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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部五章『復讐者』
46/67

5-4

こんにちは。

割とここは難産でした。

夜も更けた頃。

飛鳥はベッドに横たわって一人、考え込んでいた。


「……」


昼頃に予約で受信した霧乃の遺言。

飛鳥が最後まで読み終えた後もたしかに残り続けているチャットは、無機質なはずなのに、どこか熱を帯びているように感じた。

二の句を継げることもなく霧乃の最期の言葉を咀嚼している飛鳥を、現海はただ黙って見守っていた。

飛鳥が読み終えた後も特に反応を求めることをしなかった彼には感謝してもし足りない。

あんなことを願われても、その愛情に飛鳥がどう返せば良いのか、未だに悩んでいるのだから。


「普通の女の子かぁ……」


ぽつり、そう呟いた。

飛鳥一人きりの部屋に虚しく響いたその言葉に、また飛鳥自身はぐるぐると考え込んでしまう。


ヒトとは違う遺伝子……細胞?分子?でできた身体だし、表社会で生きた試しもない。『普通』とはとことんかけ離れている半生だ。ましてや今は、『JoHN』全権代行を代理で務めている。


今更『普通』に生きられるはずがない。

その方法があったとして、飛鳥にはこの現状を打破するだけの実力もないことは、自分が一番理解できていた。


ふと、着信の通知が鳴る。

識名からだ。

識名は霧乃の死後、据わった目で、飛鳥に焦点を合わせる感じでもなくただ遠くを見て、「ちょっと用事が出来たさかい、一旦消えるで。すまんわ」とどこかへ行ってしまってから連絡がつかずにいた。

今、飛鳥に連絡が入るということは、その『用事』が終わったのだろうか?


飛鳥が着信に応じると、ホログラムが出現する。


『久しぶりやなぁ、七世はん」

「そうですね」

『えらい湿気た面しとるやん。全然似合わへんで?』


飛鳥の顔を見るなりギョッとしてそう漏らす識名に、「笑えるわけないじゃないですか」と淡々と返した。

識名は少し考え込んで「どないしたんや」と神妙な顔で尋ねてきた。

霧乃からの遺言で悩んでいるのが八割だが、はて、素直に答えていいものか。

識名は彼女から言葉を受け取っているのだろうか……。

飛鳥は暫く悩み、誤魔化せそうにもないと口を開いた。


「……霧乃ちゃんから、遺言を受け取りまして」

「へぇ、何て言われたん?」

「『普通の女の子』らしくいられた、ありがとう、『普通の女の子』としての幸せを……みたいな感じです」

「ほぉん」


飛鳥の言葉に識名は相槌を打っていたが、やがてキョトンとした顔で首を傾げた。


「そんで?七世は何に悩んどんの?」

「『普通の女の子』とか言われても、私って普通じゃないですよね。どう応えたらいいんでしょうか」


飛鳥の返答に識名はこれまたウンウンと頷いて、長考し、やがて眉を下げて肩を竦めた。


『……アホかいな?』

「アホって……あのですね?こっちは真面目な相談なんですけど、」

『真面目も何も、七世の言うとることはツッコミどころ満載すぎやねん。そんな答えのない問題でうんうん悩んで時間浪費するぐらいなら、パチンコの方がまだ生産性あるで?せやから、アホかいなって言ったんや』

「……」


飛鳥は激怒した。

人の死ぬほど真面目な相談を、鼻くそほじりながらー実際はそんなことないのだが、飛鳥にはその幻覚が垣間見えたー適当に聞き流しては罵倒する、目前の情報屋を決して許さないと心に誓った。

額に青筋を立てる中、識名はジト目で『アホくさ。何が悲しゅうてこんな相談に付き合わなあかんねん』とブツクサ文句を言ってから、『あのなぁ。一個ずつ丁寧に理由教えたるわ』と切り出した。


