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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部一章『ドッペルゲンガー』
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1-9

こんにちは。

なんか書こうと思うけど何も浮かばない。

そういう時は前書きっていっそ書かない方が良いのか捻り出すべきか、一生悩んでます。

そして、この話を多分過去の私は既にどこかの話のまえがきでしている。

本編どうぞ。

暫く見守ると、宗任さんが微かに身動ぎした。


注視すると、彼はぼんやりとした意識、どこか合わない焦点で周囲を見渡していたけど、私や空くんの姿を瞳に移した瞬間、ビクッ!と跳ね上がって暴れそうになる。

空くんの釘での『影縫い』と縄で縛ったおかげで全く身動きが取れないことにそこで気づいて、はあ、とため息をついたっきり大人しくなった。

無理やり拘束を解こうとは思ってないらしい。正直ほっとした。

……ほっとしたけど、なんかムカついてきた。


「気分はどうかな?」


空くんの質問に、宗任さんは苦虫を噛み潰したような顔だった。


「どうもこうも、最悪だよ。この感じ、ボクの切り札も意味がなかったみたいだし」

「切り札?」

「このブローチを回収しようとはしたでしょ?もしくはボクにトドメをさそうとしたか」


宗任さんの言葉に私が頷く。

それを見て、宗任さんは続けた。


「ボクが瀕死、意識がない時に身体に触れられた場合。このブローチに封じ込めてる『ダークマター』が下手人を取り込んで生体エネルギーを抽出、ボクの身体を回復させる手筈だったんだよ。これで、ボクは他殺されない肉体になってたし、上手いこと君を取り込めたらボクが目的を達成できたんだけど。野生の勘か何か、そういうもので避けられたのかなあ。あーあ。本当ついてない」

「……」


本当に宗任さんは生き汚いな。

『自分が生きてさえいれば勝ち』と心から思ってるみたいだ。


「スワンプマンを抑制する超音波も『本命』には効き目なしだし、ぼろ負けしたから身体中痛いし。生殺与奪の権、ガッツリ握られてるし。生きてるだけマシだけど、ボクの作戦が全部不発な以上打開策はないし、次の展開次第であっさり死ぬんでしょ?嫌だなあ、死にたくないなあ」


そう言って拗ねたように唇を尖らせる。

見かねた私は口を開いた。


「そう思うなら、情報吐いてくれない?元々、私が貴方のお願いを聞く代わりに、宗任さんにとって私たちが必要だろうと思う情報を提供する約束だったけど、こうなっちゃうとその約束は果たせないし。だから、今からの質問にちゃんと答えてくれたら生かして解放するってのはどう?」

「ええ?それってつまり、『血塗れ事件』の止め方も聞かれるんでしょ?ボクの夢があ……」

「煩い。ここで死ぬか、それとも一旦断念して別の方法で夢を目指すかの二択をあげるって言ってんの。それで?どうなの?ここで死ぬの?それとも別の方法でも模索する?今この瞬間にもまた一人スワンプマンが増えてるかもしれないのに、こんな分かりきった質問ごとき、返答に迷わないでくれる?時間もったいないんですけど」

「そういう君の説教もつまんないんだけど?」

「は?」

「飛鳥ちゃん、どうどう」


空くんに宥められ、私はやっとそこで言葉を止めた。

本当はもっと言ってやりたい。

死にたくないとか甘ったれたことを言ってる癖に、私に吹っ飛ばされて空くんに釘でぶっ刺されたくらいでグースカピーと呑気に数十分も寝やがって。


……よくよく考えたら、よく生きてるね?

前言撤回。私の器が小さすぎるだけかもしれない。


いや、でも、死にたくないっていうなら根性で意識くらい保ってよ、なんて思うのは私のワガママだろうか?

どう考えても私のわがままですありがとうございました。


まあそれはそれ、これはこれとして。

それでも、私はこの『血塗れ事件』のことは絶対許せない。


「もう、これ以上、私みたいな身体なのに、その『事実』を知らない人達を増やす必要ないでしょ。だから……早く、決めてよ」

「飛鳥ちゃん……」


思わず目に熱いものが込み上げる。

それを堪えて、震えてしまいそうな声を抑えて、絞り出すようにそう言えば、空くんは私の左手ーーー空くんと交換した『人間の手』ではない『ダークマター製』の方ーーーをそっと握ってくれた。


