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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部二章『歪み』
69/110

2-2

こんにちは。

今日は祝日だから予定沢山詰め込みました。

やっと、小説を書く以外のやりたいことが出来るってもんです。

「そもそも、『歪み』って何なんですか?」


私の質問に、識名さんは「さあ?」と肩を竦めた。


「ええ……」

「しゃーないやろ。物理法則は滅茶苦茶、『魔物』としか表現できひんようなバケモンがうじゃうじゃおる、時間の感覚も頼りにならへん。一通り調査しても『歪み』としか表現しようがなかったんや」

「なるほど……」


確かにそれは、『異空間』としか言いようがないか。


「ちなみに、どんな感じですか?」

「重力の方向がめちゃくちゃなんか、壁を歩いたり、滝を登ってるような下ってるような感じやったり、島が現れたり消えたりしとったで」

「無茶苦茶ですね。酔いそう」

「酔い止め一応持ってきたで。飲んどくか?」

「……飲みはしませんけど、持っときます」


識名さんが酔い止めの飴を取り出す。準備良すぎでしょ、と呆れながら、私はそれを一応懐へしまった。


「霧乃か調、もしくは憩さんとか、智見ならなんか知っとるかもやけど……聞けへんな」


ボソッと識名さんが続けた言葉に、最近知った名前も出てきた。


「智見さんは駄目なんですか?識名さんの上司でしょ?一応」

「……せやけど、絶対嫌や。彼奴には死んでも頼らん」


途端に苦虫を噛み潰したような顔になった。


「それはまた、どうして?」

「どうしても何も、智見は女の趣味が悪いで。なんで調の味方ばっかりするんか意味わからん。昔からホの字って感じやったな。蓼食う虫も好き好きってアイツのことを言うんやって勉強なったわ。調のこと探せって依頼も、あんなん絶対嘘やろ。居場所を把握してへん訳ないやん」

「あ、はぁ」

「よしんば聞いたとするで。回答はぐらかすか、思わせぶりなことだけ言うに決まっとる。ほんまあいつ性格悪いわ……類は友を呼ぶんか?冗談やないで、調とうちが同類とか。堪忍してや」

「あ、あはは……」


私も智見さんにそんな感じのことをされた記憶があるので、口元が引き攣る。


というか、識名さんまで空くんと全く同じ意見なんて、智見さんは魔術師のトップだろうにどこまで信用がなくて嫌われてるんだ。


軽く咳払いをして、私は別の質問に切り替えた。


「魔術はつかえるんですか?」

「使えるで。『異常性』の使用も問題ないはずや」

「はい。……んー、じゃあ、なんでそんなのが潮彩郡にあるんですか?」

「ウチもそれよく分からんのや」

「分からないことばっかりですね」

「あのなぁ……」


識名さんは頭を抱えた。

そりゃそうだ。『異空間』がそこにできた理由とか知ったこっちゃないのは違いない。

ちょっと意地悪な質問、返し方だったかもしれないけど、私だってちゃんと今回の内容は把握したい。せめて識名さんが把握していそうな質問を、と少し考えて、口を開いた。


「じゃあ、そこに『歪み』ができて、それで識名さんにまで依頼が飛んできた。その経緯が知りたいです」

「おっ、それなら答えられるで」


識名さんも、やっとまともな回答を返せるらしく、顔を綻ばせた。


「町民は最初、『歪み』のことは認知してへんかったんよ。ただ、ある区域に行くと神隠しに遭うとか、よく分からんバケモンが出没したとか、そういう眉唾もんのオカルトな噂話があったくらいや」

「ふむふむ」

「そんで、流石にこれはおかしいってなって町民の中でも魔術の腕が立つ奴を送り込んだらしいわ。でもそいつは帰ってこん。命最優先に絶対帰還しろ、それで内部がどうなっているか軽く説明しろって話やったのに」

「……」

「さらに別の、フリーの魔術師に頼んだ。そん時は長い綱をそいつに巻き付けて、端っこを町民が確かに握りしめて、絶対帰れるように工夫してた。それでもそいつも帰ってこん。頼みの綱は途切れた」

「本当に『異空間』って訳ですね。こちらの常識が通用しないと」

「最悪なことに、暫くした頃に送り込んだ魔術師がバケモンに成り果てて町を襲ったらしい。現代武器は何も通用しいひん。町はほぼ壊滅。何も打つ手があらへん」


そこで識名さんは一息ついて、「そういうわけで、命からがら町から逃げ出した数少ない生き残りが、なけなしの金を叩いて『JoHN』に泣きついたってわけや」と締め括った。


