3−10
こんにちは。
昨日の続きですが、★★★で作中時間が切り替わります。
回想から一旦戻って、また回想に入るって感じですね。
ソレを踏まえて、どうぞ。
志瑞が生徒会室の扉を叩く。
「どうぞ」と声がして、志瑞は物怖じする様子もなく開け放つ。
半ば緊張しながら霧乃も後に続けば、案外臨戦態勢ではなく、今からお茶会でも始まるのかと見紛う程の穏やかな雰囲気が漂っている。
しかし、陰に数人ほど『隠蔽』魔術で潜伏しているのも感じ取れる。交渉して上手くいけば良し、決裂したらその時は処分する心算だろう。
「お待ちしておりました、志瑞空さま……いえ、『魔術師殺し』さま」
ただ一人、生徒会長ー『御伽学院』の全権代行ーの席に腰掛ける少女が、そう言って迎え入れる。
「お噂は予々。私、僭越ながら『御伽学院』生徒会長を務めております、桜乃叶内と申します。以後お見知り置きを」
「へぇ。凄く丁寧な挨拶だね」
霧乃からすれば殺気しか感じられないが、志瑞は何処吹く風のようだ。
「ささ、こちらにおかけになって。ゆっくりお話を聞かせてくださいませ」
そう言って志瑞を歓待している間、霧乃には視線が注がれることが全くない。無視されている。霧乃はそこまで脅威に思われていないようだ。
なんとも腹立たしい。だが好都合だ。
『生徒会室』に足を踏み入れる前に彼が言っていた件も、霧乃には都合が良かった。元より桜乃の相手を頼もうと思っていたのだ。
直接対決でも勝てる見込みはあるが、確実性を考えるなら彼VS桜乃の構図に横槍を入れて荒らす方が良い、というのが霧乃が導き出した結論。
そして、今はその横槍の時機を見極める時間。注目を浴びていないことを良いことに魔術式を展開し、待機状態にしておく。
「そういえば、貴方様が今日からこちらにいらっしゃるとのことでしたから部下に歓迎するようお伝えしたのですが……お気に召されなかったとか」
「まあね。だから『釘で刺し』ておいたよ」
「さようで。それは大変失礼いたしました。しかし、『御伽学院』生徒会に所属してくだされば、素晴らしい待遇をご用意しましょう」
「断るよ。どうも僕にここは合わないみたいだ」
「それは誠に残念でございます。……さて、この紅茶はいかがでしょう?私、貴方様がこちらに加入してくださると伺ったもので、気合いを入れましたのよ」
霧乃が準備している間にも
あの紅茶は十中八九毒だろう。彼を毒殺して霧乃を上手く丸め込むか処分するといったところか。
さて。彼はどう処理する?
「わぁ、ありがとう。もちろん頂くよ」
「えっ」
様子見に徹していた霧乃は、志瑞が何の警戒もなくあっさり飲むのを止められなかった。
しかも即効性の毒なのか、志瑞の顔色はすぐに青くなりパタリと力無く倒れる。
これだと『治癒』でも間に合わない。誰がどう見ても即死だ。
「『魔術師殺し』『這いよる混沌』と謳われた彼の死に際はアッサリでしたね。……さて、共犯者さん。何か遺言はありますか?」
勝ち誇った表情を浮かべた桜乃に霧乃は焦りを隠せなかった。
……否。
背後でゆらりと立ち上がる影に、戸惑いを隠せなかった。
霧乃の様子が可笑しいと思ったのか、怪訝そうに桜乃は眉を顰めた。
「何か策でもおありで?」
「ご馳走様。紅茶、美味しかったぜ?」
「っ!?」
ここでようやく志瑞が『生きている』ことに気づいた桜乃が飛び退いた。
「嘘、青酸カリ飲ませたから生きてはいられないはず!そもそも先程確実に息の根をとめたのにー」
「うん、たしかに死んだよ」
動揺を隠せない桜乃の言葉に志瑞は静かに頷いた。
「は……じゃ、じゃあどうして、」
ぽつりと呟いた桜乃の問いに、霧乃は昔に友人から聞いた話を思い出していた。
『『評議会』には一人厄介な人がいるんだ』
『確実に死んだはずなのに、次の瞬間には何事も無かったように生きて、どんな戦況であっても生き延びて確実に情報を持ち帰る』
『だからこそ、戦場ではこう呼ばれる』
「僕が死んだ現実を虚構にした」
『負け戦なら百戦錬磨ってね』
霧乃は半ば反射で待機していた魔術式を起動した。
『心象操作』。かつては『教会』がある計画のために開発した、人の感情を操る魔術。
しかし、あまりにもコスパが悪い。たった一人の、たった一つの感情しか動かせないのだ。
だから霧乃は改良に改良を重ねた。
