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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部五章『復讐者』
51/67

5-9

こんにちは。

このまま本編いきます。よろしくお願いします。

「「にの!」」


その瞬間、『さん』を待つことなく双方攻撃を仕掛けた。

互いの首元ー頸動脈を狙って、銃剣の刃先、釘を勢いよく突き出す。

首を掻き切るまでのその僅かな間に桜乃が僅かに首を傾け、結果、桜乃の右耳近くの肉が削がれる。

一方、志瑞は首を刃が貫通し、大量に血を流しながら斃れた。


「っ、いやあああああああああああ!!!しっ、志瑞くん、志瑞くん、志瑞くん!?」


飛鳥が泣きじゃくりながら、力無く横たわる志瑞を揺するのを桜乃はただボンヤリと眺めていた。


遂に復讐は成された。

あとは七世飛鳥を殺すだけだ。彼女はただの肉壁、雑魚、経験値だから容易いことだろう。

況してや、今、彼女は無警戒に背中を向けている。暫くは取り乱したままだろう。ただ一発撃つだけで全てが終わる。


思い返せば、長かった。


桜乃は一人想う。


☆☆☆


『這いよる混沌』志瑞空は、『負け戦なら百戦錬磨』らしい。


その噂はいつしか広まり、そして裏の者なら誰でも知る事実となった。

当然だ。件の少年は『評議会』の兵として毎回『軍』との抗争最前線に出動している。更に、敗戦濃厚であっても、こちらの兵が壊滅しても、彼は必ず『無傷』で情報を持ち帰ってくる。寧ろ単独で『軍』の一部隊を壊滅させたこともあり、『軍』やその同盟組織では『要注意人物』と称されているようだった。


『不殺の殺人鬼』として既に名を馳せていた桜乃も彼と同じ戦線を共にすることがあったが、『評議会』に相応しく『正しくない』人物というのが第一印象だった。


『えー、こんにちは!もう出番は無いから、出しゃばらず引っ込んでてくださいね、その他大勢の個性なき皆さん!』


だって、彼は軽々しく、飄々と、にこにこと、庭の雑草を毟るような感覚で釘刺しにする。


『思い入れ?心掛け?誓い?ごめーん。僕そういうのよく分かんないや』


まるで、人の心など端から持ち合わせていないような。

本人はそのつもりは無いのだろうが、『ソレ』は酷く悍ましく、おどろおどろしく、見窄らしく、醜く、卑しく、歪に見えた。


まあ、『評議会』の連中など全員、倫理観など燃えるゴミの日に捨ててきたような輩ばかり。幼少期からそんな『怪物』に囲まれたら、それは染まるのも致し方ない事だろう。同情を禁じ得ないが、共感までは出来そうにない。


そも、妹が左遷、実質人質に取られてしまってからの自分も同じ穴の狢だ。妹の立場を守るためならなんだってする。

目の前の少女ー命の冒涜の塊のような『ナニカ』が虐げられても、平気で見捨てようじゃないか。


そうして、自嘲しつつも、現状を変えようとは微塵も思っていなかった。


……だからこそ、意外だったのだ。

あの志瑞空が、その『ナニカ』ー今は『七世飛鳥』と名乗る少女を外の世界へ連れ出すなんて。


同情?恋慕?愛?執着?いや、実情などなんでもいい。

重要なのは、『人の心』など持ち合わせていなかった彼が、桜乃の知る限り初めて、誰かに心を傾けたという事実だ。


あまりにも唐突な『芽生え』。桜乃は何も対応できず、ただそのまま『釘に刺された』。当然の報いだ。諦観の中、視界は真っ暗になった。



ーー『フィクサー』の哂い声が聞こえる。



「これはこれは。まさか、生き残りがいるとは」


女の声に意識が浮上する。

薄らと瞳を開けると、すぐそこで女はほくそ笑んでいた。

人の心がなさそうな、上っ面だけの笑顔が、つい先程自分を釘刺した少年と重なる。どうも彼の面影を感じさせる女だった。

睨みつける気力もなく、ただ茫洋と、焦点も合わず女を見つめる桜乃だが、女は独り言を続けた。


「『評議会』が壊滅したと耳にしたから立ち寄ってみたけど、『預言』通り『這いよる混沌』の仕業。しかし、その彼に『釘を刺されて』も尚生きている人がいる。『預言』に拠れば全滅が『正史』なのに……」


