4−6
こんにちは。
昨日ポケモンZAクリアしました。とても面白かったです。
では、どうぞ。
現海との再会の数日後。
朝起きて早々に御厨からまた呼び出された飛鳥は、ひどく憂鬱だった。
魔術の勉強を始めてちょうど一週間。御厨から告知されていたことも考えると、絶対魔術のテストだろうと思ったからだ。
実技はまだまだ未熟だ。せめて筆記だけでもと死に物狂いで頭に叩き込んだが、初手で飛鳥を殺しかけた情緒不安定な彼女がどう試験をするつもりか、全く予想がつかない。
試験と称して無理難題を押し付けて殺そうという算段だろうか。
……正直な話、全力で逃げちゃいたい。ゲロ吐きそう。
けど、逃げたら契約違反で、『恩人』の情報を教えてもらえなくなる……。
勇気を振り絞って、恐る恐る執務室へと足を踏み入れた飛鳥。
しかし、予想とは裏腹に『試験』は一向に始まる気配がなかった。
執務室で待ち構えていた御厨はこちらを一瞥して、「来たね。待ってたよ」と声をかけるや否や、チャットで画像データを送りつけてきた。
試験問題かと思いきや、『魔術組織』についてのまとめであった。
「え、っと。これは?」
「魔術組織について、秘書をしてた君ならわかっているとは思うけど復習だよ。『魔術史』を語るうえでは大事な前提知識になるからね」
戸惑う飛鳥に淡々と答えてみせた御厨。
違う、そうだけどそうじゃない。魔術の試験はどうしたって聞きたい……いや、忘却の彼方であってくれればテストしないで済むから良いけど……。
聞くべきか、聞いてしまえば藪蛇じゃないかと悶々悩む飛鳥を後目に、魔術組織の講義は始まってしまう。
「『軍』。世界最古、唯一政治に携わる魔術組織だね。現海くんが近い内に全権代行に就任する予定になっている。政治に関わるだけあって、お人好しが多いように思う。彼もお人好しだしね。その組織体質が決め手か、舞月財閥がスポンサーになっているのも大事なポイントだ」
「『協会』。今でこそ『軍』とは同盟関係だけど、昔は『教会』として『評議会』『御伽学院』と同盟を結び、『軍』と十年近く抗争を繰り広げていたとか。色々変遷を遂げてきた魔術組織だけど、だからこそ風通しは最も良いんじゃないかな」
「『JoHN』。百数年前に『軍』から独立する形で、『軍』『陰成室』を後ろ盾に設立された魔術組織。なんでも初代の全権代行……霧乃のご先祖サマは、『国際魔術連合』『軍』『協会』『陰成室』など名だたる魔術組織の全権代行と交友関係があったらしい。劇団『STELLA』の初代座長とも懇意にしていた。……ふふ。そんなに人を惹きつけていたなんて、霧乃の曾祖父さんはとても素敵な、魅力的な人だったんだろうね?」
「『陰成室』。魔術の知識の宝庫、学会の頂点。それ以上でも以下でもない」
「『評議会』。数年前に君の『恩人』くんが暴れたから機能停止しているね。もうそろそろ復活しそうな気もするけど……まあ、気にしなくて大丈夫だよ。どうせまたすぐ休業するし」
「『御伽学院』。『評議会』の同盟組織とは名ばかりで、本当は金魚のフンのようなものだよ。百数十年くらい前は品位ある組織として魔術師教育を担っていたらしいけど、現場で勝手に育ったり、天才がいたり、一般的な学校で魔術師の教育課程ができてから随分と落ちぶれたとか。『教会』と協力関係になっても、『協会』に生まれ変わった途端手のひら返し。『評議会』に縋って『JoHN』乗っ取りまでしたけど……うん。『這い寄る混沌』が釘を刺したからね。え?何で潰れた組織の解説なんかするのかって?……人の縁とか恨みって意外なところから生えてくるもんだし、背景を把握しといても損はしないと思うよ?」
御厨の説明を聞き流す。飛鳥も腐っても霧乃の秘書だ。それくらいは知っているし、今更教わる必要もない。
一部聞き捨てならないところもあったが……それよりもやはり、『魔術試験』をしないのか気になってそれどころではない。もはや、自分から切り出すか試している『罠』なのではとソワソワしてしまう。
だめだ。「さて、おさらい終わり。何か質問は?」って聞いてきた御厨さんの顔すら怖い。普通に微笑んでるはずなのに、今にも『消極的だな。死ね』と言われそう。何も内容が頭に入ってこない。
……ええい。迷うくらいなら言っちゃおう。テスト無しでもこのまま身が入らないのは嫌だし。テストがあってもなんとかなるっしょ!多分、きっと、メイビー。
やっと意を決して、飛鳥は挙手した。
「あの、御厨さん!」
「何?」
「魔術のテストってしないんでしょうか……っ?」
あ、絶対零度な視線だ。これ終わったかも。やっぱ言わなきゃよかった。『今更?』って言われるコースかもしれない。
