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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部二章『歪み』
77/110

2-10

投稿遅れました、誠に申し訳ございませんorz


前半は飛鳥視点、☆☆☆以降は識名視点です……

ずっと、迷っていた。


私は元々『恩人』を追っていた。

彼こそ『JoHN』の理想ーーー『決して嫌われない正義』の体現者で、そんな彼について行けば私も自ずとそうなれるなんて、甘い夢を見ていたから。

彼を支えたいとか、力になりたいなんて口では語るけど、本心はきっと違う何かだった。彼に甘えたかっただけだった。

けれど、霧乃ちゃんが亡くなって、私が組織を一時的に指揮することになって、その重みを知って、私のその夢は大間違いだと気づいた。

エゴだった。綺麗事だった。絵空事だった。


せめて、現海さんみたいな覚悟があればよかった。

現海さん。嫌気が差すほど昏い世間に揉まれて、それでも闇に堕ちようとはしなかった人。彼は、自身の恩人『そーちゃん』……『軍』の全権代行前任者の遺志を繋いで、『クソッタレな世界』を少しでもマシにしようとしている。

けど、私には現海さんのような覚悟は持てない。


せめて、識名さんみたいに我武者羅に『現実』と向き合えたら良かった。

識名さん。自信を失ってしまっても、ずっと自分にだけは負けなかった人。彼女は、過去を清算しようと、今にも倒れそうなほど青白い顔色、頼りない足取りでも自分のトラウマに向き合っている。

けど、私には識名さんのように清くいられない。


せめて、霧乃ちゃんみたいに上手く立ち回れたら良かった。

霧乃ちゃん。本当は普通を夢みていたはずなのに、最期まで本心を悟らせなかった。それどころか、私の背中を押してくれた友達。『JoHN』の理想、『決して嫌われない正義』について、誰よりも真剣に向き合っていたことを私は知っている。だって、霧乃ちゃんの専属秘書で、友達だから。


……けど。

私は霧乃ちゃんみたいな『決して嫌われない正義』になんかなれない。


だって、世界と好きな人を天秤にかけられたら、きっと好きな人を優先しちゃう。

『血まみれ事件』だってそう。世界を救ったといえば聞こえはいいけど、全然そんな理由じゃない。

私みたいな『化け物』を増やしたくないとか、空くんが『スワンプマン』に食べられるのは嫌だなとか、本当にそんな利己的な理由しかない。

結局、私はエゴイストだ。『大いなる善』のために動いたなら、きっとそれは私が私を殺した瞬間だと思う。


つまり、何が言いたいかといえば。

このボス的な人が、霧乃ちゃんが鼻息を荒くして憧れの対象のように言ってた『史上最優』の魔術師『御厨愛知』本人だとしても、それモドキだったとしても、このボスを倒すことでなにか世界に悪影響が及んだとしても。