霧乃の使う『心象操作』、それは。
「いい!まえ!かけにろび、ぞわうわどてべすみせ!(ああ!もう!かくなればぜんいんでつぶします!)」
呂律が回らず、思考回路も単調になる効果だ。
これで指示を上手く飛ばせないようにして対集団戦を避けるという考えもあったのだが、よく鍛えられた部下のようで、若干戸惑いがありつつも表にでてきた。
しかし、単調になる効果だけでも戦況が優勢に傾くだろう。その魔術の維持だけに集中して戦いを見守る。
控えていた部下四人は口々に魔術を使用する。
「『水流』!」
「『稲光』!」
「『心象破壊』!」
「『魔力撃』!」
よし、効果はしっかり出ている。魔術名を口にするメリットが皆無なのに態々発声していることから明白だ。
最初に霧乃を攻撃した方が良いということも意識の外のようで。
「なるほど。僕を死なせ続けることで、リスキルからの嵌め殺しを狙ってるんだね。うん、流石は『御伽学院』エリート様だ。縛られた状態でも的確に判断できるとは」
志瑞も彼らが意図していることは分かるのか、うんうんと感心したように頷く。
「けど、駄目だね」
そして、一瞬で全てが無に帰して四人全員の肉体を大きな釘が貫いた。
「あーあ。ここも期待ハズレか。魔術じゃあ、誰も人外のようさんは倒せない」
言葉とは裏腹にそこまで残念でも無さそうというか、どうでも良さそうにそう言い捨てた彼はゆらりと踵を返し、桜乃に向き直った。
「さてと。後は君だけ」
「みっと。をちすちつひ、とくうひわとにきっち(まって。わたしたちは、てきいなんてなかった)」
「おいおい、命乞いかい?酷いなぁ。先に手を出したのは君たちじゃないか。勝手に操られた君たちが悪いから僕は悪くないよね」
「さわに、(そんな、)」
自らの末路を悟って、汗をダラダラと流しながら跪いて縋った桜乃だが、志瑞が取り付く島もないのを見て絶望を滲ませた。
「そもそも、ここって『JoHN』を君たちが勝手に改装したんだろ?人のテリトリーを踏み荒らして……それをした時点で君たちは『加害者』。悪事に手を染めたら、それ以上の『深淵』『混沌』に蹂躙されるのが世の理らしいぜ?」
彼がそう話すと、桜乃が肩を大きく落とした。
そろそろ終わる。
霧乃が安堵した瞬間、「けど、」と志瑞は言葉を続けた。
「もしも『JoHN』の正当なる後継者、城月霧乃ちゃんの『全て』を僕に一任してくれるというのなら!君が『JoHN』を占領し続けることだって許可しよう!」
「最低だ!そもそも何の権限で許可しているんだ!?」
「をきるみすち!(わかりました!)」
「判断早っ!?少しくらい迷え!いや迷う理由がないのは百も承知だが簡単に見捨てないでくれ!」
霧乃が狼狽しているのすら彼らはスルーしている。
「さあ、さっさと僕の前から消えてくれ。残念ながら僕は気まぐれで、五秒以上気が変わらない自信は無いからね」
そう言って志瑞は簡単に桜乃に背を向けた。
このままでは本当に志瑞の奴隷になりかねない。どうしよう。私、コイツを敵に回す気はさらさらないのだが。
霧乃がグルグル考えている間にも桜乃は心底安堵したようにすくっと立ち上がろうと、
「やっぱ気が変わった」
ー瞬間、彼女の心臓を大きな釘が貫いた。
「……っ!?うつぶゃえま、ちっとにうなぬ(いちびょうも、たってないのに)」
「五秒以内に気が変わらないという僕の気が変わったから仕方ないよ。うん、なんかごめんね?」
「……、……。……」
桜乃はそれ以上何かを言うでもなく事切れた。
霧乃はそれを見てドン引きしていた。
「最低だな」
霧乃がぽつりと漏らした感想に、志瑞は特に大きな反応を返すでもなく返した。
「そう。僕の『異常性』は『呵責』。覚えておいてよ」
★★★
すっかり冷めたお茶を一口含み、霧乃はふぅ、と一息ついた。
飛鳥に昔話をしたが、彼女は特になにかに気づく様子もなかった。
否。無意識に、知った後の末路を恐れて気付かないふりをしているかもしれないが……まあ、霧乃が気にしても詮無いことだ。
だって、霧乃が敢えて伏せたエピソードがある。
後日談でしかないが、そこに答えが隠されているのだ。
霧乃もあのやり取りがなければ、志瑞の『本心』を把握することはなかっただろう。
また回想に浸る。
★★★
桜乃を始末してからというもの、実に呆気なく『革命』は成った。
