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こんにちは。
2話目です。よろしくお願いします。
依頼名『ドッペルゲンガー』。
依頼人は舞月徹さんというやんごとない人で、その内容は簡潔にまとめると『娘さんの調査』だった。
その娘さんもまたまた大物で、匂坂憩さん……『協会』の全権代行を務める魔術師なんだとか。
「苗字違いますけど、あの人って既婚でしたっけ?」
「うちの財閥は、裏には足を踏み入れない為来りがある。どういう立場であれ、裏に携わった者は全て勘当する決まりだ。……尤も、前例は無く、愚女が初めての事だ。こちらから源氏名を贈るより前に自分で考案した名前を使い始めたが、舞月とは掠らないので許容している」
「はぁ……」
というか。
ここ数ヶ月しか匂坂さんと関わりはないけど、私なりに匂坂さんとの思い出……というか、からかわれたり振り回されたりしたことを思い返してみる。
『君の考えてること、面白そーじゃん。いいよ、人材頂戴』
『魔術も凄いけど、科学だって馬鹿になんないよ?ぶっちゃけ、そんじょそこらのヘボヘボ魔術師だったら銃でイチコロじゃんね』
『あっ、いいとこ来た!あっちゃんあっちゃん、ここに下水のクソ溜めみたいな下衆がいるじゃん?アイツ燃やしてマイムマイムしようよ。え?魔術?魔力?勿体なくね。ほれ、ここにダイナマイトあるじゃん?これをここに投下するじゃん?ガソリンばらまくじゃん?で、燃やす』
『おっ始まったね。さあてと、爆発には気をつけて、楽しくキャンプファイヤーしようね!あっははははははははは!楽しいなぁ、楽しいなぁ!』
『そりゃオールインだよ。ギャンブルなんてかけてなんぼよ。ついでに自分の人権も全部賭けとこうぜ。普通に金だけ賭けるよりめっちゃ儲かるから……おっと、それは外れるからこっちがいいよ。倍率高い?気にすんな!』
『よしよし、無事に当たってよかったね。ん?なんで当てられたのか?……知らね。そんなことより私に報酬九割くれ。私のおかげで当てることができたんだから当然だよね?ね?』
……うん。匂坂さんが財閥令嬢にはとてもじゃないけど思えない。
「愚女は、ああ見えても実は、『神童』と呼ばれ、かつては後継者候補筆頭だった」
「嘘だァ」
「だが事実だ。アレは、十四で大学を卒業し、運動神経抜群であらゆる大会を総嘗めし、適当に創業した会社も大儲けして上場をすぐに果たすほど。そして、人前では一応弁えているらしい。素の態度は兎も角、外面は大変優秀だ。誠に可笑しい人材を失くした」
「『惜しい』人材では無かったんだね」
誰が上手いこと言えと。
じゃなくて。
会長も沢山振り回されたのか、遠い目をしながら匂坂さんのスペックを語り聞かせてくれる。あんなちゃらんぽらんなのに、本当に魔術師は変人ばっかりだ。匂坂さん被害者の会とか開けそう。会長は心做しか萎んで見える目の前のオッサンで。
そんなことはさておき、その匂坂さんが明らかに様子がおかしくなったのは、識名さんが大怪我して帰ってきた時らしい。
幼馴染の識名さんを大切に思っていた匂坂さんが識名さんに何があったのかと問い質したけど、その返答を聞くと生気のない顔になって自室に数日ほど引き篭った。
そして、数日ぶりに顔を出したと思えば『魔術師になる。まずは手っ取り早く、『協会』の全権代行にでもなろうと思う』と言い出して親子喧嘩。今までそんな為来りを破るような真似は決してしなかったし、ネットワークを監視する限りそんな裏の関わりなど一切無い以上誰が唆した訳でもなく、匂坂さんの決意が固い。本当に揉めたとか。
喧嘩では決着がつかず、『私の事、勝手に勘当しといていーよ』と飛び出してしまい、御仲市での目撃証言を最後に消息を絶った。
