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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部終章
54/67

エピローグ 下

こんにちは。

この回が一番難産でした。

「聞いてください。私、『JoHN』を解散しようと思ってるんです」


飛鳥の言葉に、ホール全体がざわついた。

飛鳥は喧騒に動揺することもなく、様子を見守った。


霧乃が殉職して数ヶ月。『恩人』志瑞空との『再会』から一週間。年越しや聖夜で街が賑わう今日、飛鳥は命ある全ての『JoHN』構成員に招集をかけた。

何事かと疑問を抱いただろう。それでも素直に応じてくれたことに感謝しかない。

そして、全権代行ー先週までは『代理』だったが、解散手続きをするために今週、正式に『全権代行』に就任したーとして登壇し、挨拶と感謝を言葉にして、本題早々の解散宣言。

うん、一般構成員は皆混乱するよね。無理もないや。


飛鳥は説明を始める。


「でも、ただ解散する訳じゃないです」


飛鳥の言葉に、場は静まり返る。

全員が耳を傾けてくれているのだ。こんな頼りないリーダーの言葉を、しっかりと聞こうとしている。

ぐっと込み上げるものがあるが、何とか言葉を紡ぐ。


「たしかに私は魔術師としてのスキルが欠如しているし、世間知らず。そして、無知故に失敗し、この組織を本当に『明白に嫌われた正義』にしてしまうかもしれない。皆さんと協力すれば乗り越えられると信じていますが……、そうして甘えるのも、きっと駄目なんです」


そんなことないよ、なんて空耳が聞こえる。

けれど、飛鳥は構わず続ける。

黙ってしまうと何も言えなくなる気がして。


「他にも、霧乃ちゃん……前任者が殉職してしまって、城月の一族が滅んでしまったから、今までの体制での運営はできなくなった。……むしろ、この数ヶ月間、よくこんな小娘にこの組織の舵取りをさせて、ちゃんとついてきてくれたなって思います。本当に、ありがとうございます。感謝の気持ちでいっぱいです」


霧乃の名前を出すと同時に、空気が湿っぽくなった。

やっぱり霧乃ちゃんは偉大なリーダーだ。死して尚も影響力が大きい。

きっと、皆の心の中で霧乃ちゃんは生き続ける。

勿論、私の心の中でも。


心にそっと蓋をする。

すう、はあ、と吸って、その湿っぽい空気を変えようと口を開いた。


「けれど、決定打はそんな後ろ向きな理由じゃない」


皆がハッと顔を上げた。

そのみんなを、一人逃さずしっかりと顔を見て、飛鳥は声を発する。


「笑ってさよならしたい。生き残った皆が前を向いて一歩ずつでも踏み出せるように背中を押したい。殉職した皆が安らかに眠れるように見送りたい」


その為ならなんだってする。

弔い合戦は済ませた。遺族への挨拶も終わらせた。葬式は全殉職者とも参列して見送った。『軍』や『協会』と交渉して、各生存者の残りタスクが完了次第、移籍する手筈だ。

もっとも。

現海は飛鳥の『解散』の意思を聞いて苦笑を浮かべながら快諾してくれたから『軍』との交渉はなかった。

そして、『協会』は匂坂憩という人が全権代行なのだが、識名とは幼馴染のようで。識名から一通り事情を聞いていたからか、面談してすぐに『君の考えてること、面白そーじゃん。いいよ、人材頂戴』と即答。

識名に舞月への取次を頼んだ際に事情を打ち明けたが、


「せやろな。『全権代行』とかホンマ似合ってへんから、それでええんとちゃう?むしろ『全権代行』はやめといてや。酒と認知の入ったジジイが高速を運転してるくらいヒヤヒヤさせられるで。胃薬いくらあっても足りひんわ」