「それで『JoHN』の依頼を識名さんが受けたってことですね。昔は『JoHN』に所属してたんですか?」

「……?ああ、いや、そうやなくて。霧乃が持ってきた依頼の手伝いをしよったんよ」

「えっ、そういうのありなんですか?」

「ありもなにも。前に『ロスト』の件、うち普通に参加してたやろ?」

「あ、……そんなこともありましたっけ」


たしかに霧乃ちゃんから頼まれて識名さんが来てたっけ。空くんと私と、識名さんとで桜坂学院前まで歩いていったヤツ。

その時はまだ識名さんに対して割と苦手意識があったっけ。懐かしいなぁ。


「霧乃ちゃんが『依頼』を消化するのは……うーん、実績稼ぎとかですか?」


霧乃ちゃんの遺言に、家の中では落ちこぼれって書いてたなぁと思いながらそう口にする。

凄く意外だけど。いつまで経っても霧乃ちゃんに追いつける気がしないけど。霧乃ちゃんが落ちこぼれるとか他の兄弟はどんだけ強かったんだろう。

そして、そんな霧乃ちゃんの家族親戚を皆殺しにした人も、その強さは底知れないんだろうなぁ。


私の予想は当たったらしく、識名さんは頷いた。


「せやな。実績稼がんと全権代行になるんは難しいから手伝って欲しいって頼まれてな。調は興味本位、うちは実力を伸ばすのにちょうどええって思ったんや」

「そうなんですね。なんでこんな、情報がほぼ無いに等しいような微妙な依頼に行こうと思ったんですか?」

「あー、……それは、」


今度は少し言い淀んだ。


「なあ七世。知っとるか?城月家の伝承」

「……えっと、」


確かそれも霧乃ちゃんが遺言に書いてた気がする。

記憶を掘り起こして、私はそれを口にした。


「『神がまた混沌に堕とす』……でしたっけ?」

「せや。『歪み』はその『混沌』の一部かもしれへんかった。この依頼を攻略して、『混沌』とやらの手がかりを得られたら、霧乃はその功績だけで全権代行になれる可能性が高かったんや」

「……攻略できる自信があったんですね」

「そうやな。うちも、霧乃も、前日までなら調だって同じように思ってたはずや。『最強』で、『負け知らず』やから」

「……」

「まあ、色々あって失敗してもうたけど」


識名さんはなんて事ないようにそういった。


「調は、失敗するって分かったからドタキャンした。アイツの金科玉条は『最適な温度で生きていく』ことやからな。わざわざ、死地に飛び込むわけあらへん……多分、本物の『混沌』やったんやろ」

「『混沌』って、結局なんなんですか?」

「さあ、うちは知らん。霧乃も調も、憩さんやって、なんも教えてくれへんもん」

「……」

「『混沌』とかなんとか、そんなんよりも。うちは、ただ、三人で一緒に楽しく、バカをやりたいだけやったのになぁ……」


識名さんはそうしみじみと呟いた。

私はそれを見つつも、何となく空くんの言葉を思い返していた。


『『ようさん』がいる限り、人間は無意味に生まれて、無関係に生きて、無価値に死ぬんだから』

『この世に『異常性』や『過負荷』、魔術が存在する時点で、人間は無意味に生まれて、無価値に生きて、無責任に死ぬしか道が残されていない。目標も、目的だって無いんだから』


……『ようさん』。空くんだけが抱え込んでいる問題。未だに私に打ち明けてくれないこと。

その『ようさん』こそ、識名さんや霧乃ちゃんの言う『混沌』に深く関わりがある存在かもしれない。

そして、御厨さんの言葉。なんだかんだ、空くんにまだ伝言できていないこと。


『賽子を一つ振り、七を出すんだ。それが出来なければ、神に、運命に挑む資格はない』


もしかして『ようさん』とは『神』?


「まさかね」


うん。そんな早々に神とかいてたまるかって話だ。

そもそも空くんはいつ神と会ったんだってなるし。

一旦忘れよ。空くんが話してくれた時に改めて考えればいいでしょ、うん。


一旦思考を振り払うべく、私は識名さんに問いかけた。


「霧乃ちゃんとか、御厨さんとかとそうやって任務を共にして、背中を預け合う。そんな信頼関係が昔からあったんでしょうけど。最初から仲良かったんですか?」

「そんなまさか。寧ろ、うちとは別世界の人達やって敬遠してたで。あっちも、ひょんなことからうちに興味を持ったみたいやし、何か一個違ったら、多分赤の他人やったんやないか」

「ええ?」


意外な事実に目を丸くする私に、識名さんは昔を懐かしむように遠くを見た。


「まだ目的地まで時間あるし、そうやなぁ。なんでうちが、霧乃たちと仲良くなるに至ったか。そんな話でもしたるわ」


その言葉を機に、昔話は始まった。

もし良かったら、感想とかブクマとか評価とかください。よろしくお願いします。


何かありましたら、こちらへ。

X垢…@IjiGamerR

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