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こんにちは。
朝起きた時だけ凄いモヤモヤする症状が10年以上前からあって、今日はそのモヤモヤがやばかったので『なんでかなー』とか思ってたら、予約投稿を忘れてたのと、単純に2時間しか寝てないから(っぽい)でした。
というかアレ、『朝不安』ってちゃんと病名あるんですね。知りませんでした。
そんなことはさておき、本編です。
今回は識名視点となってます。
『仕方がない』。
いつも、そう諦めて、諦められてばかりの人生だった。
昔から体が弱かった私は、決まって、魔術を使った瞬間に倒れていた。
症状はいつも低血糖。深刻な時は入院することもある。
最初は、両親も、友達も、先生も、心配してくれていた。
『早く元気になろう』『大丈夫?無理しないで』『ゆっくり休んでね』と暖かい言葉をかけてもらえていた。
だけど、回数が重なる事にその心配の表情は呆れのそれへと変わっていった。
『甘い飴舐めとけって言っただろ』『魔術を使うと倒れるのわかってて何で使うの?』『一々心配するのめんどくさい』『どれだけお前に金がかかっていると思っているんだ』『どうせそれも仮病でしょ?』
……聞いてて耳が痛かったそんな言葉すらかけてもらえなくなって、いつか、『またか』だけで終わるようになった。
極めつけは、主治医の言葉。
『佳糸ちゃんは、魔術を使う時、どうやら魔力ではなく血糖を代わりに使ってしまう体質みたいです。……未だに治療法が見つかっていない難病で』
以降、『仕方ない』『生きてさえいたらいい』としか言われなくなった。
でも。
『佳糸!魔術の教本持ってきたよー』
『ねえねえ、これ見てみな?劇団『STELLA』の映像なんだけど、ほら!魔術を演出に使ってるでしょ?綺麗だよねー。これ使えたらさ、めっちゃ面白くない?』
『すっごい秘蔵映像見つけた!一緒に見よう!なんと、百年前の『軍』全権代行と『教会』全権代行の戦闘シーンだって!』
一人だけ、私を諦めないでくれる人がいた。
『仕方ない、仕方ないって言われっぱなしで悔しくないの?私は悔しいね。だって、佳糸は体質になんか負けないし』
『アンタにも、アンタにしか出来ないことが絶対ある。私知ってるから。佳糸はそれを死に物狂いで、自力で見つけて、『ほれみたことか』って見直させてやろう。私も手伝う』
『佳糸……あんた、やっぱりめっちゃ面白い事考えるよね!いいじゃん、いいじゃん!』
幼馴染の舞月憩さん。
何でもかんでもできて、知ってて、私の未来を見てきたかのように、私に全幅の信頼を置いてくれる、お姉さんみたいな人。
憩さんがいたから、てんで自信が持てなくなった私も、少しくらい私を認めてもいいのかもしれないと思えたんだ。
ある時。
やっと体調が安定してきて、魔術をちょっと使ったくらいなら倒れなくなった私は、長い間親しんできた病室を離れて放任主義の両親の住む家への帰路を歩いていた。
中学卒業を控え、何も進路が定まっていない。
ぼうっと三月の空を眺めていたら、憩さんが声をかけてきた。
『憩さん。どうしたの?』
振り返ると、憩さんが『ふっふっふ。迷える子羊がいると聞いてね』なんてほくそ笑む。
憩さんのテンションがおかしいのはいつもの事。むしろこの性格の明るさに助けられたけど、この時ばかりは恨めしく感じた。
『たしかに進路には悩んでるけど。私、退院したとはいえやっぱり体質は変わってないでしょ?魔術科に行っても、出席日数足りなくてすぐ落第するんじゃないかって思うと』
『普通科は?』
『それじゃあ魔術関連の職に就くのすごい難しくなっちゃう。私、別にコネとか実績がないんだよ?高校でなんとかするしかないじゃん』
『そうだよね。分かってました』
自分から聞いといてなんなんだ。
呆れる私に憩さんは、『そんな貴女に朗報!桜坂学院魔術科、今ならコネ入学できちゃいます!』と、『ITレンズ』のチャットにホームページのURLを送り付けてきた。
『桜坂学院……?』
『そう!』
満面の、ニッコニコの笑みで、憩さんが頷いた。
桜坂学院は知ってる。舞月財閥……つまり憩さんの実家が経営してる学院。魔術師とエンターテイナーの名門校として知られていて、志望率は脅威の十倍。
つまり、エリートたちが集うってわけで。
『無理無理。私、とてもじゃないけど馴染めないって』
ただの独学虚弱女には、到底相応しくない。
『ええー?でも破格の条件だと思うよ?』
憩さんは私の返事に不満げに頬を膨らませた。
『出席日数は単位に関係ない。実績か論文だけで進級も卒業もできちゃう。佳糸のための学校じゃん』
『ええ……?』
確かに、多分これ以上の条件の高校はないと思うけど。
でもぉ……と気後れする私に、憩さんはさらに一言。
『大丈夫。佳糸の凄さをわかってくれる人、絶対いるから』
『私なんも凄く』
『あとそうそう!高校デビューでキャラ変もしちゃおうよ』
『キャラ変!?』
一生病室にいて幼馴染としかろくに会話してないからコミュ障確定、ただでさえ馴染めないに決まってるのに何でキャラ変まで!?
