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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部一章『ドッペルゲンガー』
67/67

1-10

こんにちは。

今日で1章終わりです。

2章も近いうちに公開できるかと思います。


では、どうぞ。

『同時多発怪死事件、発生から1ヶ月も捜査に進展なし』


ぼんやりと拠点の天井を見上げていたら、ふとそんなニュースサイトの通知が視界に入る。

それを捌いて、私はため息をついた。


御仲市での一連の出来事から、1ヶ月が経った。

ただの噂話、都市伝説程度だった『血塗れ事件』とは打って変わって、135万6791人もの人間が同時に不審死を遂げた事件は瞬く間に世間を騒がす大スクープになったし、そればっかりマスコミは取り上げている。

新手のウイルスとか、極秘裏に開発されていた兵器が何らかの意図か事故で起動されたとか、陰謀論やでたらめばっかりが耳に入ってくる。


それもそうか。

だって、人知れず人が本物から偽物にすり変わっていて、今回はその偽物がいなくなっただけなんて誰も思わないし誰も信じない。

だから、情報が錯綜するのも仕方ない事だと思う。


私は『スワンプマン』を殺したと言えるし、人類を救ったとも言える。

けれど、そんなことは私たちしか知らない。

それに、世間が注目するのは世界が救われたことより、多くの人命が失われたという事実だから。

『スワンプマン』が侵食していた時は世界なんて変わらなかったのに、『スワンプマン』が死滅した瞬間、世界が混乱した。


「……霧乃ちゃん」


誰よりも『JoHN』の在り方を大切に思っていた、今は亡き上司。

誰よりも『普通』を夢みていた、私の大切な友達。

そんな人の名前が、口から出る。


どうしよっか、霧乃ちゃん。

私、『普通の女の子』から遠ざかっちゃったよ?

人殺しになっちゃった。130万以上殺したんだよ。元々全然普通じゃないのに、もっと普通じゃなくなっちゃった。

それに、ほら、『JoHN』は『決して嫌われない正義』なんでしょ?

霧乃ちゃんが今の私を見たらどう思うかな。

よくやったって褒めるの?

それとも、……やっぱり、怒るかなぁ。

先祖代々引き継いできた組織の理念を汚さないでくれって言われちゃうのかなぁ。


「……はぁ……」


『母体』を殺したことには後悔なんてない。

けれど、もっと、何か別の方法があったんじゃないかって、ぐるぐると、そう考え込んでしまう今日この頃だ。


「はあ」


またため息をついた時、チャットの通知が複数目に入る。

一つ目は会長からの連絡だ。

そういやこの前、報告がてら御仲市での顛末を色々説明したっけ?

私があまりにもぼーっとしてるから、殆ど空くんが喋ってたような気がする。全然覚えてない。


『血塗れ事件』の全容。

私が『母体』を殺した結果、『母体』と繋がっていた『スワンプマン』が消失した為に『同時多発怪死事件』が生じたこと。

その影響で『協会』は半壊、御仲市もゴーストタウンと化してしまったこと。

……匂坂憩も、『スワンプマン』の一人だったこと。


それを全部伝えた時、会長はどんな顔をしていたのか。

思い出せない。


とりあえずそのチャットを開く。


『事件の解決、情報提供誠に感謝する。その心労は大変痛みいる。まだ依頼の根本的解決には至っていないが、こちらは経費として支払わせていただく。慰安にでも使いたまえ』


どうやらお礼の言葉と共に報酬が電子マネーで支払われているみたいだ。興味無い。どうでもいい。


『ありがとうございます、大切に使います』なんて心にも無い言葉を適当に返信し、次の通知に目を向ける。


智見さんからだ。


『御厨調捜索の進展は?是非報告を』


……今それどころじゃない。パス。


今度は空くんから。


『飛鳥ちゃん。一緒にどこか散歩しようよ』

「……うーん、それなら行こう、かな?」


空くんが私を気遣ってくれたし。空くんからの誘いは断りたくないし。というか、断ったら余計心配させちゃうね。


私はやっと心做しか重い身体を起こした。

あんまりおめかしする気にもなれないけど、申し訳程度にナチュラルメイクだけして、軽く身嗜みを整える。


そこまで準備して玄関に向かって、ふと、足が止まった。


なにか目的がない散歩というのも、今は気が滅入る。

空くんとは用事がなくても会いたいのが常だし、普段ならこの散歩の誘いだってすぐに乗っかって全力でオシャレして爆速で外へ出て行く所存。なんなら私から誘うし。

だけど、私は純粋に楽しむことはしちゃいけないんじゃないかとか、なにか仕事をしていなきゃ、『母体』を殺したことにもっと意味がないといけないとか、そう考えてるうちに空くんを一ヶ月も待たせてしまった。

そして今も、私の心は何か用事を求めてしまう。

どうしようかな……何か、手頃な用事はないかな?


