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こんにちは。
二部一章、ついに始まりました。
よろしくお願いします。
「御厨調という女。彼女を、探しているんだ」
智見さんのその言葉に私は目を丸くした。
「え、御厨さん遂に重大な違反でもやらかしたんですか!?」
「……っ、」
私の反応に空くんは口角をピクピクとさせて、笑いを堪えているみたいだった。
空くんがそんな顔するなんて珍しい。笑ってくれて嬉しいからいいけど。
ITレンズの視界スクショ機能で彼の顔を収めつつ、今度は智見さんの方を見ると、
「……」
ひぇ、こっちはこっちで今にも人を殺しそうなくらい目が鋭くなってる。地雷踏んだかも。
でも、仕方ないのだ。
「いつかやると思ってましたよ。だって、なんか胡散臭いんですもん。『目に見える裏切りなどたかが知れている。本当に恐ろしいのは目に見えない裏切りだよ』とか平気で言って背後から刺してきそうで」
「……っ、……っ。……っ!」
私の言葉に空くんは益々肩をプルプルと震わせた。
智見さんの殺気はさらに濃くなる。殺気だけで空気に味がつきそう。
ええいままよ、どんどん煽っちゃえ。恨むなら笑い袋になってる空くんとついさっきまで礼儀も常識も良心も無さそうなムーブしてた自分を恨むことだね!
「もしくは、そうだなぁ。未来のこと知ってたとしても自分優先して知人や友人見殺しにして高笑いしてそう」
「……」
私がそういった途端、智見さんは視線を露骨に私からずらし始めた。
え、図星なの?嘘でしょ?
「あ、飛鳥ちゃん。やめよう、もう『全権代行』くんのライフはゼロだ」
一頻り笑い終えたらしい空くんがそう言うけど、どうしようかなぁ。できればもっと深堀りして、二度とこの人が私を煽れないようにしてやりたいんだけど。
少し悩む私に空くんは付け加えた。
「あと僕の腹筋も痛すぎて、いつか僕も笑い死ぬね」
「うん、わかった。やめとくね」
それは大変。すぐにでも空くんの腹筋を休ませなきゃ。
大人しく黙ると、智見さんは咳払いして「要件は伝えた。頼んだぞ」と足早に去っていった。
逃げたね。
白けた視線で少しだけ見送るけど、智見さんの話より大事なことがあるので、空くんに声をかけた。
「空くん。これからちょっと出かけようよ」
「飛鳥ちゃん。それは喜ばしいことだけど、いいのかい?」
「うん。最近仕事でしか会えてなかったし、今後のことも含めてゆっくり話そ?」
私の誘いに、空くんは目を輝かせて破顔して、頷いた。
「どこ行く?」
「実はね、昨日移籍した人がいいとこ教えてくれたんだ。予約はいらないみたいだし、甘いもの苦手じゃなかったらそことかどうかな?」
「そっか。大丈夫、そこにしよう」
私と空くんはそう話をして、一緒に拠点を後にした。
☆☆☆
『スイーツサプライズ』。
桜坂市の隣の苑生市にある、スイーツやデザート、サラダ、パスタをビュッフェ形式で楽しめるこの店は、内装がパステルカラーだらけでとてもポップな雰囲気になっていた。
かかっている音楽もポップス調のもので、ここにいるだけでワクワクする。
私は鼻歌混じりに店の奥へと進み、四人がけのテーブル席をとる。席の登録を済ませた後、ビュッフェコーナーへ向かう。
空くんは辺りをキョロキョロとしながらも私の後をついてきてくれている。
「初めて来たけど、こんなとこもあるんだね」
「ちょっとポップすぎるかな?」
「たまにはいいと思うよ」
空くんの感想に私は少しホッとした。
なんせ、店の中は明らかに恋人同士と思われる男女二人組とか、女子グループとかしかいない。
