『舞月さんが悪い』というのを知らないんですよ、会長たちは。だから私たちに、『少しでも彼女の動機を、本心を知りたい』と依頼してきたんです。裏なんて関わらないのが財閥の規則なのに、私たち『JoHN』……特殊とはいえ正真正銘『裏』の人に直接関わってまで」
「あ、」
舞月さんは固まった。
だけど、まだやめてやらない。
「識名さんだって。どんな思いで情報屋を続けてきたんでしょうか。きっと理由は親友のためだけじゃない。だって、他に別のやり方があったと思うから。……ただの憶測ですが、貴女を探し出したくて、情報屋として、『国際魔術連合』幹部になったんじゃないですか?」
本当に霧乃ちゃんの隣にいたかったなら、『JoHN』専属でも良かったはずなのに。
どうしていけ好かない上司の元で働く選択をして、霧乃ちゃんと離れてまで『国際魔術連合』にいたのか。
『国際魔術連合』の方が圧倒的に情報がたくさん集まるからだ。
「生きてるならそれで良くて、死んでるならせめて一緒に連れ帰って、弔いたい。……少なくとも、私が識名さんと同じ立場だったらそう思うから」
思い返すは、空くんとのこと。
空くんが徹底して私を突き放そうと、私の記憶を『なかったこと』にしてまで置き去りにしたのに……私は中途半端に『恩人』の記憶が残っていた。
『恩人』に会いたい。でも、消息が分からない。生きているのか死んでいるのかも分からない。
怖くて仕方なかった。気が気でなかった。なにか行動を起こしたかった。
どんな形であれーーー勿論生きているのが理想だけどーーー『恩人』に会いたい。
……まあ、もっとも。
そんな一心で霧乃ちゃんに土下座し続けて101回で手にしたチャンス、護衛として『恩人』本人の空くんが雇われたことで無自覚に再会を果たしていたし、その後もずっと傍にいてくれたけど。
それは今は置いておいて。
まだ、舞月さんには文句がある。
「よしんば消えることを良しとします。けどね、その消え方も酷い。何を『ドッペルゲンガー』に代理させようとしてるんですか。宗任さんも放任しすぎ。責任感無いんじゃありません?」
「……」
「何が一番酷いって、『ドッペルゲンガー』ですよ。無意識下で人間を食って、無自覚な『ドッペルゲンガー』を徒に増やす仕様はどうにかならなかったんですかね?」
「そんなはずは!」
初めて、舞月さんが動揺を顕にした。
本当に何も知らなかったんだな、この人。
「そんなはずがあるんですよ。御仲市では『血まみれ事件』なんて噂になって、会長から頼まれたこともあって調査に赴きました。その過程で宗任さんとお話して、……止むを得ず、『血まみれ事件』の根本的解消のため、私は『スワンプマン』たちを殺しました」
まだ鮮明にフラッシュバックする。『母体』を直接殺して、100万人以上も間接的に殺した瞬間。
何も感情を込めずに言ったつもりだけど、無事にそう言えたかはよく分からない。
胸が苦しい。呼吸が詰まる。手が震える。
「御仲市は壊滅、100万人以上も亡くなって、1ヶ月経っても大騒ぎです。今はもう年末らしいですが、まだ混乱は収まってないかもしれません」
「っ、」
「貴女の『代理を立てる』なんて発想のせいで、どれだけの人が『人』として生まれながら『人』として死ねなかったか。死因もわからぬ謎の死に、どれだけの親族、知人、友人が理不尽を覚えたか……っ、」
声が震える。
視界は涙でぐちゃぐちゃだった。
「それなのに、ヘラヘラして。悲劇のヒロインぶって。いい加減にしてよ……っ、」
しゃくりあげそうになるのを必死に堪えて、ふう、ふう、と息を整えた。
「本当に消えるならっ、周りを巻き込まないで、自分のケツくらい、自分で拭いてよ!バーーーーーーーーーーーカ!!!!!」
最後はもうただ感情任せに吐き捨てて、私は舞月さんに背を向けて明後日の方向へと走った。




