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こんにちは。
早速どうぞ。
「着いたー。じゃーん、ここが自習室!チンケな資料室だけど、これでも蔵書の質はいいからねー。こうやって貸しきらないと、他の利用者が入ってきちゃう」
個室らしきところに入って第一声に、宗任さんがそう言って部屋にロックをかけた。
「ここで何を話そうって言うんですか?」
押し切られるままについて来たけどやっぱり怪しい。『協会』ナンバーツーらしい人が私と空くんに目をつけてた理由って何だろう。
空くんはずっと静観している。
宗任さんは私の質問にキョトンとして、けど次の瞬間に二パッと笑う。
「決まってるじゃん。とことん『血塗れ事件』についても、憩さんについても、質問しなよ。ボクはなんでも教えてあげる!」
「ええ……」
そんなこと言われてもどこから聞けばいいか分かんないし、そもそも宗任さんをどこまで信じたらいいのか。
「飛鳥ちゃん、大丈夫だよ」
「空くん!」
空くんが私の肩にそっと手を置いた。
心がとくんと音を立てる。
まさか名案が……期待していいの?!
「楽に考えるんだ、嘘ついたら釘を刺せばいいと」
「空くん……」
違った。なんで空くんは微妙に脳筋なんだ。
『軍』と『協会』は同盟関係なんだから、そこのナンバーツーに怪我をさせたら現海さんに雷落とされちゃうじゃん。
というかさっき、釘を刺しても意味ないっていったのは?
仕方ない。信用出来ないならせめて、嘘をついてないって保証があればいいから……そうだ。
「何でもは教えなくていいです」
「えー?何でさ。勿体ないじゃん」
「どうせどこから質問したらいいのか知りませんし。だから、宗任さんが、私たちに必要だと思う情報を提示してください。その代わり、今日一日は何でも付き合いますよ。……どうですか?」
なんでかは知らないけど、私と空くんに会いたかったらしいし。敵意は感じられないし、好きにさせてみて、そこから宗任さんのことを知っていけたら良いな。
そう思っての提案に、空くんの私の肩にかかる力が強くなった。
「いいのかい?そう迂闊に『なんでも』とか言っちゃうと」
「大丈夫。ヤバくなっても、空くんと一緒ならきっとなんとかなるよ」
私の言葉に、イマイチ腑に落ちていないけど代案が無いからか、「……うん、まあ、分かったよ。飛鳥ちゃんがそう言うのなら」と引き下がってくれた。
宗任さんはというと、「ほんとに?え、やった、何しよっかな……」と鼻息をまた荒くしていた。
……やっぱ撤回したいよぉ。さっきの発言クーリングオフしたい。
「えっと、うーん……いざとなると何も思いつかないんだけど。何これ、バグ?うー、あー、どうしよどうしよ……」
暫くウンウンと頭を悩ませていた宗任さん。
やがて、ポン!と手で槌を打つと「ちょっと待ってて!」と慌ただしく個室を後にした。
「何するんだろ……」
「怖くなってきた?」
「まあね。はぁ、ああは言ったもののどんな命令が飛び出すんだか」
「裸エプロンで街を練り歩けとか言われたらどうするのさ?」
「え、何その嫌すぎる命令」
「でもそれもありになっちゃうよ?」
「……」
「今度からは、ちゃんと考えてから物を言おうね。まあ縛らないと信用出来ないのは違いないけど」
「めう……」
そんな話をしていると、宗任さんが一冊の本を持ち出しては「お待たせー!」と部屋へ駆け込んできた。
「何ですかそれ」
「うん?禁書庫からぶんどってきたやつ!」
「ええ……?」
そんなドヤ顔で……獲物を狩ってきて飼い主に褒めてもらいたがる猟犬みたいな雰囲気出されても。
「やりたいこと思いつかないし、まず一個目の情報から開示しようかなーって。思いついたらそっちを優先するから、時間稼ぎみたいなもんだよ」
「は、はあ」
しかも下手すると途中でぶった切られるらしい。
微妙に嫌だな、ソレ。続きが気になって寝れないかもしれない。
「一個目の情報が中断されたら、その続きはどうするの?」
「もちろん後で話すよ。そういう約束だし」
空くんの質問に宗任さんがそう答えたことで胸のつかえがやっと取れた。
「とりあえず、その禁書に載ってる内容を教えてくれるんですね。どんな内容ですか?」
「『協会』の歴史だよー。『軍』と同盟を結ぶ十数年くらい前の記録で、当時全権代行の手記も織り交ぜたものなんだ」
「……それ、本当に関係あります?」
『JoHN』が設立されたかどうかくらい昔じゃん。
そんな昔まで遡る必要あるのか。
うわ、ちゃんと価値のある情報をくれとまで縛ってなかったっけ……?
