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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部終章
53/67

エピローグ 上

こんにちは。

まえがきも程々に、本編へどうぞ。

後日談。

朝焼けの中、二人で抱擁しあっていた飛鳥たちのところへ、識名が慌てた様子で駆けつけてきた。

よほど走ったのだろうか?酷く息を切らして、目もどこか虚ろだった彼女は、すぐそこまで辿り着くとフラついて前へ転ぶ。咄嗟のことに反応できず、飛鳥も志瑞も抱き合うのをやめて手を差し伸べると、識名は「おおきに」と言って微笑んだ。


「志瑞探す言うてから連絡つかんなるし、通信ジャミングされとるし、何事か思ったら、近所から通報で桜乃と戦っとるらしいやんか。その場から逃げ出して助け呼ばへんのなんでや?アホなんか?死ぬんか?」

「め、めう……」


そして、微笑みながら発されたとは思えない火の玉正論ストレートに、飛鳥はただ呻くしかできなかった。

本当にごもっとも。というか、実際飛鳥のせいで志瑞は死んだし。

いや、でも、お陰で『再会』できたし、志瑞の蘇生も……うん、なんで出来たかわかんないけど、とりあえず何とかなったのだから、プラマイゼロ……なのかな?

内心しどろもどろで色々正当化していたが、識名の言葉は続いた。


「ほんま、心配したんやで?……七世も、志瑞もいなくなったら、もう、うちはどないすればええの」


そう言う識名の身体は、震えていて、冷や汗で少し濡れていて。

心からそう不安にさせていたと分かれば、そんな正当化など口に出せる訳もなく、飛鳥は「ごめんなさい」と言うしか無かった。


識名は「まあ、無事やったらええわ。心配して損したわー」と気丈に振る舞い、「そんでな。朗報があるで」と表情が切り替わった。


「『評議会』、今回の乱闘騒ぎも入れてなんとか『指名手配』出来たで。今や世界中が桜乃の敵や。『決意』もそう乱発出来ひんやろし、今に吠え面かかせたるわ……」

「へぇ。たしかにそれは朗報だね」


手をワキワキさせながら悪い顔で笑う識名だが、既に桜乃が死んでいるとは気まずくて言えない……。

そんな飛鳥の内心を知ってか知らずか、今まで飛鳥と識名の話を見守っていた志瑞が口を挟んだ。

志瑞の言葉に益々機嫌を良くした識名が「せやろー?もっとうち褒め讃えてくれてもええんやで?」とドヤ顔する。誇らしげに仁王立ちしては鼻をふんすと言わせた。

……目が虚ろなままなので、虚栄にしか見えないし威厳もへったくれもないけど。


「だけど、桜乃為心は既に、妹と同じように『釘』を刺しているんだけど」

「冗談やめてや。そんな訳あらへんやんか。『決意』やで?『呵責』がそんなあっさりぶっ刺さるわけ、」


そして、そこに容赦なく振ってくる志瑞の宣告。

さすが志瑞くん、私が申し訳なさ過ぎて言えなかったことをあっさり言ってのける。

いや、どうせバレるんだけどさあ。


識名はヘラヘラ笑いながら手をパタパタと振っていたが、桜乃が釘刺しになっている遺体の方を見て「ってホンマやん!?」と驚愕していた。


「通報やと結構大規模な魔術を使っとるらしいから、『決意』込の大魔術はアカン思うてたんやけど。……『呵責』って凄いんやなぁ」


そして感慨深そうに識名がそう呟く。

……大規模な魔術なんか使われてたっけ?

飛鳥が首を傾げると、同じことを思ったのか志瑞も頭に疑問符を浮かべて飛鳥の方を見る。

飛鳥自身も全く心当たりがない。

いや、もしかして、志瑞の蘇生を願って、最後の最後にダメ元で発動した『回復』のこと?

でも『回復』ってそんな派手な演出無いのでは?


