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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部三章『リセット』
83/110

3-6

こんにちは。

引き続き、舞月憩の回想です。

私は『理想の人生』を目指した。

両親にとって『理想の娘』であること。財閥にとって『理想の会長』であること。佳糸にとっての『理想像』であること。友人、知人にとって敬い慕われ、崇め愛される対象であること。

その為なら、何回だって繰り返した。

テストの点は全て満点でなければリセット。

大会で銀メダル以下はリセット。

資格や検定に落ちるのも勿論リセット。

失言や醜態を晒してもリセット。自覚がなくとも、相手が不機嫌になったなら勿論リセット。


本当に些細な失敗でも、『理想』に当てはまらなくなれば繰り返した。


何回も繰り返して、二度と失敗しないように克服して……そのうち、色々変化があった。

勉強に困らなくなった。

運動だってトップを張れるようになった。

事業だって『未来』が分かるから、成功できた。

親は私に期待してくれた。

佳糸も私を慕ってくれた。

友達だって沢山できた。


けど、まだ。まだ足りなかった。

理想の進路。理想の政略結婚。色んな何かを求めて何ループもして。

その途中で世界が破綻することもあって、何かできないかと奔走したけれど、何の成果も得られなかった。


どうしてかな。理想そのままの人生が手に入ったはずなのに。

両親に失望されることも、佳糸が私の代役になることも、宗任やドッペルゲンガーに交渉を持ちかけられて、嵌められて、自分の席を失うことも無くなったのに。


……私は、私がわからなくなってた。

いつからだろうね。

繰り返し過ぎて、どこで満足できるのか分からなくなってから?

繰り返すことを選んだ瞬間から?

ドッペルゲンガーを作らないかって宗任から取引を持ちかけられた時?

それとも……落ちぶれて、それでも佳糸の前で『道化』で在り続けた時からかな。


私ってなんだっけ?

何がしたかったんだっけ?

何が欲しかったんだっけ?

分からない。分からないね。


キリがないこのループに嫌気が刺して、それでも『道化』が止められなかった。

そんな私は……『前回』、佳糸に引っぱたかれて説教された。

驚いた。今までそんなこと、全然無かった。ただ目を輝かせて私の話に頷いてる妹分としか思ってなかったよ。

でも、今でもその言葉は覚えてる。


「なんか気持ち悪い。どこ見てるの?ちゃんと私と話してる?」

「嘘か本当かなんてどうでもいい。お話を聞かせにここに来てくれるだけで私は充分。……『台本』作りに疲れたなら、愚痴でも吐き出してよ。そっちも聞いてみたいんだ」

「大丈夫。私しか聞く人いないし、私は憩さん以外に話し相手なんて居ない。箱詰めになって息苦しいなら、ここでちょこっと蓋を開けて外の空気吸って、また箱に閉じこもれば、誰も憩さんが『普通』なんて分かんないよ」

「……全面的な治療サポートと圧倒的な社会的地位を報酬に、財閥の養子に?」

それこそないない。憩さんのことを両親がどう思ってるか知らないし、『前回』とか何とかもよく分からない。でも、どんな私でも、憩さんがここに話に来てくれてる限りはそんな話は絶対断る。この時間が私にとって憩いの時間だから」


そう言われて、私はやっとわかったんだ。


ああ、そうだ。

そうやって、誰かが真正面から私に向き合ってくれたら、それで良かったんだって。


だから、思いきれたんだ。

最後のループにしようって。


そう決めた『今回』は、情けない私を止めてくれた佳糸の背中を全力で押し続けた。

私は、佳糸が色んな周回の中ですごい魔術師になるのを何回も見てきた。

時空移動の魔術を開発したり。

『軍』や『陰成室』、『国際魔術連合』の幹部になったり。

情報屋として、財閥も利用するくらいに評価が高かったり。


佳糸はダメなんかじゃない。私みたいに自分で自分を諦めなくていい。裏の世界は辛いことが沢山あるけど、『仮面』をつけて生き残って欲しい。信頼できる友達を作って、敬い慕われ、崇め愛されて欲しい。それだけの能力が、魅力が佳糸にはあるって私が一番知ってるから。


実際、『今回』もやっぱりすごい人になれたでしょ?頼りになる友達に囲まれて、本当の『私』が背伸びをして手を伸ばしたってきっと届かないほどの高みへ来ちゃったんだよ。


そうして佳糸の成長を、活躍を、私は舞月財閥の会長として見守っていけたらいい。


……そう、思ってたんだけど。

そういう訳にも、いかなくなっちゃったんだ。


それは、実に六年前。

佳糸と城月ちゃんが『歪み』とやらに遠征して、大怪我をして敗走したって聞いて、私は気が気じゃなかった。


『歪み』?

何それ。そんなの知らない。今まで……『初回』から『前回』に至るまで、そんなの無かった。

何か、本当に取り返しがつかない事態が起こっている。

薄ら寒かった。

今まで世界が破綻した時に何があったのか、概要は理解しているけれど。それはたかが凡人の私に解決できる事じゃなかった。

『今回』も破綻するなんて、それは絶対阻止しないと。


築き上げた実績、経歴に傷がついてもいい。外聞とかどうでも良かった。『昔』の朧気な記憶も全て掘り返して、とにかく、とことん調べた。


……私のせいだった。

私が、繰り返したせい。

繰り返しは無償なんかじゃなかった。私の記憶を参考に、前の世界を再現するだけ。

深く記憶に刻まれている佳糸や両親、宗任、今までのループで関わってきた志瑞とか七世、城月ちゃんに調さんはまだいい。再現とかじゃなくて、ちゃんと時間が巻き戻されている。

けれど、記憶がぼんやりしている辺りは……。


さっき、……佳糸は寝てたから聞いてないと思うけど、かつて一世紀前、『実現の魔女』を巡る地獄のループがあったって話をしたでしょ?それで世界が収束されていたって。

その時も、同じことが起きてて……当時はもっと追い詰められて、桜坂市しか存在しないような認識障害が発生してた。ループさせていた『決意』所有者が世間知らずで何に対しても興味を抱かないような教育を受けていたから、再現度が悪かったの。


かつての『英雄』城月怜は、その『詰み』の状況をある方法で打開した。

けれど、『自分』を失った私には使えない方法だった。


私はもう繰り返さないって決めた。

けれど、この世界は破綻してしまうかもしれない。いや、その可能性の方が圧倒的に高い。そしたら私はきっとまた繰り返す。また世界を歪ませる。

ううん。それ以前に今存在してしまっていることこそが世界を歪ませている。あの『甘言』に乗ってしまった時点で、私は誰かの『手駒』でしかいられなくなったから。きっと、佳糸の前で敵対する日が来る。

それだけは嫌だから。


『今回』までに6兆5312万4710回繰り返してきたその果てに。

私は1つの結論に到達した。


『私だけが存在しない』世界こそが答えだ。

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