プロローグ 上
ご無沙汰しております。
やっと2部1章までストックが出来たので、ストック分だけでも公開します。
尚、今日は2話分投稿です。
あと、前話あとがきでも触れた通り、2部からは三人称視点ではありません。基本、飛鳥の一人称視点になります。
では、よろしくお願いします。
暖かく柔らかい風が髪を撫でる、三月下旬の頃。
桜は満開、花弁が風に舞うこの日、ここ桜坂市は絶好の花見日和だ。
私ー七世飛鳥は、桜のトンネルのようになっている桜並木をるんるんとスキップで歩いていた。
解散を宣言して早三ヶ月。
構成員との面談と移籍手続きに移籍先への申し送りのための業績データ作成、殉職者の遺族の弔問及び補償金の手配で、本当に忙しかった。
残った『依頼』などの消化もあったけど、そちらは空くんに任せきりになってしまった。ただ、彼は嫌な顔ひとつせず対応してくれたので、とても助かった。やっぱり空くん優しいなぁ。
空くんの好意に甘えて、私は私にできることをしよう。そう思って、現海さんや識名さんに助言を受けたり、時々匂坂さんー『協会』全権代行に時々ちょっかいをかけられたりしながら、ヒイヒイと仕事を進めた。
おかげで昨日、ついに空くんと私を除く全構成員の移籍手続きが終わったのだ!ひゃっほう!
空くんも昨日『依頼』消化がほぼ終わり、残った『依頼』はあと一つ。その『依頼』は急ぎじゃないから、私からお願いして今日は二人とも休日にした。
執務室で待ち合わせして、残った『依頼』について確認した後に、やっとデートに行けるのだ。今までは時間をなかなか作れなかったけど、とうとうデート。一番好きな人とのデートなのにテンションが爆上がりしない訳もなく。
そういえば。
私も、魔術がまともに使えるようになった。
事の発端は私の進路を知った識名さんからの提案。
『志瑞についていくんやろ?せやったら、足手まといにならんようねっちょり鍛えなアカンな』
どうせ知識やったって無駄やろ、というわけで、実戦形式で身体にとにかく叩き込ませる方針になった。
前まではただやられるしかなかったけど、今の私には魔術があるから、ちょっとくらい持ち堪えられる筈!
……そう思っていた頃が私にもありました、まる。
『なんや、魔術使えるんか。知っとるだけで使いこなせとらんみたいやけど……まあ、少しは勉強したんやな。褒めたるわ。ほなら、手加減する必要もあれへんね』
以降、識名さんの動きが全く見えなくなった。
私の視力とか、聴力とかでは識名さんがどこに移動してるか、そもそも何をやってるかが全く分からない。残像すら見えない。
私に見えないなら誰も見えないと思う。
そして、防御したと思ったらいつの間にか床に転がされてる。
最初は『隠蔽』魔術でも使ってるのかな?と思った。
でも、『隠蔽』魔術にしてはなんか可笑しい。気配はビンビンに感じているけど、なんというか、反応が全然間に合わない感じ?
すごい気になったから、『身体強化』で視力を強化しまくって、ようやっと、『見えなくなる』直前の魔術式を確認することができた。……見えなくなるのは同じなので、やっぱおかしいんだけど……。
見たことない魔術と見たことない魔術、さらに見たことない魔術と『身体強化』を足して四で割ったような魔術式だった。
なにこれ。まるでわからない。
結局為す術もなく瞬殺されて、でもやっぱり気になって魔術式をとことん調べてみる。
すると、ある資料が目に留まる。
『加速』……一世紀前に『軍』全権代行を務めていた黒守刹那が開発した魔術。任意の速度指定に沿って加速できるもので、たとえば二倍指定の場合、一秒の時間で二秒分の動きができる。
『循環』……城月怜が開発した魔術。任意の時間だけ対象物の『状態』を巻き戻すことができる。
『停止』……汐宮宥が開発した魔術。任意で時間を停止させることが出来る。
何これ?そんなの使ってんの?ミックスして?頭パンクしない?
宇宙を背負った猫みたいな顔をしながら、どういう効果なのかちゃんと考察していく。
何回もぶっ飛ばされながら考えること数週間。ようやく結論を導き出すことができた。
説明しよう!
