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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部二章『歪み』
72/110

2-5

こんにちは。

バレンタインは、職場の人と参加してるダンスサークルの人にミスドの福袋の引換券で購入?したドーナツを義理チョコ代わりに配って終わりです。

彼氏いない歴=年齢どころか、恋愛経験も皆無です。


……はい(はいじゃないが)


それはさておき、識名視点はもうちょっと続きます。

ふと、頬がぽたりと濡れる感触。

雨でも降るのかな?と思って、薄ら目を開けた。


そしたら、これでもかというくらいに目に雫を貯めてる城月の顔が見えて、ぎょっとした。


『……識名?起きたか』


酷くホッとしたような顔で、溜めてた涙をボロボロとこぼれさせながら、城月は微笑む。どんよりと曇っているようにしか見えないけど。


『……面倒かけたみたいやな。ごめんやで』

『そんな、面倒など思っていない。本当に生きた心地がしなかったんだ、私が無茶ぶりをしたばかりに……君がそういう体質だとは全く知らなかった』

『……』


面倒な人に知られてしまった。私は頭を抱えた。

雑草の私なんかほっといて、月は月らしく、遠くで輝いておけばそれでいいのに。

雑草を気にかける月など、解釈違いもいいところ。


……何より、憩さん以外で、こんな真っ直ぐ、『心配』されたことなんていつぶりだろう。

いや。憩さんだって最近は、私の内心を慮っているのか、倒れて病院に運ばれても『あーあ、またやっちゃったね。ま、そんなこともあるよ』って気楽に流すようになってる。

だから、憩さん含めても、本当に久しぶりのことで。

それにどう返せばいいか分からなくて、頬を搔く。


気まずい沈黙が流れて、城月は『あ、それとだな』と話題を切り替えた。


『さっきの魔術、凄かったな。目で全く追えなかった』

『当たり前やろ。さっきの倍率やと、五秒あんさんが動いたとして、その間に『五分』うちが動ける計算になるで。見えるとか言われたらどないせぇっちゅうねん』

『なんと。世紀の大発明じゃないか』

『そんな事あらへんと思うけど。所詮キメラやん』

『融合という発想、それをよりによって扱いが難しい時間操作系統三つで、短期間で成し遂げる実力。決して『所詮』という言葉で推し量れるものではないと思うが』

『えらい褒めるやん。お世辞もろても何も返せへんで?』


私の返しに少し不満げだったけど、一つ咳払いをして切り替えた。


『……。それに、翡翠色の瞳がとても映えた』

『そうなん?』

『ああ。本当に、今まで見たもので一番綺麗だと思ったさ』


そして、こんな真っ直ぐ褒められたこともない。

どう返せば正解なんだろう。


『将来は魔術の研究者を目指しているのか?だからここに来たのか?正直、さっきのアレの魔術式スクロールを学会に提出するだけで実績は充分だと思うが』


私が黙り込んだのも構わず、城月は質問を続ける。

……たしかに、研究者という進路もありだったかもしれない。

けど。


『仕方ないって言われっぱなしで悔しくないの?私は悔しいね。だって、佳糸は体質になんか負けない』

『アンタにも、アンタにしか出来ないことが絶対ある』

『『ほれみたことか』って見直させてやろう』


こんな時まで、憩さんの声が、私の中に鳴り響いてしまうから。


『ちゃう。研究者やなくて、普通に魔術師なりたいんや』


『こんな体質じゃ戦えない』なんて、諦めることを諦めさせられたんだ。


『えっ……』


城月は絶句した。

そして色々と想像したのか顔を真っ青にして、口をぱくぱくとさせた。


なんとか反応したと思えば、震え声で『……死にたいのか?』なんて。


『そんなわけないやん』

『違う。魔術師界隈は過酷だぞ。私を凄いやつと思ってるかもしれないが、私などとんでもない落ちこぼれだ。だというのに、君は、決して長くは戦えない体で前線に潜るつもりなのか?希死念慮でもあるのか?やめろ、命を粗末にするな、』


