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こんにちは。
久々に本作主人公が登場します。
飛鳥ちゃんが語り部してますが、実は主人公は志瑞空なのです。
それっぽい描写がムズいねんな……(´・ω・`)
志瑞は寂れた公園に一人、ぽつんと佇んでいた。
そんな辺鄙なところにいるから、飛鳥が全速力で走り回っても尚、数十分もかかってしまった。
……まあ、まだ市内にいてくれて良かったと思うべきだろうか。
飛鳥は少し乱れた息を整え、彼の許へ駆け寄った。
「志瑞」
「飛鳥ちゃん。なんでこんなとこに?」
飛鳥の声にすぐ反応して振り向いた志瑞は、いつも通り薄ら笑みを浮かべている。
最初は胡散臭いと思っていたが、慣れた今では安心感を抱かせるそれ。彼は何も変わっていないことにどこかホッとしながら、飛鳥は「それは私の台詞よ」と返す。
「志瑞。アンタのこと、ずいぶん探したんだから」
「僕を?」
飛鳥の言葉に少し不思議そうに首を傾げて自分を指さした。それに頷いてみせると、「そっか」と言って月を見上げた。
今宵はスーパームーンらしく、月が大きく見える。
飛鳥も志瑞の左隣に並んで、一緒に月を眺め始めた。
どこか心地よい沈黙が流れる中、飛鳥はふと、「ねえ、志瑞」と呼びかけた。
「何かな?」
「……アンタは既にこの街を去ってるかもしれないって思ってたのよね、私」
「そうかな?」
「うん。だって、霧乃ちゃんの指示で私の護衛をしてたんでしょ?その霧乃ちゃんはもういない。私の護衛なんか続けなくたって誰も責めないわ」
「……」
「それに、ほら。志瑞はなんというか、風来坊……?根無し草……?何かしら理由を作らないとすぐどっか行く感じじゃん?」
「……、……」
志瑞は、飛鳥の言葉に豆鉄砲を食らった鳩のように目を丸くしていた。
図星か。
けれど、だとすれば、どうして彼は理由もないのに桜坂市に留まってー?
飛鳥はその答えが欲しくて、彼をじっと見つめる。
志瑞はそれでも暫くキョトンとしていたが、やがて、いつも通りの笑みを浮かべた表情に戻った。
「理由なら、とっくの昔からあるよ。そうでなきゃ、僕は『JoHN』に数年も在籍していない」
「……そうなの?」
「そうだ。霧乃ちゃんとの約束もあるからね」
「はぁ……」
志瑞にその詳細を打ち明ける気はないらしかった。
まあ、彼が話したくないなら無理に聞き出すことでもない。理由がなんであれ、桜坂市に留まってくれたおかげで飛鳥は彼に頼み事をする機会があるのだから、それで充分じゃないか。
そんな彼女の思考を読んだように、否、探していたという言葉から察したのか。
志瑞は「それで?どうして、いないかもしれない僕を探していたのかな?」と尋ねた。
飛鳥の気がピシッと引き締まる。
……彼が受け入れてくれるかは分からない。
けれど、私は、私の満足できる『結末』のために。
すう、はあ、と深呼吸する。
心を落ち着かせ、志瑞を見据えて、口を開いた。
「……あのね、志瑞。聞いて欲しいことがあるの」
ここ半年でわかったこと。
七世飛鳥はやはり、裏社会には向いてない。
魔術は付け焼き刃程度に使えるようになったけど、戦闘センスはからきしで。戦術とか上手く組み立てられないから、愚直に突撃するしか能がない。
腹芸、諜報だって無理。嘘をつくのは苦手だからどうしても顔に出るし、婉曲な言い回しなんて思いつかない。戦略を考えるのだって全然上手くできない。
組織の運営なんかもっと駄目。きっとそこにやりがいを感じる人は少なくないけど、飛鳥は雁字搦めにされているようにしか感じられなくて、やりがいとかよりも重責に押し潰されそうになる。私らしくなくなって、いつか私が私を殺してしまう。
それを人は成長と呼ぶかもしれないけど、飛鳥には手の込んだ自殺としか思えない。
だから、どこまでいっても『七世飛鳥』は裏は向いてない。裏にいるべき人ではない。
「……」
志瑞は静かに、飛鳥の話に耳を傾けてくれている。
飛鳥は続けた。
でも、だからって『JoHN』に行かなきゃ良かったとか、依頼を受け始めるんじゃなかったとか、そんな後悔は全くしていない。
たしかに、『JoHN』に移籍せずに『軍』の庇護下にいたり、霧乃ちゃんの秘書という立場に甘んじていれば、今とは違った未来になっていた筈。
だけれど、飛鳥が『JoHN』に移籍する選択をしたからこそ、霧乃や識名、志瑞を始めとした色んな人に出会えた。
様々なもの、人に触れて、色々な経験をした。
その過程で、『恩人』にどこまでもついて行くという決意は、朧気で生半可だったその心は、より一層強まって、具体的な形ができてきた。