『だってー。なんかウジウジしてるし。そんな気が引けてたら魔術師界隈でやってけないよ?舐められちゃうよ?』
『う、』
『それにほら、『言霊』っていうじゃん。口にする言葉をハッピーにしちゃえば、未来もハッピーになるもんだよ』
『は、はあ……?』
『よしんば馴染めなくて虐められても、学校でロールプレイングしてるだけなんだから、傷つかなくて済む。ほら、一石三鳥』
恥ずかしいから拒否したい。
けど、何も反対できる要素がないから、変な相槌しか打てない。
憩さん、伊達に財閥令嬢じゃないんだよね。
ちゃらんぽらんだけど、優秀。
ちゃらんぽらんの癖に……!
『はいけってーい』
虚しくも私のキャラ変は憩さんの中で確定事項になってしまった。こうなると、本当にそういうことにしておかないと、憩さんに後でとんでもなく苛められるので本当に大変。
『じゃ、今この瞬間から、佳糸は関西弁キャラってことで』
『はぁ!?何で!?』
『なんとなく。可愛いじゃん、関西弁』
『理由それだけなん!?』
『お、いいじゃん。早速使ってくれてんね。その調子で桜坂学院でも頑張ってー』
『えぇ……』
こうしてあっさりと、私の進路は決まってしまった。
☆☆☆
とは言っても、桜坂学院もエリートばっかりじゃない。
凡人だって普通に入学してくる、ハズ。
エリートしかいなかったとしても、私立だからレベルごとにクラス分けすると予想した。
なんも実績がない私と同じクラスとかありえない。
何かの間違いで同級生になっても、『別世界を生きてる』ような才能溢れる人達とは離れた席になるから、関わり合いになることはなさそうだ。
そうやって私は楽に構えていた。
『ふーん……識名っていうのか。オレは現海ってんだ。まあ、よろしく』
前には、『軍』全権代行が殉職して間もなかった当時、次期全権代行として突如名前が上がった注目株、現海悠。
『……』
後ろから私を、視線で背中が焼けそうなくらいに凝視しているのは、学年首席どころか歴代トップの記録を叩き出しちゃった天才の調。
『識名だと?家の記録で見たことがあるが、……まさか、『軍』の指揮者、黒守采和と稀代の天才メカニックの識名宇海の末裔か?』
あっさり私のルーツを言い当てて興味深そうにしているのは、学校の教科書にも載る英雄、城月怜の直属の子孫の城月霧乃。
……ああ、頭も胃も痛い。
『登校拒否したい』
憩さんにチャットを送り付ける。
『wwwwwwwwwwwwww』
草、じゃないんだよ。
笑えないよ。
確率論の膝が笑ってるじゃん。なんでこんなに有名人ばっかり私の席の周りに集まるの?識名って苗字が本当に憎いんだけど。
とにかく早く席替えになって欲しい。
「よ、よろしゅうなぁ……ははは」
引き攣った笑みでそう返すしか無かった。
識名視点、次回も続きます。