悪い予感と被害妄想ばかり膨らむ飛鳥だったが、御厨は「あー、」と頬を少し掻いた。
「言ってなかったっけ。ごめんね……ソレ、合理的虚偽なんだよね」
「ふぁ?」
「いや、だって飛鳥ちゃんは魔力ないじゃん。魔術を覚えるだけならともかく、いざというときに使えるようにーとか無理な相談でしょ。私、そういう無駄なことはしない主義なの」
「……」
「まあ?魔術式を見て最適な行動を判断できるくらいの知恵は欲しいし、魔術の機序を知っていれば違うところに活かせるかもしれない。そういった意味で、課題を与えたんだけどね」
「『紅蓮』『稲光』を優先順位低めにしてたのは?」
「雷とか炎、君なら見てから回避は余裕でしょ?」
「……」
ナチュラルに人外と言われたけど、否定できない。
そもそも、魔術を使用しようにも出来ないことを最初から知ってたのにあの剣幕だったの?とドン引きしつつ、しかし少し反論したいことがあった。
「御厨さん。お言葉ですが、」
「うん?合理的虚偽が嫌だった?それとも見てから回避が難しいって話?」
「魔力なんてなくても魔術を使える場合がありますよね?」
「……は、」
先程まで余裕綽々といった態度の御厨は、飛鳥の言葉で硬直した。
未知故の反応か、既知故の反応か、飛鳥にはわからない。あまり接点がない人の心の機微を判断するには、彼女の人生経験はあまりにも浅すぎる。ましてや、飛鳥は数年しか生きていないし、御厨は『司書』……『陰成室』の全権代行。腹芸など散々やってきたはず。本心を隠す術など朝飯前。御厨が何を考えているかわからない、人の心がないように感じているのがその証左だろう。
だから、心理を暴くとか、そういった難しいことは考えずに飛鳥は話し続けた。
「聞きましたよ。なんでも百年前、『実現の魔女』?の『異常性』を魔術が上回った例があるー」
「誰から聞いた?」
飛鳥の言葉を御厨は遮る。
あの御厨が動揺したのか、と飛鳥は彼女の顔を窺い、すぐに後悔した。
目のハイライトがない。ひどくどんよりとして、狂気を孕んだような昏い瞳で、視線で射殺さんと飛鳥を睨みつけていた。殺気が室内を満たし、それに気圧されて息が詰まる。
飛鳥が答えたら、彼女は誰か人を殺しに行くのではないかと思うほどに深く、濃密な殺意が、飛鳥にその知識を授けた者に向けられていた。
絶対人を殺す目だよ、コレ。本当に危険なやつ。
「……え、っと、」
「誰から、聞いた?」
「現海さんです!」
殺人鬼(候補)に情報を与える訳には、と答えあぐねていた飛鳥だが、その殺気を自身に向けられてしまえばひとたまりもない。思わず正直に答えてしまった飛鳥に、「ああ、そう」と御厨はゆらゆら揺れながら返した。
『魔装』の魔術式が徐ろに展開され、彼女が手にするは釘バット。
……撲殺される……現海さん、売ってごめんなさい、逃げて!超逃げて!
そう祈る中、御厨の尋問には続きがあったらしく、御厨は再度口を開いた。
「……参考までに聞くけど。君はソレ聞いて、どう思った?」
「え、何いってんだコイツって思いました」
またしても飛鳥は即答した。
いや、本当に、現海さんには失礼だけどそう思ったのだ。
ここまできて根性論かよ!とひっぱたきたくなったものである。
飛鳥の返答に、御厨は一瞬呆けた顔をした後、一気にその重厚な殺気は消し飛んだ。
「ふ、ふふふ、ふふふふふ」
そして、なぜか、目にハイライトがないまま笑いだした。
え、なんかこわ……。今に始まったことでもないけど……。
飛鳥が引いていると、一頻り笑った御厨の瞳に徐々にハイライトが、正気が戻っていった。
「そう、そうだよ飛鳥ちゃん。覚悟なんかで異常性を超えたり魔力無しで魔術使えちゃったりする訳ないからね。根性論とか、現海くんには困っちゃうなぁ。ねえ?」
「ええ、まあ、はい……」
今度はいっそ気持ち悪いほどに満面の笑みで、猫なで声で飛鳥に擦り寄る御厨に、吐き気と気まずさを覚えつつも同意した。
……実は飛鳥、あくまで、現海から話を聞いた当初の感想を述べただけである。
それから昨日までの数日間、藁にも縋る思いで検証した結果、確かに魔力無しでも魔術は使えるという結論に達してしまったのだが、知らぬが仏だろう。何も言わないことにした。
めっちゃ集中してやっと『魔術』モドキができるだけ。隙だらけなので、まるで実戦には使えないが。
御厨はそんな内心を知ってか知らずか、
「そんな勘違いしないように、ちゃーんと、教えてあげるよ。『異常性』、魔術、そして最近蔓延ってる穢れた奇跡『過負荷』ってやつをね」
と提案したのだった。
評価、感想、ブックマークお願いします