一人でうんうん考えていると、飛鳥の反応で凡そ察したのか、志瑞は腑に落ちたように軽く頷いて識名へ視線を戻す。

その視線の応酬に識名は首を傾げ、しかしはっと思い出したように飛鳥に視線を向けた。


「そういや現海がキレとったで。さっさ帰った方がええんとちゃう?」

「えっ嘘、なんで、」

「アイツも心配やったんやないの。何も言わずに出てきたんやろ?」


識名の言葉に、飛鳥は思い当たる節が多すぎて青ざめた。

そんな飛鳥の肩を、また優しくトン、と叩いてくれる彼。


「志瑞くん?」

「僕も一緒に怒られてやるから。帰ろうぜ、飛鳥ちゃん」

「……うん」


☆☆☆


「誰に何か告げるでもなく無断で外出」

「……」

「そのまま、ただでさえ治安がクソ悪い夜の桜坂市を無防備に奔走」

「……」

「挙句の果てに、今回の件の首謀と勝手に交戦し、援軍要請もなし」

「……」

「何か、申し開きはある?」

「すみませんでした」


現海の言葉に、飛鳥は専ら土下座するしか無かった。

志瑞の「一緒に帰ろう」という言葉もあって、急いで現在の拠点に帰ってみれば、そこには怒髪天を衝くほどに憤怒した様子で佇む現海の姿があった。


駆け込む勢いそのままにスライディング土下座を決め込んだ飛鳥の隣にとりあえず志瑞が立ったのを確認した現海は、その顔が真っ赤なのとは裏腹に懇々と説教を始めたのだった。


「あのさぁ。俺は『申し開きは?』って聞いたんだけど。なんか理由があってそんなことしたんでしょ?ほら、聞かせてよ」

「申し開きは一切ございません……」

「いや、そんな訳ないから。まさか、衝動で出て行ったなんてことないよね?」

「衝動に駆られました……間抜けでゴメンナサイ」


もう平謝りするしか無かった。

飛鳥の反応に現海は「はああああああああああ……」と深くため息をついて肩を竦めた。


「まあ、うん。あのだね。本当に心配したんだよ?今の君の立場をちゃんと分かってんのかなぁ、今までとは違うんだけどなぁって。君がいないって報告受けて、俺が何を思ったか分かる?」

「……ええっと、暗殺?」

「暗殺で済めばマシだよ。いや、それも充分最悪なんだけど」

「ええ……?」


暗殺でマシとは。

実感は伴わず、引き気味に声を漏らした飛鳥に、「ああ、やっぱり分かってない」と現海は頭を抱えた。


「拉致、誘拐、監禁、人質、交渉、圧倒的に不利な契約、一方的な破棄、敗戦濃厚な戦争、甚大な被害」

「う、物騒な言葉ばっかり。……そうなっちゃいます?」

「うん。そうなっちゃいます?じゃない。『全権代行』は代理でもそれくらい重要な役職なんだよ。構成員を危ない目に合わせないためにも、自分の価値はしっかり理解すべきだ。『全権代行』こそ命を賭けるべき盤面もあるけど、基本は『護身』を念頭に置いておくのが当たり前だからね?そこを履き違えないで欲しいかな」

「ああ、はい、呑気ですみませんでした」

「はああああああああああ……」


現海はまたもため息をついた後、今度は志瑞の方を見た。


「志瑞。君にも言いたいことがある」

「僕?」

「そう。……数年前はあれだけ『バラすな』って釘を刺してたのに、今更になって、なんであっさり自分からバラしてるわけ?」

「あ、いや、志瑞くんは自分からバラしたんじゃなくて、私が気づいちゃっただけなんです!」

「七世さんは黙ってて」

「め、めう……」


飛鳥の弁解を現海があっさり切り捨てる中、志瑞は「さあね。成り行きだよ。僕には、出会いを無かったことに出来なかったみたいでさ」と流した。

ビキリ、と現海の額に青筋が立つ。

ひえ、更に怒ってる……。

飛鳥はヒヤヒヤしながら事の次第を見守ることしかできない。


「成り行きねえ。俺はすっごい後ろめたい気持ちでも、君の考えも共感できるものがあったから頑張って七世さんに隠してたんだけど?……まあそれは置いといて、次の質問。君が数年前に、勝手に押しかけてきては言い捨てて行った言葉、覚えてる?」