とあっけらかんとした様子だった。

失礼だなぁ、と言いつつ、全くもってその通りなので強く反論はしなかった。


それはさておき。

回想を中断し、飛鳥はスピーチに専念する。


「……私も、夢がありました。そしてその夢は先日、遂に叶いました」


だって、志瑞空と出会えた。『ふたりぼっち』の約束を交わした『恩人』にして、一番大好きな人だ。


「ですが、夢を叶えたなら、また夢が出来るのです。そして、絶望と希望が今の『私』を築き、磨きあげてくれる」


そして、今度は彼についていきたい。力になりたい。


「私、夢があるんです。皆さんも、夢が、この年末の空に託せるものがあるのなら、それを叶えてほしいです。どうか、ご理解いただけますか……?」


そう言って頭を深々と下げた飛鳥に、聴衆の困惑の声は益々大きくなる。


折角頑張ってここに在籍したのに、とか、これから先どうなるのか、とか、使い潰されるか将又ニートとして朽ち果てるかだろう、とか。

マイナスの言葉ばかり声が大きくなる。

でも、これ以上どう説得、言葉を尽くせば良いのか、飛鳥には皆目見当もつかない。

何とか必死に思考を巡らせていると、傍から「飛鳥ちゃんごめん。ちょっと代わるね。頭上げて?」と志瑞の声がした。


「志瑞くん?」

「飛鳥ちゃんのスピーチは素敵だったけど、どうもこのモブ達は後ろ向きだからね。釘でも刺してやろうと思って」


志瑞の定番の台詞は、いつもと違って殺意や悪意は感じられず、どちらかと言えば『背中を押す』ニュアンスのように聞き取れた。


「うん。お願い」


飛鳥がそう言って下がると、隣まで来ていた志瑞が代わりに中央に立つ。

彼は『懐刀』だったし、やはり誰も顔を見た事がないのだろう。『こいつ誰だよ』という空気が漂った。

しかし、志瑞は怯む事なく口を開いた。


「初めまして。取り敢えずここじゃないどこかから移籍してきました、志瑞空です。ド底辺魔術師集団『JoHN』の皆さん、仲良くしてくださいっ」


……うわぁ。なんかどっかで聞いた台詞だ。


霧乃がよく話していた、『御伽学院』から『JoHN』を取り戻すに至った経緯にてよく聞くこの言葉は、やはりウケが悪いのかヒソヒソと話している声が聞こえる。

ただ、昔と違って、志瑞は釘で刺すようなことはせずにただ見守っていた。

やがて、内一人が「というか『JoHN』は底辺じゃないだろ」と言ったところで、「いいや、底辺だよ」と志瑞は答えた。


「『JoHN』はその歴史、創立に至る経緯からハイレベルのように思われるけど、その実態は『軍』の金魚のフンのようなものだ。そもそもサークル型だから、高い利益を見込めない以上変に組織を大きく出来ない。現に、ここの活動理念は大層素晴らしいけれど、活動範囲は桜坂市周辺に留まっているだろ?百年もあったら普通グローバル化出来るはずなのに、だ」

「……だが、難易度が高く、酷く高い倍率の試験を乗り越えた!」

「たしかに難しそうだよね。あんなの解ける人の気が知れないぜ。今だから正直に打ち明けるけど、霧乃ちゃん曰くアレはただの試金石さ。そして、どんな点数でも、人格や経歴に大きな問題がなければ通る。極論、名前を書くだけで受かるんだぜ?」


えっそうなの!?


衝撃の事実に飛鳥はぎょっと目を剥いた。ここにいるほぼ全員が同じ心境だろう。

志瑞は構わず続けた。


「学がない人にもチャンスをあげたい。だからそういう形式なんだぜ。まあ、所属してるうちに大体皆気づくんだよね。受験者数と内定者数がほぼ変わらないってデータを各人の伝から入手するから」

「……」

「『JoHN』に入るからエリートなんじゃない。『JoHN』に入って成長するうちにエリートになっていくのさ。理解できたかな?自称エリート君」

「……」


あまりにも容赦ない毒舌に、聴衆は落胆、絶望したような雰囲気を醸し出す。

志瑞くん、ここからどうするんだろう?