「失礼な!ちゃんと関係あるよ、関係ないように途中までは聞こえても、関係ないはずないんだから」
私がジト目を向ければ、宗任さんはぷんすかと少し頬を膨らませてから、はぁ、とため息をついた。
「今は昔ーーー」
☆☆☆
今は昔。
色々大規模な組織こそあれど、結局は『軍』一強だとされていた頃。
ただの魔術師サークルに新たに所属した弱冠18歳の魔術師2人が、その魔術師サークルを大規模な魔術組織にまで拡大させた。
至って健全な経営で、所属する魔術師はやりがいを感じていたと聞く。全権代行になってから築いたコネで、当時まだ健全だった『評議会』『御伽学院』と同盟関係になり、正に順調、飛ぶ鳥を落とす勢いで成り上がる、いつか『軍』すら超えうる組織として世界中から注目を浴びていたのだった。
この動きに『軍』も注目しており、同盟関係の話も持ち上がっていた。
どちらの全権代行も人柄が良く、意気投合し、同じ理想、未来を見据えていたから。
手を繋げば、きっと素晴らしいことができる。
互いにそう信じてやまなかった。
しかし、その魔術組織に不意打ちをけしかけた組織があった。
もっとも、実力差が大きく、またあくまで全権代行やその側近のみを狙った小規模なものだった為に、彼の陣営の被害はたった1人の死者のみ。敵性勢力は全滅の為敗北、更に通告なし、規定違反の為『国際魔術連合』から罰則があったことで最終的に壊滅に追い込まれた。
……けれど、その『たった一人』の犠牲こそ、『彼』を曇らせたもので、ほぼ決定事項のはずだった同盟関係に暗雲が立ち込める要因となった。
その後、『教会』に名称が変更されると非人道的な作戦が目立つようになる。
一般人が運営する寺を襲撃しては貴重な書物を強盗したり、子どもを拉致してはモルモットとして利用し、消耗品のように使い捨てたり。
挙句の果てに、自身の目的に添う『異常性』があるから、と『軍』全権代行を暗殺して子どもを誘拐、監禁までした。
そう。全てはあの日喪われた『彼女』に再び出会うため。
そのためなら自分の命を投げ捨てることも躊躇わない『修羅』がそこにはいたのだった。
☆☆☆
「それで、……」
言葉を止めた宗任さんに、私はまさかと思った。
「それで、何よ?早く続きを言ってよ」
「たはー。やって欲しいこと思いついちゃったから、続きはまた後でね」
「うわ、めっちゃ先が気になる……!」
本当に蛇の生殺しみたいになるじゃない!
歯噛みする私と打って変わって、空くんは「何を思いついたの?」と冷静に宗任さんに訊ねていた。
「空くん、そんなことより先!先を促してよ!修羅になっちゃって、その後どうなったのか気になるじゃん!」
「飛鳥ちゃん、宗任くんを満足させないことには続きなんて聞けないと思うぜ。さっさと終わらせた方が効率いいんじゃない?」
「うー……全然集中できる気がしない〜」
空くんに諭されてるし、理屈もわかるけど、なんか嫌だぁ……。
気もそぞろな私に、宗任さんは「大丈夫」と笑う。
「やることは簡単!ボクに最後まで付き合うだけ!つまり雛みたいにあとを着いていくだけだよん」
「……えっ、それだけ?」
「うん!一応ペラペラ喋るけど、その辺も街の紹介してるだけであまり意味は無いから、BGMくらいに思ってたらいいよ。ね?簡単でしょ?」
たしかに簡単だけど、それはそれで怪しすぎですけど。
「とどのつまり、僕たちとお出かけがしたいということかい?」
「そのとーり!ほらほら、どうする?ここで駄々こねても、契約破棄でこの話の続きが一生分からないか、契約通りボクが満足しきった時に続きが語られるかの二択だけど」
「うう〜っ、」
「おっと、ちなみにさっきも言った通りコレってば『禁書』だから。ボクがふんだくらないとだーれも読めない無用の長物、漬物石なだけだし、かと言ってボクから奪うのも……まあ、『JoHN』という『協会』と仲良しこよしの組織がそんな、まさかねえ?」
「〜〜っ、わかった、分かったから!ついていきます!早くその目的地に案内してよ!」
「はーい!二名様ご案内〜!」
泣く泣く受け入れた私に、宗任さんはご満悦だった。
うん。絶対こいつ、いつかデコピンする。本当に。
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X垢 @IjiGamerR




