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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部五章『復讐者』
50/67

5-8

こんにちは。

今回も短めですが、結構大事な回です。

よろしくお願いします。

凶弾が飛鳥の目の前まで迫った次の瞬間、志瑞が現れて弾と『魔力撃』を受けた。


「っ、志瑞!?」


飛鳥が慌てて彼を抱き起こそうとしたが、志瑞はゆら、ゆら、と頼りなく起き上がった。


良かった。生きてる、生きてくれてる……。

死んでなかったことに安堵こそしたものの、彼の姿は普段とは比較にならないほどボロボロだ。

全身傷だらけの血まみれで、着ている服も穴と解れが多く、まともに着用できないだろう。


「ねえ、志瑞……」


こんな彼、見たことない。

あまりにも痛々しくて、不安で、苦しくて、でも生きていてくれるだけで嬉しくて、飛鳥は涙が込み上げてきた。

逃げようとか、でも勝ってほしいとか、言いたいことが多くて整理がつかず、何も言葉が出てこない。

そんな飛鳥の目元を、志瑞は優しく拭った。

飛鳥の顔に血がべっとりとついたのを見て、志瑞は少し悲しそうに微笑んだ。


「心配しないで。飛鳥ちゃんは、僕が身を挺してでも守るから」

「なんで、そこまで、」


たった数ヶ月の付き合いしかないでしょ、と言いかけた飛鳥の言葉は、しかしある一点を見た瞬間に止まった。

それは、ズタボロになって今にも千切れてしまいそうな志瑞の服の右袖。彼が、アシンメトリーにしてまで人目に触れさせまいとした右腕の肌が、今、はっきりと見えている。

前腕と上腕で、明らかに肌の色が違う。

日焼け痕には到底見えない。

そう、喩えるならばまるで、肘から先がまるで義手、『後天的に付け替えた』ように見受けられる。

そして、その肌色は飛鳥のそれと全く同じ色。

今更ながら、飛鳥の右前腕の肌は、志瑞の肌と全く同じ色だ。


「……え?」


そして、飛鳥の脳は、ある一つの可能性を思いついてしまった。


肌だけだから根拠に乏しいし、あまりにも馬鹿馬鹿しい。一笑に付すべき思考なのに、どうしてもその可能性が頭から消えてくれない。


いや、だって、ありえないでしょ?

だって、だって。


『彼、昔は『評議会』所属でね』

『彼は『評議会』への忠誠心は比較的薄いと思うよ。『JoHN』で霧乃さんの仕事を手伝ったり『御伽学院』を潰したり、『評議会』に利が全くない行動ばかりだから』


志瑞と出会ったばかりの4月頃、再会した現海さんが志瑞についてそう語った。


『彼は当時、『御伽学院』から酷く警戒されていた。

無理もない。『評議会』機能停止に深く関わっている人物だし、』


霧乃がどうしてもと飛鳥に語り聞かせた、『御伽学院』から『JoHN』を取り戻した奪還劇で、霧乃はそう言っていた。


『やめておけよ、桜乃くん。僕達なんか相手にしない方がいい。それとも大昔に釘を刺された恨みをここで晴らすつもりかい?』


桜乃との会話で、志瑞はそう尋ねていた。


『評議会』の機能停止に深く関わり、『評議会』所属の桜乃を釘……『杭のような何か』で刺し、『評議会』に利のない行動ばかりしていた……?


いや、違うはず。

志瑞だって知らなかったじゃんか。『評議会』を潰した魔術師も、潰した人の顔だってー。


「……あ、」


飛鳥は、そこまで考えて、ふと気づいた。

志瑞は魔術師じゃないし、自分で自分の顔を見ることはできない。

鏡を使っても、正確に自分の顔がわかる訳ではなく、左右反対にしか見えない。

だから、『さあ?』と答えざるを得なかった……?


『待ち人はいつだって、意外と近くにいるよ。なんなら、気づかないうちに再会、果たしちゃってるかもね?』

『人と人との出会いは、どうやら無かったことにはならないらしい』


御厨の、志瑞の言葉が脳裏を過ぎる。

わなわなと震える飛鳥に、志瑞は愛おしそうに……ここ数ヶ月、飛鳥と共に行動することになった時みたいに目を細めた。


「だって、君が『皆と笑ってさよならしたい』って言うから。喜んで人間の『負け組』たるこの僕、志瑞空が君の夢の『踏み台』になるのさ」


それが、『恩人』のそれと重なった。

やっと、『恩人』が志瑞空だという事実と飛鳥の思考は和解した。


「……やめてよ、」


自然と、そう口に出た。


「言ったでしょ、『誰も死なせたくない』『生き残りたい』って。死ぬ覚悟なんかやめてよ。……二人ぼっちでいてくれるんじゃないの?」


飛鳥の言葉に志瑞は一瞬目を見開いた。

けれど、すぐに元の笑みを浮かべてみせた。


「人は皆、自分は死なないと思ってる。いつか命は尽きると頭では理解していても、今日明日の事じゃないと楽観視している」

「……」

「人は皆、自分を殺さないと思ってる。周りでどんなに物騒なことがあっても、それを人生とは無関係なドラマのように捉えている」

「……?」

「実際はそんなことないよね。今日も明日も、昨日までだって、事件、事故、病、偶然、災害、寿命、不注意、戦争、裏切り、信念、愚かさ、賢さで人は当たり前に、無意味に、無価値に死んでいくんだ」


志瑞が何を言いたいのかいまいち読めない飛鳥は、ただ黙って聞いていた。

彼も、それまでは前座でここからが大事なのだと思っているようで、「だから、ね?飛鳥ちゃん」と呼びかけた。


「そんな中、愛しい女の子のために死ねる僕は、残念ながら幸せだよ」

「……っ、」


待って、という言葉が言葉になってくれない。

そんな飛鳥を背で庇うように、言うべきことは言い終えたと言った様子で志瑞は飛鳥から視線を外して、桜乃に向き直った。


「来なよ、桜乃くん。君の兄妹愛なんか鼻で笑ってやる」

「……まだ勝ち筋があると思っているのか?その状態で?」


志瑞の態度に、疑わしそうに桜乃が顔を顰める。

「いや、特に思いついてはいないよ」と首を横に振り、「けれどね、」と続けた。


「思い通りにならなくても、負けても、勝てなくても、踏まれて蹴られても、悲しくても苦しくて貧しくても、痛くても辛くても弱くても、強くなくて卑しくても、惨めでぎりぎりで恥で敵わなくて無謀だったとしても!」


段々と語気が強まるその言葉は祈り、号哭、心からの本音が詰まって、滲んで、溢れ出していく。

まるでずっと押さえ込んできたものが湧き出るように。


「それでも!笑うのが『異常性』所有者だ!」

「……そうかよ」


桜乃は銃剣を再度構えた。

志瑞も釘を両手に構える。


「「いち、」」


暫し、痛い沈黙が流れる。

重苦しいほどの緊張感が場を支配した。


そして。


「「にの!」」


ついに、勝敗は決した。

どうして飛鳥のことを志瑞は色々知ってたのか。

なんとしてでも右腕の肌を隠していた意味とは。

あの言葉の意味とはなんなのか。

どうして最近復活が遅れていたのか。

そういう伏線回収でした。

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