『まず一つ。『普通』ってなんや?平均値か?中央値か?そんな訳あらへんやろ。人によって定義がちゃうのに、何をうじうじ悩んどんねん』

「でも、私は、」

『自分はバケモンでーとか何とか?それこそどうでもええわ』

「は、」

『ええか、七世はん。体がバケモンでも人間臭いやつなんかいくらでもいるで?その逆、人間でも心がバケモンみたいなやつもおるやんな。調とか調とか、あと調とか。……結論、普通とか以前にアンタがアンタなりに幸せになったら、それだけで霧乃は本望とちゃうの?知らへんけど』

「……」


識名の言葉に、飛鳥は絶句した。

識名は続ける。


『二つ目。所詮は死人の言葉や。なんでもかんでも真面目に受け取って背負い込む必要あらへん』

「ちょっと、それはさすがに酷くないですか?」

『酷いのはどっちやねん。勝手に自己満足で死んで、遺される身になってみぃ。心底気分が悪いわ。なんやねん、選ばれる選ばれへんって。選ばれへんなら選べばええだけやんか。どいつもこいつもアホばっかで嫌なるで』

「……」


返す言葉もなかった。

飛鳥の無言を是ととったか否ととったか、識名は更に言葉を継いだ。


『上司命令でも友達からの頼み事でも、当人が勝手に死んださかい、従う義理はあらへん。せやから、うちは霧乃からの頼み事は好き勝手解釈して、好きなように動くで。『勝手』を先にされたんはこっちやからな。これでおあいこってことや』

「……」


……なんと無責任で、なんと身勝手な言葉なんだ。

けれど、一見情がないように感じる識名のそれは、飛鳥の凍えて悴んでいた心を温めてくれるような気がした。


すう、はあ、と深呼吸してみる。肺に新鮮な空気が久々に入ったように感じる。今までモノクロだった景色がほんのりと色づいて見えた。


『な?これで納得したやろ。さっきまでの七世はんは死人の言葉に勝手に呪われかけてる『アホ』やって』

「……アホではないです。バカ真面目に悩みすぎただけです」

『……ちょびっとは調子戻ったやんか。ええこっちゃ』


識名が安堵したように微笑んだ。

識名のそういった表情は霧乃と似た印象を抱いた。

親友だから似たのか、類は友を呼んだのか。

その答えを確かめることなく、飛鳥は口を開く。


「ところで識名さん。連絡してきたのは、やっぱり用事が終わったから?」

『せや。なんとか無事終われたで』

「ちなみにどういった用事だったんですか?」


飛鳥の質問に識名が一瞬固まった。

聞かない方が良かったかな?


「あ、その。答えたくないならそれで、」

『いや』


質問を撤回しようとした飛鳥の言葉を遮った識名は、また真剣な顔に戻って飛鳥を真っ直ぐ見つめた。


『教えてもええ。ええんやけど……その前にウチに聞かせて欲しいことがあるんや。その答え次第で、教えるかどうか決めるで』

「……興味本位とか、そんな軽い理由で答えられることではないってことですか?」

『概ねその通りや。それどころか、適当に教えたら、どこぞの誰かさんに釘を刺されてまう』

「ああ、なるほど」


飛鳥に情報提供をすることで志瑞がどうして怒るのかはよく分からないが、飛鳥が考えたところで分かるわけもないので適当に流すことにした。


「質問、どうぞ」と飛鳥が促すと、識名は頷いて口を開いた。


『これからどないするん?』

「……」


ついさっきまで悩んでいたことだ。なんならまだ結論を出していない。

飛鳥はもう一度考えてみることにした。


霧乃は『普通の女の子』としての幸せを手に入れて欲しい、享受してほしいと願った。

だが、飛鳥は元から『普通』ではないし、今から『普通』になろうにも色んな障害がある。

『恩人』の行方を探りたい。

その『彼』と再会したら志瑞、他の構成員との関係性はどうするのかという問題がある。ついでに『JoHN』の体制についても色々と見直しが必要になるだろう。

ああ、考えるだけで窮屈だ。

檻の中で枷を嵌められているような気分になる。

全て放り出して『彼』の元へ駆けつけたいと思っているのに、『全権代行』という立場がどこまでも邪魔をする。

やっぱり、私に『全権代行』は似合わない。


……けれど、ああ、そうだ。

『JoHN』を続けるにしても、解散するにしても、今回殉職した霧乃ちゃんたちの為に、生きとし生ける全ての構成員の為に、私自身の為に、今やらなきゃいけないことが一つだけある。

