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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部二章『歪み』
71/110

2-4

こんにちは。


2時間しか寝てないから昼休憩に寝るぞーっと思ってたけど寝れないし、なんなら夜に眠気来るかなーと思ってたのに全然来なくてビビってます。

なんでぇ?


あ、識名視点続きです。

波乱の幕開けとなった私の高校生活は、意外と平穏で退屈だった。


現海は『軍』の仕事が忙しいのか公欠が多く、出席してきても私にあまり絡んでこない。

調は初日の凝視はなんだったのか、今じゃプリントの受け渡しですら目が合わない。

城月も現海ほどじゃないけど公欠が多い。


先日の体育の授業で私のコミュ障と運動音痴が露呈したのが功を奏して、注目株三人組は私から興味が失せたんだと思う。多分。


かく言う私も病院受診のせいで欠席が多くて、ものの見事にクラスで浮いてる。親しいクラスメイトも居ないけど……まあ、虐められないからどうでもいいか。

皆、その辺の雑草なんて興味無いし。魔術科に通って分かったけど、魔術師って存外クズ……実績とか求めて他人を貶めるのが好物の輩が結構いて、お付き合いをこちらからお断りしたい人たちばかりだし。現海みたいに聖人がいない訳でもないけど、圧倒的少数派だし。

私のダメダメっぷりに嘲笑こそあれど、コネがあるとかは特に思い当たっていない様子。このまま『ただの劣等生』でいれば良い。


お陰で誰からも話しかけられないから、魔術式をキメラみたいに合体してみる『落書き』で遊べるし。

平穏、退屈、バンザイ!


「識名。さっきから何をそんな夢中になって書き込んでいる?」

「っ!?」


頭上からの声に慌ててノートを隠して声の方向を見ると、数日ぶりに城月が登校して私のことを見ていた。

今日も公欠って聞いてたのに……!学校の嘘つき!


そう。平穏とは言ったけど、完全な『平穏』とはまだ言えない。

城月だけは、何故か知らないけどずっと私に声をかけてくる。登校したら必ず一言は私に何か言ってくるんだ。

それも業務連絡とか挨拶とかじゃなくて、今日の天気は何とか、朝は何を食べたとか、好きな本とか、遊びに行くならどこに行くとか、本当に雑談のそれで。

最初は『どうせ城月もさっさと私から興味が失せる』と思ってポンポン返答してたけど、こんなのが一ヶ月も続くので、この人の中で私は何者ということになってるのか気になる今日この頃。

落書きなんか見られたら絶対こんな質問されるって分かってたから、城月が公欠の時に書いてたのに。もう、もう!


「すまない。ビックリさせるつもりはなかった。……人に見せたくないものだったか?それなら、無理に答えなくとも構わないが」


何故かそう言って申し訳なさそうに眉を下げる城月。

それにしても魔術師にしては随分とお人好しじゃないか。生粋の魔術師なら今頃、私のノートを強奪して無理やり見てるだろうに。なんならクラスメイト全員に強制公開しててもおかしくない。

そんな城月の良心につけこんで、『見せたくないもの』だって言うことは簡単だけど……まあ、別に大した落書きじゃない。素直に答えることにした。


『……うちの家とか、幼馴染のとこには色んな魔術式スクロールがあんねん』

『ふむ』

『前は見てるだけでも、魔術式の仕組みとか考えてごっつ退屈しのぎになったんやけど、それだけじゃつまらんくなってきたんや』

『それで?』

『せやから、魔術式が破綻しない程度に複数の魔術式を掛け合わせて、何か新しい魔術を作れへんか試すんが最近のマイブームやな』

『……』


ちなみに今は、先祖が使ってたらしい『加速』と英雄……城月の先祖が開発した『循環』、その仲間が開発した『停止』のキメラを作ってるところ。

全部時間に関係する魔術だし、これで私の中の時間を引き伸ばして、運動音痴を誤魔化せないかなぁ、みたいな?

