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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部一章『ドッペルゲンガー』
63/67

1-6

こんにちは。

今日は飼ってるチワワの片方が誕生日なので、

残業する予定だったのを取りやめてさっさと帰ります。


本編どうぞ。

「『禁書』……まあ言ってしまえば、『教会』の百年前の全権代行、クリスとかいう魔術師の手記なんだけどさ」

「クリスは、相棒にして大切な愛しい人を亡くしてしまった。彼女を蘇生させようとした彼だけど、どんな手段でもそれは叶わなかった」

「素直に諦めがつけばよかったんだけど、どうもそうはいかなかったらしくてさー。やれ時間を巻き戻す方法とか、世界を書き換える方法とか色々探してた時、ある人が『ダークマター』なる謎物質を彼に提供しちゃった訳」

「それで、彼は『ファム・ファタール』の『再現』を目標にした」

「『ダークマター』なら人の細胞を完璧にコピーできる。その性質を利用して、無事、彼女そっくりの『人間』の身体……便宜上『ホムンクルス』『スワンプマン』と呼ぶけど、それを作れた」

「けど、自我とか、魂とか、そういうのって環境とか記憶とか、色んな要素で少しずつ変わるもんじゃん?だから、そのスワンプマンは『愛しい人』そのままになれなかった。なれるはずがなかった」

「まあそれならそれでって色々アレコレして、まあ結局それは成し遂げることなくクリスは死んだんだって。世界をぶっ壊そうとかトチ狂ってたらしいし、同情の余地もないね」

「まあその辺は今回の件に関係ないから詳細省くけど、簡単に言えば君たちの先祖のおかげです。はい、凄いでちゅねーぱちぱちー」


乾いた拍手音が夕空に虚しく響く。

……でも、私は、『この身体』になる前の記憶を持ち合わせてるけど、それはなんでだろ?

そんな感想を抱いたけど、宗任さんの話はまだ続くはずだから、一旦頭の隅に追いやった。


「でね。『ダークマター』なるものを知ったボクは、いいこと思いついちゃってね。これなら、ボクの夢も叶うじゃんって」

「夢?」

「うん。それでこっそり『ダークマター』を持ち出したんだけど、如何せん、こちとらただのしがない魔術師。設備も金も足りないわけ。どーしよっかなーって悩んでる、そんな時に憩さんが声をかけてくれた。ある条件を呑めば、ボクに地位と金と設備を保証してくれるって。そりゃー呑むよね、だってボクの何より大事な『夢』を叶えるためだもん」

「……」


憩さんが出てきた。

けど……そこまで近しい関係じゃなさそう。

思わず肩を落とすけど、じゃあせめて『血塗れ事件』について聞き出そうと思って再度集中した。


「おかげでボクの夢に向けて第一歩は踏み出せた。……けど、やっぱ何事にも運用実験が必要だよね。そして、そんなのボク自身に試すわけにもいかない。だってボクは替えがきかないし」

「……」

「だから、御仲市立大の人にそっくりなやつを造って、『どうもこんにちは、君の分身です』って挨拶させた。『もう一人自分がいたらー』なんて考えてる人、あそこならいっぱいいるからちょろかったよ。あっさり『ドッペルゲンガー』をお買い上げいただいた」


『もう一人自分がいたら』とは、在り来りな悩みだと思う。仕事とか勉強とかを代わりに頑張ってもらって、自分は楽したいなんて、誰でも妄想したことがありそうなもので。

そこにつけこむとかタチが悪い。


「最初は良かったんだよ?本当に色々代わりにやってくれるから、本体は怠惰に過ごせる。『ダークマター』に感情なんてないから、不満なんて持たないし。我ながらなかなかいい商売だと思うね」

「……」

「でも、問題点が出てきた。『ダークマター』に『自我』が存在したらしくてね。おかげで主は『ドッペルゲンガー』に立場を乗っ取られるようになった。周囲も違和感を抱くことがない。むしろ本体が出てくると辻褄が合わなくて、『拒絶』しちゃうんだ」