それは到底、今の私にはできないことだけど……出来るできないじゃなくて、やらないと誰も『正しく』終われないことなのだ。


「ケジメをつけます。将来の話はそれからです」

『……独力では出来ひんのやない?』

「そうですね」


飛鳥の答えに、識名がそう尋ねる。

飛鳥は頷いた後、「でも」と続けた。


「理不尽なことに釘を刺してくれる……『負け戦なら百戦錬磨』と謳われる、そんな護衛がいますから、私は独りじゃありません」


飛鳥の言葉に目を丸くした識名だったが、やがてくつくつと笑い始めた。


『あかん、わろてまう……他力本願やんか……ふ、ふふ』

「……あの?」

『スマンて。謝るからそんなジト目で見んといて?余計おもろ……ホンマごめんやん』


笑いながらも謝る識名に、飛鳥は握り拳を解く。肩の力がほんの少し抜けた。

全く。人が真剣に話してるのに、茶化してくれちゃって。


「もういいです。とにかく、それで?私の答えには満足して貰えたんですか?」

『一応言うと、ギリ不合格や』

「ええ……」


しかも、笑われた末になんか不合格にされたし……。


余計ブスくれて通話を切ろうとした飛鳥に識名は『まあまあ、話は最後まで聞くもんやで?』と宥める。


『ちゃうねん。合格っちゃ合格やで。せやけど一つ警告させてえな。ケジメをつけよう思う分には自由や。でもな、余計に大切な人を失う羽目にならんように気いつけや』

「……それは、もちろん」

『ちゃんと分かっとるみたいで何よりや。ほな、質問に答えるで』


識名はそう前置いてから『なんの用事だったのか』を答えた。


『『評議会』の全権代行の情報を必死こいて探ってたんや。『国際魔術連合』のデータベースを参照したんやけど、なかなかてこずったでぇ?なんや知らんけど、アホみたいにセキュリティガッチガチやったからな。うちの認証レベルが足らんくて、クラッキングやってもうたわ。『協会』の協力もあってなんとか突破したったで』

「識名さんですら認証レベルが足りない???」


『国際魔術連合』幹部なのに閲覧にクラッキングが必要なほどとは、よほど画したい情報なのだろうか?

飛鳥の疑問はさておいて、識名の言葉は続く。


『でも、おかげで収穫はあったで。全権代行は桜乃為心。……『国際魔術連合』幹部候補生の一人やな』

「桜乃さんが……どうして……」

『素性調査が杜撰やったんか敢えてスキップしたんかはどうでもええけど、うちの上は全く信用ならん腐ったミカンやということは理解できたわ。ほら、収穫やろ?』

「上手いこと言ってる場合ですか」


軽口を叩きつつも、識名がやるせなさを感じていることを感じ取った飛鳥は続きを促した。

識名も、特に感傷に浸るでもなく続けた。


『そんでな。もっと厄介なことにコイツ、どうも『決意』所有者らしいわ。『決意』所有者の子孫が『決意』所有者に殺されるとか皮肉やな。これで、霧乃が負けた理由がようわかったけど……それでも志瑞は挑むんやろか?』

「……」


『決意』。意志の力で魔術や現実を塗り替える『最強』の『異常性』。

霧乃の先祖の城月怜は、かつて『決意』を使って世界を救ったと聞く。霧乃は詳細を黙して語らなかったので、それ以上を飛鳥は知らないが。


なるほど、たしかにそれは志瑞も勝てない……否、『負ける』かもしれない。

それを度外視しても、志瑞も霧乃の指示に従う必要が無い以上、飛鳥の護衛を続ける意味もない。

……そもそも、まだここ『JoHN』にいてくれているのか?


「頼んでみます。情報、ありがとうございました」


飛鳥はそう言って通信を切り、部屋を飛び出した。

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