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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部四章『預言者』
34/67

4−2

こんにちは。

腰が痛くていたくて仕方ないです。

まだ20代なのに・・・・・・どうして・・・・・・


そんなことは置いといて、続きです。どうぞ。

「ネタばらしも済んだところで、早速話を始めるよ。ほら、こっちに座って座って」


未だ唖然としている飛鳥をソファに誘導した御厨は、準備があるからと応接室を後にした。

正直、飛鳥の脳内はそれどころではない。

なんせ、『預言者』だ。『恩人』を見つけ出すための重要な手がかりになるかもしれない人。

何年も求め続けていた情報が、今。

思わず固唾を飲む。胸の鼓動が高鳴る。


準備といったって精々お茶を淹れるくらいだろう。そのわずかな時間ですら何千年という長い時間に感じられる。

期待、不安、緊張。様々な感情が怒涛の勢いで押し寄せる中、飛鳥はただじっと堪えるしかなかった。


「お待たせ。……わあ、すごく緊張してるね」


やっと戻ってきた御厨の手にはお茶が乗ったお盆、そして脇に書類が何束か挟まれていた。

御厨がお茶を机に置く。極度の緊張、道中の暑さもあって喉がカラカラだったので、これ幸いと一気に呷った。

瞬間、噎せた。


「え、いや待ってからい死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!冗談抜きで口から火が出るっていうか喉が痛くて炎症おこして呼吸困難で死ねるくらい辛い!?」

「ふふ。冗談が上手だね。辛い紅茶なんてあるわけないでしょ?……うん、美味しい」

「うっわ美味しそうに紅茶飲んでる!なんて呑気なんだ!絶対私のだけ辛くしましたよね?!この意地悪、悪魔、鬼畜!私のこの反応をジョークだと思ってるなら飲んでみてくださいよ!」

「え、ごめんね?私はそういう性癖じゃないから……間接キスはちょっと」

「私もそんな趣味ありません!」

「そんな!同性愛を悪いことみたいに言わないであげてよ……」

「別にどうとも思ってないくせに、自意識過剰、被害妄想も猛々しい面倒な輩みたいな物言いしてないで水ください!」

「えっ!?数日口にしないだけで禁断症状が出る、飲んだ人の百年以内の致死率100%の一酸化二水素をご所望……?正気なの?」

「あああああああああもおおおおおおおおお!!!」

「あっははははははは!」


飛鳥は発狂した。

人の不幸は蜜の味とばかりに人を揶揄う、そんな悪趣味な『預言者』を絶対泣かすと決意した。

あまりもの怒りに今まで胸中で渦巻いていた感情はどこかへ吹っ飛んだ。

期待?不安?緊張?知るか。それこそ捨ておけ。今はとにかく目の前の邪悪を懲らしめるべき時だ。

知ってるか、『預言者』よ。人を笑わせるジョークは面白いしセンスもあるが、人を傷つけるジョークはナンセンスなのだ……!


なんとか息を整え、未だに笑いを抑えきれない様子の御厨をキッと睨みつけた。


「……性格悪いですね」

「やだ、照れちゃうな」

「褒めてませんけど???」

「ふふふ」

「笑わないでくれます?」


一矢報いるつもりでやっと言い放った悪口だが、御厨には何処吹く風であった。

それどころか「緊張は解れたみたいだね」なんて言いながら、少し引き笑いもしている。まだ笑いが込み上げてくるらしい。本当に緊張はなくなっているのが腹立たしい。


あー、うん。もうこうなったらどこかで適当に笑い死んどきゃいいんじゃないですかね。


埒が明かないので、「とにかく。そろそろ話を始めたいです」と無理やり話題を切り替える。

御厨も「そうだね。飛鳥ちゃんとの話は前評判通り面白いけど、本題に入ろうかな」と用意してきた書類を徐に広げた。切り替えがうまいのか、すんとした表情だ。


「さて。大体の概要は桜乃から聞いているよ。数年前に会った『恩人』の手がかりが欲しいとか」

「はい」

「ただ、名前も容姿も分からない。唯一の情報は数年前……『評議会』に元々所属していて、同組織が活動停止する直前に研究室に配属されたという経歴だけ。間違いないかな?」

「はい……」


飛鳥の長い話をよく要約できたものだとよく分からない方向に感心すると同時に、冷静にこうして聞くと、なんともまあ、随分な無茶振りだと思った。

だが、こちらは藁にもすがる思いなのだ。


「やっぱり難しいですよね。でも、本人と特定できなかったとしても、何かしらヒントが欲しいんです」


そう言って縋るように目の前の御厨を見つめる。

当の御厨は「んー、」と少し考えるように視線を上にやって、割と直ぐに飛鳥に視線を落とした。


「……正直に言うね。私、さっきの概要を聞いた時点で、既に答えが分かってるんだ」

「本当ですか!?」


あれだけの情報で!?!?

