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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部四章『預言者』
35/67

4−3

こんにちは。

ハロウィンも近いですね。私は仕事しか予定がありませんが()


続きです。どうぞ

覚えのない条文を見つけて数分後。

戻ってくるなり「お待たせ。ちょっとついてきて」と話す御厨に、飛鳥は問い詰めずにはいられなかった。


「ちょっと待ってください!なんですか、この七条は!尾行ってどういうことですか?誰かが私を尾けてたってことですか!?そもそも、こんなの書面には何処にも、」

「ちゃんと忠実に指示に従ってくれたんだね。ありがとう。その調子だよ」

「人の話聞いてます?」


青筋をビキビキと立てて怒り心頭の飛鳥に、御厨は面倒臭そうに……否、面倒臭い、げんなりした表情を浮かべた。


「聞いてるよ。だから褒めてるんだ。分かったらそんな愚問くらい考えてみなよ」

「えっ」


先程の態度と大きく違い、飛鳥は戸惑いを隠せなかった。

御厨は飛鳥を値踏みするように、舐めるような視線を送っている。圧倒的上位者から見られている圧迫感。殺気は篭っていないまでも濃密な悪意、害意に窒息しそうだった。

そうと思いきや、唐突にパッと表情が華やいだ。


「……なんちゃって」

「……は、」

「ふふ、冗談だよ。ごめんね?だから、そんなに怯えた顔しないで。演技だからね」


そう言っておどけた御厨に、飛鳥は今まで吸えてなかった空気がやっと肺に入ってきたような感触がしていた。

「は、はは。冗談ですか、そうですか……」と力無く笑うしかなかった。

御厨は続けた。


「それで、ええと。ああ、まず条文に見覚えがない、だったかな?」

「え、あ、はい。そうなんです」

「でも、元々書面にもあるよ。君の確認不足じゃない?」


そう言って差し出された書面。数分前に署名したばかりの正真正銘の原本だ。

そして、表面は飛鳥が見た通り六条まで書いてある。

勿論、六条の下に飛鳥が署名済みだが。


「あ、」


よく見たら、すごい小さい字で『裏面に続く』って書いてある!

そんな詐欺広告みたいな……と思ったが、それぐらい強かでないと、魔術組織の長など務まらないのだろう。

現海さんとか、霧乃ちゃんとかもその辺しっかりしてるイメージだし。うわ、そう思うといくら緊張しててもこんな初歩的なミスした私って……。

穴があったら入りたい。

羞恥心でその場から逃げてしまいたかったが、すんでのところで堪えて裏面を確認する。たしかに七条があった。


「霧乃ちゃんからは優秀な秘書と聞いていたけど、緊張で確認しそびれたかな?」


御厨はそう話すが、飛鳥には最早煽っているようにしか聞こえなかった。

項垂れる飛鳥に構わず、御厨の説明は続いた。


「あと、尾行されてたのか、だったかな。それはねぇ、」


懐からピックを取り出し、まるでダーツを投げるような構えをとった御厨に、飛鳥は思わず身構える。

御厨は明後日の方向を狙おうとしていたが、飛鳥のそれを見て悪戯を思いついたように哂い、標的を飛鳥に切り替えた。


「え」


まさかの蛮行にぎょっと目を剥く飛鳥だが、御厨は「こっちを狙ってみるのもまた一興だね?」と言って止めない。


「ちょ、ちょっと待ってください。だって私たちは同盟関係で、」

「直接の同盟関係じゃないから大丈夫だよ」

「さっきの契約に違反します!」

「破棄でも私は困らないよ。……まあ、前提からして、『衣食住』はともかく『安全』を保障するような文言はどこにもないから、違反でもなんでもないんだけど」

「あっ!本当だ!」


もしかして、今日の私は相当抜けてるんじゃないだろうか?

その場を逃げ出そうと飛鳥は足を……動かない!?

