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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部三章『リセット』
78/110

3-1

今日は……遅刻、しない!


それはさておき、今日から2部3章、始まります。

飛鳥視点です。

「識名さん!」


目の前で力なく傾いていく識名さんの身体をなんとか支えることができたけど、意識がない分ずっしりと重く感じた。


「識名さん……?大丈夫ですか、起きてください」


そう呼びかけても反応は返ってこない。ただピクピクと痙攣していて。

これは、どういう……?

混乱する中、ふと、先日の識名さんの言葉を思い出した。


『そもそもウチはちょっと特殊な体質やねん。魔力の代わりに『血糖』を消化してまうだけなんやけど』


つまり、さっきまでの戦闘で魔術を使いすぎて、今の識名さんは重度の低血糖ってこと?

でも識名さんのことだ。自己管理くらい徹底するはず。『生きて帰るつもり』だと言ってたから尚更、そういった用意は欠かさないはずなんだけど。

……いや、よく見たら、腰にウエストポーチの残骸のようなものがある。

敵が識名さんの『魔力撃』を反射してたっけ。

それで準備していたものが焼けて無くなったから、血糖の補給ができなかったんだ……!


ひゅ、と思わず息を呑む。

識名さんが……死ぬ?

居てもたってもいられなくて、私は識名さんを揺すって起こそうと彼女の身体に触れた。


「識名さん、起きてください!ねえ!?」


そうやって揺すっても反応がない。

それどころか、最悪な事態に気がついて、思わず手が止まる。

識名さん……もしかして呼吸が止まってる……?

慌てて胸の辺りに耳を近づける。

……聞こえない。どんなに聴覚を強化しても、心音が聞こえない……!


「識名さん、死ぬとか嫌だよ、」


識名さんの胸に手を当て、心臓マッサージを始める。

ここ1年の間に2回もこんなことするなんて思わなかった。


「死ぬつもりないんでしょ?夢を叶えるまで死ねないんでしょ?何がなんでも生き残るんでしょ?じゃあ、戻ってきてくださいよ!」


必死に心臓マッサージを続けたものの、識名さんが息を吹き返す様子はない。

空くんはただ静かに見守るだけだ。


……そういえば、空くんが斃れた時も同じことしたけど、結局、なんで空くんは蘇生できたんだっけ?心臓マッサージとか、人工呼吸とか、全然効果なかったはずだけど。

あとは、最後に『回復』魔術をしたくらいで。


……やってみるしかない。

『回復』魔術を展開し始めると、背後で見守っていた空くんが「飛鳥ちゃん残念だけど、『回復』魔術は外傷にしか効果ないよ」と止めてくる。


確かにそれはそう。

空くんはあの時、桜乃さんから致命傷を受けていた。

それと比べて識名さんは全くの無傷。

効く保証はない。

けれど、だからって関係ない。構わず魔術を起動し、無事に『回復』が作用した。いつもの『回復』とは比べ物にならないくらい激しく、白く光を発していた。


お願い。どうか、効いて……!


ひたすら祈っていると、先程強化した聴覚が、識名さんの心臓が微弱ながらも確かに鼓動する音を感知した。

呼吸も再開したみたいで、胸が僅かに上下している。


「やった!おかえり、識名さん!」

「……」


空くんはとても意外そうに目を白黒させていたけど、安堵したように息をついた。


「良かったぁ……本当に死んじゃうかと思った。やっぱ『回復』は使い得だね。蘇生これで二回目だよ?イケるじゃん」

「ああ、うん。確かにすごいけど、それ出来るの飛鳥ちゃんだけだと思う」

「そう?」

「うん。断言するよ」

「そっかー」


まあ、確かに蘇生を誰でもできるなら、死人ばっかりになっちゃうからそういうものなのだと思う。私だけできる理由は、私が『ダークマター』からできてるから、なのかな。


何はともあれ、なんとか識名さんが持ち直してくれたことだし安心。まだ青白いから予断を許さない状態だけど、それは今から急いで帰って病院に行けば……。


あれ?


「ねえ、空くん」

「何?」


ふと思い立った疑問を、私は口にした。


「どうやって帰る?」


識名さんがどんどん先に進んで、後を追うのに必死だったから帰り道なんて覚えてないし、そもそもこんな奇っ怪な空間、行き道と帰り道が同じルートだなんて全然楽観できない。

一刻も早く識名さんを連れ帰らなきゃいけないから、適当に進んで迷子になってる場合でもない。

せめて空くんが何か案がないかと思ったけど、空くんはかぶりを振った。


「……何も聞いてなかったね」

「あわわ」


ヤバいヤバいヤバい。

なんとか帰る方法を捻り出そうと思考をフル回転させる。


「あの、空くんが『呵責』で、私たちがここにいたことを『なかったことにする』のは?」

「それだと、ここを攻略した事実も消えかねないね。さっきの戦闘が全て無駄になる」

「じゃ、じゃあ。えっと……現海さん呼ぼう!」

「現海くんは行き方知らないだろうし、そもそも呼べるのかい?」

「えっ、そりゃあ『ITレンズ』で、」


そう返しながら『ITレンズ』に意識を向けると、なんということでしょう、見事に文字化けしてるじゃあありませんか。


「壊れたァ!?」

「おそらく電波が通じないんだろうね。もしくはさっきの戦闘の余波とか。だから過去の識名ちゃん達は2人きりで逃げ出すしか策が無かったんだ」

「ってか何なのこの日付。5月初めにここに来たはずなのに、なんでクリスマス過ぎて年越しそうになってんの?明後日になったらもうあけおめじゃん」

「識名ちゃんも言ってたじゃん、時間の流れがおかしいって。『歪み』と言うだけはあるよねぇ」

「いやいや、え?じゃあ何、現海さんは7ヶ月くらい私たちをめっちゃ探してるかもしれないってこと?うわ、めっちゃ怒られるじゃん……あばばばば、なんとか連絡取らないと……でも連絡できない……うう、」

「『伝達』魔術は?」

「魔術式見ながらならなんとかできるけど、その教材のデータも『ITレンズ』の中だから見れないよぉ」

「うーん。……惜しい人を亡くしたね」

「やだ、あっさり諦めないでよ。空くんもなにか考えてってばあ」


泣きついてはみたものの、空くんも万策尽きてるのか黙りだし。

本当にどうしよう!?


「そこにいるのは……佳糸?」


声が、聞こえた。

さっきまで気配なんて全く感じなかった。

なのに、いつの間に、こんなところに!?

声の方向を見ると、その女性はただ呆然とこちらを見ていた。


「それに、『七世飛鳥』と『志瑞空』がこの時期に一緒にいる……?どうして?一体何が現世で起きてるの?」


あまりにも、私が知ってる人と似ている。


「匂坂さん?」


『血まみれ事件』解決の際に消えてしまったはずの『協会』全権代行、匂坂憩さんにそっくりのその女性は、私のその呼び掛けにまた目を丸くしたのだった。

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