うっそりと、彼女は嗤った。


「ーーー実に。実に、興味深い」



ーー『フィクサー』の嗤い声が聞こえる。



女に応急手当をされて一命を取り留めた後、桜乃はただ放浪していた。

女には大して興味がなかったし、実際会う機会も無かった。

精々、風の噂で『御厨』と名乗り始めた女が『陰成室』全権代行になったとか、『預言者』と呼ばれ出したとか、そう小耳に挟んだくらいで。

それよりも妹だ。

叶内はしばらく見ないうちに随分と成長していて、『御伽学院』に左遷されたにも関わらず全権代行まで登り詰め、上手く組織をまとめている。

ならば、自分は『評議会』を再編して『同盟組織の長』という立場で叶内の力になろう。

ゆっくりと、しかし着実にその準備は進んでいく。

いつか、兄妹二人で肩を並べることができると、そう信じていた。

……『御伽学院』が、『這いよる混沌』に『釘を刺される』までは。



ーー『フィクサー』の哂い声が聞こえる。



「ふふふ、そっかそっか。愛しの妹を殺されて、居ても立ってもいられなくて、この『預言者』たる私を訪ねた訳だね」


気づけば、桜乃は『陰成室』へ駆け込んで、忌々しい仇の面影ある女に頭を下げていた。

そんな桜乃を、女は何が可笑しいのかくつくつと哂う。

屈辱的だ。何が悲しくて、仇に似た、大嫌いな面をした女に一生のお願いをせねばならないのか。

だが、しかし、志瑞空という人間は何をどうしても『死なない』のだ。確実に仕留めるなら、此奴の情報が必要不可欠だから、期限を損ねる訳にもいかない。

ぎり、と歯軋りこそしたが頭を決して上げない。

そんな桜乃に、女は少し間を置いた後に発言する。


「桜乃くん。私に尋ねるは、『志瑞空を殺す』方法だけでよろしいのかな?」

「そうだ。俺にできることは、やりたいことはそれだけだ。奴の攻撃を生き延びた俺なら可能性があるんだろ?」

「それはそうだけど……ふぅん。そっかぁ……」


女は今までの人を小馬鹿にしたようなトーンではなく、退屈そうに頷いた。


そして、何事かぽつりと呟いたかと思えば、「うん、まあいっか。決めた」と桜乃の肩に手を置いた。


「いいよ。教えてあげる」

「……っ、本当か?」

「勿論。彼を殺すことは簡単だし」

「簡単……?」


女の肯定の言葉に弾かれたように頭を上げた桜乃は、しかし続いた言葉に首を捻った。

志瑞空を殺そうとした人なんて、これまでに数え切れないほどいた。

溺死、毒殺、窒息死、撲殺、鏖殺、焼死、出血死、落下、銃殺、その他エトセトラエトセトラ。色んな殺され方をして、その度に違う誰かの命と引き換えに生き返ってくるのが志瑞空なのだ。

殺すことは簡単だが、アレでは真に『殺した』と言えない。桜乃は志瑞空を永眠させたいのだ。


そんな桜乃の疑問を、女は「たしかに、彼は『しぶとい』からね。ポンポン死んではポンポン生き返る」と肯定した。


「だから、彼を『復活』させない方法を教えてあげましょうか」

「そんな方法があるのか……」

「うん」


女は頷いて、「たった一つの簡単なことだよ」と指を立てた。


「それはね、『生きたい』と思わせることだよ」

「は?」


あまりに予想外な答えに、ポカンと口が開いた。

彼は生きたくて人に死を押し付けているのでは?

桜乃を他所に、女は語る。


「志瑞空は、『敗北の少年』。どうしようもない不運、不幸に見舞われながら、『主人公』に憧れる普通の少年だよ。彼は昔からとことん『不幸』だった。何をやっても上手くいかない。なんでも出来る姉の出涸らしだった少年は、両親にも恵まれなかった。金に困って人身売買に手を染めた彼らは、あっさりと長男を売り払ったのだった」


まあ、どうしようもなく不出来な子だったもので、泡銭にしかならなかったけどね。


女の言葉に、桜乃は「なんでそんなことを知っているのか」と疑問に思ったが、それも『預言』で分かるのかもしれないと結論づけた。

女は語りを続ける。


「自分は愚図で、鈍間で。痛いし、辛いし、もう死んでしまいたいといつだって思っていた。……けれど、彼の『負』を引き寄せる体質は、彼には決して味方しない。いつでも死ねそうな環境で、何回も何十回も何百回も何千回だって死んできたのに、気づいたら他の誰かが死んで自分は生きている」

