1−4
こんにちは。
前書きのネタが全く浮かばなくて先日から困ってます。
では、どうぞ。
翌日。
現地集合ということになった為、飛鳥は一人で八遠町へ向かっていた。
『護衛』のことを考えるなら現地集合など避けるべきだろう。然し乍ら、志瑞と二人きりで行動など飛鳥には到底受け入れられそうにない。
だから現地集合という提案には、内心で拍手した。
志瑞は死んだはずなのになぜ平然と生きているのか。それをさも当然とばかりに受け入れている霧乃は何を知っているのか。
肝心の本人たちから何も種明かしをされないのがまた飛鳥の恐怖心を煽る。
志瑞とかいう不気味な魔術師……じゃなくて一般人なんか、『恩人』がやっつけてくれたらいいのに。
そんな妄想をするが、『恩人』に意図して出会える訳でもなし。また一つ、溜息の数が増えていくばかりだ。
飛鳥にとっては待ちに待った旅立ちだと言うのに、これほどに憂鬱な気持ちでその日を迎えることになろうとは夢にも思わなかった。
『護衛』の顔も見たくないし声も聞きたくない。同じ空気を吸っていることすら苦痛だ。むしろサボってやろうか。サボったところで彼は困らないだろうけど。
重い足を引き摺りながら、それでも『恩人』に関する情報を取り逃してはなるものかと意地で八遠町へ辿り着いた飛鳥だが、今日も今日とて待ち合わせの時間を過ぎても志瑞はやって来ない。
『護衛』としてやる気はあるんだろうか?
というか、昨日のアレは本当になんだったのか。
普通は植木鉢で頭打ったり首の骨がイカれたら死ぬんだけど。なんでヘラヘラ生きてるんだ。そこは人として死んどけよ。まあ死なれてもまた新しい『護衛』を探すのに時間かかりそうだし困るけど……。
苛立ちと困惑とで満たされた頭をぶんぶんと横に振って、飛鳥は暗い気持ちを振り払おうとする。『恩人』に会うなら笑顔だと決めていたから。
それでも、負の感情は振り切れない。
……だから今、飛鳥はゲームセンターでパチンコを打っていた。
もちろん、これは仕事の一環である(本人談)。
傍目から見れば飛鳥が仕事をサボっているような光景だが、一応弁明は無きにしも非ず。
まず、仕事に私情を挟むべきではない。どんなに志瑞がヤベー奴であったとしても仕事は仕事だ。割り切るには心の整理をする時間が必要。
次に、一時間待っても志瑞が来ないのが悪い。彼がいれば問題なく探索できるというのに、『護衛』不在のせいで、襲われにくそうな場所を探して彷徨う羽目になった。一番人目に触れやすいと思ったのがゲームセンターだったのだ。
そして、予算を出さない霧乃だって悪い。飛鳥のなけなしの給料から手出ししろというから酷な話だ。一応飛鳥は、『JoHN』が解決できず滞っているものを処理しようと考えているというのに。
尚、『懐刀』様ならさぞかし儲かっているだろうから志瑞の貯金を宛にしようという考えもあったのだが。
「彼はその性質上貯金はできない」
という飛鳥には到底理解の及ばない謎の理由ばかりで、取り付く島もない様子だ。
幸い、飛鳥は運の良さには自信がある。
だって、『恩人』と会えたし。
自分を利用していた『評議会』は機能停止してるし。
『評議会』の仲間の『御伽学院』だって潰れてくれた。
『軍』に預けられたけど、『軍』の人達はお人好しばっかりだし。
『JoHN』でも良い人が多かった。
霧乃なんて、『護衛』の人選はさておいて、飛鳥の我儘を叶えてくれた。
そんな感じで、これまで全部、うまくいってきた。
欲しいものは手に入ってきたし、必要な人は現れてくれた。
次も、きっと大丈夫ーーー。
飛鳥にとって世界とは自分に都合よくできているもので、望めば何でも手に入ると思っていた。
斯くして飛鳥は、パチンコで資産を増やしつつ、パチンコを打ってる人達からなにか情報を入手できないかと耳を立てていた。
資産を増やす方は順調だ。問題なく黒字で終わるだろう。
しかし、情報は全然手に入らない。
『依頼』……ポルターガイストについては取り留めのないものや他愛ない雑談に出てくるくらいだし、ましてや『恩人』については、全くそれらしいものが出てこない。
「あーあ。収穫なしかあ」
せめてポルターガイストの一つや二つは拝みたかったのに。
