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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部二章『歪み』
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2-8

こんにちは。

今回も識名視点です。

「随分楽しそうだね、識名ちゃん。やっぱり僕も混ぜてよ」

「……なんや。ただ観戦するだけやと思っとったわ」

「おいおい、酷いじゃないか。僕はただ、識名ちゃんがエリートをぶっ潰すのが見たかっただけなのに。ただ見てても千日手で欠伸が出そうだし、僕も仲間にして欲しいなー」

「ちゃう。『暇だから野次馬させて』が本音やろ」

「そうとも言うよ」


そんな軽口を叩きあいつつも、私は少し安堵していた。

私一人じゃ、やっぱりどうしても戦術を読まれやすくなる。霧乃と一緒でも、魔術を使う2人組じゃどうしてもパターンが組まれてしまう。

だけど、志瑞は『異常性』で攻撃する。だから、かなり読まれにくくなる。

勿論最初の時点で見通されてるけど……『呵責』は見通したところで対策できるもんでもないなぁ?


気を取り直して、『超加速』を起動する。

『魔力撃』。まあ、どうせ裏に複数魔術式を準備しよるやろけど……とりあえず展開されている魔術式は書き換え、『身体強化』『魔装』を再展開。『魔力撃』で弾幕を用意してーーー解除。

『御厨』は読み通り、展開していた魔術式を破棄して別の魔術式を再展開してくる。それと同時にうちが志瑞に目配せすると、間髪入れず釘が飛んで魔術式を破壊。

『御厨』が再展開しかけて、飛んでくる『魔力撃』の弾幕で展開を中断、『障壁』が展開される。『障壁』に弾幕がぶつかって爆発し、煙が上がった。

よし、これで視界防げた。

『超加速』を展開し、一気に距離を詰めてナイフを突き出す。『障壁』に阻まれたけど、ナイフに魔力を込めていたお陰で『障壁』にヒビが出来る。

理想は割ることやったけど、これなら許容や。

そしてうちが横へ跳んだ瞬間ーーー背後からさらに飛んできていた釘が『障壁』を貫通し、『御厨』の身体を深々と貫いた。


「よっしゃ!」


思わずガッツポーズした。


「ちなみに、魔力を無かったことにしてみたよ。まあいつまで維持されるかは分からないけど、効果が全く無いわけではないらしい」


志瑞の言葉を聞いて『御厨』の様子を見れば、確かに魔術こそ沢山展開されるが、全く起動する気配がない。胸に刺さった釘を抜いて出血が多いのに、全く傷が塞がらないためか次から次へと『回復』魔術が展開されては効果を発することなく消えて、血液ばかり滝のように流れていく。


心臓を潰したんやし普通即死やけど、人外やから死なんのか。もっと削らなあかんね。


「今のうちに叩くべきやな」


『超加速』を3倍指定で起動。一気に畳み掛けるべく、『魔装』で生成しておいた砲剣に『魔力撃』『稲光』『紅蓮』など攻撃系統魔術を付与、チャージしていく。ありったけの魔力……まあうちは魔力やなくて血糖やけど、注射をどんどん刺しながらエネルギーを装填し、『解除』。