……本当に、面倒だ。

これだからお人好しは本当に面倒臭い。

心から心配してるんだろうけど、それが重たい。負担でしかない。

同情なんて、憐憫なんて、反吐が出る。

どうせいつかは疲弊、無関心に変わる癖に。

それなら、そうだったら、私は、誰からも関心を向けられず生きられたらいい。

だから。突き放してしまおう。ドン引きされるような本音で。


『……うるさい』


私の標準語……というか素の言葉に、城月は『えっ、』と言葉を止めて意外そうに私を見た。


『わからない。分からないよ。私って何?生きてる価値ある?なんでこんな体質の欠陥人間が生まれたの?神なんて最初から信じちゃいないけど、なんで私は生まれたの?同情されるペットとして?木偶の坊、路傍の石でしかないの?何も出来ない圧倒的なゴミになるしかないの?なんで?分からないよ』

『識名?』

『だから、昔は死んだっていいと思ってた。私が一番私を諦めてた。けれど、今は違う。私を諦めないで、期待してくれる人がいる。それなら、その期待に応えたい。輝きたい。キラキラしい人たちの隣で胸を張りたい。自分の特技を活かして、人様の役に立ってみたい。こんな体質でも『普通』に……ううん、『私なりに』生きてみたい』

『……』

『城月。何を私に思おうと勝手だけど、私の在り方を決めつけないでよ。そういうのが、余計なお世話』


私は今も刺さってる点滴をブチブチと抜いて、身体を起こした。抜いた後が痛いし血も出てるけど、『回復』魔術をちょこっとだけ使って止血する。このくらいなら倒れやしないし、もう点滴しなくたって帰れる。経験則だ。

そんなことより、さっさと病室を抜け出したかった。

城月から声はかからなかった。


☆☆☆


病院を出ると、もう夕方だった。

ぶっ倒れたのが多分朝だから……そんなに寝てたんだ。

というか課題が沢山だなぁ。

あの落書き、『超加速』なんて適当につけたけどいいネーミングは浮かばないし。

コストパフォーマンス悪すぎるから、上手いこと調整しないとだし。

というか目まで翡翠色に変わってるの?魔術使ってるのバレバレじゃん。せめて効果が発現してる時限定にしないと。


そもそも、


『城月に対して何様やねん、自分。いくら両親に言ってること似てたからって過剰に反応しすぎとちゃうか?』

『まーた点滴ぶち抜いて脱走してきてる。いーけないんだーいけないんだー』

『うげ、見つかった』


憩さんの声に思わずそう漏らす。


『うげって酷いじゃん。私、君が関西弁キャラすっ飛ばしてまで霧乃ちゃんに熱ーい本音をぶつけてるとこ、『キャラ壊れてるぞー』なんて無粋なツッコミせずに『青春っていいよなぁ』って微笑ましく見守ってあげたってのにさぁ』

『しかも見られとるやん!え、どこにおったん!?』

『内緒ー』

『……頭殴ったら忘れてくれへんやろか?』

『ああ、そこは魔術じゃないんだ』

『心象魔術?まだアレンジしてへんから使えへんけど、とりま物理的に忘れさせて、後でアレンジ版の心象魔術で一生思い出されへんようにしたるんや』

『おお、怖い怖い。佳糸なら本当にいつかきっとアレンジできちゃうだろうねえ。……まあ、佳糸ちゃんの弱弱パンチで出来るかは別として』

『ぐぬぬ……』


まったくもってその通りだった。


『あっ、そういえば君のクラス、面白いことになってたよー』

『なんでや。うちのしょーもない魔術じゃ特に騒ぎにならんやろ』

『いやいや。誰にも目に負えない速度で、謎のオリジナル魔術、それも完成度がめっちゃ高い略式を使って学年次席を軽く一捻り、なんてそりゃニュースになるよ。当たり前じゃん』

