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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
1章『ポルターガイスト』
7/22

1−5

こんにちは。


Xのプロフィールにもある通り福岡県在住民なんですが、

今日は皿倉山に夜景を見に行ってきます。


では、1章5話目です。どうぞ

現海に案内されるままに、飛鳥は『ドルルードゥ・ガパネ』という路地裏にぽつんと建つ飲食店に入った。

内装は小綺麗。しかしその割には、この真っ昼間、飲食店の書き入れ時ともあろう時間帯に客の入りが悪く、実際儲かっていないのか少し寂れた様子も窺えるところだ。

流れているBGMも今どきの若者は知らなそうな選曲である。せめて古くからの名曲が流れていれば中高年や高齢者を誘い込めそうなのに、軒並みマイナー曲ばかりかかっている。

店主の愛想も悪く、客が入った瞬間に顔を顰めるような人だ。掲示されているメニュー表を見るに、料理のレパートリーもあまりない。リピート客はほぼいないのではないだろうか?


人目を避けることはできそうだけど……正直、もう少しマシな店を選べたでしょ?

飛鳥はそう思った。


「やあ。邪魔するよ」

「……邪魔するなら帰れ」

「二名で。個室で頼むよ」

「入っていいとは一言も」

「この二人で貸切していいかな?報酬はいつも通りで」

「……チッ、勝手にしろ。どうせお前らしかいない」

「じゃあお言葉に甘えて。ああそうそう、こちらで適当に飲み物用意するし、もう店締めて暫くパチンコ行ってきなよ」

「……あいわかった」


それだけいうと、店主は店の入口に『CLOSED』の看板を掲げたかと思えば颯爽と裏口から出ていってしまった。


「愛想わっる。よく営業続けられますね、ここ」

「定期的にオレが貸切で利用してるからね。変に喫茶店とか廃墟とか探すよりも密談しやすいんだよ、ここ」

「まあ、確かにあの態度なら他の客も寄り付かないでしょうけど……」

「それに、こんな形だけど一応『ソーサリータクト』の支店だよ?」

「ウッソだあ」


志瑞との打ち合わせで昨日利用したのは本店だったが、支店と本店でそこまで雰囲気が変わるのだろうか?

飛鳥がそう疑問符を浮かべると、現海は苦笑を浮かべた。


「まあ、店主が買収したらしいから、厳密には今は舞月財閥に関わりのない個人経営の飲食店だけれどね」

「あの舞月財閥から買い取るとか金持ちですねえ」

「うん。今も金が有り余っているから、税関連でしょっぴかれないようにだけ意識して惰性で店を経営してるね」

「しかも金余ってるんだ……」


舞月財閥は、大昔から続く本国屈指の財閥。あらゆる分野で成功し続けていて、製品のシェア率はトップ。『軍』や『JoHN』のスポンサーをしていて、桜坂市を本拠地としている。

国家予算の数倍は資産を抱えているところから、世界中に支店を置いているほどに魔術師人気を誇る喫茶店の支店一つを買い取れる上に、遊んで暮らせる資産が残っているのは驚きであった。


「まあ、暫くは専らパチンコしてるから帰ってこないだろうね。あと競馬、競艇、賭け麻雀」

「屑ですね」

「この店の在り方は仕事では助かるよ。客の入が悪いから貸切しやすいし、あんな感じで提案すれば店主も席を外してくれるから」

「……そんなもんですか?」

「そういうものだよ」


いまいち解せない飛鳥を横目に、現海は手慣れた様子で飲み物を用意する。

さすがに数年ほどの付き合いがあるからか、現海は聞かずとも飛鳥の好物を把握している。そして今も忘れていないのか、特に悩む様子もなくマンゴーラッシーを差し出した。


「はい、おまたせ」

「いただきます……美味しい!」


現海が用意したものだからと飛鳥は渋々口に運んだが、つい表情を綻ばせた。

すぐに機嫌をよくした飛鳥に、「それは良かった」と現海は微笑んだ。

そして、指をくるくるとー熟練の魔術師ならよくやる手癖のような仕草を見せた。


「?何の魔術?」

「人払いの『結界』と『探知』、あと序に防音対策をね」


普通にさらっと答えてくれた現海に飛鳥がなるほどと返せば、彼はジト目で「……それを聞くってことは、さては魔術の勉強をしてないね?」と言った。


「だって、私、魔術使えない体質だから……」


魔術さえ使えたら、霧乃は『護衛』なんて不要と判断してくれて、すんなり『依頼』消化をさせてくれたんじゃないかと思う。

『恩人』だって簡単に見つけられるだろう。なぜか『恩人』の特徴を覚えていない件も解決できた筈。

だが、そんな『if』に意味がなければ興味もない。使えもしない魔術を学ぶより、もっとやりたいことがあった。


「大体、オレはさっき正直に答えたけど、あれが嘘で本当は七世さんに害意があったらどうするんだ?」

「逃げますよ」

「魔術師はそのご自慢の逃げ足が機能しないように細工までできる。そうなったら逃げ切れないよ?」


表でいれば魔術師と関わる機会なんてない、とは言えなかった。

『恩人』は裏に潜っているという仮定で、飛鳥は『依頼』消化を始めた。それは即ち裏と見做される立場になったということ。表で真っ当に生きても悪徳魔術師に絡まれることは皆無ではないのだ。裏に携わるようになった以上、今までよりも更に狙われるようになる。

ぐうの音もでない飛鳥に、現海は満足げに頷いた。


「結局裏に来たんでしょ?じゃあ尚更そのへんはしっかり把握しないとね。とにかく、自分のペースでいいから魔術を勉強しておくこと。展開されている魔術式から相手の行動を読めるくらいにはなってね。大丈夫、飛鳥は出来る子だから」