「勿論」


現海の二つ目の質問に、志瑞は今度は即答した。


「『どんな理由があったとしても、決して裏の界隈に戻らせないでほしい。そうすることが、この子を守ることに繋がるんだ』。僕は確かにそう言った」

「あ、」


続いた言葉は、飛鳥にとっては身に覚えのある言葉だった。

他でもない、飛鳥が『軍』から『JoHN』に移籍する時、現海と交わした約束。


『どんな理由があったとしても、決して裏の界隈に戻らないで欲しい。そうすることが、君自身を守ることに繋がるんだ』


……遠くからでも、私を守ろうとしてくれてたんだ……。

数年越しに知った事実に、目元が熱くなった。


「そうだよね」


現海は志瑞の言葉を肯定し、そしてギロリと睨みつけた。


「霧乃さんの采配なのは分かってる。けれど、君も抗議したはずだろ。どうして、七世さんは裏に戻っている?」

「……」

「あのな。四ヶ月も護衛してたんだからわかってると思うけど、七世さんは『普通』なんだよ。人の生き死にに耐性なんかないし、甘いものを好んで口にするし、人並みに、在り来りなことに悩むし、恋だってする。遊園地とかプラネタリウムとか水族館とか動物園とかはワクワクして、目を輝かせて、見てるこっちも楽しくなるくらい燥ぐ。綺麗な景色には素直に感動するし、かわいい服とか化粧とか髪の毛を伸ばして結んでみたりとか、そういったことだって興味が尽きない。……七世さんは表で生きるべきだ。監視してて、俺はつくづくそう思ったよ。だから約束を守ろうとしてきたんだ」


現海の言葉に志瑞はただ頷いた。


「どうして、霧乃さんが君を護衛に任命した時、何も抗議しなかったんだ」

「当然抗議したよ。顔を合わせた瞬間にね。……当たり前じゃないか」


そして、現海の質問にやや被せるように返答した。

ならばどうして、と怪訝そうにした現海に、志瑞は答えを続けた。


「けれど、霧乃ちゃんから言われたんだよ。『飛鳥は、『恩人』の正体は知らずとも、『恩人』との出来事はしっかり覚えている。表に留めようとしても、何れ無理やり裏に行って淘汰されてしまう。それならば、いっそ、傍で、あらゆる全てから守ってやれば良いじゃないか』とね」

「……」

「『情をかけるのは勝手だが、どうせなら最後まで情をかけきってしまえよ。さもなくば、ろくな結末にならないぞ?』ってさ。……現海くんは、どう思う?」


志瑞の返答に、飛鳥は息を呑んだ。

思考を完全に言い当てられた。そんなに分かりやすいのか、私。

現海も「ああ……」と納得したように声を漏らしていたが、なおも志瑞の言葉は続いた。


「だから、全力で嫌われようって思ったんだ。遠ざけてしまえば、僕に幻滅してしまえば、護衛をまた探し直しになってその間は表にまた留まってくれるって。幸い、飛鳥ちゃんは当初、僕のことを嫌っていたみたいだし」

「ああ、うん、その節はごめんね……」

「飛鳥ちゃんが謝ることでもないよ?」


たしかに数ヶ月前は、生理的に無理とか胡散臭いとか信用出来ないからクーリングオフとか好き放題言ってたなぁ。なんなら、『護衛』をつけてる意味とか全然考えないで命令無視して一人で街の外まで……アレ?なかなか酷いな?自分勝手にも程があるぞ?

そう思い至った故の謝罪なのだが、志瑞は首を傾げてきょとんとしていた。


「けれど、……いや、だからこそ『無理』だったなぁ。結局『恩人』とか関係なく懐かれちゃったし、そもそも僕が飛鳥ちゃんを嫌いな演技も出来るわけがなかった」


そして天を仰いで彼が続けた言葉に、現海は腑に落ちたような顔をして、「仕方ないなぁ。本当に、二人とも世話が焼ける」と彼も天を仰いだ。


「もういいよ。……それで?どうするの、七世さん」

「はえ?どうするって?何を?」


今までの憤怒の表情を、溜飲が下がったのか穏やかなそれに戻した現海が、唐突に飛鳥にそう問いかけた。

まさか自分に話しかけられると思ってなかった飛鳥が質問の意図を読めずに疑問符を浮かべると、現海は「決まってるでしょ」と呆れたように続けた。


「愛しの『恩人』さんは見つかったけど。『JoHN』全権代行、続けるの?辞めるの?」

「あ、そういうこと……」


それなら答えは出ている。

それこそ、桜乃との弔い合戦が始まる前から。

飛鳥は心を落ち着けて、しっかりと現海を見据えて、口を開いた。


「聞いてください。私ーーー」

後編も今日投稿しますので、どうぞよしなに。

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