足元を見れば飛鳥の影にピックが刺さっている。思わず目を瞠る。

『影縫い』だ。『発光』を使わない限り解除できないが、飛鳥は魔術を使えない。

しかも飛鳥の体質を知っているのか『魔力撃』『稲光』『紅蓮』をこれでもかというくらい重ねがけしている。直撃したら間違いなく、即死通り越してミンチ確定だ。オーバーキルにも程があるだろう。

何より顔は笑っているのに目が笑ってない。これは本気だ。これで本気じゃなかったら、もう何を信用していいのかさっぱり分からない。


「さて。良い子の皆はちゃーんと、契約書の文面を確認してから署名しようね!じゃあ逝ってみよう!」

「えっ、あっ、ちょっ、」


漢字が違う!

なんとも場違いな感想しか浮かばない飛鳥の脳天目掛けてピックが豪速球で飛んでくる。

飛鳥の動体視力でギリギリ捉えられるのだが、生憎動けないから死の恐怖が倍増するだけである。

思わずぎゅっと目を瞑った飛鳥は……しかし、何の痛みも起こらないことに違和感を覚えて瞳を開く。


ここ数ヶ月で見慣れた青年……志瑞空が、飛鳥を背に身の丈ほどの釘を構えて、御厨に対峙している。御厨はなんてこと無さそうに笑っているが、数センチほど移動しているし、影には釘が深々と突き刺さっている。


……まただ。何度も見てきた光景。

だけど、これ以上に安心できる光景なんてない。


「やっとお出ましだね。待ってたよ、『這いよる混沌』さん?」


あっさりと釘を抜いた御厨がそう笑う中、志瑞が「『司書』ちゃんは相変わらず悪趣味だぜ。思わず『釘を刺しちゃった』じゃないか」と、いつも通りの笑顔のはずなのに、どこか刺々しい雰囲気で話す。


「駄目じゃん。ちゃんと狙わなきゃ、ねえ?……まあ、でも及第点はあげるよ。本当は一ミリも掠らないはずだったけど、『影縫い』されちゃったからね。流石だよ」

「よく言えたものだぜ。僕に『釘を刺される』隙を敢えて作ったんだろ?『司書』ちゃんはいつも『正しい』んだから」

「ふふ、それこそ過言だよ。私だって時には間違える。人間だからね」

「とんでもない。その『間違え』だって君のそれなら『正解』でしょ?それで未だに狂気の中の正気だなんて、正に『エリート』の中の『エリート』だ」


心にもないことを言う人だなぁ。人の心もないような禍々しい、不気味な人だ。


志瑞に対しての第一印象と全く同じような印象を御厨に抱きつつあった飛鳥は、完全に蚊帳の外だ。

あーもうめちゃくちゃだ。そう思いつつ、会話の中でなにか情報でないかなぁ、と事の成り行きを見守る。

志瑞と御厨の嫌味の応酬はまだ続く。


「そもそも、どうして飛鳥ちゃんを殺そうとしたのかな?『司書』ちゃんのことだからちゃんと理由があるんだよね?なんとなく、とか言った暁には……また『釘を刺しちゃう』かもしれないぜ?」

「へえ、『這いよる混沌』さんはそんなこと言うようになったんだ。気持ち悪いね。君の置かれている状況と君の体質を踏まえての発言かな?正気の沙汰じゃないよ?」

「余計なお世話さ。正気で裏社会の底辺這いつくばって生き延びられるような『エリート』じゃないから。そんなことより、僕が今聞いてるんだからそっちに答えるべきじゃない?それとも聞き逃したか。ああ可哀想に、『啓示』ばかり聴いてるから耳が遠くなるんだよ。仕方ないから、もう一回言ってあげよう。耳の穴をかっぽじってよーく聞いておいてね?」

「それは結構。そうだねえ、理由としてはやっぱり……」


御厨はそこで言葉を止めて、飛鳥を一瞥して、すぐに志瑞に視線を戻した。


「うん。ただの気紛れ……おっと。短気は損気だし、短気な男は嫌われるよ?私、君の将来が心配だなぁ」

「五月蝿い。もう答えなくていい」

「ええ。君が聞いてきたのに、素直に答えたら釘刺してくるわ勝手に打ち切るわ、理不尽すぎない?」

「僕は悪くない。気味が悪い君が悪い」

「いや、私は悪くないね。君が悪くていい気味だよ」


……何を見させられてるんだろう。

いつしか、飛鳥は遠い目になっていた。

最初はハラハラしながら見守っていたが、冷静になって見てみるとあら不思議、姉弟喧嘩のように思えてきたのだ。志瑞はともかく、御厨が愉しそうに話をしているからだろうか。口から出る言葉は嫌味のオンパレードだが。