そうだ。偽物とか、犠牲とか、そんな問題は私だけで完結すべき問題だったのに……生存への執着だけで、関係ない、罪のない人達を巻き込んだ宗任さんが、大嫌いだ。


「分かったよ。全部吐く、吐くから」

「……そう。じゃあ、一個ずつ聞くから、正直に答えてね……」


宗任さんの選択に、私は頷いて質問をしていった。


☆☆☆


十分後。


質疑応答を終えて、必要な『鍵』を受け取った上で宗任さんを約束通り解放して、私たちは禁書庫へと足を運んでいた。


宗任さんの話では、禁書庫にいる『ある存在』を殺せば『血塗れ事件』は終わるらしい。


なんでも、


「禁書庫にね、『母体』がいるんだよ。普通の人間……なんなら、魔術は使えないしひょろひょろガリガリの女の子みたいな見た目だし、正直意思とかなさそうだし、殺すのは簡単なハズ」

「禁書庫に入るには、ボクか匂坂さんの認証したパスキーが必要なんだけど、ボクの命がかかってるし、出血大サービスで発行してあげるよ」

「『母体』を殺したらスワンプマンはどうなるか?試したことないから知らないや。あ、でも、確実に言えるのは、七世飛鳥ちゃんは『母体』よりも格上か別格の存在だから何も影響を受けないってことだね」


という話だった。

……宗任さんは、自分の生死が他人にかかっているという自覚があるのかな?

馬鹿なのか、度胸が凄いのか。

何はともあれ、尋問が終わった瞬間に「質問終わった?終わったんだね、よし、さらばだー!」と蜘蛛の子を散らすように逃げた彼は、ある意味大物だったのかもしれない。


そんなことはさておいて。

目の前の、錆びた鉄でできた、いかにも重厚な雰囲気の扉を、ギギギ、と音を立てながらゆっくり開く。

『禁書庫』と聞いていたけど、そこは予想に反して真っ白な空間。壁も、床も、天井も、何もかもがまっさらで、長時間いたら退屈で頭がおかしくなりそうな場所だった。

ぽつ、ぽつ、と本が何冊か無造作に落ちていなかったら、そうではなくとも、宗任さんから先程受け取ったパスキーの認証の通知が視界の端を流れなかったら、私は『ここは禁書庫じゃない』と踏んでその場を後にしていたと思う。

それくらい、なんというか、居心地の悪い、異質な部屋だと思った。


そこにぽつんと佇む一人の幼女。

病的なほどに青白い肌と、何メートルもありそうな、枝毛ばかりの白い髪。鮮血のような紅色をした、気怠げな瞳は無気力そうで、ハイライトがなく、生気がない。

クタクタになったローブはサイズが明らかにあっていなくてブカブカで床をずっている。

何を考えてるのか全くわからないし、喜怒哀楽全てが抜け落ちていそうな真顔のその子は、部屋に入ってきた私達を見て、そのカピカピの唇を微かに動かした。


「……ようこそ。予てよりお待ちしておりました、『オリジナル』様とそのお連れ様」


小声のはずのそれは、なぜか自然と明白に聞き取れる。

……なんか、気持ち悪いな。


「『オリジナル』って私のこと?」


その気持ち悪さに蓋をして、そう問いかける。

微かに、幼女の前髪が垂れた。


「はい。貴女様こそ、自分が目指すべき『原点』だと。サブマスターが、常々、そう申していましたので……」

「ふうん」


サブマスターとは、多分宗任さんのことだ。

宗任さんに、私の身体を構成する『ダークマター』みたいな性質になるよう望まれてたんだと思う。


私が頷くのを見て、幼女は「本当に、ようこそ、こんな果てまでおいでくださりました。お疲れ様です」とまた微かに前髪を垂らした。


「何も語らずとも、要件は承知しております。何せ、サブマスターが何人たりとも入れることはあり得なかった。もし、可能性があるとすれば、サブマスターが『夢を叶える』か、『諦めざるを得なかった』か」