志瑞がある程度一掃していたということもあり、桜乃不在の『御伽学院』は烏合の衆。志瑞に頼らずとも霧乃単独で制圧。
そして城月家最後の生き残りの城月霧乃は、前評判がどうあれど後継者としては正当として受け入れられ、無事に『全権代行』就任。占領されて以来交流が途絶えていた『軍』『協会』『陰成室』との関係も正常化。
『陰成室』全権代行がまさかのドタキャンした友人である事実には驚かされたが、おかげでゆっくり話ができた。
そして、志瑞は律儀にも、霧乃のボディーガードをその期間はずっと務めてくれていた。
そんなこんなで混乱も大体落ち着いてきた頃。
すっかり慣れた執務室で霧乃は志瑞に尋ねた。
「これから君はどうする?」
「もうそろそろお役御免だと思うし、またフリーに戻るとするよ」
「ここは潰していかないのか」
「霧乃ちゃんが率いるなら、早々『釘を刺す』べき組織にはならないでしょ」
「なるほど」
なんだかんだ信頼されているらしい。
霧乃を信用していない部下が多い中、彼の純粋なそれが擽ったい。
「今日、発つのか?」
「そうだよ。僕はもう余計、蛇足というものさ」
「そうか……」
志瑞の言葉に寂しさを覚えた霧乃だったが、ふとある書類を思い出した。
「ひとつ聞きたいことがある」
「どうしたんだい?」
「『JoHN』新入構成員を募集していた折、『軍』から機密情報として届いた手紙がある。私と親交のある『軍』次期全権代行の言葉だ。チャットで済ませられない重大な案件だろう」
「へぇ。でもそれは僕に無関係じゃないかな」
「どうも、『軍』で保護している人物が、強く『JoHN』への移籍を希望しているらしい。『評議会』が機能停止した時にある男から預かった重要参考人だ。前線には決して出さないという約束があるから、秘書として雇って欲しい。そんな相談だった」
「……」
霧乃がそう打ち明けた途端、志瑞の雰囲気が変わった。
『人の心がない』ようなそれではなく、心配と、期待と、驚愕と、とにかく色んな感情がグチャグチャになったような。
同じ真顔だが、今の彼はあまりにも人間臭い。
「……ちなみに、その少女はどうして移籍を?」
ほら。あまりにも動揺しているからか、霧乃が喋っていないことを知っているように話す。
霧乃は一度たりとも、『少女』とわかるようなことを言っていない。
だが、それには知らぬ存ぜぬを貫く。
指摘をしてしまえば、彼は心を閉ざすだろうから。
「なんでも『恩人』を探しているらしい。果たして誰だろうな。人を探すとなれば、裏に足を踏み入れざるを得ない日も来ると私は予想するが。……君はどう思う?なぁ、志瑞」
「……」
すっかり黙り込んでしまった志瑞に、霧乃は提案を持ちかける。
全ては、『大いなる善』のために。
「契約をしよう、志瑞」
「……」
「一つ。私から君に仕事、情報を提供する。仕事の報酬も勿論十割渡す。君の目的の為に利用すれば良い」
「へぇ。情報源や収入源が増えるのはありがたいね」
「一つ。私に万が一があれば、君やこの『秘書』に全権を委ねよう。栄えるも滅びるも自由だ」
「大盤振る舞い、太っ腹だね。僕にメリットしかないけど対価は何かな?」
「最後に。『秘書』を私は極力諭そう。なんとか裏に進出するのを止める」
瞬間、また彼の体は硬直する。
本当、実にわかりやすい。笑えてくる。
なんだ、本当に普通の男の子ではないか。
しかし、今は真面目な相談。笑いを押し殺して続ける。
「だが、しかし。どうしても諦めがつかないなら、その時は君を彼女の護衛に任命しよう」
「……」
志瑞は暫く考え込んでいたが、やがて笑みを零した。
いつもの何を考えているやらよく分からないそれより、よほど人間味があった。
だから。
「おいおい。僕に信任してくれる幹部なんかいるわけないじゃん」
「大丈夫だ。きっと、その時には『JoHN』幹部も賛成してくれる」
霧乃は笑う。『心象操作』をチラつかせて。
「頼む。私はね。極論、支配者が誰だろうと『JoHN』構成員が平和であればそれでいいのだよ」
目を丸くしていた志瑞も、霧乃に釣られるように歪に笑った。
……そして数年後、その約束は果たされた。
これで3章は終わりです。
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