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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部三章『水無月クロニクル』
30/67

3−8

こんにちは。

今度は霧乃メインの回ですね。

ではどうぞ。

遊園地デート(?)の翌日。

秘書の仕事として呼び出しを受けた飛鳥は、霧乃の執務室に顔を出していた。

どうせ志瑞と出かけた感想でも聞かれるんでしょ。

そう高を括っていたが、予想に反して書類が山のように積み上がっていて、目を白黒させた。


「え、何この山。これ全部私の仕事?」

「そうだ。本当はもう少し後でもいいんだが、」


霧乃はそこで言葉を切って、意味深にこちらを一瞥した後に「まあ、今のうちにやっておいてほしい」と続けた。


「もう少し後でいいなら、今日やらなくたって良くない?」

「それはそうだな。だが、なんとしてでも七月末までには処理を完了してもらおうじゃあないか」

「ええっと……?」


今日は七月に入ったばかり。書類の山は頂上がこちらからでは見えないほどに高く、期限までの日数を考えるとしばらくの間は執務室に缶詰になるだろう。想像しただけで気が遠くなる。


「……ほんとにやんなきゃだめ?」

「ダメだな」

「そっかぁ……」


霧乃は有無を言わせぬ様子。口角が上がっているが目は笑っていない。


もしかして、勝手に七月末に『預言者』さんとアポイントを入れたのがバレて、今はその八つ当たりだろうか?

……仕事が終わらなかったら軟禁されて、『預言者』さんに会えなくなるかもしれない。


飛鳥はそれだけ考えて、渋々仕事を始める……のだが。

割と久々に事務仕事をするからか、集中力や判断力はとてつもなく落ちている。

業務は遅々として進まず、牛歩の如しだ。

全く成果らしいものが感じられぬ現状。元々仕事をする想定など全くせずに来たものだから、そういった心構えが出来ていないまま取り掛かり始めた仕事。

結局、ほんの一時間で音を上げることになった。


「もう嫌だ!帰る!」

「いいぞ。帰ったら寮まで書類を持っていくから」

「うそ、そんなことされたら過労死するじゃん!」

「大丈夫だ。その程度じゃ死にはしない」

「霧乃ちゃんの鬼!悪魔!」

「はいはい。好きなように呼べばいい」


取り付く島もない様子の霧乃に、飛鳥はぶすくれた様子でデスクに頬杖をついた。そのままその辺にあった書類を一枚手に取って、雑に、ぴら、ぴら、と扇ぐ。


「大体さぁ。なんでアナログなの?もっと、こう、『ITレンズ』とか有効活用して電子化したっていいじゃん。紙よりもセキュリティはバッチリだよ?」

「昔はそういう処理だったが、『御伽学院』が随分と荒らしてくれたからな。せめてもう少し人手があれば導入もしやすいのだが、女手一人では些か難しい」

「ふーん?」


それこそ適当な業者に頼ればいいような。

飛鳥が腑に落ちずに首を傾げていると、霧乃はその思考を読んだのか答えるように返す。


「まあ、業者に頼むにしても。志瑞がいる限りは難しいだろうが」

「え?なんで?」


志瑞の名前がここで出てくると思っていなかった飛鳥が首を傾げると、霧乃は少し意外そうに目を見開いた。


「『呵責』の効果は理解しているか?」

「うん。たしか、『負』を引き寄せて、誰かに押し付ける……だったよね?」

「概ねその通り。そして、その押し付けられる対象は原則『釘を刺した』相手になる」

「……うん?」


霧乃の説明に飛鳥は待ったをかけた。

最初に聞いた時は大して思うところなどなかったが、こうして改めて話を聞くと疑問点が生じた。


「ちょっと待って?」

「どうした?」

「あいつって『呵責』とか判断力とかそのへんは凄いけど、ぶっちゃけ素の状態だとモヤシより弱いクソザコナメクジじゃん?」

「まあ、そうだな。否定はできない」

「じゃあ、『釘を刺す』前に不意打ちを食らうことだってあるでしょ。そうなったらどうなるの?押し付けようにも対象がいないけど」

「いいところに気がついたな」


飛鳥の質問に霧乃は満足気にそう頷く。


「実際本人に聞いてみたことがあるんだが、『釘を刺す』前に『負』を引き受けた場合……その『負』は無差別に反射されるらしい」

「無差別?」


それはつまり、その辺のチンピラに殺された時もどこぞの赤の他人が死んだかも、ということだろうか?