「うわぁ……」


つまり、本人からしてみれば『お前は誰』って家族友人から言われて睨まれることになる。嫌すぎる。

でも、周囲にとっては、本人よりも優秀な成績を叩き出せる『理想』の本人の方を望ましいと思うから、『現実』の本人を切り捨ててしまうのかもしれない。

どっちが悪とかじゃないけど、強いて言うなら人のあるあるな悩みにつけいった宗任さんが悪い。


「まあボクは問題点を洗い出せて良かったし、もう既にそのバグの対処法は分かった」

「えっ、じゃあ、本人たちは居場所を取り戻せたんですか?」

「いや、ボクの最終的に考えてる運用方法と『ドッペルゲンガー』は訳が違うから、その対処方法は『本体』達には適用できないや」

「そうですか……」

「それに、もう解決できない域に入っちゃったんだ」


またもや肩を落とす私に、宗任さんは話を続けた。

解決できない域。それが『血塗れ事件』の真相かもしれない。

それなら、落胆している場合じゃない。それになんとか『本人』達が元に戻れるようにしないと。宗任さんにその気はサラサラ無さそうだし。

空くんの『異常性』に頼る手もあるけど、きっとキリがない。彼が『呵責』を使いすぎて『存在値』を使い切るのがきっと先だから、なにか別の方法が……、


「だって、『ドッペルゲンガー』が『本体』を食べて吸収しちゃったもん」

「……え、」


色々考えてたけど、宗任さんの言葉で全て台無しで、もう取り返しがつかないことが分かった。

絶句した私を他所に、宗任さんは色々喋る。


「『本体』だけならまだマシだった。でも、どうも『ドッペルゲンガー』は人気の無いところで人間と二人きりになって、そこで接触があると無自覚に食べちゃうらしいんだよね」

「……食べられた人はどうなるのかな?」

「『本体』から『スワンプマン』が作られる」


空くんの質問に、宗任さんは即答した。


「『スワンプマン』も『ドッペルゲンガー』と同様の性質がある。『ドッペルゲンガー』も最近は『ドッペルゲンガー』だって自覚が無くなってるし、誰も自分を『スワンプマン』だとは思っていない。『増殖』を防ぎようがないし、見分けがつかないから第三者が駆除することは難しいね」

「じゃあ、『血塗れ事件』っていうのは」

「捕食の下手な『ドッペルゲンガー』『スワンプマン』が人間を食べて、『スワンプマン』を作った時に残った痕跡だよ」

「捕食が上手だったら……?」

「痕跡なんて残んないね」


宗任さんの回答に、私は膝から崩れ落ちる。

私も『ダークマター』製だし、私だって『捕食』してるかもしれない……?


嫌な沈黙が流れる。

その沈黙を破ったのは、空くんの質問だった。


「……『ダークマター』って全部同じ性質なの?」

「大体は。ああ、でも、えっと、空くんは数日くらいしか研究室にいなかっただろうから知らないんだっけ?そこにいる七世飛鳥ちゃんは別だよ。ボクが持ち出した元々の『ダークマター』とは違って、全権代行が色々改良してたみたいだし」

「だって、飛鳥ちゃん。だから大丈夫だよ」

「……そう……?」


ほっとした。

どうやら私はそんなことしてないらしい。

でも、『血塗れ事件』は本当にヤバい。

だって、止めないと、桜坂市とか、市外に移動する『スワンプマン』だって普通にいるし、人気の無いところで二人きりとか普通に有り得るシチュエーションだから、……今どれくらい『スワンプマン』がいるのか分からないけど、あっという間に増えて、いつか『スワンプマン』だらけになるんじゃ……?


「止めたい?」

「え、」


宗任さんは、いつの間にか私の耳元まで口を近づけてきていて、そう囁いた。


硬直する私に、「このままじゃ全員『スワンプマン』になっちゃうって思ったでしょ?ボクもそう思う」なんて言いながら少し離れた。

けど、どこか不気味な雰囲気だ。


「教えてあげなくもないよ?」

「止める方法……あるんですか?」

「うん。しかも、知ってしまえばすごく簡単な事だよ。誰でも出来る筈」

「じゃあ、」


思わずズイっと顔を寄せる私。「おっと」なんて言って、宗任さんは私の顔に手を当てた。


「もう一個。ボクのお願いを『叶えて』よ。そうでなきゃ、教えてあげない」

「……内容を聞くだけ聞いてみるけど。何?」

「たはー。それはここじゃ話せない」

「はあ?」


首を傾げると、宗任さんは徐に歩き始めて、私と空くんの横を通り過ぎていく。


「もうそろそろ夜だし、面談室に帰ろうか。そこで最後のお願いについて話すよ」


その背中を見送る私に、空くんが少し心配そうに眉を顰めた。


「いいのかい?多分、罠だけど。ろくでもない契約を持ち掛けられかねないぜ?」

「罠だとわかってても、行くしかないよ。……なんとしてでも、止めないと」


私がそう返すと、空くんは「そっか」なんて言う。

やがて私たちは、宗任さんの背中を追うように歩き始めた。

良かったら、ブクマ、感想、評価を頂けるととても嬉しいです。

何かありましたら、こちらまで。

X垢 @IjiGamerR

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