飛鳥はただ固唾を呑んで見守る。


「折角ひいひい頑張ったのも無駄骨。『JoHN』に入って実力と実績を積む前に負けイベントに巻き込まれ、挙句の果てに放り出される。うーん。運が悪いね、君たち」

「……」

「言っとくけど、ほかの魔術組織だとその比じゃないぜ?本当にちゃんとしないと切り捨てられる、見捨てられる、使い潰される。とんでもない荒波だ」

「……」


いくらなんでも不安を煽りすぎなんじゃ……?

益々不安になってきた飛鳥の予感は的中し、コソコソと聞こえてくる。


「じゃあ居残ったほうがよくね?」

「わかる。一応今の全権代行さんはマトモじゃん。頼りないけど、まあ支えるだけでいいんでしょ?」

「楽勝じゃん。数ヶ月それが出来てたんだから、今まで通りってことで」

「……、」


……この大人たち、なんか怖い。

背筋が冷える。このままだと、本当に『自由』も何も無くなりそうなーーー。


「おいおい、やめてくれよ。飛鳥ちゃんにしがみついて縋るなんて、底辺は底辺でも心まで底辺に行かなくてもいいのに」


志瑞の言葉に、飛鳥がはっと顔を上げた。

聴衆も黙り込んだ。


「飛鳥ちゃんは裏なんか向いてないし、このまま続けても互いのためにならない。このままじゃ皆を泥舟に乗せてしまうから、ここを畳むって決断をした。そして、皆が少しでも『プラス』になれるように、『軍』『協会』に掛け合って、雇用を確保した。お前ら良かったな、飛鳥ちゃんの部下になれて。上司ガチャで当たりばっかり引いてるから、今、底辺は底辺でも『最低』じゃない」


移籍した先で直属の上司ガチャは外れるかもだけど。


志瑞はそう言って息をつくと、しっかりと『JoHN』全構成員を見据えた。


「どうしようもない理不尽に心が折れそうになったら、僕を思い出せ」


そうして、志瑞は激励を始めた。


「僕みたいなどうしようもない男が、今日も世界のどこかで逆境に見舞われながら、ヘラヘラと面白おかしくどん底を生きている。ほら、そう思うだけで安心するだろ?人は自分より下を見ることで安寧を求めるヤツだから。君たちはそれを探す手間が省けたのさ、ラッキーだよ」


「大丈夫。どれだけ堕ちても僕がいる限り君たちは『最低』なんかじゃない。大丈夫。これからどんな理不尽に見舞われたって、僕が今まで経験してきた『理不尽』の一割にも満たない。大丈夫。僕が生きている限り保証するよ、君たちは『最悪』でも『最低』でもないってことをね」


「不幸な奴でも、『普通』から外れてしまったとしても、幸せになれる。それを、僕は証明し続けてあげるから」


志瑞のその言葉に、飛鳥は昔の彼自身の言葉を思い返した。


『受け入れることさ。虚構、虚像、虚言、虚名、虚勢、虚礼、虚栄、偽悪、偽善、不毛、不当、不幸、不運、理不尽、不合理、不条理、裏切り、二次被害、流れ弾、堕落、イカサマ、格差、不遇、巻き添え……その全てを、受け入れる。そうすれば、僕みたいになれるよ』


