1-7
こんにちは。
もう1月終わっちゃいますね。
本編どうぞ。
戻ってきた資料室は、夜になって部屋の電気がついたこと以外何も変わっていないはずなのに、妙に重苦しい雰囲気が漂っていた。
朝にも見かけた、資料室の管理をしている魔術師さんにお茶の準備を頼んだ宗任さんは、私達に先に自習室に入るように促して、扉を背後に立った。まるで、私達を自習室の外に出す気がないようだった。
それに気づいているのか、空くんは据わった目で宗任さんを睨みつけている。宗任さんは空くんには目もくれず私にやたら熱い視線を注いでいるけど……なんというか、獲物を見つけた獣のような目だ。怖い。
「……それで。お願いってなんなんですか?」
あまりにも息が詰まりそうだから、私はさっそく本題に入ろうと切り出す。
宗任さんは私の質問に、「そうだねえ、」と一言頷いた。
「七世飛鳥ちゃん。……ボクとずっと一緒になってよ」
「え、無理ですけど」
いきなり告白みたいなことを言われて反射で断る。
え、いや、だって。会った時も『ずっと会ってみたかった』『感激』とか言われたけど、そんな激重感情を向けられる覚えはないし。
そもそも私には空くんという心に決めた人がいるし。
うん、なんかよくわかんないけど、振ってごめんなさいとしか。
というか、なんでそんな唐突に告白?
宇宙猫みたいになってる私に、空くんが小声で『回答はそれでいいけど、多分そういうことじゃないよ』と耳打ちしてきた。
いや、ええ?それ以外の意味ってあるの?
困惑する私に宗任さんは少し閉口したあと、「まあ、いいや」と懐からブローチを取り出した。
紅いルビーがはめ込まれたブローチは、妖しい光を携えている。その光が部屋中に拡散していく。
「え、私に贈り物まで準備してたの?ええ、本当にごめんなさい、けど本当に私にはもう空くんという素敵な人がいて、」
「うん、嬉しい言葉だけど、今はそういう話じゃないから一旦静かに話聞いて?」
「あっはい」
更に混乱したけど、空くんに諭されたので一旦黙ることにする。
宗任さんはそれを見たあと、そのブローチを左胸に装着する。
「そういうの、どうでもいいんだよね。どっちにしても、君たちがここに来てくれた時点でボクの『勝ち』だ」
より一層、紅く禍々しい光を発したブローチは魔術式を浮かべては不協和音を奏で始めた。
「うわ、ナニコレ、すっごい嫌な音!」
「趣味が悪い照明と音響だね」
私達がそう騒ぐ中、お茶を持ってきたらしい魔術師さんが扉を開きーーーガクリと体中からすべての力が抜けて、糸の切れた操り人形のように棒立ちになった。
「え、二条さん?!」
大声で呼びかけても反応はない。
明らかにただ事じゃなかった。
「はあ。せっかく研究してコレを開発したのに、やっぱり『本物』のダークマターには効かないか。ちぇっ」
そう独りごちる宗任さん。そのブローチが原因だと察せられた。
「どういうつもりですか?」
「いや。話が通じなさそうだから、力ずくでって思ったんだけど。……そんじょそこらの『スワンプマン』に効いても、君に効かなきゃ意味ないよねえ。困ったもんだよ」
「だから!どうしてこんなことを、」
「ボクはね、『死にたくない』んだ」
関係ない魔術師まで巻き込んでしまったし、それを悪びれもしない宗任さん。
私が声を荒げると、宗任さんはぽつりと、そう漏らす。
「はあ?死にたくない?そんなの当たり前のことじゃない。それがなんでそんなブローチを開発することにつながるわけ?」
「ボクは幼少期、ひょんなことから生と死の境を彷徨うことになった。その時に、死とは即ち『無』なんだって感じた」
「……」
「廃れていく街を見て、『死にたくない』『生きていたい』『消えたくない』という思いは、もっと強くなった」
まだ話のつながりが見えない。
けれど、私は、空くんも、彼の話を聞くことにした。どこかに突破口が、和解の条件が、その説得材料があるかもしれなくて。
それほどに、彼の語り口は、今までの飄々としたものと比べて、切実だった。
彼は語る。
「死ぬなんてありえない。『畢竟無』に行くなんて絶対嫌だ。恐ろしい。だって、御仲市がつまらないってだけで、桜坂市とかは楽しいことばっかりじゃんか。そうだよ、生きてる限り楽しいことでこの世は満ち溢れているんだから、ボクはずっとこの世にいたい。満喫したい。百年だけじゃ足りない、もっと、もっと、もっと、ボクの人生がこんなにつまらないわけない」
「まずは強くなりたかった。魔術師界隈なんて弱肉強食で、一般で生きたって理不尽に殺されることだってある。その理不尽を超えられるくらい強く」
「けれど、才能あるやつには勝てないと悟った。ボクにてっぺんをとる才能なんてなかった」
「なら、何があっても死ななければいいと思った。負けてもいい、とにかくこの世に、今ここに存在している『ボク』がいるのなら、生きてさえいればボクの『勝ち』で、それこそがボクの一番の『価値』なんだ」
「けど、寿命だってある。寿命には勝てない。どうやったって死ぬ。嫌だ。消えたくない、『無』になりたくない」
「死んでも人の心の中で生きているとか、歴史に遺るとか、そういうことじゃない。ボクは、歴史の『生き証人』のままがいい!」
「そんな時、憩さんから聞いたんだ。『とっておき』があるって。ボクはその素材を簡単に入手できる立場になれるって」
「そうだ。ボクが『ダークマター』で肉体を作って、そこに意識を転送できたらいいんだ。記憶とか、感情だけじゃなくて、この『ボク』も全部」
「でも、実験したって失敗ばかりだ。人は食うし、勝手に増殖するし、結局偽物だし。なんとか2つは解決したのに、それでも、ある条件を突破されちゃえば呆気なく死ぬ。生殺与奪を他人に委ねるなんて絶対嫌だから、まだ意識は、『ボク』本人は人間の、どんどん衰えるつまらない、不出来な肉体にある」
早口でそう言い切る宗任さんは、目に光がなかった。
「けれど、」
けれど、私にぐりん!と顔を向けた時、その瞳に妖しい光が指した。
「君の、七世飛鳥ちゃんの、『本物』『特別製』のダークマターだったら、そんな欠点も解消できる。……ボクは『永遠』になれる!」
私は、そこで、やっと、宗任さんの要求の意味を理解した。
「ずっと会いたかった。感激したんだ。やっと、ボクの『夢』が叶うから」
あまりにも悍ましい内容のそれに、私は思わず、ひゅ、と息を呑む。身が竦んだ。
ただ、抵抗しなければ、私は、きっと。
「もう一回言おう。お願いだから、ボクの身体の素材になって、『一緒』にいてよ。そうしたら、ボクの今やってる実験をやめたって何の支障もないんだ」
「そんな君の自己満足に飛鳥ちゃんを巻き込まないでくれるかな?飛鳥ちゃんは君の道具じゃないんだけど」
空くんは身の丈ほどの釘を取り出す。私を守ろうとする、いつもの光景。
だけど、きっと、空くんだけじゃだめだ。だって、『釘を刺す意味がない』って言っていた。
なにか対策をしているかもしれないし、胸騒ぎもする。
だから、私はーーー『身体強化』の魔術を展開し、身構えた。
宗任さんとの話し合いはできなさそうだ。力ずくで彼を止めるしか無い。
歯を食いしばって、手足の震えを抑えて、私は宗任さんをキッと睨みつけた。
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X垢 @IjiGamerR