そして、私の隣ーーー空くんを一瞥する。


「そして、お連れ様はサブマスターではない。然れば、貴女様の要件は自明の理でございますから」


そう、抑揚の無い声で締め括る。

ああ、分かった。気持ち悪さの意味。ロボットが喋ってるのかと思うほどに何も感情が籠ってないから気持ち悪いんだ。


「一応確認。今までの口ぶりでわかるけどーーーアンタが『母体』。それでいいのよね?」

「はい。如何にも、自分はサブマスターが呼称する『母体』で相違ございません」


私の質問にやっぱり淡々と答えた『母体』。


「どうする?たしかに、見た目通りなら簡単に殺せるけど」


空くんが隣でそう言う。

私は「じゃあ、」と切り出した。


「人類のため、死んでくれる?」

「そうですか」


私の、精一杯の、一世一代の殺害予告。

なのに、『母体』は心底どうでも良さそうに、……いや、本当に心底どうでもいいのだろうけど、相槌を打つ。

「では、どうぞ」って首を簡単に差し出す。

全く動かないし、姿勢も表情も変わらない。


「あっさりだね」

「自分には、どうでも良いので」

「うーん……」


少しくらい抵抗するのが『普通』なのに、宗任さんはこの子のどこを見て『普通』と評したのか、さっぱりわからない。

宗任さんの人間臭さとこの子の無機質さを足して二で割ったらきっと丁度いいと思うんだけど。


なんとなく感情を引き出したかったのと、知りたかったことがあったのを思い出したのと、そういう訳で私は一つの質問を投げかけた。


「ちなみに、アンタを殺したら、スワンプマンとかドッペルゲンガーはどうなるの?」

「……」


初めて、即答されなかった。

少しの沈黙。けれど、だからといって何か考え込んだり動揺したりといった仕草があるわけでもなく。

『母体』は口を開いた。


「選ぶのは、貴女様」


その一言の後、『母体』は続ける。


「自分が死ねば、スワンプマン、ドッペルゲンガーとサブマスターが称する存在ーーー自分の同位体も、死ぬ」

「……どうして?」

「自分は『母体』。生物学的に述べるならば、細胞の『核』に該当するもの。細胞の核が無くなれば、制御が出来ずに機能停止、死に至るのと同様に、自分が死ねば、自分の同位体は機能停止致します」

「……」

「貴女様や、そこのお連れ様の右腕はご無事でしょう。『オリジナル』であって、自分の同位体では無いので。しかし、貴女様の知人、ご友人等が自分の同位体でない保証は致しかねます」


その言葉に、宗任さんから尋問で聞きだしたひとつの情報が脳裏を過ぎる。


『憩さん?ああ、匂坂って名乗ってるのはスワンプマンだよ』

『だって、そういう契約だもん。舞月憩のドッペルゲンガーを作る、そのドッペルゲンガーは匂坂憩と名乗り、表舞台に立ってもらう。実権はボクが握っていい。舞月憩本人は雲隠れするって』

『雲隠れしたとこ?知らないよ、別に知る必要ないもん。藪蛇になりそうな情報なんか握りたくないにゃー』

『あ、でもでも。『どこでもないしどこでもあるとこ』に行くって聞いた事ならあるなあ。どこだろうね?ボクには分かんない!』


……つまり、『母体』を殺せば、少なくとも匂坂さんは死ぬことになる。


心做しか、心臓の鼓動がうるさくなる。


「自分の同位体の数は、135万6791」


『母体』の声に、益々、心が、手が、足が、震える。


「選ぶのは、貴女様」


その言葉を言ったっきり、『母体』は黙り込んだ。

『母体』の心は何も読み解けないまま。


空くんが心配そうに私を見る。

けど、私の答えは最初から決まっているから。

勇気を振り絞って、私は腕を上げた。


「なんとなく……本当になんとなくだけど、そんな気はしてたよ」


『母体』の首に手が触れる。


「けれど、やっぱり、こんなのは間違ってると思うんだ」


ゆっくりと、その細い首を、両手でそっと包む。


「だから、死んでもらうしか、ない」

「飛鳥ちゃん……いいの?」


空くんの声に、私の手が一瞬止まる。

この隙に逃げられるかと思ったのに、『母体』はやっぱり微動だにしない。

空くんは本当に心配そうな声色だ。


「だって、そんなことしたら、本当に多くの人が」

「分かってる!」


けれど、ごめん。今、そんなに余裕ない。

思わず強く言い返しちゃったけど、それを取り繕う余裕が無い。

初めて人をこの手で直接殺すし、間接的に100万人以上を殺すことになる。そんなの恐ろしくて仕方ない。

空くんはきっと、そこを心配してくれてる。

私の手を汚すことで、私にかかる心理的負担を考えてくれてる。


「そんなの、分かってる……」


でも、


「でも、誰かがやらなきゃいけない。そうでしょ?」

「……僕がやることも出来るよ?」

「ううん。こればっかりは私にやらせて欲しい。私の問題だから……」

「……そっか」


空くんは、一歩下がった。


「人は、人として生まれたなら、人として死ぬのが正しいと思うから……だから、」


そう言って、私は力を込めた。

『母体』の首を絞めた。


「ごめんなさい」


首を絞めて間もなく、『母体』は呆気なく、生物としての機能を終わらせた。

結局、表情は変わらなかった。

心臓は動かない、呼吸もしない、瞳孔は開ききって、深紅の瞳は濁っている。


所詮、『ダークマター』だ。『化け物』だ。『偽物』で、幾多もの犠牲で生まれた歪んだ存在だ。

そう思いたくても、生物を直接殺したという事実、背徳感で頭はぐるぐるしている。

次から次へと涙が流れて、止まらない。


「……っ、」

「……お疲れ様。頑張ったね。苦しかったね……」


空くんがそう言って、優しく抱きしめてくれるその温もりだけが、幸いだった。

よろしかったらブクマ、感想、評価などいただけるととても嬉しいです。

何かありましたら、こちらへ。

@IjiGamerR(X垢)

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