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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部二章『歪み』
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2-7

こんにちは。

識名視点です。

そこは一見、何の変哲もない空間。

真っ白な地面、真っ黒な遠景、まるで水中に自分たちが沈んでいて、そこから水面をぼんやりと見上げているかのように、薄らと街が見える空。光源などどこにも無いのに視界は明るく、どこにも花などないのに風花がヒラヒラと舞っている。

今まで高層ビル群や自然が立ち並んで雑然としていたのに、最奥部は、そこだけ綺麗さっぱりと消失してしまったかのように、一際開けていた。


……でも、私は知っている。

昔、霧乃と一緒に侵入してここに辿り着いたから。

油断していると、地獄を見る。


「何も無いですね」


安堵したようにそう漏らす七世に志瑞が「本当に何も無いなら霧乃ちゃんたちはやられないはずだぜ?」と話すと彼女は「それもそっか」と気を引き締めていた。

私もそれに頷く。

やがて、覚えのある気配を感じた。


「……お出ましや」


銀髪で、腰くらいの長さのストレート。澄んだ海のような瞳は落ち着いた大人のような雰囲気で、気配が希薄でありながら重厚な、人型の『ナニカ』。

特徴は分かるのに、どうも顔をぐちゃぐちゃに塗りつぶされたように見えて認識できないソイツは、見紛うことなく、六年前に『最強』だと驕っていた私たちを地獄の底まで叩きのめした『魔物』だった。


「え、人……?」

「……」


戸惑う七世と様子を窺う志瑞に構わず、『超加速』を倍率指定なしー1秒間を1分に引き伸ばす程度ーで起動しながらコインを取り出し、指に乗せる。


……よし、やっぱり。何も動く気配はない。先手を必ずこちらに譲るのは昔から変わりない。


最初は凄く早くなるだけだった『超加速』。改良して、ちょっと先の未来視程度なら出来るようになった。

『循環』の原理が、ゲームデータのセーブとロードに似ていると気付けたおかげだ。


『稲光』を展開。なるべく威力を、それこそ一撃で仕留められるくらい高めに設定する。『魔力撃』『紅蓮』など色んな魔術式も融合してさらに火力を盛る。

更に仕留められなかった時の保険を考えて、念の為持参した血糖の注射を雑に刺す。血管を刺せなくても問題ない、即効性高めのハイテク薬品をしこたま用意してきた。

全ては、今日という日のために。


『レールガン』、装填完了。

それと同時に『一分』が、経過した。


「……っ!」


指で思いっきりコインを弾くと、『レールガン』と化したそれは光の速度すら越えて『ナニカ』に真っ直ぐ飛び、大きく爆発した。


「え、え、ええええ!?いきなりっていうか、いつの間にこんなの展開してたんですか!?……これ、私たち要ります?」


七世が驚いているが、それどころじゃない。

前も似たようなことをしたけど、仕留めきれなかった。

今回はさらに火力を盛ったけど……多分。


大きく立ち上る煙をじっと睨み付ける。

ゆっくり、ゆっくりと煙が晴れていってーーー人影が見えた。

思わず舌打ちして、一人「……仕留めきれへんかったか」と呟く。


「嘘でしょ……」


七世は絶句している。

無理もない。初見は私だってそう思った。

けど、まだ手の内を全部明かした訳じゃないからと楽観していたんだ。

その希望すら、ほら。


「ひぅっ!?」

「……へぇ、」

「……」


途端に立ち込める異様な雰囲気。

まるで全て見透かされているかのような……。

否。まるで、どころじゃなく、本当に全て見通されてしまうことを、私は知ってる。

だから昔は手も足も出なかったんだ。


七世が酷く動揺していて、志瑞は平常心に見える。

七世はダメかもしれない。一旦戦力外で考えようか。


ーーーまあ、どっちでもええやんな?


志瑞は『第三勢力として』って言った。

だから、最初はうちなりに一人で挑んでみるしかないやろ。

何、うちもただ過去に囚われてた訳とちゃう。何もかも見通されるんなら、うちも次の一手を読み切ったる。


『超加速』を二倍指定で展開。

これで、2秒間をうちだけ2分の感覚で動ける。

『ナニカ』ーまどろっこしい。外見も歴史の教科書まんまやし、一旦『御厨愛知モドキ』略して御厨でええかーは一通り見終えたらしい。もうすでに『魔力撃』を展開していた。


……なら、その魔術式を破綻させればええ。


魔術式は要点さえ抑えれば、ところどころ雑でも問題なく発動できる。それは『略式』の存在が証明している。

けれど、それはつまり、要点さえ崩してしまえば、魔術は正しく起動できないということでもある。


魔術式の解析、書き換えについてはうちの得意分野や。展開されている魔術式に干渉し、『魔力撃』を書き換える。

これで不発になるはずや。

『超加速』が解ける。

『身体強化』『魔装』を展開、魔力で生成したナイフを手に『御厨』へ距離を詰める。再展開している隙に少しでもダメージを与えられればー!


