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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部五章『復讐者』
45/67

5-3

こんにちは。

ここから飛鳥視点に戻ります。

「すごく考えたよ。結論を出すまでに一週間かかっちゃったし、全然眠れなかったけれど……それでも、決めた」

「永遠なんてない。思い通りにはいかない。今日も屑がのさばってる。けれど、屑ばっかりじゃない。この世界を少しでもマシにしようとしてる人は何だかんだいる」

「……」

「だからオレは、そういう奴くらい報われる、そんな『ちょっとはマシな世界』にしたい。だからオレは『全権代行』を引き継ぐことにした」


まあ実績全然なくて、認めて貰えるまでにすごく時間かかったけどね。

なんて、現海は苦笑いを浮かべた。

いや、笑ってこそいるが、自身のやるせなさ、無力感が顔に滲んでいた。


「やっと全権代行になれたと思ったら、早速、お人好しが一人馬鹿を見た。いつもこんなんだ。だからこの世界は、現実はクソゲーなんだよ。本当に嫌気がさす」


そのお人好しが誰のことを指すのか、飛鳥には容易に理解できた。城月霧乃のことだろう。


「けど、もう揺らがない。こんな世界でも、そーちゃんがいたから生きていたいって思えたんだ。オレの地獄の中で、そーちゃんがいつでも絶えずオレの『心臓』でいてくれるから、オレは歩みを止めないよ」


現海の自分語りはそこで終わりだった。

飛鳥は、凄いと思った。

『そーちゃん』もそうだけど、立派にその想いを繋いでいる現海さんだって凄い。


「……私なんかに、霧乃ちゃんの想いをちゃんと引き継げるんでしょうか……」

「何も、引き継ぐだけが形じゃないと思うよ」


飛鳥がぽつりと漏らした弱音に、現海はそう返した。


「オレが『全権代行』を引き継がなくたって、そーちゃんは全然良かったと思うんだ。そーちゃんも中々凄惨な過去があったらしいし、裏に行って欲しくない気持ちも本物だったんじゃないかな?幸せになってくれればそれでいい、みたいな」

「そうなんですか?」

「うん。……記録によると、『教会』に幼少期からモルモットにされて、平穏に生活してると信じていた兄は『教会』の少年兵、さらに『軍』との抗争で最終兵器にされて暴走、その後討伐されて殉職。そーちゃんこそよく世界を呪わなかったなって思うよね」

「ええ……」

「むしろオレが悲観的すぎたね。不幸だ不幸だって嘆くのはいいけど、だからって些細な幸せを受け取らないのは良くない。これ大事だから。七世さんもそんなことしてる阿呆がいたらそう諭してあげるんだよ?」

「あ、はい」


やけに神妙な顔で飛鳥にそう忠告する現海に、そんな奴いたっけなぁ、と首を傾げつつも了承した。


しかし、そうなると。


「……そもそも、霧乃ちゃんは私にどうして欲しいんでしょうか……」


飛鳥がそう頭を悩ませていると、脳内で通知音が響いた。

『ITレンズ』にチャットが入った印だ。

そういえば、仕事をするのに通知が煩わしくて、通知音だけ流れるようにしたっけ。


「ごめんなさい、現海さん。ちょっとチャット確認しますね」


そう一言断ってチャットを開いた飛鳥は、目を見開いた。


「……え?」


思わず声を漏らした飛鳥に現海が心配そうに「どうしたの?」と首を傾げているが、飛鳥にとってはそれどころではない。

なんたってチャットの差出人は霧乃。それも送信時刻を見るに、霧乃が死ぬ前夜の予約送信だ。

慌ててそのチャットを開くと、霧乃のホログラムが出現して話し始める。


★★★


このチャットを開いているということは、私は既にこの世に居ないのだな。


穿ち過ぎではない。最近どこか不穏な雰囲気を感じていて、明日それが爆発するように感じている。

一応全力で抗うつもりではあるが……調が言うような『賽子で七を出せる』人ではないのでな。念の為、一番背負い込んでしまいそうな飛鳥にチャットを予約で送ることにした。


先に謝ろう。すまなかった。

突然、あまりもの重責を担わせてしまう。私に何かあった時には飛鳥、君に全権代行代理を託すという通達をしてしまったが、君に相談すべきだと今更ながら思った。

勿論、ずっと続ける必要などない。栄えるも滅びるも好きにしたまえ。但し、解散するなら、生存している全構成員が生活に困らないようにな。大丈夫、『軍』や『協会』が助けてくれるさ。