下手したら飛鳥自身が死んでいたかもしれない。


「ゾッとしない話だね???」

「確かにそうだが……しかし、心配無用だ」

「なんだ、対策あるんだね。ホッとしたよ。ビビって損」

「人だけでなくものも対象だ。たとえば特定のフォルダに入れてあったデータとか、お金とか」

「そこは問題じゃないんだけど???」

「それはさておき、」

「さておかないで???」


飛鳥が怒涛のツッコミをする中、霧乃は楽しそうに笑いながら「飛鳥。君なら大丈夫だ。なんせ、そんなやわな体ではないだろう?」と返した。

たしかにそうだけど。人間じゃないし、なんなら首をちょんぎったところで死ぬとも限らない化け物。四肢がちぎれても再生は理論上できるだろう。

……しかし、『恩人』と右腕を交換した、とても大切な身体である。傷つけたくないし、右腕がちぎれて生やし直してしまったら、悔しさと悲しさで暫く食事が喉を通らなそうだ。


やっぱり安心できることでもないなぁと思いつつ、せめて不意打ちによる死は回避させようと方針を決めた飛鳥であった。


……話は変わって。


「志瑞は『JoHN』に入る前はフリーだったんでしょ?此処に留まってもらう為に、やっぱり何か契約でもしたの?」


飛鳥がそう尋ねると、霧乃は「それは、」と一瞬言葉に詰まらせる。

しかし、次の瞬間には何事もないように微笑んだ。


「……志瑞からはどのくらい聞いた?」

「出会いはなかったことにはできない?みたいなこと言われたくらい」

「なるほど」


飛鳥にはてんでさっぱりな話だったが、あの台詞が何を意図したものなのか、霧乃にはやはり分かるらしい。

……なんかそれはそれでモヤモヤする。二人だけの緊密な信頼関係がそこにあって、自分のことなど眼中にないような。

そう感じてしまうと少し心がざらりとする。


いや、いや。二人が勝手に仲良くするくらい問題ないでしょ。何勝手にジェラシーしてんの。正気に戻れ私。

首をブンブン振って思考を振り切ろうとする飛鳥を後目に、霧乃は「そうだな、」と口を開いた。


「志瑞と私が出会った切欠とかはどうだろう?」

「ええ。志瑞が活躍して『御伽学院』をぶっ殺した話でしょ?いいよ、聞き飽きたんだもん」


飛鳥はそう言ってゲンナリとした表情を浮かべた。

数年前から交わされる応酬の一つ。霧乃が仕事の気分転換にと提示する話題を飛鳥が無下に断るのが平常である。今は立場が逆だが、大体似たようなもので。

霧乃が仕方なく、渋々、本当は話したいのだがと名残惜しそうに引き下がるまでがお約束。

しかし、今日は諦めが悪かった。


「昔は何も成果を得られなかった。だが、今までの数ヶ月で色んな気づき、学び、成長があっただろう。今、私の話を改めて聞いてみれば、また何か違う感想が生まれるやもしれないぞ?」

「そうですか?」

「そんなもんさ。どうだ?気分転換にはなると思うが」


……まあ、このまま仕事を続けていても気が滅入りそうな今は効率よく処理できるとは思えない。

それに飛鳥がどう答えたところで語るつもりのようだし、もう黙って聞く他ない。

飛鳥はやれやれと溜息をつきつつ、霧乃の話に聞き入った。

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