もう一つ、チャットの通知に気づいた。

識名さんからだ。

御厨さんについては個人的な恨みがあるっぽいから何も聞いてないけど、匂坂さん……じゃない、舞月憩さんの捜索には積極的だった彼女。

勿論、宗任さんがくれた証言『どこでもないしどこでもあるとこに行くらしい』については空くんからちゃんと伝えてくれてるはず。これに関しても私はぼーっとしてて何もしてない。本当に最近の私ってダメダメだな。


自嘲しながら識名さんとのチャット欄を開いた。


『まずは血塗れ事件の解決お疲れさん。蓋を開けてみたらトンデモ激重事件やって、軽い気持ちで頼んでもうてホンマに申し訳ないわ。でもよう決心したわ、凄いで』

『アンタはなんも悪くない。……なんて、第三者が言うもんでもあらへんさかい、うちから言えるんは、しんどかったら、泣きたくなったら全部吐き出すんやでってことくらいや。推しの受け売りやけど、ええ言葉やろ?』


……やばい。不意にそんな優しさを真正面からぶつけてくるようなチャットが送られたから、泣けてきた。

バカ、バカ。泣かせないでよ、もう。

画面の向こうに理不尽に怒りをぶつけながら、私は続きを読んだ。


『というか、聞いたでー?なんや、えらい厄介な案件二つも抱えとるらしいやんか。調を探せだの、憩さんを探せだの。片方聞いとらんけど、うちに気を遣ったんか?情報操作で気遣うの下手くそやなあ、ちゃんと隠蔽くらいせやんと簡単にバレるで。うちみたいのに。でもその気持ちは嬉しかったわ。おおきに』


しかもバレてるし。

御厨さんを探してるなんて、どこから漏れたんだろ。

というか自画自賛ですか、そうですか。人生楽しそうでなにより。

いや楽しそうじゃないわ、霧乃ちゃんという古くからの親友一人最近亡くしてんじゃん。あーもう、私のバカ。


私の心が久々に、がちゃがちゃと色んな感情でうるさくなる。

そんな中、識名さんのチャットはさらに続いていた。


『そんでな。志瑞も、アンタも、皆頑張っとる。せやからウチも覚悟決めたわ。もう過去から逃げへん。人を恨んでばかりいるのも終わりや。向き合うことにしたわ』

『そこで一つ、相談に乗ってくれへんか?』

『死ぬかもしれん。死ななくてもとんでもなく怖い思いをさせてしまうな。最近頑張って心が疲弊しとるやろに、さらに頑張らせるんも良くあらへんなって色々迷ったんやで?』

『でも、アンタらにこそ、うちは頼みたい。霧乃ちゃんが後を託した『七世飛鳥』と、調みたいな面影を時々感じる『志瑞空』に。あの時の『やり直し』をするなら、『リベンジ』なら、あんたら二人じゃないといかんのや』

『勿論タダとは言わんで。成功したら、憩さんの居場所は勿論、もしかしたら調の居場所の手がかりも得られるかもしれへん』

『まあ、確実とちゃうけど。コレは賭けや。どないする?』

『断ってくれたってええ。その時は大人しくしとくわ』

『せやけど……もし。もしも、少しでも『その気』があるんなら、アンタの愛しの彼氏と二人で、今日、『ソーサリータクト』まで来てくれたら嬉しい』

『……信じとるで』


……識名さんのチャット欄を閉じて、私は靴を履いた。

もう迷いは無い。

やるべきことが出来たから。

扉を開いて、久々に外の空気を吸った。


『空くん。今から散歩、行こう』

『ただ最後に『ソーサリータクト』寄りたいな』

『識名さん、待ってるみたい』


それだけ、空くんにチャットして、私は一歩踏み出す。

よろしかったら、評価、ブクマ、感想よろしくお願いします。

何かありましたら、こちらまで。

X垢

@IjiGamerR

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