2-9
こんにちは。
識名視点回想
☆☆☆
識名視点現在
みたいな感じです。
『オレは、このクソみたいな世界を少しでもマシにしたい。世界中噂になるくらいとびっきり弾けてるお前らとなら、変えられるかもしれないな』
まだ調、霧乃と楽しくやってた時、放課後の夕焼け差し込む教室で、現海はそんなことを言ってた。
『はは。別に世界変えるとか噂になるとかどうでもいいよ。最適な温度だから一緒にいるだけ』
傍で調はそう言った。
それを聞いて、うちは誇らしかったんや。諦めなくてよかった。仲間になれた。霧乃や調と同じ土俵に立てたんや。熱しにくく冷めやすい調も仲間と思ってくれとるって。
なのに。
『なんとか確保できたこの依頼なら、『混沌』の手がかりを必ず得られる……』
『じゃあ行くしかないね。今んとこ、やばいなんて預言降ってきてないからきっと大丈夫』
『明日、10時に桜坂駅集合でええか?』
『うん。よろしく』
交わした約束は果たされなかった。
『調は、なんで、……っ、なんで!うちらのこと、見捨てたんや!?』
『仕方ない。最適な温度で生きていくのに、私たちは要らなかった。そういうことだろう』
『霧乃はなんで割り切れんの?うちは無理やで、だってうちらの末路知っとったはずやん。ちょっとでも情があるなら、教えてくれたってええやんか!』
『切り捨てる必要があった。それだけだ』
『はぁ……?うちらの関係って、そんなあっさりとした、呆気ないものやったんか……?』
それを認めたくなくて、ただ現実から、過去から目を逸らして、背を向けて、自分の不都合を一切信じないようにして、ずっと調を恨み続けてしまった。
『佳糸。私は、志瑞空と七世飛鳥こそ、私の夢を叶えてくれると確信したよ』
気づけば霧乃は、調だって、うちの知らん何かを見とった。
『だからさ、親友。お願いだ。2人を、どうか未来まで繋げて、その結末を見届けてくれ。佳糸ならきっとできる』
そうして、うちはまた『独り』になった。
なんでやろなぁ。ずっと一緒やったはずなのに、いつから置いてけぼりになってしもたんやろか。
調がドタキャンした時?
調が『預言』のことを打ち明けてくれた時?
どっちにしたって、うちが『混沌』とかなんとかとは本来無縁な立場やったから、最初から詰んどったんかもしれへんな。
というか、ホンマに霧乃たちには志瑞たちが何に見えとんねん。
確かにちょっと個性的かもしれんけど、凡そごく普通の、両片思いしよる少年少女ってだけやんか。そんな輩に何を無責任に託そうとしとんねん。アホやなぁ。自己中ばっかや。
霧乃も霧乃でズルいわ。『親友』なんて縋られたら、ちゃんと叶えてあげたくなるやんか。うちの本当の心……『3人で一緒にバカやりたい』なんて知りもせんし叶える気もあらへんくせに。酷いやっちゃで。
そんで調。『最適な温度で生きる』とか言うてたのに、うちらを裏切ってからのあんさんは、なんや寒そうやで。素直になったら、きっと『最適な温度』に戻るで?そっちの方が楽でええやん、なぁ?
憩さんも勝手に消えては勝手に裏に入って、そんでまた勝手に消えたし。ほんま、うちの周りはどないなっとんねん。死にたがりばっかりなんか?生きて見届けようって覚悟のほうが大事やろ。困るわ、死ぬ覚悟ガンギマリでホンマに死ぬバカは。
そんなんなら、うちにも考えがあんで。
とりま、あんさんらの覚悟は無駄にはしいひん。この世界の結末を見届けたるわ。
そんで、『最適な温度』……普通にいい人見つけて、普通に結婚して、普通に子宝に恵まれて、普通に幸せな老後を過ごしたる。現海が頑張っとんのを眺めながら、たまには手伝うねんけど。
それを天国とか地獄とかから、『きーッ!』て悔しがって見とればええわ。うちが死んだら、『本当は一緒が良かったんやけどなー』って恨み言言ってから、マウント取るように色々話すんや。
『ほれみたことか!』ってな。
面白そうやろ?
……だから、もうちょい気合い入れて頑張るわ。
年始くらいに七世から聞いたことあんねん。『覚悟』とやらで魔力を補えるとかなんとか。
何言うてんねんこいつとか思っとったけど……今がその使い時やんな。
『超加速・裏』……もっと先の未来、見るのに使うで。
え、うちも十分馬鹿?
