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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
間章
55/67

幕間

『魔装』の魔術を解除する。

その途端に、今までの志瑞空と七世飛鳥を俯瞰していた視界は大きくノイズが走り、自身の瞳孔は今いる執務室を映し出す。

無造作に置かれた本棚、雑多に積み上がった魔術スクロール、床に散らばる紙屑など気にすることもなく、そこの椅子に深く腰かけた女は背もたれを大きく倒して天井を見上げた。


ついさっきまで、女は志瑞空と七世飛鳥を監視していた。ただの一般構成員っぽい分身、烏のような分身、時には喫茶店の店主の分身を『魔装』で造って『伝達』の応用で視界を共有し、間近で見ていたのだ。


最初に『魔装』『伝達』でこういう使い方ができると気づいた人は、似非天才の自分とは違って真の天才だと感心させられる。

そして、女はまさにその『天才』の技術を流用したのだ。


警戒すべきは七世なので、彼女にフォーカスしていた。精神面も監視できるように『心象』魔術も組み込んでいたが、もう不要なのでそちらも消しておく。人の感情が自分の心に入っていくのは気持ち悪いのだ。


成果はあった。

まず、旧友の遺言を聞くことが出来た。

霧乃は、人を恨むことを知らない、最期まで、裏にいるのがもったいない人だった。


そして、自身の知りたかったことも全て知れた。


結局は『預言』通りだ。


否。一部差異こそあった。

たとえば、志瑞空を本当に一度殺せたのは本当に想定外だった。

だが、志瑞空が七世飛鳥に『回復』をされるのも、それで逆境を覆すのも、桜乃が死亡するのも、全ては『預言』で知っていた通りの結末。

とどのつまり、『決意』は『死』の運命を覆すことが出来なかった。


「……」


やはり、『呵責』に期待をするしかないか?

志瑞空の行動は『預言』から外れていない。そういう意味では『決意』よりも弱い。本人もそれがわかっているから別の人材を探すのに躍起になっているが、『預言』ではどうしたって見つからないらしい。

そして、本人も拘り続けるから『負ける』のだと、示されている。


「……」


だが、最後に彼は可能性を示してくれた。

一個だけ、『預言』から外れてくれたのだ。

それは、『七世飛鳥を傍に置く』こと。

『預言』ではまた記憶を消して、今度は佳糸のところへ預けるはずだったのに。

そう働きかけたのは七世飛鳥だ。彼女はやはりキーパーソンだと意識させられる。

七世飛鳥を成長させることは敵に塩を送ることに他ならないが……案外、そういう遠回りこそが一番の『近道』か。


何はともあれ。


「賽は投げられた。……君はどの目を出すのかな?」

「失礼する」


思考に耽っていた女は、聞き馴染んだその声にふと身体を起こす。


「ああ。君か」


親の顔より見た、見飽きた顔。自分の親なのかと思うほど口うるさい奴だ。今度は何を言い出すかと胡乱げな目でそちらを見れば、その男はずんずんと床の紙くずを踏み荒らして女の前へ立ち、見下した。


「本当に『呵責』に全て託してあの計画を実行するのか?」

「ああ、そのことか」


この男とは腐れ縁だし、女が何をゴールとしているかも知っている。なんだかんだ手を貸してくれた貸しもある。今、自分がこの組織のトップにいるのも、此奴の推薦あってのものだ。

だから、桜乃と志瑞、どちらか勝った方に賭けるとだけ伝えていたのだが。


「彼が気に食わないか」

「当然だろう。彼奴は何処の馬の骨とも知れない」

「私は知っているから問題ない」

「それに、人間じゃない、化け物だ。あんなのに世界の命運を託すなど、馬鹿げている」

「だが、奴以外は無理だ」


そう吐き捨てる。男はそれにより一層不満を顔に滲ませた。


「……俺ならどうだ?」

「へえ。珍しく面白いことを言うものだ。明日は槍でも降るのか?ああ、本当に酷く滑稽だよ、君が絵空事を言うとは夢にも思わなかった」


投げやりにそう返せば、男は益々顔を顰めた。


「やってみなければ分からないだろう」

「そうだね。やってみないと分からないかもね。……だから、ゲームをしよう」

「ゲーム?」

「そう」


女はやってみなくてもわかる力を持っている。

だが、それでもやってみないと分からないことはある。

桜乃を唆して、絶対負けると知っていた復讐に赴かせてみたら、一度は志瑞に勝ってみせたように。

そういう意外性が今の自分は大好きだ。いや、意外性にこそ勝機を見出している。

昔、『最適な温度』を求めた頃とは違って。

閑話休題。

そして、その『意外性』……『可能性』を簡単に確かめられる方法を提示する。


「ルールは簡単。賽子を振るだけだ。どの目を出しても正当に評価するけど、場合によっては計画を変更して君に任せることも検討しようじゃないか。その代わり、私にとって満足のいく結果でなければ、私の判断に従うこと。さあ、どうかな。このゲーム、乗るかね?」

「……乗った」


男はそう言って賽子を手に取った。

そして、祈るように、慎重に、賽を振る。

……出目は六。


「どうだ」


心做しかドヤ顔をしている男は、やはりつまらない。

六程度で。

一発で六を出した程度で、何をそんな喜んでいるのか。


「たかが君が出しうる数字で最大の六だろう。そんなもの、私にでも出せる」

「……そうか」

「賽子を一つ振り、七を出すんだ。そうでなければ、神に挑む資格などない」

「そんなの、どうやって、」

「さあね。私が知ってたら、最初から私が挑んでいるよ」

「……くっ、」


男は踵を返し、女に背を向ける。

そして、ポツリと一言、「選ばれないのなら、選ぶだけだ」と言い残して執務室を後にした。

再び静まり返った執務室。

これで邪魔者はいなくなった。

まあ、もしかしたら男はついてまわるかもしれないが……あの男は本当に真面目で律儀でつまらない。邪魔だけはしないでくれる。

女は席を立つ。以前に認めておいた手紙を引き出しから取り出して、そっと机の上に置いた。


時は来た。あとは流れに身を任せるだけだ。


「君に神が葬れるのかな?……ねえ、空」


そして、散らかった執務室には誰もいなくなった。

三人称一元視点ではなく、この女の視点から飛鳥視点の語り部で物語が語られていたのです。


な、なんだってー。


そういう訳で、この女がモニタリングをやめたので二部は基本一人称視点になります。

改めて、良いお年を!

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