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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部五章『復讐者』
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5-6

こんにちは。

今回はちょっと短めです。

「やれやれ。どうも『這いよる混沌』サマは人の心に入り込むのが上手いらしい」


突如、背後から声がした。

飛鳥がハッとして振り向くと、そこには飛鳥が二ヶ月ほど前に会った男性にして霧乃を手にかけた張本人ー桜乃為心がいた。

溢れんばかりの殺意に満ちていて、少しでも気を抜けば魔術式で射抜かれてしまいそうな威圧感を発している。以前会った時の人当たり良さそうな雰囲気がまるで嘘みたいで。

……この人が、霧乃ちゃんを殺した人。霧乃ちゃんより上の実力を持つ、『決意』の『異常性』所有者。

怖い。今の飛鳥では逆立ちしたって勝てないのがよく分かる。自然と足が震えるし、先程の決意が揺らいでしまいそうになる。

いや、たとえそうだとしても気持ちだけでも負けちゃダメ。信じるって決めたんだから。

そう言い聞かせてなんとか気持ちを奮い立たせる。

言うことを聞かず震えっぱなしの足をトン、トンと軽く叩いて押さえ込もうとする。


そんな中、飛鳥を庇うように、志瑞が前に割って入った。


「やめておけよ、桜乃くん。僕達なんか相手にしない方がいい。それとも大昔に釘を刺された恨みをここで晴らすつもりかい?」


そういう彼は、真顔というか、凄んでいるような雰囲気を醸し出している。酷く濃密な悪意が立ち込め、飛鳥へ当てられたものでもないのに足が竦む。

あの、いつも笑顔を絶やさない志瑞が、警戒心を顕にしている。


その事実に思わず息を呑んだ。


動じる様子もない桜乃が「まさか」と肩を竦めて首を横に振った。


「別に、俺は気にしない。ただの同僚だし、『評議会』は糞の掃き溜めのような場所だから同士討ちなど当然の環境だっただろ。そこで不意を打たれたとて、恨み憎む理由などない」

「え、」


じゃあどうして、霧乃ちゃんは、『JoHN』の皆は。


疑問符を浮かべた飛鳥の胸中に応えるように、「だが、」と彼は切り出す。


「『御伽学院』のこと、覚えているか」


『御伽学院』……たしか、『JoHN』を一時期占領してたけど、志瑞と霧乃ちゃんが壊滅に追い込んだ組織だったっけ。


飛鳥が桜乃が何を言いたいのか探ろうと必死に思考を巡らせる中、志瑞は静かに話を聞く体勢だった。

桜乃は続けた。


「『評議会』と提携していたこの組織は、謂わば左遷先だった。使えない奴や扱いに困る奴をそっちに送り込んで、別働隊としてこき使っていたんだ」

「はぁ」

「それだけじゃない。中には、使える奴の身内をそちらに送り込むことで離れ離れにして、人質のように扱うこともあった。……俺の妹も、その類だった」

「えっ、」


飛鳥は思わず声を漏らした。

だって、それが本当だったら、霧乃ちゃんと志瑞は。

志瑞の様子を確認するが、彼は特に反応を示すこともなく、ただ据わった目で桜乃を見つめていた。そのことに少し安心を覚え、桜乃に視線を戻す。

桜乃の話はなお続く。


「彼奴は純真無垢で、周囲に染まりやすかった。いい環境を用意できなかった俺のせいで、正しくない奴になった。だがな、クソはクソなりに真剣に頑張ってたんだ。自分の評価とか保身とかじゃなくて、俺が誇れる妹でありたいって必死に生きて、我武者羅に足掻いて、才能なんてなかったのに根性だけで『御伽学院』全権代行の座を掴み取った。そんな凄い奴だから、俺も妹が胸を張れる、正しい兄で在ろうと思えた。彼奴は、……桜乃叶内は、地獄を生きる俺の『心臓』だったんだ」

「けど、その『生徒会長』ちゃんは、」


今まで沈黙を保っていた志瑞が口を開く。

かと思えば、手に五寸釘を持って勢いよく振りかぶった。

飛鳥が反応する間もなく投擲されてしまったそれは、桜乃の顔スレスレを通って後ろの遊具へ深々と突き刺さった。

つー、と桜乃の頬に血が伝う。


「こんな風に、釘を刺されていた。そういう訳だね?」

「ご名答。ご丁寧に、その心を組みかえてまでな」


心を組みかえて、釘で刺された。

霧乃が飛鳥に話していた、『心象操作』で桜乃叶内の思考回路を単調にしてから志瑞が釘を刺したことか。

……たしかに、心を組み替えられるのは嫌だなぁ。

そう思いつつ、段々殺意を膨らませる桜乃を見据える。


「あの時、俺は誓ったね……!叶内を壊した奴等をいかなる手段を以てしても必ず殺す。尊厳も、心も、身体も、人権も、大切な人、ものも、全て滅茶苦茶のしっちゃかめっちゃかの支離滅裂に切り刻んで、乱して、壊してやるのさ。復讐するは俺にあり。それが俺の『決意』」


そうして、彼は銃剣を構え、先を志瑞に向けた。


「だから、志瑞空。死んでくれ」

「へぇ。感動的な話だねぇ」

「いやどこが???」


悲劇的ではあったけども。

同情こそすれど、こちらだって引き下がるわけにはいかないのだ。

これ以上、『JoHN』を傷つけさせない。しっかり弔うために、どんなに怖くても、どんなに哀れに思っても、飛鳥は立ち向かう。

だから、全く感動している場合ではない。

もしや絆されたかと焦る飛鳥の内心を他所に、志瑞は口を開く。


「まさか、『不殺の殺人鬼』と称されたエリートが、愛しい妹のために殺しを『決意』するなんて」

「『不殺の殺人鬼』?」


首を傾げる飛鳥は目線のみで『ITレンズ』を操作して調べる。

そして出てくるグロ画像の山に、思わず口元を抑えた。


『不殺の殺人鬼』。桜乃為心の異名。

彼に手を出した者は一人残らず、明らかに即死しているような負傷ながら、それでも生命活動を続けている。だから、殺してるけど殺してない『不殺の殺人鬼』なのだ。

頭を鋭利な物で貫かれてる。骨を見事に貫通してて、そこから脳みそが飛び出しているが、それと全く同じことが腹部の腸にも起きている。あと破裂して跡形もなかったり肉塊になってたり。

見ているだけで吐き気が込み上げる、悍ましい画像だった。なんとか頭からそれを追い出し、別のことを考える。


志瑞は昔『評議会』にいた。それなら、桜乃と接点があってもおかしくないし、現にそういったやり取りをしている。

……?

志瑞は、いつ、桜乃を釘で刺したの?


「君と『生徒会長』ちゃんにどんなドラマがあったのか、それは問わない。こんな無関係の人達に手を出し、本部を燃やした時点で問う意味をなくした。復讐?違うね。これは、ただの『お遊び』だ」


飛鳥が思考の海に沈みそうな中、今度は志瑞が、一頻り語り終えた桜乃に語りかけていた。


「あくまでも僕は、霧乃ちゃんから大切な『JoHN』を奪った『生徒会長』ちゃんに釘を刺しただけ。そう、『JoHN』を取り戻すためだったんだ。だから、」


そう言って、志瑞も釘を構えた。


「僕は悪くない」

「だから殺す」


かくして、『這いよる混沌』志瑞空と『不殺の殺人鬼』桜乃為心の『弔い合戦』が幕を開けた。

いざ開戦。


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