自分の運の良さが裏目に出たかもしれないと思いながら、飛鳥は精算を済ませて外へ出た。
霧乃に『まだ来ないんだけど、アイツ』なんて簡易チャットをして、序に志瑞にも『遅すぎるんじゃない?ゲーセンの近くにいるから、道草食ってないでさっさと来てよ。仕事できないじゃん』と連絡を入れる。
霧乃へ送ったチャットにはすぐに既読がついて、申し訳なさそうなスタンプが返ってきた。地味にダサく、センスがあまりない事が窺える。
一方、志瑞に送ったチャットは返事どころか既読すらつかない。
「本当にどうしよっかな……いっそ、八遠町の探索でもしてみようか?」
あまりもの暇さにそう思い立ち、辺りを見渡していた飛鳥だったが。
「あれ、七世さん?」
背後からの聞き馴染んだ声。
今までのムスッとした不機嫌な顔から、一気に表情を華やがせて勢いよく振り返った飛鳥は、自分が思い描いた通りの人物の姿を見て更に破顔する。
「現海さん!!!」
飛鳥がそう呼べば、飛鳥を呼び止めた男性ー現海悠は、「ああ、やっぱり七世さんか。久しぶりだね」と微笑んだ。
音すら置き去りにするほどの速度で飛鳥が突進するのを見て『障壁』を展開していた彼は、吹っ飛ぶどころかバランスを崩すこともなく、難なく飛鳥のダイビングハグを受け止めた。
現海悠。『軍』の次期の全権代行筆頭候補と名高い魔術師。飛鳥が『軍』の庇護下にいた頃に最も世話になった人である。霧乃とも旧知の仲らしい。
飛鳥は、温和な彼のことはとても尊敬している。現海がいるからこそ、飛鳥は一般的な良識を身につけることができたのだ。文字の読み書きや計算だって彼が教えてくれたもので。
名前をくれた『恩人』に次いで好ましく思っている。
それに、それ以外でも様々な場面でサポートしてもらったので頭が上がらない相手だ。
そして、飛鳥が『軍』に保護されていた時の監視役ということもあり、『軍』内部でもっとも飛鳥に近しい位置であった。
「現海さんは、どうしてこんなとこに?」
「地元だからね。実家に顔を出しに行ってたんだ」
「へえ……確かにここ、長閑な雰囲気ですもんね。現海さんにピッタリな場所だと思います」
飛鳥の言葉に「それはどうも」と返した現海が、少し怪訝な表情で、「でも、七世さんはどうしてここに?」と訊ねてきた。
飛鳥は「それはね、」と言いかけて、口を噤んだ。
『軍』の仮想敵『評議会』の元モルモットである彼女は、『軍』で保護されていたことになっているが、その実は捕虜にほぼ等しい立ち位置だった。行政、立法機関でもある『軍』の性質上、人権無視が出来ない為に丁重に扱われていただけ。敵の残党とも言い換えられる。
だからこそ、『JoHN』への移籍を認められた時も『軍事利用』しない、監視役を必ずつけるという条件が課せられている。
『どんな理由があったとしても、決して裏の界隈に戻らないで欲しい。そうすることが、君自身を守ることに繋がるんだ』
現海こそが最も口を酸っぱくして、飛鳥に言っていたこの言葉を、もしかしなくても飛鳥は裏切ってしまっているような気がする。
……いや、でもこっちだってこればかりは譲歩できないし。『護衛』がいるから自分が戦う展開は無いし。何よりあの現海さんだ、ちゃんと話せば理解してくれるって。多分。きっと。メイビー。
とは言えど。
霧乃から昨日説教を受けたこともある。志瑞の名前をこんな街中、人前で言っていいとは思えないし、ポルターガイストについての話だっておいそれと触れられるものでもない。
現海さんだって、帰省みたいな理由を挙げていたが、きっとそれだけじゃない。別の理由……それこそ、ポルターガイストの調査とかがあるかもしれない。
というのをうまく説明できる気がしなくて、飛鳥は現海をただ見つめるだけになってしまうのだが。
何とか察してください。
そんな祈りを込めて、ただ静かに見つめる。
黙り込んだ飛鳥に現海は首を傾げたが、やがて、ふ、と笑って飛鳥の頭を撫でた。
「まあ、立ち話もなんだし。そこの店にでも入ろうか」
イナフ!
飛鳥は脳内でガッツポーズした。
これだから飛鳥は現海のことが大好きなのであった。
もしよろしければ、ブックマーク、評価、感想など、お願いします。