プロローグ 下
はい。(はいじゃないが)
プロローグ続きです。
よろしくお願いします。
「誰よ!?!?!?」
私が思わずそう叫ぶと、男の人はこっちを見て「ああ、お前だったか」と頷く。
開いた口が塞がらない私に構わず、矢継ぎ早にボソボソと、一方的に喋ってくる。
「放浪者や侵入者を疑ったが、杞憂だったな。何はともあれ、待ってたぞ」
「……はぁ」
うん。すっごく頭が痛い。
軽くため息をついてしまう。せっかく幸せな気分なのに、朝っぱらからその幸福が逃げてしまいそう。
眉間を軽く抑えて首を小さく横に振り、「あの、」と詰め寄った。
「とりあえず四つ言わせて。一つ、私にとっては貴方が不審者ですから。というか世間の一般人に話を聞いても十人中十人が私に味方してくれると思います。そんくらい貴方は怪しいです。自覚あります?」
「……」
「二つ、よしんば私が不審者として、どんだけ殺意高いんですか。一般人なら死んでたと思うんですけど。死んでも良かったってことですか?『軍』に喧嘩を売りたいんですかそうですかそうなんですか余程死にたいようで」
「ふむ、それは悪い事をしたな」
「三つ、待ってたってなんですか。私は貴方を呼んでませんし用事ないですし、かといって貴方に待ち構えられる筋合いもないですが。何はともあれ勝手に私と空くんの愛の巣に入ってこないでくださいよ気色悪い」
「……」
「四つ、というか結論。マジでアンタ誰ですか。極論それさえ教えてくれればいいんですけど、何で今まで全然名乗らないんですか?礼儀とかそういったものを母親の腹の中にでも忘れてきましたか?」
私の詰問にタジタジになることもなく、男は「ふむ、」と頷いた。
ふむじゃないんだよサッサ名乗ってよ。
ビキリと青筋が立ちそうになる中、「いや、すまない」と男は苦笑いを浮かべた。
「俺の顔と名前を知らない魔術師がこうも詰め寄ってくるのが新鮮でな。つい揶揄いすぎてしまったようだ」
「はぁ?」
「城月のお気に入り、識名の弟子、現海が妹のように気にかけている存在。傾国の美女ほど麗しくもないくせに人の心を惹きつけてやまない小娘が『JoHN』代表になって解散を目論んでいると仕事柄耳にした。さてどういう不埒な輩かと様子を見てみれば、中々どうして根性ある女じゃないか」
「……あの。名乗らないならマジで帰ってくれません?」
コイツ話長いな。
思わず男を睨みつけると、男は「おっと、また前置きが長くなってしまった。すまない。赤の他人と話す時の癖なんだ」と頭を下げて、ようやっと名乗った。
「俺は智見識。僭越ながら『国際魔術連合』全権代行を務めている」
「へぇ。……え、マジ?」
「証拠はコレだ。プライバシー設定を弄ったから、今一度君の目で確かめるんだな」
「何なに。ーーーうわ、本当にお偉いさんだった」
あまりに信じられなかったけど、男の姿を視界に収めると、男のステータス表示に燦然と『国際魔術連合』『全権代行』の二語が輝いていたので信じるしかなくなった。
こんな不審者丸出しで冗長な喋りをする人が魔術界隈トップとか世も末だと思う。
それはさておいて。
「何の用でこんなとこへいらしたんです?」
最初の不審者という印象が強すぎて敬意が全然持てないけど、目上だから一応敬語使っとこう。
そう思いながら目的を聞いてみると、智見さんは「その前に、」と紅茶を机に置き、魔術式を展開する。
「どうやらもう一人客のようだが。心当たりはあるかね?」
「あっ、空くん!空くんが来るからさっきの凶行はやめてください!後生だから!」
空くんはナイフに対処できると思うけど、それはそれ、これはこれ。
彼のことを傷つけたくない。
そんな一心で頼み込んだけど、智見さんは私をチラッと見るだけで魔術を解除してくれない。
「なんで!?」
「志瑞空は数々の魔術組織を壊滅させたから、以前から目をつけていた。城月が管理するならと今までは放置していたが、その城月も今はいない。ここで潰してしまうべきだろう」
「……っ、今は私の護衛です!本当に空くん死んじゃうかもしれないから、やめてください!」
頭を過ぎるのは、桜乃さんとの一戦。
『決意』が強くて『呵責』が弱まっていたから空くんは一度、本当に死んでしまった。
何故か復活できた訳だけど、『呵責』が弱体化している原因は不明。元通りの性能に戻ったとも分からない。空くんがその辺のことを全然教えてくれない。
だから、今度も蘇生できるとは限らない。
それが本当に恐ろしいから、最早縋り付くように必死で止めるけど、どうしても魔術を解除してくれない智見さんがふと笑った。
「まあ、安心しろ」
「どこに安心しろと???」
「俺の仮説が正しければ、その『万が一』はお前がいる限りありえない」
「はい?」
私がいる限りありえない?