何をどうやっても、尻尾すら掴めない。本当に神隠しに遭ったように些細な情報の一つも無い状態が続きーーー『匂坂憩』を名乗る女が『協会』全権代行になったことは、風の噂で知った。
「立ち振る舞い、思考回路、価値観は限りなく本人だ。だが、どうも違和感が拭えない。どうしてなんの予兆もなく急に魔術師になりたいと言い出したのか……恐らく識名佳糸の為であるという予測はあれど、詳細を知りたい。そして『協会』に何故こだわるのか?その真実の一端が、御仲市にある気がしてならないのだ」
「はぁ……。だから、御仲市に行って調査してこいってことですね」
変人がより過激派になっただけでこんなの杞憂だとおもうけど。
でも、昔の私は『恩人』なら積極的に調査にいきそうだと思ってこの依頼を保留にしたはずなんだ。
私は運だけは本当に良いから。現に、去年だって空くんは私が保留していた依頼に進んで取り掛かっていたし。
『ポルターガイスト』然り、『ロスト』然り。
そしてどちらも『過負荷』というらしいモノ絡みの案件だった。
……つまり、この『ドッペルゲンガー』という依頼も。
そういうことかもしれない。
いや、考えすぎ?でも『並大抵の魔術師じゃ難しい』って会長が言ったし……。
「ちなみに、今『協会』全権代行として表舞台に姿を現している『彼女』についてはどう思ってるかな?」
色々考えていると、空くんが黙り込んだ私の代わりに質問をしていた。
会長は、「それは……、普段オカルトなど信じる質ではないのだが、」と言い淀みながら、でもどこか確信を持っているようにこう締め括った。
「多分、『ドッペルゲンガー』だ」
☆☆☆
というわけでやってきました御仲市。
桜坂市から二駅離れたところにあって、空港と港がある街。外国人観光客や海外へ出張するらしいサラリーマンが沢山見えた。
ちなみに、『ドッペルゲンガー』についての前調査を識名さんにチャットでお願いしたところ、反応が秒で返ってきた。普段数日かかるのに、暇だったのかな。
『憩さんの調査にとうとう行ってくれるんやな。うちから会長に、『探偵とか魔術師雇うよりも霧乃ちゃんとこ頼んだ方がコスパええですよ』って言うてもうたからな。余計なこと言うてもうたかってヒヤヒヤしてたんやで、ホンマに』
うっ。保留にしてたことを遠回しにディスられた気分。
というか、匂坂さんと識名さんが幼なじみである以上、そりゃあ識名さんと会長も親しい関係ではあるよね……。全然考えてなかった。
後ろめたい気持ちになりつつ、識名さんのチャットの続きを見た。
『御仲市は『協会』の拠点の街やな。『軍』と違って統治しとる訳やないから、町民はそんな意識してへんけど』
『外国人の出入りが多い割に治安はええ方やで。そりゃあたしかに、世界で二番目に大規模な魔術組織と、そこと同盟結んでる『軍』を敵に回す度胸がある奴はおらんやろうけど』
『だからこそ、目を引く事件があるんやけど。どうも六年前、『協会』本部の資料室に侵入の形跡があったらしいわ。犯人は不明。余程の腕前の魔術師なんやろうな。そして数分で済んだ犯行やから、『協会』本部の間取りを把握できるほどには関わりのある人なんやろ』
六年前、と言われて私は少し考えた。
識名さんが大怪我を負って数日後に匂坂さんは『協会』に入ると言って飛び出し、御仲市で消息を絶った。
識名さんが大怪我……該当しそうなのは、昔に識名さんが少しだけ教えてくれた『御厨さん裏切り事件』(私命名)くらい?アレなら、具体的に何があったのかは知らないけど、大怪我はしてそう。
『あと、奇妙な話があるで。その名も『血塗れ事件』。一年前から噂になっとる。明らかに致死量の血溜まりが突如できるらしいわ』
うわ、怖。作り物じゃないの?