いや、ほら。憩さんから『あんたにしか出来ないことは絶対ある』って言って貰えた以上、何もせず不貞腐れるだけなのは申し訳ないし。

憩さんとのコネがバレても、憩さんにだけは恥をかかせないようにそれなりの実績は欲しいし。

……城月たちが凄い成績を叩き出していくこと、そのきらきらしさに、『いいなぁ、隣に立ってみたいなぁ』とか断じて思ってない。本当に。思ってないったら思ってない。


そんなことはさておいて。

私の説明を受けて、私の落書きをずっと注視していた城月がふと顔を上げた。


『これは、いつぐらいから作っている?』

『んー。ここに入学してからやから、一ヶ月くらいとちゃうか?』

『一ヶ月?たったの?』

『せや。一ヶ月『も』かかっとる。三つとも条件とか運用とか色々ややこしい魔術やから中々難しかったで。やっと完成が見えてきたし、そろそろ運用実験してみるのもアリやな』

『なるほど……』


城月は暫く考え込んだ後、『よし、』と一つ頷いた。


『識名。私と模擬戦をしようか』

『……は?』


思わず素で返事した。

けど、城月はそんなの何処吹く風とばかりに説明を始めた。


『いや、何。君はどうも運動や他者とのコミュニケーションの経験に劣っているように感じられる。クラスで孤立しているから、他の人を誘うのも一苦労だろう。だから、ここは一つ、私が君の運用実験に付き合おうかと思ってな』

『失礼なやっちゃな。あんさんに付き合ってもらう道理はあらへんで。余計なお世話や、ほっといてくれへん?』

『そんな水臭いことは言わずに、ほら』

『水臭いも何も、同じクラスにいるだけの赤の他人やんか』

『強情なヤツめ。……仕方ない。こうなったら、』


城月がはぁ、と深くため息を着いたと思ったら、次の瞬間には私の腕が強く握られていた。


『痛っ……、何すんねん!』

『その魔術の真価を何がなんでも確認させてもらおう。ここ一ヶ月で君より私の方が実力が上なのは重々分かっているからな』

『……っ、』

『ほら、魔術師としての抵抗の術など分かりきっているだろう?魔術を使って私の腕を払い除けてみろ。それで模擬戦代わりにしてやろう。ああ、『身体強化』じゃだめだからな。私も使っている以上、それを使ったところで無駄だ。君が落書きしていたその魔術を使わないとどうしようも無いはずだ』

『あんさんはまだマシやと思ってたんに、見損なった……!』

『嫌われてもどうでもいい。さあ、やるか?やらないか?どっちだ』


私は確かに非力で、城月にはてんで敵わない。

だから、城月の言うことは間違ってない。この、まだ落書きの域を出ない上に名称すら付けてないような魔術でこれを振りほどくしかないのは事実。

……だけど、こんな汚い魔術式を衆目に晒したくない。

腕の痛みで思考が鈍る。ズル、ズル、と教室の外に少しずつ引き摺られる中、必死に頭の中で考える。

魔術式を、『落書き』の状態からさらにアレンジして、構築する。

あと一歩で教室から出るところまでいって、なんとかアレンジ版の構築を終わらせた私は、意を決して魔術を展開した。


浮かんだ魔術式は、落書きよりは多少マシだった。

城月がギョッとした。


『即興で略式を作っただと!?』

『『超加速』ーーー』


瞬間、城月の、周りの全員の動きが止まって見える。

私はいつも通り動ける。

倍率指定は適当だけど、想定通りの効果。

私は城月の腕を振りほどこうとしてーーー途端、視界が罅割れ、視界の色が翡翠色から元に戻る。


……あれ?


目がチカチカとして、動いていないのに世界がぐにゃりと歪んで。

どこが天井?

どこが床?


あ、これ、魔術を使いすぎた時の『低血糖』の症状だ。


そう思って、ーーー目の前は真っ暗になった。

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