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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部五章『復讐者』
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5-10

こんにちは。

五章は今日で終わりです。

「っ、いやあああああああああああ!!!しっ、志瑞くん、志瑞くん、志瑞くん!?」


志瑞が首から大量の血液を流しながら斃れた。

そこへ駆け寄った飛鳥は、意識がなく、華奢な体つきにも関わらずずしりと重く感じられる志瑞の上半身を抱き起こした。

息はなく、心臓も動いていない。顔から段々と血の気が失せて青ざめ、血の生温かさとは打って変わって身体は少しづつ冷めていく。


……そして、全く起き上がる気配がない。いつもならとっくに『死を無かったことにしている』頃なのに。


「……そ、そうだ。血、血を止めなきゃ……」


飛鳥は自分が着ていたフード付きのパーカーの裾を破り、首にあてる。あっという間に赤く染まって、広がって、吸い取れなくなると、パーカーを脱ぎ捨て、志瑞を横たえてから首元にパーカーをあてた。

そして、『回復』魔術の式を構築し始める。かなり集中しないといけないし、不恰好だけど、それでも彼の首の傷を一刻も早く癒してあげたかった。


後ろで銃口を構えている桜乃が言う。


「そんなことをしても無駄だ」

「そんなことない……っ!まだ間に合う!」

「志瑞空は完全に殺した。俺の『決意』でな。もう彼は生き返ることは無い」

「うるさいっ、」


心臓マッサージを始める。志瑞が起きるまで、何分でも何時間でも、延々と続ける覚悟だ。

人工呼吸も間に挟む。初めてのキスは血の味がした。


「心マや人工呼吸、魔術で蘇生するほど柔な殺し方はしていない。『決意』は、絶対だ」

「いやだ、認めたくないっ!」

「志瑞空は心から生を望んだ。俺は心から奴の死を望んだ。もうこの死は覆らない」

「そんなの関係ない!私は志瑞くんに生きて欲しい!死なんか望んでない!そもそもアンタが何言ってんのか分かんないし!無理無茶無駄無謀でも絶対諦めないから!」


飛鳥が胸骨圧迫しながらそう返すと、桜乃はため息をついた。


「……そうかよ。じゃあ力ずくで止めさせてやる」

「……っ、」


桜乃の言葉に飛鳥の肩に力が入るが、しかし避けようともせず心肺蘇生法を続けた。

たとえこの場で殺されても、意地でも続けてやる。

だが、桜乃はなかなか発砲しない。

そして、桜乃はまたため息をついた。


「……空しい。やっと悲願を達成したというのに、何だこの虚無感は……?」


そうボヤいたのが聞こえた。

だけど、そんなことはどうでもいい。

休むこともなく、飛鳥はただひたすら、必死に志瑞の心臓マッサージを続けた。

ずっと、専ら、延々と。

何分も、何時間も続けた。


……やがて、涙が込み上げてきた。

既に汗だくで涙と混じりそうで、それでもそれを拭うこともなく続けていた飛鳥は、しかし遂に、心も、体もほとほと疲れてしまった。

手が止まる。

もうすっかり空が白んでいる。夜明けはもう間もなく訪れるだろう。

桜乃は銃剣こそ向けたままだが、手が酷く震えている。復讐を果たして色々燃え尽きたのか、酷く疲れたような顔だった。その内心を飛鳥は知らない。興味が無い。

止血に使ったパーカーは既に全体まで血が染みて真っ赤だ。

それだけ長い時間をかけても、志瑞は起きない。


「起きてよ……」


口から、そんな言葉が漏れる。


「ねえ、志瑞くん……」


呼んでも彼は目を覚ましてくれない。いつもの、飄々とした笑みを浮かべてくれない。


「やっと、ちゃんと会えた。思い出せた。もっと早く教えてくれたら、色々お話できたのにって残念に思う事もあるけど、それでも、嬉しかったの……」


ゆっくり、志瑞に話しかけるように言葉を紡ぐ。

でも、彼は満面の笑みを浮べることも、心底幸せそうに『飛鳥ちゃん』と呼んでくれることもない。


「ありがとうって言いたかった。大好きって伝えたかった。どこまででもついて行きたかった。隣で笑っていたかった。今度は私が助ける番だって。なのに、こんなのってないじゃん……」