そうかもしれへんな。あんさんたちのせいやで?
でも、うちは死ぬ気さらさらあらへんから。悪しからず、やで。
☆☆☆
ぼーっとしてた。
意識が飛んでたんかも知らん。
そりゃそうや。今まで一秒間だけの情報で済ませとったのに、急に五秒先の未来まで見ようとしたら脳がショートするに決まっとるやんな。血糖不足やから尚更。アホやな、うち。
……『超加速・裏』を多用し始めて、果たしてどのくらいの時間が経ったやろか。
いや。ここの時間の流れは特殊やから、もしかしたら現海が心配しよるかもな。神隠しが何とかって、必死にうちら三人を探しとるかもしれへん。
せやったら……現海になんも言わずに出かけたんは、悪いことしたなぁ。一言くらい伝えとくべきやったか。でも国を背負っとるのに更に重荷持たすのも嫌やから、これでええのかも。
そんな話は置いといて。
そんな無茶したせいで、せっかく見た未来まで吹っ飛んだわ。欲張るもんやないね、反省反省。
一応理由はある。今まではなんだかんだ『魔力撃』っぽい攻撃のワンパターンだったのに、『御厨』が複雑な魔法陣を、これでもかと時間をかけて展開し始めた。
志瑞が色々仕掛けてもなんも変わらんし、何を企んでんねんって一秒先だけ見て、まだ分からんかったからもっと先を、と思った結果が今。
うちが意識飛ばしてたのは一瞬。今なら三秒くらいでなんとか先は見れそうやな。
改めて『超加速・裏』を展開すると、あっさり視えた。
既にヒビだらけだけど憎たらしいほどに澄んだ翡翠の視界に、……核爆発が起きて、この辺が更地になる未来。
「は……?」
核爆発?それ、もう魔術の規模やないやん。
いや、魔法陣の中でも魔術と比べたらアホらしくなる効果は沢山あった。猛毒に侵されたり、心が組み替えられてしまって理性を喪ったり、神経がイカれて微塵も動けなくなったり。
それを見る度、何がなんでも回避させてきたけど……こればっかりは回避じゃどうにもならない。
「アカン。これが起動したらなんもかんも終わりや!何がなんでも起動させたらアカン!完成をなんとしてでも阻止せな!」
うちの言葉に、志瑞が釘で魔法陣を刺そうとする。
『御厨』は志瑞のやろうとしていることを読んでいるらしい。器用に魔法陣を守りながら応戦している。
ええわ。そうやって気を逸らしてもらえるなら、こっちで何とかするしかあらへん。
残り三秒。
『超加速』を三倍指定で展開。うちの感覚を三分間に引き延ばす。『身体強化』で直ぐに魔法陣のすぐそこまで駆けつけ、魔法陣に介入をしようと指先を向ける。
残り二秒。
魔法陣はとことんうちの知ってる魔術のシステムの規格外らしい。全然こっちの干渉を受け付けん。魔法陣をぐちゃぐちゃにすることは出来ひんようや。早々と見切りを付けて、なんとか壊す方向にシフト。『魔装』でナイフを生成し、只管に切りつける。
残り一秒。
「消えろ、消えろ、消えろ……っ!」
何回直接切りつけても、なんも乱れてくれやしない。
ただ、そこに魔法陣が展開され続けるだけ。
嫌や。諦めたくない。うちは生きるんや。こいつらも生きて返すんや。誰も置いていきたくない……!
だから、
「こんな理不尽、消えろやあああああああああああああああああ!!!」
残り、ゼロ。
『超加速』、解除。
それと同時に、無慈悲に、魔法陣が完成する。
激しい熱風が、轟々とした炎が、放射線が。
……『御厨』のみを包み込んだ。
「……え、あ?」
……うちが視た未来と、違う?
全く違う結果に口をあんぐり開けて、思わず固まること数秒。何とか状況を呑み込むことができた。
『障壁』魔術を『結界』のように展開して、『御厨』だけを包囲したんだ。
うちにそんな余裕はない。うちが展開したとしても簡単に割れていたはず。
志瑞は魔術に関する知識はあるけど、魔術を使えない体質だから有り得ない。
……自ずと、答えは出た。
「七世……?」
七世のいた方向を見ると。
産まれたての子鹿のように足を震わせながら、涙をボロボロと零しながら。
それでも、戦意を喪失していたはずの七世は、『御厨』をしっかり敵意を込めて睨みつけていた。