私は助けたいと心から思う人だけを、不平等に助けるよ。


だから。

今はさよなら『決して嫌われない正義』。

初めまして『明白に嫌われた正義』。


☆☆☆


核爆発を密閉空間で受けても『御厨』は耐えている。

ゴキブリ並みにしぶといやんな、こいつ。

でも、今までにないダメージを与えたらしい。あともう少しや。


魔法陣がまた見えた。さっきほどやないけどそこそこ複雑なそれに、うちは何気なく『超加速・裏』を展開する。

今度は、七世がバケモンになって周りがまっさらになるとかいう、些か現実味のない未来が視える。

……さっきまでやったら、こんな荒唐無稽な未来も信じとったんやろうけど……未来視があてにならんとか絶望でしか無かったはずやのに、今は晴れ晴れとしとる。

これほど、あてにならん未来視が嬉しい瞬間が来るなんて思わへんかったわ。


「今の魔法陣は?識名ちゃん」


志瑞の言葉に、うちはふっと笑う。


「ほんまやったらまあまあヤバめやけど、どうせ実現せえへんから気にせんでええ。……もう終わろうや」

「!……分かった。仕掛けるよ」

「そか。……ほな、行くで」


同時にうちらは駆け出した。

背後でうちらの会話を聞いとった七世が魔術式を準備してるのを背後に感じながら。

それを見た『御厨』が、展開してた魔法陣を破棄して別の魔法陣を展開しよる。

……あの形ならもう見飽きたから、『超加速・裏』なんか使わんでええな。


「『身体強化』『魔装』」


『魔装』でナイフを生成する。隣で志瑞が釘を構える。

魔法陣から出てきた『魔力撃』っぽい斬撃の弾幕をナイフ、釘など各々の得物で弾き落としながら前へ進み続ける。

途中で『魔装』を再展開。砲剣に持ち替えて、ありったけの攻撃系統魔術をチャージする。

志瑞が釘で『影縫』することで身動きを封じ、うちが砲剣の先を『御厨』の腹部に押し当てる。


「『魔』ーーー」

『……』


『御厨』が『反射』の魔法陣を展開したーーー瞬間、うちは魔術をキャンセルして横へ飛び退く。志瑞も同じように横へ遠ざかった。


『っ!?』

「人間、舐めんなや」


そしてーーーうちと志瑞が意識を逸らしとる間に、七世は『御厨』のすぐ背後まで近づいていた。


「うあああああああああああああああああああああああ!!!」


そして、泣き叫びながら、元のゴリラを遥かに上回るパワーから更に最大出力の『身体強化』を込めた、超弩級の馬鹿力の全力ストレート飛び膝蹴りを、容赦なく叩き込んだ。


『御厨』はそれはもう派手に、鏡のような気色悪い空の彼方へ飛んで行って、やがてこの『歪み』の壁?らしき黒いところに衝突してミンチのように崩れた。


再生は、しなかった。


「や、や、」


それを見た七世は、「やったああああああああああああああああああああ!!!」と泣きじゃくりながら、大はしゃぎでぴょんぴょんと跳ねた。


「やった!やったんだよ、私たち!倒したんだ!勝てた、勝てた……っ!」


そしてそのまま志瑞に勢いよく抱きつく。

志瑞もまた派手に吹っ飛んだけど、されるがままになっている。

そうやって暫く揉みくちゃにしてはされて、をしていた二人だったけど、七世がふと思い出したように志瑞を離して、うちの元へ駆け寄る。

志瑞はどこぞのじゃじゃ馬のせいで瀕死状態。

志瑞はともかく今うちに同じことしたら普通に死ぬで?

なんて冗談は置いて、七世はその辺はさすがにわかるのか、うちの手前で立ち止まった。


「識名さん。ありがとうございました」

「なんでなん。大したことしとらんやろ」

「そんなことないです。やっと私、本当は何をしたいのかを見つけられました」

「お、おお」


そんな気はしたけど。

……なんや、ここに行く前に願望で呟いたことも、案外現実になるんか。この世も捨てたもんでもないな。


「それに、識名さんがいなかったらどうなっていたか」

「それはうちがここに誘ったのが事の発端やし。誘ったなら誘ったなりに責任取らなやろ」

「えー、でも」

「それよりなんやねん。もっと早く戦闘参加してくれたらもうちょい楽やったのに」

「うっ、それは……ゴメンナサイ」


まっすぐ感謝されるのが気恥ずかしくて、何となく嫌味を言ってみる。

それもなんの言い訳もなく素直に謝ってくるから、余計やりにくい。


……はぁ。

せやな。

うちもこのくらい、素直になってみたらええのかもしれんな。そしたら、調もちょっとくらい素直になれる未来があるかもしれへんな。

うち相手やなくてももう構わん。せめて、誰かにその本当の心を打ち明けられる、そんな瞬間があれば、それで充分や。


「まあ、でも最後は助けられたからな。花丸や」

「っ、ありがとうございます!」


パアッと花開くような、嬉しそうな、本当に純真無垢の子供みたいな、満面の笑みを浮かべる七世と、それを、いつもと変わらないように見えて、心做しか微笑ましそうに眺めているように見える志瑞。

……こんな景色を守り抜けたんや。

ほんま、良かった。

本当に………………。

……………………………………。

…………………………………………………………………。


ーーーぐらり、と揺れる。

唐突に、電池が切れた機械のように、身体が全然言うことを聞かなくなる。視界も段々と暗くなっていった。


「ーーーーーーっ!?」


大丈夫やで。


そんな言葉をちゃんと伝えられたかどうかもよく分からないまま、ぷつり、と意識が途絶えた。

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