桜乃さんも『ありとあらゆる全てに対して答えを得られる』とかなんとか言ってたけど、『預言者』ってそんなに凄いのか……。


飛鳥は御厨を見直した。


「え、じゃあ……」

「ただ、そのまま答えてあげることは出来ないんだ」


教えてください、と言いかけたところ、御厨は少し残念そうに飛鳥の言葉を遮った。

ぴしり、と硬直する飛鳥に、御厨が言葉を続けた。


「情報屋をしてるわけじゃないし、『預言者』なんて大層な二つ名も慈善事業じゃないよ。情報というアドバンテージを得る……『最適な温度』で生きるためだよ」

「……」

「『司書』としても答えられない。『陰成室』を出入りしたことが一度でもあるならば、それらは等しく『顧客』ないしは『構成員』。そう易々と情報を明け渡すことは出来ない。それが規則で、私も曲がりなりにも『司書』即ち構成員だからね」

「そう、ですか……」


そう言われてしまっては、聞き出すことなどできない。

あと少しだったのに。落胆する飛鳥だが、御厨の話はまだ続きがあった。


「だけど、桜乃が紹介してくれた人だし、何より霧乃ちゃんのお気に入り。だから、少し譲歩してみようと思うんだ」

「譲歩?」


規則を守ることに譲歩も何もあるの?

飛鳥は首を傾げたが、目の前の彼女はそこでやっと、書類を飛鳥にも見えるように広げた。


「契約書?」

「そう。私も魔術師の端くれだからね。魔術師らしく、契約を結んでみようかなって。とりあえず、内容を確認してみてよ」


そう促され、飛鳥は契約書に目を通す。


『契約書

一.七世飛鳥は一ヶ月間、御厨調の指示に従う。委託する業務は書類整理、物品の運搬、雑談相手などの簡潔なものに限り、責任は御厨調にあるものとする。尚、七世飛鳥は新央市外には決して出ず、あくまで御厨調の監視下にあること。

二.七世飛鳥が、一で委託された業務で得た情報を活用することを御厨調は正式に認める。

三.御厨調は七世飛鳥に一日十五時間、週に二日以上の十分な休息を与える。また、衣食住を無償で提供する。

四.一ヶ月後、御厨調は七世飛鳥の働きに応じて、最大三つまで、七世飛鳥の求める情報の手がかりを提供する。また金銭的報酬も付随する。

五.以上が遵守されなかった場合、契約は破棄と見なされる。

六.契約が四まで履行された場合、この契約は完了と見なし効力を失う。』


「どうかな?霧乃ちゃんからは一応承諾貰ってるけど」


飛鳥が最後まで読んだ頃合いで御厨はそう尋ねた。

飛鳥としては、拒否する理由がほぼない。願ったり叶ったりである。

真面目に仕事しているだけで、『恩人』に関する情報が最大三つ確約されている。一ヶ月間共に仕事をする間に更に情報を探っても良いようだから、実際はもっと情報を手に入れられる筈。

しかも、人使いが粗い霧乃と違って簡単な業務、ホワイトな雇用条件だと言えるだろう。

唯一の気がかりは、霧乃と一ヶ月間離れるということくらいだが、それも『霧乃から承諾を貰ってる』らしいから杞憂なのだろう。

念の為に契約書を読み返すが、認識のすり合わせなど必要ないくらい、しっかり条件が書き込まれている。

となれば、答えは一つだった。


「問題ないです。是非、お願いします」


そう言って、署名をしてから書面を返す。

「そっか。じゃあ、契約締結だね」と御厨は微笑む。


「そうだ。フレンド登録させてほしいな。連絡先を知らないんじゃ、不便でしょ?」

「それは勿論。どうぞ、こちらからもお願いします」


そんなやり取りを経てフレンド登録をした矢先、御厨から早速チャットが届く。

確認すると、契約書の控えのデータとパスキーらしい。

仕事が早いなぁ。

感心していた飛鳥に御厨は「今一度、契約書を確認しておいてね。早速執務室に飛鳥ちゃんの席を用意してくるから、ここで待っててね」と言い残して応接室を去っていった。


ついさっき見た契約書の内容は完璧に頭に入っている。正直、再度内容を確認する意味は薄いだろう。

だが、御厨の指示に従うようにと言われている。どんな些細なことでも、手間だと思っても忠実に従っておいたほうが、破棄とみなされたり減点されて得られる情報が減るよりマシか。

そう思いなおし、その控えのデータを表示させた。

やっぱり同じ。

どんどん読み飛ばしていく中、ある一文を見て目線は止まった。


『七.尚、この契約は、七世飛鳥が応接室に入るまで七世飛鳥を尾行、監視していた者にも適用される。』


「……えっ、」


こんなのあったっけ?

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