かつて、そう言って『底』にいる人を更に『底』まで引きずり込むことしかしなかった青年は、『底』にいる人を更に『底』から押し上げる人に変わった。

否。変わっていたというのは正確ではない。

ただの妄想だが、『あの日』、ただの実験体でしかなかった飛鳥を掬い上げた彼は『押し上げる』人に違いなかった。

そして、飛鳥との『再会』を経て、別の誰かをまた『掬い上げる』人に戻ったのだ。

不幸ばかり目が向いてしまう人の心に『釘を刺して』、前を向けるように。


暫く沈黙が続いた会場は、まばらな拍手がその沈黙を破り、やがて盛大な拍手への変わっていく。


「ほら、飛鳥ちゃん。あとは君が締めるだけだよ」

「あっ、うん!」


志瑞に促され、飛鳥はまた中央に立つ。

だが、志瑞が全部持って行ってしまったからどうしようか。

少し考え、まあ、普通に締めようと決めた。


「本当に、本当に、皆さん。今まで、ありがとうございました!!!皆さんのこれからのご活躍を、心よりお祈り申し上げます!」


そう言って飛鳥が深く礼をする。

会場は更に盛り上がった。


ステージから去ってバックヤード。


「ありがとう、志瑞くん。おかげで何とかまとまった」

「礼には及ばないよ。……それより、飛鳥ちゃん」


あの場をまとめてくれた志瑞に感謝を伝えると、彼は手をヒラヒラと振って、神妙な顔で飛鳥を見た。


「何?」

「僕みたいな特級呪物をこの世に解き放つつもりかい?『這い寄る混沌』だの『負け戦なら百戦錬磨』だの『魔術師殺し』だの散々言われている、この僕を。世界が『不幸』になるぜ?」

「それはそうかもね?」


志瑞を一人にしたら、彼は再び『根無し草』になるだろう。飛鳥の記憶だってまた『虚構』にするかもしれない。そして、今度は二度と飛鳥の記憶が戻らないように徹底する可能性もある。

全ては、『ようさん』を倒すため。

その結果どうなるかは、分からない。

神のみぞ知るところだと思う。


「なら、」

「けれどね」


志瑞の言葉を飛鳥は遮った。


「私がいつ、志瑞くんを野放しにするって言ったの?」

「……?」

「言ったでしょ。『恩人』を見つけたら、私はとことんついて行くって決めてるの。それこそ地獄の果てまでもね」

「……飛鳥ちゃん、まさか」


志瑞は飛鳥の言いたいことが分かったようで、唖然としていた。


「私の進路は、志瑞くんの行くところよ。その『ようさん』のせいで志瑞くんは私を置いていかざるを得なかったんでしょ?霧乃ちゃんも私に『普通の女の子になるのは茨の道』とか言ったんでしょ?なら、私も『ようさん』とやらの顔を拝んでやるわ」

「でも、」

「拒否権なんか無いからね。断られても勝手について行くし、記憶を消されたってもう関係ない。道がある限り愚直に突き進んでやるんだから。それが嫌なら、『JoHN』解散が完全に終わるまでここに残って、それで、」


どうか、どうか。

飛鳥は祈るように、不安で震える手を差し出した。


「私を志瑞くんの隣で、『ふたりぼっち』でいさせて」


志瑞は飛鳥の手を見つめ、無言のまま立ち尽くす。

やっぱり、駄目なのかな?


「……前から気になってたんだけど、」


ふと、志瑞がその嫌な沈黙を破る。

飛鳥は相槌どころではなかった。ただ黙って言葉の続きを待った。


「僕のこと、『空くん』とは呼んでくれないの?」

「……え、」


そして、予想だにしない問いかけに飛鳥はきょとんと彼を改めて見た。



「呼んでいいならそう呼ぶけど、それで良いの?」

「勿論。それがいいんだよ。というか、志瑞って苗字は好きじゃないからね。飛鳥ちゃんには是非とも名前で呼んで欲しいんだけど、どうする?」

「わ、わかった。……空くん」


想い人の名前。

『飛鳥』と自身が名乗っているのも、思い出した今こそ分かることだが、大空で羽ばたきたい、空と繋がっていたいという思いから考えついたものだ。

少し照れながらも飛鳥が『そら』と綺麗な音を口にすれば、空は少しはにかんでみせた。


「これからどうぞよろしくね、飛鳥ちゃん」

「うん、こちらこそ、……っ!」


よろしくって、よろしくって言った!

つまり、ついてきていいってこと!?


やっと空の言葉に理解が追いついた飛鳥は、思わず跳び上がって喜んだ。


今日も空は青く、遥か彼方どこまでも澄み渡っている。そんな小春日和の日だった。

これにて一部完。

二部は新年に出そうと思ってますので、よろしくお願いします。

よろしければ、評価、感想、ブクマをお願いします。


では、良いお年を。


































あと一話投稿します。

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