あと、そうだな。

飛鳥。私の秘書になってくれてありがとう。

『彼』を探すためだったのは重々理解している。私との関係も打算が入り交じっていたろう。

けれど、私にとってはかけがえのない友人だ。


……そんな友人に、一つ、昔話をしよう。

何、ただの失敗談さ。


実は、私は一族の中では落ちこぼれだったんだ。

はは、ビックリしただろ。

飛鳥は私のこと、どこか完璧超人と誤解して神聖視してくれているからな。


君も知っての通り、我が家は英雄、城月怜が先祖で、代々『JoHN』全権代行を引き継ぐエリート一家さ。そんな一族には、私が物心ついた頃に亡くなった曽祖父からの遺言があった。


『神がまた混沌に堕とすから、世界を救う』のだと。


それが理由で私やきょうだいは幼少期から厳しい鍛錬を受けていたが、他の男兄弟にも親戚にも、私はてんでかなわなかった。

負けず嫌いでな、『せめて自分には負けたくない』という意地から必死で追い縋ったが、万年最下位の席を温め、落ちこぼれのレッテルを貼られ続けたものさ。

父もきょうだいも私への興味は失せた。

ただ、母だけが、ずっと泣きそうな顔で私を睨みつけていた。


そんな私にも親友ができた。

どこか達観している調、凡人だけど何とか隣に並ぼうと並ぶ、似たもの同士な佳糸。私を認めてくれた悠。

生まれて初めての友人だ。私の心をとても温めてくれた。


……だから、調に裏切られたって、私は調を憎むことなどできなかった。


佳糸のように憎めたら良かった。

悠のように諦められたら良かった。

けれど、私は調の親友をやめられなかった。


……そんな調から、頼まれたのさ。


『賽子で七を出したい。その器に私たちはなれないけれど、それが出来る存在を見出して導くことならできるはず。命懸けで、協力して欲しい』


折角親友が頼んでくれたんだ。

私は了承したよ。


そのためにまず『JoHN』を取り戻そうと思案していたら、志瑞が加入してきた。

一目で理解したさ。彼こそがその器だと。

そして彼に色んなメリットを提示して頼み込んで、成功した。


……色々落ち着いた頃、遺品整理をしたよ。

そして母の日記を見て、母の真意を知った。


私には諦めて欲しかったらしい。

そうすれば、私に女の子らしい恰好とか、普通の子のように学校に通ったりとか、色々『母親』としてしてやれたのに、と。

頑張らなくていい。諦めていい。

もう嫌だって言ってほしい。

世界なんかどうでもいいから、私を連れ出して、ひもじい思いも惨めな思いもさせないように沢山働いて、普通に生きていたっていい、生きてくれるだけでいいって教えて、女の子らしくかわいい服とか化粧とか髪の毛を伸ばしてみたりとか。

そういう、普通の『母娘』でいたかったのだと。


泣きながら睨んでいたのはそういう意味だったのさ。


……それを知った後の私にとって、飛鳥との関係は心地よいものだった。純粋で、明るくて、前向きで、負けず嫌い。きっと、『普通の女の子』ってこういうものだと思ったよ。

親不孝な私だけど、飛鳥と話している時だけは『普通の女の子』でいられたように思う。

だから、本当にありがとう。


……さて。

きっと、明日私は死ぬ。

仕方ない。調が『次のババは霧乃』だと言うのなら、それが『賽子で七を出す』……城月一族の悲願である『神殺し』に繋がるのだろうし。


勿論、未練は沢山ある。

佳糸の憎悪を晴らしてあげられなかった。悠はこれからだというのに、全権代行の先達として支えることが出来なかった。志瑞の心はどうだろうな。平気なフリをしているが、その実はどうしようもなく脆い根無し草ではなかろうか?


飛鳥は真面目さんだから、かなりの重責に心が折れかけているかもしれない。

なんにせよ、運命が『普通の女の子』であることを拒むだろう。茨の道だ。

けれど、私は、それでも、飛鳥には『普通の女の子』として、笑って生きて欲しい。そう切に願う。


……そろそろ時間か。

では、いってくるよ。飛鳥ちゃん。


大好きだよ』

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