5-7
こんにちは。
戦闘描写は本当に難しい。
書ける人、尊敬します。
決戦が始まってどのくらい経っただろうか。
釘と剣、銃弾がぶつかる音が、魔術の起動音が、何度も、何度も深夜の公園に響いて止まない。
少し頼りない街灯、曇りの中微かに差し込む月明かりの影響で仄暗い公園だが、飛鳥はなんとか目で追うことができていた。
そのようやっと見えている限り、飛鳥にはあまりついていけないほど高レベルな戦いが繰り広げられている。
志瑞が釘を投擲するのを桜乃が銃剣で弾いたり『障壁』で防いだりする。
桜乃の魔術を志瑞が打ち消す。
志瑞が不意を打って釘を地面から生やしても、桜乃がひらりと避ける。
桜乃が発砲したら、それも志瑞が打ち消したり回避したりする。
どちらも一歩も譲らず、所々に傷を負っているものの致命傷を避けている。それでも、双方『異常性』の使用を控えているらしく、傷は段々と増えて服がほつれていった。
桜乃が銃剣を素早く2回突き出す。志瑞がそれを左、右、と避けると、桜乃が銃剣を回転させて薙ぎ払いつつ発砲する。それを志瑞が潜り背後に回るが、桜乃はすぐ向き直って銃剣を再度突き出す。志瑞が銃剣を掴むが桜乃が魔術式を展開したのを見てすぐ離れ、その次の瞬間に『魔力撃』が志瑞がいた所に降り注ぐ。
『魔力撃』の雨を避ける志瑞を桜乃が追うが、志瑞は近くの遊具の壁を蹴って、近づいてきていた桜乃の頭部に回し蹴り。
それを『障壁』で防いだ桜乃が銃剣を突き出したが、志瑞は潜って回避して影に釘を刺し、『影縫』を成立させて動きを封じた。
『発光』魔術を展開、起動してすぐにそれを解除した桜乃が銃剣で薙ぎ、また下にしゃがんで避けた志瑞がそのまま蹴りを繰り出し、桜乃は難なく後ろに下がって躱した。
飛鳥も援護射撃をしようと機を見計らっていたが、下手に動いてしまうと志瑞にダメージを与えてしまいかねない。悔しいが、手をこまねいて戦況を見守るしかできそうになかった。
「へぇ。なかなかどうしてやるじゃないか。十八番の『呵責』も思ったほど使われていない」
桜乃がそう口にする。
戦闘態勢のまま、緊張感がその場を支配している中、志瑞が肩を竦めた。
「誤解には慣れているけれど、一応言っておくよ。僕は、戦闘において『呵責』なんて面白手品をアテにしたことは、実はそんなに無いんだぜ?」
「そのようだな。本当に厄介だ。上層部が高く評価していた理由がよく分かる。前線から下げて『研究室』に配置するわけだ。城月霧乃が懐刀として重宝していたのも納得できる実力。流石は『最弱最凶の殺人鬼』」
「……おいおい、冗談やめてくれよ。そんな煽てたって何もメリットないぜ?」
桜乃の褒め言葉に少し困ったように眉を下げた志瑞は、しかし本当に困っているように感じられた。
やっぱりおかしい。彼は普段、こういった場面で本音を顔に出すことなんてあまりないのに。
いや、まあ、数ヶ月の付き合いしかないのに何を言ってるんだって話だけど……。
でも。志瑞の表情に、今まで安心の方が強かったのに、不安が押し寄せる。
『後悔塗れの再会になるよ』
御厨の言葉が脳裏を過ぎる。
何か、取り返しのつかない結末になってしまうような気がする。
飛鳥の困惑を他所に話は続く。
「そんなことより、最弱で人生の負け組たるこの僕がこの通り無傷なんだけど。本当に殺せるのかい?」
「勿論だとも。今まではただの前準備に過ぎないさ」
「別に勝ちたければ勝てばいいよ。君は勝って華々しく散って、僕が負けて無様に生きるだけだから」
「いいや。お前は無様に負けて無様に死ぬんだ。『負け戦なら百戦錬磨』と称賛されたお前が、何も残せず、何も守れずな。そのための手立ては既にある」
「へぇ?」
桜乃は自信満々にそう言う。
志瑞って『呵責』の効果で実質不死身になってるけど、そんな策をどこから……?
飛鳥は首を捻り、少しして、御厨さんならもしかしたら、と思ったが首を振った。
だって、同盟組織だし。よしんば情報を売ってたとして、答えがないことに答えようはない筈。
「お前を殺せるのなら手段など厭わない。喫茶店のバイトなんて柄でもないことをした。『国際魔術連合』に潜入した。歯が浮くような、心にもない台詞を吐いて、馬鹿になりきって演技だってした」
淡々と、吐き捨てるように桜乃はそう言う。
銃剣を握る手にぐっと力が入り、キッと強く睨むように志瑞を見つめた。
「だから、……ここでなんとしてでも、俺はお前を殺す」
「そうはいってもだよ、桜乃くん」
そして、銃口を向けられているにも関わらず、志瑞は口を開いた。
「僕は『現実』を『虚構』にするし、君は『虚構』を『現実』にする。これから本気を出したってただの鼬ごっこになるぜ?」
「普通はそうだな」
『普通は』という言葉により飛鳥の不安が増す中、桜乃は徐に銃剣のトリガーを引いた。
飛鳥には一見、先程と全く変わらない銃弾に思われた。
しかし志瑞は少し目を細め、『呵責』で打ち消そうとしたのか微動だにせずーそのまま撃たれた。
「……えっ、」
呆然とする飛鳥を他所に志瑞はごぷ、と血を吐いて、ぐしゃりと嫌な音を立てて倒れた。
……はっ。
時間にして数秒、やっと我に返った飛鳥は「志瑞!?」と大きく彼を呼ぶ。応答はない。
おかしい。
おかしいおかしい!