宮古さんー私にこの店を教えてくれた人。霧乃ちゃんが小さい時から『JoHN』を見守ってきた、元秘書さん。気の良いおばあちゃんだーは『私の恋を応援するため』にこの店を教えてくれたんだと思うけど……、なんというか、空くんには居心地が悪いかなぁ、と心配だったから。
宮古さんってばお節介焼きなんだから。
でも、宮古さんが一番霧乃ちゃんの晴れ姿を待ち望んでいたはずだし……うん。背中を押してくれたんだし、私は私なりに楽しもう。
ビュッフェは本当に色んなスイーツがある。
ショートケーキ、ティラミス、チョコケーキ、チーズケーキ、タルト、パイ、パンケーキ、プリン、パンナコッタ、杏仁豆腐などなど、これでもかというほど沢山並べられているけど、不思議と散らかっている印象はなく、甘い匂いが食欲を唆る。
ふふ。全部制圧してあげるからね。震えて眠れ。
ふと、こんな甘いものばっかりで胸焼けとか嘔吐くことは無いのかと空くんの様子を窺えば、彼はサラダやスープ、パスタ、カレーなどを中心に選んでいるみたいだった。
……そっちも美味しそうだし、ちゃんとした食事にしようかなぁ。空くんと一緒のを食べたい。
いやいや駄目だ私、それじゃビュッフェの意味ない。
うう、悩むなぁ。でも、早く決めないと空くん待つだろうなぁ。
色々悩みながら、結局ショートケーキとクリームパスタ、コーンポタージュを選んで戻ると、先に戻っていたらしい空くんがポカンとした顔で、お盆を持ったまま佇んでいた。
「空くん、先に食べてても良かったのに」
「ああ、飛鳥ちゃん。いや、実は……あっちに、」
私が声をかければ、空くんは少し眉を下げて、私たちの席の方を指す。
うん?と私がその先を辿れば、そこにいるのはボロボロの髪にボロボロのトレンチコート、どこか漂う加齢臭という見窄らしい見た目のオッサン。
優雅にコーヒーを嗜んでいらっしゃるね。うん……、
「……えっと、」
「む、相席かね。すまないな、どうもデートを邪魔したらしい。こんなオッサンには構わず、二人で楽しむが良い。なんなら、ここの費用は私が出すことも吝かではない」
「ああ、それはどうも……ちょっと離席しますね……空くん、ちょっとこっち」
「飛鳥ちゃん?」
オッサンの返事に私は目が腐るのを実感しつつ、空くんの手を取ってビュッフェコーナーまで戻る。
そして完全にオッサンが見えない位置まで来た後、ぐりん!と空くんの方へ勢いよく振り返り、彼の両肩を掴んだ。
「どうしよう空くん。私、今日とんでもなく不運かもしれない」
「それは僕がいる以上、普通のことなんじゃ」
「空くんがいるとかいないとかの問題じゃないじゃん!あの人誰!?本当に!オッサンis誰よ!?何これ、今朝の再放送でもしてんの!?」
本当にわけわかんない!呪われてるんじゃないだろうか?
ガクガクと空くんの体を揺らしてしまい、空くんの顔色が段々白くなっていく。
「ちょ、頭揺らさないで、てか肩の骨折れそう……おぇ、」
「あっごめん!って、ほんとごめん……大丈夫?」
そう言ってパッと離すと、空くんは上手くバランスを取れずに尻餅をついた。
慌てて私が手を差し出すと、「ありがとう。大丈夫だよ」と私の手を借りて立ち上がった。手に持ってたお盆についでた食べ物は滅茶苦茶になっちゃってるけど……。
「落ち着いて、飛鳥ちゃん。あの人、飛鳥ちゃんは名前しか知らないだろうけど、」
「いや名前も知らないんだけど」
「舞月財閥の現会長、舞月徹さんだよ」
「は?あの見た目で?人のデートを邪魔する、今にも馬に蹴っ飛ばされそうなくらい良識に欠けてるのに???」
空くんの口から出た名前に、私は思わず半ギレした。
舞月徹さん。舞月財閥で現在会長を務めてる、つまりはすごくお金持ちのすごく偉い人。『軍』のスポンサーをしてるし、『JoHN』とも懇意にしてるから、事務処理の都合で名前を目にすることは多かったけど……たしかにすっごい見覚えある名前だけど……!