志瑞が敵愾心丸出しなのも手伝って姉弟喧嘩……いや、それすら通り越して最早弟を揶揄う姉という構図に見えてきた。

彼が『ロスト』や『ポルターガイスト』で発端となった人物に対して見せた敵意をそのままそっくり御厨に向けていることだけが、姉弟喧嘩ではないという証左だった。


埒が明かないと思ったのか、志瑞が「それで?僕を誘き寄せてまでどうしたいの?」と話を切り替える。御厨は「ああそうだった。君にどうしても言いたいことがあってさぁ」と、飛鳥が署名した原本をそのまま彼に手渡した。

志瑞はその契約書を裏表しっかり読み込む。

やがて書面から顔を上げると、はぁ、と深くため息をついた。


「僕はこの契約に従うメリットがない。全くもってね。……だから、この条文を付け足してくれない?」


スラスラと記入して御厨に返されたそれを彼女は軽く読み、「良しとしようか。じゃ、ちゃんと遵守してね」と懐に収めた。

そして、飛鳥にまたチャットが送られる。画像データだ。


『八.七世飛鳥の監視者、志瑞空に関して、七世飛鳥及び志瑞空の安全を保障すること、『陰成室』内のあらゆる全てのデータの閲覧権を本契約の対価とする。

九.六条について、二条の内容は適用されないものとする。』


「危なかったね、飛鳥ちゃん。契約が完了したら情報の活用すら出来なくなってしまうところだったよ」

「ほぇ?」

「簡単にまとめるなら、これで少なくとも僕たちに危害は加えられないし、手に入れた情報を使って君の目的を果たすこともできるようになったってこと」

「……ほんとだ!?」


安全の保証はともかく、情報の活用については目から鱗だった。そんな落とし穴があったのか……!

あまりにも穴だらけの契約に戦々恐々とする飛鳥に、「とりあえず作業は明日からだね。部屋は適当に歩いてたら辿り着くよ。じゃあ、よろしく」と何事も無かったようにフォローなどもなく、御厨は姿を消した。

その場に志瑞と飛鳥だけが残される。


なんでついてきたの?

そう聞こうとして、飛鳥はすんでのところで抑えた。

愚問でしかない。

こんなのは十中八九、霧乃の差し金だろう。

そして、そのお陰で飛鳥は凄く助かったのだ。彼が飛鳥を庇ってくれて、不平等にも程があるこの契約も改善してくれた。

だから、今は言及よりも他に言うべきことがある。


「いや、まあ、その。ありがと」


飛鳥がそう感謝を述べたが、彼はいつも通りの笑顔に鋭い雰囲気が残ったままだ。どこか表情が固いように見えた。


「本当は市外に行けるようにしたかったんだけど……それを言い出したら、もっと交渉は難航しそうだったから。ごめんね」


なんと、謝られてしまった。


「え、いや別に大丈夫。謝られても……新央市を彷徨いてみたら、案外楽しいかもでしょ?」

「でも、」

「謝らないと気が済まないの?じゃあ、謝罪がわりにどっかいい感じの喫茶店で一回奢ってよ。それでチャラにするけど?」

「それは光栄だし、一回と言わず何度でもそうさせて欲しいけど、そうじゃなくて」

「……ええっと、何?」


飛鳥の言葉に言い淀む様子の彼に、これはただ事ではないというか、深刻な問題があるのかと身構えた飛鳥が問えば、彼は珍しく神妙な顔をしていた。


「この契約、本当の狙いは僕と飛鳥ちゃんが桜坂市に戻らないと言う点にあるように思う」

「何のために?」

「さぁ。『司書』ちゃんにとって『正しい』理由はあると思うけど。今も昔も、何考えてるかわかんない人だからねぇ」


お前が言うか、とは言えなかった。

あの志瑞が。

どんな理不尽だって愛せると豪語していた彼が、珍しく、笑顔ですらなかったのだ。

そのまま彼は続けた。


「多分だけど、一ヶ月の間に何かするつもりで、僕たちが邪魔だったからここに縛り付けたんじゃない?」

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