『『魔力撃』』

「っ、『障壁』っ!」


瞬間、夥しい数の斬撃が迫ってきて、ほぼ反射で『障壁』を何重に展開する。それだけじゃ足りないと判断し、後退しながらナイフで避けきれない分の斬撃を弾き落とした。

背中に冷や汗が滲む。


……魔術は確かに書き換えた。不発になるはずだった。

なのにちゃんと起動された……?


「もう一回や」


『超加速』起動。今回も二倍指定。

今度も『魔力撃』。

シンプルなんが強いってやっぱ分かっとるで。さすが、歴史の教科書に載っとる偉人なだけあるわ。

『史上最優』、その二つ名は伊達じゃあらへんってか。

……ここにおるんが本物かは知らんけど。

独り言ちながら、今回も魔術式を弄る。

今度は暴発するように仕組んでみる。

そして『超加速』解除。『魔装』のナイフを手に再度駆け出す。

『御厨』が『魔力撃』を発動した途端、斬撃が『御厨』へ迫る。『御厨』はそれを『障壁』で防ぎながら『魔力撃』を再展開、すぐに発動されてこちらへと飛んでくる。


今度は予想していたので、そのまま前進しながらナイフで弾き落とし、『超加速』を再展開。ナイフを『御厨』目掛けて突き立て、ーーー『障壁』に阻まれる。

思わず目を瞠る。


『超加速』のタイミングが読まれとる……!?


そうやん。書き換えた魔術自体は不発やったり暴発したりしとるけど再展開が早すぎるわ。うちが書き換えるのを読んで複数準備しよるんか……?

普通の人間やと四つが限界やのに、脳内にどれだけ魔術式を展開しよるねん、此奴。


っと。

『魔力撃』『魔装』『風来』『紅蓮』の同時展開がもうすぐ来るのが視えたので、一旦後退しながら『障壁』を展開する。

弾幕の雨と火炎旋風を同時に作るとかほんま無茶苦茶や。

火力もえげつないし。熱風が吹き荒ぶわ、弾幕も密度が高い上に速すぎて、防ぎつつ避けるので手一杯。『障壁』がパリンパリンと割れまくっては再展開するから、血糖がどんどん減る感覚がある。全然注射できひん。

一歩も動いてへんのに、固定砲台してるだけで強いとか反則やろ……!


なんとか防ぎきった後、すかさず『超加速』を展開してグルコース注射の二本目を刺す。

……ふう。危なかった。ついさっきまで視界がちょっと暗くなっとった。

やっぱ独りで戦うには限界があるんか?どうしても動きのパターンが限られてしまうから読まれやすくなっとるし。

いや、負ける可能性を考えとる暇はあらへん。そんなんより今は何とか一矢報いるんや。

というかまた『魔力撃』を展開しよる。舐めプかいな。腹立つこっちゃやで、ほんま。


魔術式を無茶苦茶に書き換えて、今度は起動した瞬間すぐに爆発するように調整。更に、この時間にも攻撃を叩き込んでやるために『御厨』に接近し、既に展開されてる『障壁』の書き換えを始めてーーー『解除』される。


「っ!」


アカン。さっきの『超加速』は二倍指定やのに、血糖不足で倍率指定なしになっとった!

これじゃ近すぎる、急いで離れないとーーー。


展開されていた『魔力撃』は確かに小爆発したけど、そんなの意にも介さずに『御厨』は『魔力撃』を再展開する。

早い!『超加速』も『障壁』も回避も間に合わん!


直撃を覚悟したその時、再展開中の『魔力撃』の魔術式に、人の背の丈ほどの、あまりに見慣れた釘が刺さって諸共消滅した。

この隙に跳んで後退し、飛んできた方向を思わず目で追う。


志瑞が、釘を投げたあとの姿勢で微笑んでいた。


「随分楽しそうだね、識名ちゃん。やっぱり僕も混ぜてよ」

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