『……?』


前半はともかく、後半は全く身に覚えが無いんだけど。


『私は信じてたもん。アンタはいつか絶対やらかすって。まあぶっ倒れるまで無茶するとは思わなかったけど』

『……』

『でも、本当にいいもん見たって感じだよ。アンタがコネ入学なんじゃないかってギャーギャーうるさかった輩はこの一件で黙ったし。ざまあみろって感じよねー。人を見る目を養ってこいってんだ』

『……最悪や』


色々バレてる。

それじゃあ明日はどんな顔をして登校すればいいのか。

はあ。登校拒否したい。せっかく慣れてきたのに振り出しだ。


『それに』

『まだあんの?堪忍してほしいんやけど』

『私にとっての注目株は、何だかんだ諦めてないっぽいよ?』


ぷくく、と面白そうに憩さんはそう言って、スっと私から離れた。


『何のことやーーー』

『識名!』


後ろから、声。

振り返ると、病室に置いて来たはずの女子生徒が、城月霧乃が、激しく息を切らしている。


『……何の用やねん。うち、さっさ帰らなアカンの』

『一緒に行こう!』

『やけど……、はぁ?』


私の言葉を遮って、城月は吐き出すように叫んだ。

言ってる意味が分からない。眉を顰めた私に、城月は呼吸が整わないまま続けた。


『さっきは何も知らず、とても無神経なことを言ってしまった。本当にすまない』

『いや、謝られたってなぁ。うちもちょっと八つ当たりが過ぎたわ』

『私も必死だった。城月の一族としての使命、私一人では無理でも、君の考えた魔術を使わせてもらえるなら果たせるかもしれないと、そう思えたんだ。……君は安全なところで平和に生きてくれたら良いと思ったが、それこそ私のエゴだな』

『……』


城月一族としての使命とか初耳だし、あの魔術を見ただけでそう思う理由もよく分からない。

私が困惑していると、城月はさらに付け足した。


『君は凡人を気取っているが、断言しよう。そんなことは無い。充分に可能性を持つ魔術師だ。君が思うほど君はちっぽけじゃない。君のその在り方が、世界を変えられる一手になる。……だから、識名』


本当はさっきの魔術を使わせてください、と頼むつもりだったが、君の本心を聞いて、変えることにするよ。


そう前置きして、城月は私を真っ直ぐ見た。

今度は一点の曇りもなかった。


『私と共に、城月一族の使命……『神』が生み出す『混沌』とやらに立ち向かってくれないか?』

『……『神』とか『混沌』ってなんやねん』

『さあ。全くわからない。曽祖父がこの言葉を遺したが、いかにも不親切だろう?』

『まったくやな』


本当に不親切だ。

せめて敵の正体くらい教えといてよ、霧乃のひいじいちゃん。


『……そんなことなら、尚更魔術の改良進めんと』

『っ、そうだな!』


私の返事に霧乃はパァァァっと花開くような笑みを浮かべて頷いた。

そのまま帰路につく私の隣へ駆け足で寄って『私は何を手伝えばいいだろうか?』と聞いてくる。


『せやなぁ。あんさんのひいじいちゃんが『循環』開発者で、その仲間が『停止』開発者やったやろ?開発経緯の記録とか探してくれへん?』

『そうか。探してみよう』

『それがあると無いとで、開発スピードは全然ちゃうからな。頼むで、霧乃』

『ああ……』

『なんや、うちの呼び方はあかんのか?『神』とか『混沌』とか知らへんけど、英雄がそう言うなら強すぎる敵なんやろ。逃げたり遠い距離で話してる場合じゃあらへんで』

『……、……そうだな。佳糸』


なぜか、霧乃が私の名前を呼ぶ時の声は、感謝だけではない何かが籠ったような響きだった。

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