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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部三章『リセット』
84/110

3-7

こんにちは。

今回の前半まで舞月憩の過去編、後半は識名視点です。

どうぞ。

思い立ったら吉日、善は急げ。


まず、私がいなくなったことで世間が大騒ぎしないように、両親に家を出ることを伝えた。

予想はしてたけど、猛反対された。

生まれて初めて、親子喧嘩っていうのをしたよ。


「裏は我々が関わるべき領域じゃない」

「何を背負っているか分からないが、そこまで自分を追い込むんじゃない」

「お前は自分自身と向き合い、自分のやりたいようにすればいいだけだ」

「舞月財閥の令嬢たる者、表の民を裕福にすることが責務だ」


だって。

やっぱり、時にはぶつかり合わないと分からない本音ってあるもんでさ。

『それを『初回』に聞けていたら、もう少し私の人生はマシだったんじゃないか』。

そう思う言葉を沢山掛けてもらえた。


……今更だよねえ。私はもう好き放題した。ワガママすぎたよ。私の思う『理想』に6兆回以上も付き合わせちゃったんだ。世界丸ごとね。本当いい迷惑だ。

『今回』だって充実してた。佳糸の成長を途中まででも見届けられたし。病室での会話も楽しかったし。


だから、もういいの。


なんとか家を飛び出した後、次に考えたことは宗任……私を嵌めてくれた奴をとっ捕まえることだった。

だって、また別の誰かに『ドッペルゲンガー』の交渉を持ちかけるかもしれないし、私以外に引っかかる人がいないとも限らない。

でも、宗任は『評議会』だからどうコンタクトをとったものか……そう思いつつ、交渉材料として『協会』へ侵入して『ダークマター』を回収した。


『協会』を狙った理由は簡単。『協会』に所属した『周回』もあったから、内部構造を把握できていたこと。そして、『協会』もかつては『ダークマター』を利用した実験をしていたから、在庫はまだあると判断したこと。

城月怜が『スワンプマン』である所以ね。『協会』が『決意』所有者を複数人欲したから、『ダークマター』で『スワンプマン』を生み出そうとした。その名残で、確かに在庫があったから奪取してきた。


そして宗任にアポイントを取って、こう声をかけた。


「こう思ったことはない?『永遠の存在になりたい』なんて」


胡散臭いと言わんばかりに距離を取られたけど、腕を引いて引き止めた。


「君が肉体的に果てても、代わりの肉体をすぐに生成し、そちらに意識を転送する。どんな危機に陥っても、命の保証が必ずされる。不老不死でいられる。そんなシステムが存在してくれたなら……そんな真摯な願いに応えたくて、私は君に声をかけたんだ」

「安心してね。あくまでも、復活した肉体は『君』と全く相違ない。そんな『とっておき』がここに存在するし、私との取引に乗ってくれればいくらでも手に入る立場になれるよ。君はもう、死に怯える必要がない。消えることもないんだ」


『初回』の宗任をなぞるように、私は言葉を紡いだ。

そうしてなんとか協力を取り付けた。

あいつも死にたくないだけだからね。そこを重点的に攻めたらちょろいもんだよ。


さて、ここまで来たら後は仕上げだけ。


『協会』の全権代行と契約を結んで、隠居してもらう。『今まで』で既に弱みを握ってるから簡単だった。

そして、私の『ドッペルゲンガー』を作ってもらって、私の代わりに私を生きてもらう。私が見つからないとそれはそれで大騒ぎになるからね。……まあ、実家にはいられないから、『匂坂憩』と名乗ってもらうしか無かったけど、それ以外は私とほぼ同じだったでしょ?

そして、宗任に『協会』の全権代行としての実権全てを委託する。そうすれば、残ってる『ダークマター』も資料も、滅多に命を脅かされることが無い環境も、全てが宗任のもの。これなら変に人を巻き込まないで、勝手に自分の夢を追ってくれる。


準備が出来たら、『歪み』がこれ以上広まらないよう私は『歪み』に留まる。いずれ私は消えるけど、それでいい。それがいい。それが『正解』だから。


後は表で『ドッペルゲンガー』が生きていれば……ほら。

私だけがいない幸せな世界のできあがり。


……これで、『無敵の天才神童』の話はお終い。

ね?くだらない、在り来りの不幸に塗れた、ただの道化の話なんてつまらなかったでしょ?

ネタ話にすらなってくれないんだ。そして、私はこのままここで終わる。……思ったより長く生き延びちゃったけど、あともう少しで消えることができる。


……ねえ、佳糸。

君だけだよ。やろうと思えば、私のこの人生だって変えられるのは。

志瑞が特殊な『異常性』を持っていても、七世が覚醒したとしても、私はもう何も取り戻せない。けれど、佳糸がその気になれば、私は『初回』からやり直すことができてしまう。

君の普段扱う『循環』とはそういう力なんだよ。かつての『英雄』もそういう運用をした結果、世界は救われた。城月霧乃が生まれた。

そんな奇跡を、佳糸なら生み出せる。


けれどね、私はそんなこと求めない。


何度も後悔して、何度も傷ついて、何度も泣く。

けど、その一つ一つを噛み締めて、何度転んでも、誰かの力を借りてでも立ち上がって、一歩ずつ前へ進んでいけばいい。

時が経てば経つほど、その苦味も、痛みも、熱を帯びて手放しがたい何かにきっとなるから。


だから……何もせず、さようならしよう。


……最後に佳糸と話せて、しかも『面白いもの』を見れて良かった。

本当に、本当に。

いい、人生だった。


☆☆☆


憩さんの話が終わると共に、沈黙が流れた。


私は……何も言い出せなかった。

否。

言いたいことは、伝えたいことは沢山ある。

けれど、その伝えたいことが多すぎて、上手くそれをまとめられそうになかった。


志瑞も『過負荷』の使い手に対しては容赦ないように思っていたけど、憩さんに対して釘を刺そうとすることはなく、ただ黙って様子を見守っている。

一方七世はといえば、ずっとプルプル震えて俯いている。ショッキングな話だからか。


憩さんはただ私を見つめてる。

多分私の返事を待ってるんだろうけど……どうしよう、本当にまとまらない。どこからどう話したら私の伝えたいことがちゃんと伝わるのか。

全部伝えたい。けれど、時間が無い。きっと、時間を空けてしまえば、憩さんは私たちを帰そうとする。私からの返事なんて諦めてしまう。

嫌だ。もしかしたら最後になるかもしれないのに、何も言えずに別れるなんて一生後悔する。


どうする。

何から話す?

どうやって、どんな言葉で話をする?


ぐるぐる考える間にも時間が経ってしまう。

せめて、なんとか言わないと。

焦りに反して、私の脳は何も答えを弾き出してくれない。


黙りな私に、とうとう憩さんが口を開いてーーー


「バッカみたい」


予想外の方向から、その声がした。


「七世……?」


私が思わずその声の方を見ると、七世が怒り心頭と言った様子で、憩さんを睨みつけていた。

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