……すっごい考えたよ。悩みまくった。色んな人から色んな話を聞いたんだ。数ヶ月近くかかった、なんて言ったら笑えちゃうよね。
それでも私、やっと決めた。決めることが出来た。
『JoHN』は解散する。
でもただ解散する訳じゃなくて、笑ってさよならしたいの。
生き残った皆が前を向いて一歩ずつでも踏み出せるように背中を押したい。
殉職した皆が安らかに眠れるように見送りたい。
そして飛鳥は、『恩人』のところに愚直に、下手くそでも真っ直ぐに突き進みたい。
それが飛鳥なりに考えた『納得できる結末』だった。
「……それが飛鳥ちゃん、君の選択なんだね」
「悪い子かな?私、霧乃ちゃんの家が代々引き継いできたものを終わらせるんだ」
「別に。この状況から正しく終われるなら僥倖。むしろ大逆転勝利だと思うよ?」
「そっか」
志瑞が飛鳥を責めないでくれる、それどころか飛鳥の選択を肯定してくれたことに嬉しく思いながらも、しかしここからが本番。
飛鳥は、『お願い』を始めた。
「でも、どうしよう。今の私じゃ、どうしても皆に報いることが出来ないや」
「……」
「だって、全然納得できないんだもん。なんで霧乃ちゃんが、皆が殺されなきゃいけなかったのってずっと考えちゃう。皆、こんな理不尽に燃やされて、殺されて、傷つけられていい人たちじゃなかったじゃん」
「……」
「これじゃあ笑ってさよならなんて無理だよ。ケジメをつけないと、霧乃ちゃんたちを弔うことも、私についてきてくれてる皆を送り出すことも出来ない」
「……」
「だからって私の実力で勝てる相手じゃないんだよ、アイツ。なんたってあの霧乃ちゃんが負けるんだから。……そして、今は無謀な敵討ちをしに行ける立場じゃないし、そもそも私は全てを背負って燃え尽きるつもりなんて無いから。誰も死なせたくない。絶対生き残りたい」
「……」
「お願い。志瑞……貴方の力、ううん、『気持ち』を貸してほしい!」
そう言って、飛鳥は深々と頭を下げた。
ただひたすら聞いてばかりで口を開くことのなかった彼は、飛鳥が頭を下げた後も考え込んでいるのか、嫌に痛い沈黙が流れた。
たった数瞬の時間が、途方もなく永い時間のように感じられる。
やがて、彼は結論を出したのか、すう、と息を吸う。
あまりもの緊張に手汗が出て、手も震える。ぎゅ、と強く目を瞑る。
まるで死刑を待つ囚人のような気分で飛鳥は志瑞の言葉を待ち、ついに回答。
「……さぁ?」
……相談する相手を間違えたっ!
がっくしと肩を落とす飛鳥に構わず、志瑞はなんて事ないようにコテンと首を傾げた。
「あのさぁ。『さぁ?』なんて他人事みたいな回答なんなの?こっちは大真面目に相談してるのに、ふざけてるわけ?」
あまりにも腹立たしい回答に、思わず志瑞の頬を抓る。
志瑞は「いひゃいいひゃい」と若干涙目になっていたが、飛鳥が抓るのを止めると、胡散臭い笑みではなくどこかあどけなさを感じる、少年らしい笑みが滲んでいた。
「うん、でもそっちのほうが飛鳥ちゃんらしいかな」
「はぁ……?」
「僕に遠慮とかしなくていいんだぜ?むしろ雑におねだりしてくれよ」
「……」
……もう、本当にこの人は、調子が狂う。
言われてみれば、たしかにその通りなのだ。
志瑞を『貴方』って呼んだり、頭下げて頼み込んだりしたことなかったか。
でも、でも、今回は死地に誘うわけだし……。普段の態度はすっごい失礼なんじゃ?
違う意味でぐるぐる考え込み始めた飛鳥の思考は、しかし志瑞の言葉で堰き止められることになった。
「それに、決めてるんだ。僕はいつだってもっとも弱い子の味方をする。……最初にも言ったでしょ?『君はしっかり守り抜く』って」
「……あ、」
思い出した。
まだ志瑞と初対面で、生理的に無理とか胡散臭いとかクーリングオフしたいとか考えてた飛鳥の嫌悪感など滲むどころか溢れていたに違いないのに、それでも彼がかけてくれた言葉。
『やあ、飛鳥ちゃん。君の噂は、霧乃ちゃんから予予聞いていたよ。僕は志瑞空。……僕は、いつだってもっとも弱い子の味方だからね。君はしっかり守り抜くよ。よろしくね』
いつだってそう。
彼ははぐらかすことこそあれど決して嘘をつかないし、飛鳥と一緒に過ごす時間を誰よりも喜んでくれる人だ。
それに気づいたから、飛鳥は志瑞を信頼できる護衛だと見直した。
「だから、僕は君の味方だ。頼ってくれていいよ、飛鳥ちゃん」
志瑞のその言葉に、飛鳥はゆっくりと頷いた。
「うん。頼りにしてるわ、志瑞」
本当、志瑞と会えて良かった。
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