彼は、返事してくれない。

涙も拭いてくれない。


「ひとりぼっちは、いやだぁ……っ!」


半ば無意識に『回復』魔術を展開していた。

無事に起動されたそれは、しかし、何も変化をもたらしてはくれなかった。

飛鳥は項垂れる。


……もう、疲れた。

志瑞空。

二人ぼっちでいてくれるって約束してくれた、大切な人。

正体を明かさずとも、傍でずっと見守ってくれていた、信頼できる護衛。

大丈夫だよって、言ってくれたくせに。


「……うそつき」


そんな言葉が、虚空に木霊した。



「ーーーやれやれ。嘘つきなんて酷いなぁ」


背後からした、衣擦れの音。

そして、今最も聞きたかった声に「……え、」と漏らしたのは、果たして飛鳥だったのか、桜乃だったのか。


いつの間にか、飛鳥の傍にあった彼の遺体は消失している。

飛鳥が後ろを振り向けば、そこには、無傷の彼の姿が桜乃の奥に見えて、思わず目を丸くした。

桜乃は信じられない、と言った様子ながらも銃剣をそちらへ向けてトリガーを引く。

が、ジャムしたのか、全く発砲されない。


「っ……、馬鹿な!ありえない、なぜ生きている!?」


焦燥感を顔に滲ませて問いつめる桜乃に、動じることなくいつも通りの笑顔を浮かべて志瑞が答えた。


「たった一度の敗北で折れるような心を、桜乃くん。志瑞空は持ち合わせていないんだよ」

「何を言って、」

「それに。さっき僕は君に『釘を刺した』。アレで君の『必ず殺す』という『決意』を無かったことにした」

「……っ!」


志瑞の補足に、桜乃はなにか心当たりがあったのかハッとした表情を浮かべたが、それも直ぐに「それでもだ!」と切り替えた。


「『呵責』はもうまともに効力を発揮できないほど弱っていた!だから『呵責』を使えるはずがない!出来るはずがないんだそんなこと!」

「……?」


今までとは全く違って酷く取り乱した様子で問い詰める桜乃に、志瑞はきょとんとして首を傾げた。

そして少し黙り込むと、眉を少し下げた。


「うーん?言われてみると確かにそれもそうだね。じゃあ今日中にでも考えとくよ」

「は、」

「あーあ。それにしても思いの外、期待外れか。『決意』でも、ようさんには勝てない……」

「……っ、巫山戯るな!」


志瑞が酷く白けた顔で桜乃を見やる。

桜乃は額に青筋を立て、ギリと歯軋りをするや否や、銃剣を乱雑に投げ捨てて懐からナイフを取り出し、構えた。

すぐさま『身体強化』が展開され、志瑞の方向へと突撃を始める。


「あの女も!お前も!『預言』だの『呵責』だの、そんなクソみたいなチート技で人の心を弄んで!それで得たものに何の意味があるーーーっ!」

「意味なんかないさ」


その言葉と共に、桜乃は全身を釘で貫かれて宙吊りになった。

ただゴポリと血を吐く桜乃の最期をただジッと見ながら、志瑞は続ける。


「この世に『異常性』や『過負荷』、魔術が存在する時点で、人間は無意味に生まれて、無価値に生きて、無責任に死ぬしか道が残されていない。目標も、目的だって無いんだから」


暫く桜乃は志瑞を強く睨みつけていたが、やがて、ふ、と自然に笑った。そして、最期までナイフの切っ先を志瑞に向け続けていた腕が力無く垂れる。

それを見て志瑞は「はぁ。また勝てなかった」とため息をついて、飛鳥へと振り返った。


今までの、『笑顔は本来攻撃なのだ』と思わせるものではない、心から嬉しそうな、花が咲いたような、作ったものではなく自然に浮かんだような笑み。


「……志瑞くん?」

「うん。そうだよ、飛鳥ちゃん」

「私と『二人ぼっち』の?」

「うん。……今まで隠しててごめん、久しぶ」


り、まで聞き取れなかった。

だって、うん、と肯定された時点で飛鳥はなりふり構わず駆け出した。体が勝手に動いて、迷わず飛びついて抱きしめた。


「会いたかったっ……!」


飛鳥は、久しぶりに嬉し涙を流した。

志瑞の心臓が、あれほど心臓マッサージをしてもてんで動いてくれなかった心臓が、とく、とくと動いている。人肌ほどに暖かい。

その事実が何より嬉しくて、さらに志瑞の服を濡らしてしまう。


けれど、やっぱり『恩人』さんは優しかった。

「僕もだよ」なんて言って、優しく抱き締め返してくれた。

泣きやみますようにと、肩をとん、とんと軽く叩いてくれた。


朝日に照らされて、ひとつに重なった影が大きく西へと伸びていた。

ついに、『再会』を果たしました。

『恩人』探しは、後悔まみれではなく、幸福感ある結末になりましたね。

そして、『恩人』探しの『一部』……一幕と呼ぶのが相応しいかもですが、とにかく前半戦は終わりました。


明日はエピローグです。お楽しみに。

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