思わず顔を顰めてそう訊ねると、『ちなみに本物の血らしいで。ただ遺体も何もあらへん。殺人事件にしては被害者の数が足りひんわ』とブラックジョークで返された。不謹慎だなぁ。
というか、即レスにしてはくれる情報量や密度がそこそこ濃い。やっぱり識名さんも匂坂さんのことは気になっていたのかも。……そう思うと余計に、保留していた事が心苦しいんだけど。
『うちからも頼むで。憩さんは、たしかに色々と破天荒やけど、こうも周囲をなんの見返りもなく振り回す人やない。彼女についてったら確実に『より良い結果』を得られるって、そう信じさせてくれる人なんや。……何がそこまで憩さんを『破滅的』にさせたんか、うちも知りたい』
チャットはそれっきりだった。
とりあえず今わかるのはそれだけだろうし、空くんと色々相談してから調査方針を決めようかな。
そう思って空くんを見ると、首を傾げていた。
識名さんから同じ情報を受け取ったかな。
「空くん。どっから調べよっか?」
「うーん。とりあえず『協会』本部から見ていこうか」
たしかにそこから探り始めるしか無さそうなので頷く。
だけど、空くんはどこか浮かない表情。
「空くん、どうしたの?」
「飛鳥ちゃん。調査が長期化しても問題ないか、会長に確認とっておこう。多分御仲市の調査だけじゃ依頼完遂はできなさそうだ」
「え、そうなの?」
空くんの発言に疑問符を浮かべた私に、彼は説明をしてくれた。
「識名ちゃんがくれた情報と会長の話していた内容を照らし合わせると、少し変なところがあってね」
「うん」
「『協会』の資料が盗まれた事件と匂坂ちゃんが『協会』に入りたいと言い出したのは同じ時期だけど、多分匂坂ちゃんが『協会』に行きたいって言ったのが先だと思うんだ」
「うん?」
私も『同じ時期だなぁ』とまでは考えてたけど、そこまで分かる?
「舞月憩は後継者候補筆頭。財閥も手放すことがないように、誰にも唆されないように、ネットワーク監視を厳重にしていたはず。セキュリティだって万全だったと思う。そんな中、誰にも関係を悟られずに、……それこそ、会長に何も情報が届かないほどにひっそりと、どうやって『舞月憩』に『協会』から盗み出した資料の情報を伝えられるのかな?」
「なるほど……」
確かにそうかもしれない。
「もしもそういうことができる人がいるなら、それはもう『過負荷』所有者だと思うけど……御仲市だけ調べてもその『過負荷』所有者について得られる情報が限られるから、依頼は完遂しないよね」
「うんうん。じゃあ、空くんの推測通り、匂坂さんが消えたのが先だったら?なんでこの街だけじゃ完結しないの?」
「順序が逆だ」
私の質問に、空くんは端的に答えた。
「逆?」
「うん。舞月憩の立場であれば本来、『軍』とかの方が馴染み深いはずなんだ。桜坂市で生まれ育ったし、舞月財閥令嬢であれば『軍』魔術師と話す機会もそこそこあったと思うし。いきなり『協会』に入りたいとは思わないはずなのにそう言ったなら、『協会』にこそ目的があった筈。けれど、その宣言の後に資料を盗むなんて矛盾していないかい?」
「まるで匂坂さんが『協会』資料を盗んだ犯人みたいじゃん」
「そう言ってるんだよ」
「ええっと、」
「まあ、何が言いたいかって言うと、原理は何であれ『元々知っていること』について『辻褄合わせ』のために資料を盗んだのかもしれないってこと。……まあ、素材とか集める必要があって足を運んだ可能性も否めないけど、それにしたって資料を盗む必要は無いはずだ」
「ああ、そういうこと」
空くんの説明をやっと理解できた。
そっか。
空くんが言いたいのは、『元々知っていること』を知るに至った原理が『過負荷』だと思うし、それこそが行動原理だと思うけど、御仲市ではあくまで『辻褄合わせ』と『目的の一部』が分かるだけで、その『過負荷』の全容とかが分からないから、この街だけじゃ完遂しないよってことだ。
「それを踏まえて、飛鳥ちゃん。どうしよっか?」
「会長には途中報告ついでに説明しとくよ。それと……そうだね、じゃあ『協会』の資料とか見ようよ。該当資料が戻ってなくても、過去の記録から推測できるかも」
「いいね。そうしよう」
『協会』本部へと私たちは向かった。
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X垢 @IjiGamerR