「もしや、裏の界隈に、良識がある人っていないの?」
「現海くんとか識名ちゃんを良識あるカテゴリに入れられないなら、いないと思う」
空くんからの無慈悲な宣言に項垂れた。
……というか。
「ねえ、空くん」
「何?」
「よしんば会長本人だとしてだよ?本人はあんなこと言ってたけど、ぶっちゃけ私たちを邪魔しに来てるよね?他意ありまくりだよね?」
「……」
「いや、無いはずがない。それでさ、思うんだけど……もしかしなくても、放置しまくってる『あの依頼』の催促で来てる?
「いかにも」
「ひゃいっ!?」
ヒソヒソと話してたはずなのに、いつの間にか背後に来ていたオッサン……じゃなくて会長に、私は思わず背筋を伸ばした。
そして、空くんを壁にするように、彼の後ろに慌てて隠れて、ひょこっと顔を覗き込ませた。
「おや、随分と嫌われてしまったようだ。しかし、人の本質を見られない、外見だけで浮浪者と決めつけようとは、とは残念な頭をしたトップじゃないか」
「う。でも、今はトップじゃないし……そもそも第一印象がちゃんとしてないと、普通、人は本質なんて見向きもしませんよ?」
ソースは空くんと『初めて』会った時の私。去年の4月くらいに彼を護衛に付けられたけど、胡散臭いからって独断専行しちゃったし。
会長は続けた。
「おっとこれは失礼。まさか、三年前に出した依頼が未だに達成できない無能に、そんなごもっともなことを言えるとは、私は夢にも思わなかったのだよ」
「それは……スミマセン」
この依頼なら『恩人』と出先で会えるかもとかいう私情で、ほかの構成員の目にとまらないように『保留』して隠してましたとか口が裂けても言えない。
というか、それこそ今日空くんと相談しようとしてたのが、会長が依頼者になってる案件だったんだけど。
思わず冷や汗が滝のように出る私に、空くんが「おいおい、飛鳥ちゃんをそんなに責めないでくれよ」と助け舟を出した。
後光が差して見える。持つべきはパートナー!
「空くん……!」
「飛鳥ちゃんは、『これは他の魔術師に対応できる案件ではない』という建前で、本当は僕に会いたいが為に保留してたんだぜ?可愛い理由だと思わないかい?」
「空くん?」
気のせいだった。フォローしたようでまったくしてない、なんならトドメを刺された感じだ。
「……君。それは本当なのかな?」
「え、あの」
わあすごい。人って本当に般若の顔になれるんだ。
じゃなくて。
「ちちちちち違いますけど?」
「……」
あ、もっと視線が冷たくなった!
何でだろう、私は一生懸命否定してるのに!
「ほ、ほら、私の目を見てください!これが、私欲に溺れて人の依頼を後回しにする目に見えるんですか!」
「見えるが」
「あ、ソウデスカ……」
敢え無く撃沈した私を一瞥し、会長は深くため息をついた。
「そもそも、こんな問答をする為に私はあんな白々しく相席をとったわけではない。理由はどうあれ、たしかに並大抵の魔術師に対応できる案件でないことは確かだ。今まで消化されなかったのも致し方ないやもしれない。そういった訳で、改めて君たち二人に『個人的』な依頼として相談をしたかっただけだ」
えっ、じゃあ私、怒られ損ってこと?
「……志瑞空。この女、七世飛鳥は、思考を顔に書かないと生きていけない馬鹿なのか?」
「え、」
「そんな飛鳥ちゃんだから僕は惚れたんだぜ?」
「めう……」
「そうか。……もういい」
なんか凄い残念な女みたいに思われてる気がする。
そんな私の懸念など知らんぷりの会長は、『未解決』の依頼について説明を始めた。
よろしかったら、ブクマ、感想、評価など頂けるととても嬉しいです。
何かありましたら、こちらへ。
X垢 @IjiGamerR




