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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部四章『預言者』
36/67

4−4

こんにちは。

ポケモンZAが楽しすぎて執筆が進みません。

寝る暇も惜しんでゲームしてるからか眠たいし(苦笑)


それはさておき、続きです。どうぞ。

契約締結から一週間過ぎた。

幸先悪いというか、先が思いやられるというか、とにかく散々だった御厨との初対面とは裏腹に、飛鳥はビックリするくらい馴染んでいた。


というのも、御厨からの指示は『他の研究室を手伝ってこい』の一辺倒だ。

どういった意図でそのようにしているか、飛鳥には皆目見当もつかないが、お陰で御厨と顔を合わせる機会は全くなかった。

そして危惧されていた安全面だが、こちらもいっそ拍子抜けするほどに平和だった。

皆、生意気な後輩を相手するかのような態度で、時には厳しく、時には優しく接してくれる。害意、敵意、悪意、殺意は全く感じられず、被害も特になかった。人当たりがいい人ばかりだ。『司書』さんはぜひ見習って欲しい。切実に。

結果、『陰成室』本部では姿を見かけたら互いに挨拶し、そのまま世間話を軽くするまでの仲になった。

平和も平和。徒然と研究の手伝い……というか、不要な書類の破棄、荷物の運搬、伝言といった雑用を熟すだけの毎日である。


……もっとも、裏を返せば、御厨と接する機会が皆無だったので『恩人』について何一つ収穫がないということと同義なのだが。

平の研究員からの情報に期待したが、どうも箝口令が敷かれているらしく、その話題になると皆が途端に口が固くなるのだ。

本当に歯痒い。それに何も変化や進展がなくて退屈。


パチンコしたいなぁ。誰でも出来るような雑用なんかより、『恩人』探しの資金稼ぎでパチンコしたほうが百倍マシ。


あまりにも暇だからロクでもない思考が浮かんでは抑える。悲しいかな、新央市にパチンコはないらしかった。


そんなことを考えていたからだろうか。

今日は、御厨の執務室に行くようにと指示があった。

ついに御厨との仕事。まだ殺されかけた記憶は鮮明で、ふと思い出しては手が震える。

パチンコの禁断症状とかではない。ないったらない。


というか、どういう顔で執務室に入ればいいんだろう?

冗談か本気か定かじゃないけど、私を殺しかけた人なんだけど。志瑞が庇ってくれてなかったら本気で死んでたかもなんだけど。

あー、ゲロ吐きそう。


憂鬱ながら重い足を引き摺って、ようやっと執務室前に到着した飛鳥は、はああああ、と重く息を吐き出す。

うん。ポジティブ、楽観主義なのが私の長所だ。私はオプティミストだ。ウジウジしてる場合じゃない。ガナビーオーケーってやつだ。

何度もそう言い聞かせること数分。飛鳥は意を決してキッと扉を睨めつけ、そして拳を作りノックする。


「失礼します」

「ああ、飛鳥ちゃん。待ってたよ。数分も扉の前で何を悩んでたの?」


入って早々、御厨にそう指摘された。


誰のせいだと思ってるんだろうか。

というか、見えてたの!?


腹立たしいやら恥ずかしいやらで顔が暑い。

そんな心境は何処吹く風、御厨は「まあまあ、そこにかけなよ」と執務机前の、事務用の椅子へ飛鳥を座らせた。キャスター付きの、グルグル回るタイプの椅子だ。

飛鳥が座ったのを確認して自席へ戻ると、彼女は口を開いた。


「さて。ここ一週間過ごしてみて、どうだったかな?」

「……えっと、」

「周りの皆が良い雰囲気だったから何とか馴染めた。けれど、研究内容がてんで分からないから雑用しか出来ない。君は優秀だからその程度の仕事なんかすぐ終わってしまう。結果、退屈で退屈で仕方ない。そんな感じでしょ」

「……」


図星だった。

思わず飛鳥は黙り込んだ。

だが、御厨の言葉は続く。


「研究オタクな部下達に雑談をしても、些細なことで直ぐ研究内容のマシンガントークが始まるから会話がつまらない。志瑞空を探しても何故か彼は見つからない。これは彼に別に仕事を振ってるからだけど……まあ、彼はなかなか多忙だと思うよ?」

「キッショ。なんで分かるんです?」


思わず口をついて出た暴言に、飛鳥はあっと口を塞ぐ。

しかし覆水盆に返らず、後の祭り。

御厨はニヨニヨして「ふふ、当たったねぇ」と悪戯が成功したように笑う。見ててイライラしてくる、人を小馬鹿にした笑い方だ。つくづく性格が悪い。『人の不幸は蜜の味』とか本当に思っていそうだ。


「性格悪いですね」

「ひどい。毎年通知表に、『自信がおありではっきりしていらして、世渡りにたけていらっしゃる。悪意はおありにならないでしょうけれど合理的なことに徹していらっしゃる。ほかの方にお聞きになったほうが宜しいでしょう』と書かれていたんだよ?私」

「遠回しにディスられてません?」

「ちなみに、お母さんは『皆お困りでしたのね』って返してたなぁ」

「家族にも嫌われてるじゃないですか」

「半分冗談はおいといて」

「半分冗談!?半分ってどこ!?」

「むう。話進まないよ?」

「御厨さんのせいなんですけど……!やっぱり性格悪いですよ!」

「いやあ、それほどでも」

「今までの流れ全否定された!褒めてないってば!」


……命令される前からもうどっと疲れた。

げんなりした表情の飛鳥に、「なんか疲れてるね。喉乾いたかな?これ飲む?」と、黄色っぽい飲み物が差し出される。


「……これは?」

「紅茶だよ」

「変なもの入ってません?」

「勿論。純度100パーセント」

「……じゃあ、いただきます」


そう言ってグラスを手に取り、喉を潤す為、半ばヤケでグッと一気飲みー


「ゲっほ!?」


できなかった。

酸っぱすぎ!何これ!?というかまた嘘つかれた!