人どころか街ひとつは簡単に消し飛ぶくらいの威力の極太ビームを、未だに微動だにしない『御厨』目掛けて発射。

さすがに避けようと思ったらしい、身動ぎをしたが、抜かりなく志瑞が『影縫』……1歩たりとも動かないよう釘を刺してくれとる。


勝った。

そう思ったーーー次の瞬間、一瞬だけ方陣が展開されて、渾身の一撃のビームはいとも容易く跳ね返されてしまった。


「はぁ!?」


よりによってそれはうちや志瑞、七世目掛けて反射してきている。

咄嗟に『障壁』を100枚ほど展開するけど、威力の減衰が全くないのかどんどん割られる。


「ヤバいヤバいヤバいヤバい!」


思わず素で叫びながら『超加速』を展開、残り1枚が割れたところで起動して危うく避けられた。

いや、正確には躱しきれてなくて、ウエストポーチがジュッと焼けた音がした。

……注射が、全部おじゃんになってしまった。


志瑞達はどうかと顔を上げれば、志瑞が七世の分だけ『呵責』で打ち消し、自分はビームに飲み込まれて黒焦げになっていた。

七世は取り乱してるけど、彼は『呵責』で自力で復活できるから、一旦意識から追い出して『御厨』を見る。

……無傷だ。

否、正確には、『魔法陣』が展開されて、徐々に釘が刺さった痕が癒えている。

たしかに、魔術式の形態は地域差がある。

でも、それでもうちは今まで、どの地域でも対応できるようにと様々な魔術式を頭に叩き込んだはず。

……なのに、それなのに!


「なんやアレ、あんなん知らへんで!?」

「魔力がないなら、別の何かをエネルギー源にしてしまおうってか。いやー、勉強になったよ。黒焦げになっちゃうのは勉強代高すぎると思うけど。この恨み辛みは、取り敢えず『釘を刺す』ことで晴らすことにしようかな」


予想通り既に復活して無傷の姿に戻っとる志瑞がそう言う。

『異常性』を上回る影響力ではないらしいけど、こんな未知の術式にどない対応せぇっちゅうねん。しかも血糖の注射もぶっ壊されて、短期決戦にせなあかん。無理ゲーやんけ。

まあ無理ゲーとか言うてる場合でもないな。こうなったらしゃーないわ、うん。


「どうするの?」

「やることなんかさっきと変わらへん。あの術式を妨害するから、『釘を刺したれ』」

「……できる?」

「ちょっとだけうちの負担は増すけどな。構わずやるんや。ええか?」


志瑞はまだ色々聞き出そうにしつつも、とりあえず頷いてくれた。

そうや、それでいい。

たしかにあんな術式は見たことがない。言語も全く見た事がない上、法則性もさっぱり。全然解析できそうにない。だから、今まで使用していた『超加速』で書き換えなんて手段は使えない。

……けど、こっちの『超加速』なら話は別や。

『超加速・裏』を展開。

視界は翡翠色に染まり、所々に罅が現れる。そのひび割れた視界で、『御厨』が魔法陣を展開した瞬間に無数の斬撃がうちらを襲う『未来』を幻視する。


「『魔力撃』」


視界が元の色に戻った時、『御厨』は魔法陣をちょうど展開中だった。相殺すべくそちらを展開する。無数の斬撃が出てきて、視た通りの軌道で飛んでくるが、予め起動した『魔力撃』でしっかり相殺できた。

志瑞もうちが『魔力撃』を起動した瞬間に動いてくれて、なんとか釘で応戦しよる。『御厨』も魔法陣のやつは連発できひんらしく、やっとその場から動いた。……なんや『御厨』、ステゴロもできるんかい。固定砲台しとった癖にほんまチートやろ。

どうしても荒れてしまう息をなんとか整え、その光景を眺める。突破口を見出すべく、滲んだ視界を必死に凝らしながら。


今まで使っていた『超加速』が『停止』『加速』に重点を置いたもので、今使った『超加速・裏』は『循環』に重きを置いたもの。

光の速度すら超えて、『ちょっと先』の『未来予知』をする魔術。

……『超加速』より負担が大きすぎて、一秒先の未来を見るのが精一杯やけど。


魔法陣が解析できないなら、魔法陣が展開されたあとに何が起こるかを未来視して対策すればいい。攻略サイトを見ながらボスを攻略するようなもんやね。

……ぐらり、と身体が傾くのを何とか踏みとどまる。

寝とる場合やない。何がなんでも、七世と志瑞だけは生かして返さなアカン。

霧乃はあの二人に夢を、使命を託した。

調も、なんや知らんけど、あの二人に何かを期待しとる。

うちがそれを壊す訳にはいかん。

霧乃が、調が見てる世界を、うちも見たい。


だから。


『超加速・裏』を、再度展開した。

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