いつもならすぐ復活するのにしないし、それに!
「どうしてっ、なんで避けないの?!打ち消さなかったの!?反射した銃弾に当たるならともかく、」
「随分と酷い言い草じゃないか」
桜乃が代わりに答えた。
けど、それどころじゃない!
「早く答えなさいよ!寝たふりしてる場合じゃないでしょ?いつもならとっくに起きてるくせに、趣味悪いんじゃないの?!」
「それは、『呵責』が弱体化してるからそうなったんじゃないか?」
「……は?」
取り乱す飛鳥に対しての桜乃の言葉を彼女は信じられず、思わず彼の顔を見た。
桜乃は飛鳥に、志瑞へ向けていたのと同じ濃密な殺気を向けていた。
怖い。思わず身を硬直させた。
「そうだな、志瑞空が躱さなかった理由を説明してやるのもまた一興か。一つ、俺は先程の攻撃に『決意』を使用した。これにより影響力が並大抵の魔術より上になった。その辺の魔術師が『障壁』を使っても威力の低減なく貫通するわけだ」
「……」
「それでも、本来なら『呵責』で打ち消せる。だが、今のコイツは『ある仕組み』により影響力が低くなっている。よって、俺の攻撃を打ち消せない」
「どういうトリックなわけ?」
「馬鹿か。態々タネや仕掛けを教える敵がいる訳ないだろ。甘いんだよクソガキ」
飛鳥が思わず尋ねると、桜乃はそう罵った。
そんなの分かりきってる。でも、思わず口から漏れてしまったのだ。
だって、志瑞はそんなこと一言も。
「……」
否。そんな兆候はあって、飛鳥は見つけていた。
霧乃の命日。慌てて新央市から桜坂市へと帰投している時、志瑞は識名に引き摺られて移動して、その影響で幾度か出血死していた。
その復活が心做しか、いつもより遅かった。
今ほどではないけれど……。
「二つ目。そんな単純な話でもない。……周りを見たら分かるだろ?」
「え、……あ、」
桜乃の言葉に、後悔と思考の坩堝に嵌っていた飛鳥はハッとした。
桜乃、志瑞、飛鳥の順に一直線に並んでいる。志瑞に飛んできた攻撃を彼が避けてしまえば、間違いなく飛鳥に命中すると言える並び。
いつの間に、位置を調整して……?
「つまり、志瑞空は身を挺してお前を庇ってくれたわけだ。なのに『どうして』はないだろ?」
「う、あ……ッ!ひ、卑怯者!」
どうしてそこまで、とか、志瑞に早く起きて欲しいとか、いっそ『回復』させてあげたいけど何も頭が回らなくて集中はおろか魔術式を練ることすらできないとか、色々考えることはあったけれど。
咄嗟にでたのは、そんな一言で。
「卑怯?……はっ」
そして、桜乃は鼻で哂う。
「正しければ、どんな行為も卑怯じゃない。況してや、妹の為に戦う俺が、卑怯者である筈がない」
「……っ、それを言ったら、志瑞も!霧乃ちゃんも!『JoHN』の皆だって!皆、誰かのために戦ってる!戦ってた!誰のためであってもそんな人たちを傷つける貴方は間違ってる!」
「だから殺すんだよ。誰のためであっても俺の妹を殺した志瑞空は間違っているから」
桜乃の言葉に悲しくなった飛鳥がそう叫ぶが、それすら彼は一蹴した。
「そして、それは七世飛鳥。お前もだ」
「……え」
桜乃の宣言に、思わず声を漏らした。
飛鳥は『御伽学院』の件には全く関わっていない。桜乃から酷く恨まれるようなことはあっただろうか?
「何を驚いている?当然の事じゃないか、お前は志瑞空も城月霧乃も大切に思っている。それならばお前を壊さないと復讐たりえない。そうだろう」
「……」
「それに、昔から思っていた事だが……お前の存在は間違っている。清らかな湖に混ざった毒、精緻な絵画についた傷のようなものだ。お前がいることで、完璧な旋律は不協和音になり、世界が崩壊する」
そこで言葉を止めて、桜乃が改めて飛鳥へ銃口を向け、更に『魔力撃』の魔術式が複数展開される。
「死んでくれ、七世飛鳥。俺の復讐と、正しき世界の為にはお前は存在してはいけない生き物だ」
「……っ、『障壁』!」
二度の発砲音。飛鳥は必死になんとか防ごうと『障壁』魔術を展開するが、あっさり砕けてしまう。
そして、無情にも額目掛けて飛ぶ銃弾と胴体を狙う魔力の斬撃。
今から避けようにも間に合わない。飛鳥の人外じみた動体視力と身体能力も、解決策を見出してはくれなかった。
……嫌だ……っ!
そして、飛鳥はー。
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