『超加速』(題名不詳なので適当にネーミングした)とは!
感覚を超加速させて、体感時間が極端に引き伸ばされる『スローモーション』のような魔術だ!
五秒こちらが動いたとして、その間に『五分』識名さんは動けるということだ!
何これ???
絶対負荷凄いでしょ。というか魔力足りるの?
実際に聞いてみたところ、識名さんは「……見破られるとは思わんかったわ」と目を丸くしつつも少し嬉しそうだった。
そして、教えてくれた。
「魔力が足らんでも割となんとかなるし、そもそもウチはちょっと特殊な体質やねん。魔力の代わりに『血糖』を消化してまうだけなんやけど」
「それって使いすぎたら魔力欠乏より命に関わるやつでは?」
「せやね。周りから見たら五秒ほど超反応しとるように見えるけど、鼓動が爆発的に加速しとるし、窒息しとる感じやし、ホンマにぶっ倒れたことがあるで。さらに、脳が一時的な酸欠状態やから、しばらく動けんほど気怠いとかいう、最初開発した頃は全然使えん代物やったわ」
「……今は?」
「使いすぎたら同じようなるなぁ。まあ、そうなっても敵は待ってくれへんから気合いで動くんやけど」
「えぇ……」
私はもう考えないことにした。
そういうわけで、こちらの六十倍くらいの速度で突撃してくる識名さんの攻撃に対処しようとし続けた結果、『じゃあずっと防御と回復、強化しとけばいいじゃない』と言う結論に到達した私は、無意識下でも『障壁』『回復』『身体強化』を発動できるようになった。
攻撃はてんでダメだけど……今回の最終目標は空くんの足手まといにならないことだから、攻撃は追々かな。
私は魔力を使わないやり方だから魔力枯渇を心配する必要ないし、これにて一件落着。
閑話休題。
やっと今の拠点に到着した。
高架下の秘密基地跡地のような所で、なんでも『JoHN』はここから始まったらしい。ここに始まりここに終わるって、なんだかロマンだよね。
かく言う私も、時々霧乃ちゃんが連れて行っては鼻高々にそんな歴史を語られたから知ってたんだけど。
百年経ってもホームレスが使ってないなんて、桜坂市の治安はやっぱり良いらしい。
設備は老朽化してたので、適当にその辺のインテリアショップで購入したものを使っている。
人の気配は感じない。まだ空くんは来てないらしい。
それなら中で待とうかな。なんて考えながらとりあえず扉を開いて。
瞬間、部屋の奥からなにかが高速で飛び、反射で起動した『障壁』に弾かれた。落ちたそれを拾い上げると、バタフライナイフだった。
「……っ、」
セーーーーーーーフ!!!
完全に油断してた!『障壁』無かったらここで私の人生ジ・エンドしてたんですけど!?危なっ!
心臓がバクバク言っているし冷や汗でシャツがじっとりしている。
何より怖いのは、ここまで来ても殺意も悪意も、気配すら感じないということ。誰もいないはずなのに、こんなものが飛んでくるわけで。
私、人が入った瞬間に狂器が飛んでくるような殺人からくり屋敷にした記憶皆無だけど。
それとも訳ありの物件だったっけ?ポルターガイストとか。
いや、もしかしたらこれは識名さんの卒業試験かもしれない。分かんないけど。
グルグル考えてはいるけど、今度こそ無防備に受けることもなく、身体をずらして次々と飛んでくるナイフを躱す。今更識名さんより遅い攻撃を躱すのなんて朝飯前なので。
しかし、毎回的確に脳天狙ってくるあたり、殺意高すぎ……?
識名さんってば人が悪いなぁ、なんて思いながら奥に進み、やっといつも使ってる部屋に辿り着くと、そこには。
今まで会ったことない男性が優雅に紅茶を嗜んでいた。
「誰よ!?!?!?」
私の絶叫が木霊した。
もしよろしかったら、ブクマ、感想、評価など頂けるととても嬉しいです。
何かありましたら、ここに。
(X垢)@IjiGamerR