「はぁい」


現海がそう優しく諭すから、飛鳥はそう頷くしかできなかった。

現海は飛鳥の返事に、「うん、よろしい。それが約束できるなら、オレは七世さんを応援するよ」と満足げに頷いた。

その様子を見て、おずおずと尋ねてみる。


「現海さん」

「どうしたの?」

「……私がここにいる理由って、もう、」

「うん。……『依頼』の消化でしょ?」

「じゃあ、怒らないの?約束破ったのに」


てっきり、怒られるものだと思っていたのに。

飛鳥の言葉に、現海は「怒ってないといったら嘘になる」と返した。


「けれど、……まあ、この約束は難しいかな、とは薄々思ってたよ」

「え、」

「だって、昔から『恩人』さんのことが大好きだったよね。再び会いたいという気持ちはオレじゃ想像できないくらい大きかったと思う」

「……」


恥ずかしい。たしかに『恩人』が如何に素晴らしい人かを何度も語っては聞かせた記憶が飛鳥にはあった。

そして、『JoHN』が『御伽学院』から独立、剰え『御伽学院』を壊滅させたという報せを聞いて、その件に『恩人』が関わっている可能性を考えると気が気でなかった。

だから、『軍』の庇護下を抜け出して『JoHN』に移籍したのだ。全て利用してでも、『恩人』に会うために。

必要な事ではあったが、『恩人』に関わることならヒートアップして暴走してしまうのはある意味黒歴史だ。悪癖だ。今も治せそうにはない。


「だから、約束は破られても仕方ない。今後はできない約束は控えるべきだと思うけど」

「ご、ごめんなさい」


本当に多方面に迷惑をかけているなあと、そう思いながら素直に謝る飛鳥だった。

怒ってない、という安心感を抱きながら。

しかし。


「それより」


唐突に現海の語調が少し厳しいものになって、飛鳥は首を傾げた。


「オレはさ、霧乃さんとは日頃から色々取引をするんだよね。ほら、『軍』と『JoHN』は同盟関係だし。連携とかあるからさ」

「う、うん」


時々、霧乃と現海が打ち合わせをするのを飛鳥は見聞きしたことがあるので、未知の情報ではなかった。


「だから、霧乃さんの為人も充分把握しているつもりなんだ」

「そうですね……?」


しかも、その打ち合わせは頻繁にある。たしかに、そこそこの信頼関係は築き上げていることは察せられた。


「霧乃さんのことだ。『軍』との約束は律儀に守ろうと最善の努力をしただろう。……つまり、七世さんをただ一人で裏にほっぽりだす筈がない。必ず、『護衛』乃至(ないし)は監視役をつけた筈なんだ」

「ハイ」

「なのに、どうして、君は一人で町を散策しているんだろう。『護衛』を雇った意味は?七世さんだって、君の行動一つで『JoHN』と『軍』の一世紀続いている関係が揺らぎかねないって分かってるよね?」

「それは、だって、『護衛』が待ち合わせに遅れてるし連絡つかないし……」


やっぱ怒ってた。

普段が優しく滅多に怒らないだけあって、怒った現海は恐ろしく見えた。まるで鬼だ。

しどろもどろで言い訳した飛鳥だが、現海の理詰めは続いた。


「現地集合って時点で可笑しいけど。合流に時間がかかるなら、何で上司に一報も入れていないの?」

「『護衛』に任命されてる人が、信用できなくって……霧乃ちゃんは何でこんな人を『護衛』にしたんだろうって思うと、霧乃ちゃんも段々信じられなくなってきて……」

「……せめて『軍』に連絡すべきじゃない?」

「ハイ……全く以てそのとおりです……大変申し訳ございません……」


そうじゃん。パチンコしてないで『軍』とかに連絡したら良かっただけだったじゃん。

今更それに思い当たった飛鳥がそう返せば、現海は今までの怒っていた雰囲気を纏うのをやめた。


「というか。そんなに信用ならない『護衛』ってどんな人?」

「えっと。見るからに胡散臭くて、アシンメトリーな服装してて……」

「個性的な服装だね。まあ、魔術師なんて変人が殆どというか、イカれてないと長生きなんて難しいから、個性なんてあってなんぼだと思うけど」

「ああいや、それは変えさせたんですよ。それで、一般人とぶつかってよろけて車に轢かれて塀に叩きつけられて植木鉢が脳天に直撃して破片が目に刺さるくらいの不幸体質、そしてそんじょそこらのチンピラに首の骨を折られて死んだはずが無傷で生き返ってる不気味な人です」

「怒ってごめん。霧乃さんが説明不足なのが悪い気がしてきた。もしくは圧倒的に人選ミス」


飛鳥の説明に現海が頭を抱えた。

別に謝られても嬉しくない。同情するなら現海さんに護衛になってほしい。だって、志瑞は多分ゾンビだと思うし。肉壁にしか使えないでしょ、あんな弱い人。


現海は咳払いを軽くした。


「とりあえず。オレが知ってる魔術師なら軽く説明できるし、知らなくても情報屋に聞けば経歴を洗い出せるだろうから。試しに名前を言ってみてほしい」

「知ってる人……なんですかね?霧乃ちゃんは、そこそこ有名人であまり口に出すのもマズいって話してましたけど」

「それは……分からないけど。どうせ名前を言っても聞いてるのはオレだけだから大丈夫だよ」

「それもそうですね」


飛鳥は、正直に話した。


「志瑞空っていう人です」


瞬間。


「えッ!?」


あまりもの驚愕で、現海は手にしていたコーヒーカップを落としていた。

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