噎せて咳が止まらない飛鳥の正面では、御厨が「あっはははははははははは!!!」とまたもや大爆笑。再放送か?再放送かもしれない。


やっと咳が収まった飛鳥が「嘘つき!全然紅茶じゃないんですけど!?」と抗議したが、御厨は「ちっちっち、」と指を振った。


「ところがどっこい、全然嘘じゃないんだよ?」

「はあ?じゃあコレは、」

「純度100パーセント。その言葉に違わず、お酢が100パーセントのレモンティーなんだ!」

「せめてレモンであれよ!!!」


飛鳥の絶叫にまたもや腹を抱えて笑う御厨。


「笑ってないで、本題早く入ってください!」

「それもそうだね」

「急に落ち着いた!?」


本当に情緒どうなってんの!?

急に真顔になった御厨に飛鳥はぎょっと目を剥いた。

御厨は続ける。


「先週と全く同じミス。本当にどうしようもないやつだねぇ。とんだマヌケさんだ」

「う、」

「魔術はできないからって何も学ぶ意欲がない。それは佳糸にけちょんけちょんにされても、志瑞空に助けられても、現海くんに窘められても、霧乃が忙殺されていても変わらない。何でかな?『恩人』の力になりたいなら寧ろ積極的に取り組んで然るべきじゃない?目標を達成するなら魔術が一番手っ取り早いまであるのに」

「えっと、」

「監視されてる?許可が降りない?本当に覚悟できてる人は、そんなこと知ったこっちゃないとばかりに足掻くんだよ。昔、凡人だったのに血のにじむような努力を積み重ねて『最強』に並んだ人を私は知ってる。どうしようもなく不幸でも、必死こいて惨めに這いつくばって生きてきた人だって知ってる。それに比べたら、君のその覚悟は綿飴くらい軽い。こんなんで『恩人』を支えるとか片腹痛いね。『彼』のお荷物にしかならないよ」

「……」


あまりにもボロクソにド正論を火の玉ストレートでぶつけられて、飛鳥の心はボロボロだ。本当にごもっともである。ぐうの音も出ない。

『恩人』が男性と分かったことなど本当にどうでも良いくらいだ。

御厨の口撃は続いた。


「まあ、私は別に無知無能でも良かったよ?そんな奴がヘラヘラと霧乃や佳糸や現海くんたちの近くにいて甘えてんのは憎たらしいけど。強いていえば、有能な敵より無能な味方、無能で消極的な味方より無能で積極的な味方のほうが厄介だから。潰しといた方が後々楽かなぁ、なんて。どう思う?」

「……なんか、その、ゴメンナサイ」


いたたまれなくなった飛鳥が謝罪を口にした。

御厨は「別に謝罪なんか求めてないんだけどなー。謝るくらいなら最初からちゃんと頑張れって感じ」と口を尖らせるもすぐに「けどね」と苦汁を飲んだように顔を顰めた。


「最近になって知ったことだけど。本当に癪なことに、どうやら君が無知無能のままだと、どうしても私のセカンドミッションは達成できないらしい」

「セカンドミッション?」

「それどころかファーストミッションも怪しいんだって。急がば回れってことだろうね。あーあ、本当に面倒臭いな、コレ。出来ることなら燃えるゴミの日に捨てちゃいたい」


セカンドミッションとは何なのか。よく分からないままオウム返しした飛鳥に構わず、本当に気怠そうに御厨はそう話す。

そして、またもや急に、彼女の表情は切り替わった。

感情の動きを感じさせない真顔から、人の良さそうなー今となっては胡散臭い笑顔に。


「と、いうわけで。はい、コレ」


彼女の言葉と同時に、飛鳥の視界の端に通知が流れる。御厨からのチャットだ。画像と動画が何通か送られてきている。


「なんですか?」

「宿題。魔術についてまとめてみたからちゃんと見といて」

「はぁ、」


そう言われてデータを確認すると、簡潔にまとめられている。飛鳥が聞きかじったことがある魔術ばかり並んでいるが、実際にはもっと多くの魔術があるんじゃないだろうか?


「馬鹿みたいに沢山知識を詰め込まなくても裏では生きていける。実際、魔術についてしっかり習ってきた人と、魔術を独学で要所だけ抑えて体で覚えてきた人とで生存率は変わらないからね。結局はセンスと『覚悟』だよ」


飛鳥の胸中を読んだみたいにそう言われた。

そんなに分かりやすいだろうか……。


「来週テストするよ。どんなテストかは教えないから、心して勉強してきてね」

「えっ」

「はい、じゃあ私はこれ以上一切質問受け付けないから。他の誰かに聞くなとは言わないけど、君と違って研究員は忙しいから。そのへん考えて質問してね」

「えっ」

「じゃ、要件はそれだけ。帰った帰った。しっしっ」


御厨は飛鳥をひょいと持ち上げ、扉の外に締め出した。

廊下でぽつんと一人残された。


「ええ……」


飛鳥はただ呆然と、画像と執務室の扉を見比べるしかなかった。

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