「……」

「彼の『呵責』はとても難儀な力だ。『本気で望んだもの』は決して叶わない。『負』を引き寄せすぎて『正』を受け取れないから」


そこで言葉を切った女は、「だからね、」と笑みを浮かべた。


「彼に『生きるべき理由』ができたらどうだろう?」

「そうすれば、本気で『生きたい』と願うから、」


桜乃の返答に、女は満足気に「Exactly」と頷いた。


「あっさり、死んでくれるよね」


……昔の志瑞ならともかく、今の彼にならその切欠、トリガーになりそうな存在に心当たりがある。

桜乃が見殺しにしてきた亜麻色の髪の少女が脳裏に過ぎった。


「……了解した。情報提供、感謝する。報酬については追って連絡する」

「どういたしまして」



ーー『共犯者』の哂い声が聞こえる。



数年後、やっとその手筈は整った。

『JoHN』を襲撃して、志瑞空と七世飛鳥を除く全員をなるべく始末する。

志瑞空と七世飛鳥の二人を遠ざけることについては、女が協力してくれた。あの情報提供から連絡を密に取っているが、なかなかどうして便利だ。『最速の魔術師』の識名より正確で早い。

情報料も安いことについて一度尋ねたが、


「別に君の復讐がどうなったってどうでもいいんだけど、『才能』がある人がどう立ち回るのか見てみたいからね。ただの好奇心だから、気にしなくていいよ」


と宣っていた。名前の件もそうだが、『史上最優』の御厨愛知に肖ったつもりだろうか。解せない女だ。


それはさておき。

城月霧乃も憎いが、アレは前座だ。全盛期ならともかく、後遺症もあって十全に実力を発揮できない今は嬲り殺しにするのも容易い。

だから、本命は志瑞空だ。

奴と七世飛鳥の二人きりのタイミングを狙い、一騎打ちの状況を作り上げて、七世飛鳥も殺すことを示唆することで『存在意義』を作り出し、奴を仕留めるのが作戦。


作戦決行日を翌日に控えた頃、桜乃が作戦をおさらいしていた際に女から着信が入った。


「何だ?」

『ふふふ。首尾はどうかと思ってね』

「問題ない。君の協力もあって、やっとここまで漕ぎつけた。本当に感謝している」

『そっかそっか。……最後に、無料で情報をいくつかあげようと思ったけど、要る?』

「いらないと言っても押し売りするつもりで連絡をしているんだろ。さっさと言え」

『ありゃ、バレてら』


女はてへっと舌を出した。軽薄そうで反吐が出る。


『君の作戦を実行しても、彼はきっと死なない。必ず、君自身が明確な意志を持ってとどめを刺すようにね』

「何を今更……言われるまでもない」


桜乃の反応など何処吹く風、さらっと情報を口にする女のそれにそう返した。


女とのやり取りを経て、桜乃が『決意』の『異常性』所有者であることは知っている。

世界を騙すチート、ズルのようなものらしい。『賽子で七を出せる』代物なんだと。

世界すら塗り替えられるソレは、唯一、同じく『異常性』の『呵責』すら凌駕しうるもの。

だから、志瑞空には桜乃が直々に手を下さねばならない。


女は続けた。


『二つ目。志瑞空を相手する時は、未来を明るくして、現実から切り離して戦うようにね?』

「……」


何言ってんだこいつ。

桜乃がジト目で女を見れば、女は少しぶすくれた。


『えー。割と参考になる助言だと思うけど。……んー、そうだなぁ。馬鹿だからわかんないんだろうし、噛み砕いて説明すると……うん、『釘で刺されるな』ってことだよ』

「……はぁ。とりあえず了解した」


桜乃は息をついて、「じゃあな。報酬はまた追って連絡する」と通話を切る。


『期待しないでおくね。サヨウナラ』


ーーーその間際、そんな声が聞こえた。

無機質な切断音だけが部屋に響く。


「……はは、」


思わず笑いが漏れた。

久しぶりに笑った気がした。


「お前は狡い女だな。『決意』なんてチートよりも、ずっとずっと」



ーー『フィクサー』の哂い声が聞こえる。

桜乃視点でした。

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