それはどうして……と考え込んでる間に、「飛鳥ちゃん、お待たせー」という言葉と同時に扉が開く音がした。
その声は普段は嬉しいものだけど、今、この瞬間ばかりは喜べなかった。
そして、それと同時に魔術が発動され、ナイフがしまっている扉を貫通して入口目掛け飛んでいく。
お願い!気づいて何とか避けて!
そう祈って入口方面を注視すると、『がギンッ』と鈍い音が響いた。ナイフを何かー多分、空くんのことだし釘かな?ーで弾いたような音だ。
執務室の扉が徐に開く。
「やぁ、なかなか手厚い歓迎だ。僕もそのお礼をしないといけないね」
空くんがいつもの笑顔に悪意を滲ませながら、部屋へ入ってきた。
良かった……本当に刺さったりしなくて良かった……!
私は凄く安心したけど、智見さんはもう一度私を見て、「なるほど」と目を細めた。
空くんは智見さんのことを知っているのか、智見さんを視界に入れるやいなや一層殺気を飛ばし始めた。
「へぇ、智見くんの仕業か。相も変わらず気味が悪い趣味だね」
「そうか。ならば俺に釘でも刺してみるか?」
空気が酷くギスギスしてて怖。
というか、空くんこの人苦手なのかな?こんなにあからさまに顔に負の感情を出すなんて、いつもと違う気がする。御厨さんと会話してる時も大概だったけど、それより酷いような。
私は空くんの傍に寄って、軽く手を握ってみる。
空くんは少し驚いたように私を見ると、ふうと息をついて智見さんへ向き直った。
「……こんな茶番をするほど、智見くんは暇らしいね。カマチョかな。いい歳こいた大人のくせに本当に気味が悪い。僕たちに君と遊ぶ時間は無いから、さっさと本題に入ろうぜ?」
「そうか。ならお望み通り話をしよう」
そして何故か喧嘩腰のまま話を続ける。
あれ?落ち着くと思ったんだけど。
いや、たしかに初っ端攻撃で挨拶してる智見さんも酷いけどさぁ。
というか智見さんも、空くんのことをスルーできなくなったなら、半年も待たないで、霧乃ちゃんが亡くなってすぐに空くんを殺しに来そうだけど……なんか変だ、コレ。
そんな違和感を拭えないまま、智見さんは話し始めた。
「実は、個人的な『依頼』がある」
「……『JoHN』の依頼受付はもう締め切ってますよ?」
「重々承知の上だ。お前たち二人に個人的に頼みがある」
「はぁ。よく分かりませんけど、内容は?」
『国際魔術連合』のトップなんだから、色々頼む伝はありそうなのに、それでも私たちに依頼するなんて。
さっきのナイフの件も併せて怪しさが役満なんだけど、一先ず話を聞く。
「検討はしてくれるんだな。では……実は、ある人を探している。その人を探して欲しいのだ」
「へえ。誰なんですか?顔も名前も姿も分からないのは勘弁してほしいですが」
『恩人』ならともかく、赤の他人のために頑張れる気はしないのでそう釘を刺す。
「お前たちもよく知る人物だ」
智見さんはそう言って、その探し人の名前を口にした。
「御厨調という女。彼女を、探しているんだ」
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(X垢)@IjiGamerR




