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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部三章『水無月クロニクル』
29/69

3−7

こんにちは。

今日でデート?回は終わりになります。


では、どうぞ。

花火がようやく終わった頃。

未だ観覧車が再び動き始める気配はなく、少しの間しんと静まり返っていた。

その折、ふと、志瑞が残念そうに外を見た。


「『STELLA』ショー、見せたかったなあ」


その言葉に、飛鳥は先日の出来事を思い出す。

ゴールデンウィーク、イベント盛り沢山のその時期に『STELLA』もショーを開催していた。識名は飛鳥たちとの打ち合わせを早く終わらせたいとボヤいていたが、今目の前に座っている彼は強いこだわりなど見せていなかったはずだ。


「志瑞って『STELLA』推しだったっけ?」

「識名ちゃんほどじゃないけど」

「あの人と比べたら誰でもニワカでしょ」

「確かに。それもそうだね」


飛鳥が何となく聞き返した言葉に可笑しそうに笑った後、彼は「『STELLA』は僕の曽祖父と曾祖母が立ち上げた劇団だし、『呵責』の使い方もその初代座長を参考にしたんだ」と続けた。

ふーん、と軽く流したが、内心は驚愕でいっぱいだ。

初代座長、志瑞司と志瑞空。たしかに苗字は同じだし珍しい類だとは思っていたが、まさか血縁者とは。

志瑞司が『呵責』に近しい『異常性』所有者であったことも衝撃的だ。

……熟熟、飛鳥は『志瑞空』を何も知らないのだ。

最初は『恩人』探ししか頭になかったから、志瑞の事などどうでも良いと捨て置いた。胡散臭いし、得体もしれないからと遠ざけた。

しかし、もう数ヶ月は行動を共にした。護衛として志瑞が指定されている以上、飛鳥が命を彼に預けることもある。


それに。


『いるんだよ。目の色を変えてまで倒したくなる敵が』


ただ軽薄な人なら、あんなに据わった目なんてしない。


『付き合う?え、つまり一緒に帰ろうって誘ってくれたの?飛鳥ちゃんが?え、勿論!一緒に帰ろう!』


ただ胡散臭い人なら、あんなに目をきらきらと輝かせて、飛鳥と一緒に帰るという『日常』を喜ぶこともない。


どうしてそんなに飛鳥に好意を向けるのか、どうして彼は色んな人から信頼されているのか、彼は何を抱えているのか、今までどう生きてきたのか。

『恩人』と関係があれば重畳。

だが、そうでなくても、志瑞のことを少しくらい知りたいと思うのは、気の迷いだろうか?

否、気の迷いだったとしても。

霧乃が『後悔しないように』と言ってくれた。


だから、すう、と息を深く吸った。

高々と手を掲げ、そして。


「第四回!暴露大会を始めます!」


大声でそう言い放った。


「……うん?」


脈絡のない宣言に目を点にする志瑞に構わずに飛鳥は続ける。


「説明しよう!暴露大会とは!その名の通り、包み隠さず全てさらけ出す儀式なのである!By霧乃ちゃん」

「いや、それは何となくわかるけど、何でそんな突拍子もなく」

「暴露大会は『JoHN』設立者が仲間や協力者と打ち解ける為に開催したらしいよ!前回開催から百年以上経っているけど、今回もちゃんとその理由に沿って開催するから覚悟しておくように」

「話聞いてくれない???」

「とは言えど、今回は司会の私、七世飛鳥含めても二人しか参加者がいないから……そうだなぁ、初回同様、一問一答形式で!」

「あ、ダメだコレ。拒否権も何も無いやつ」


飛鳥の説明に志瑞の表情に困惑が滲む。しかし、やがて諦めたように肩を竦めた。

観念半分、期待半分な様子で彼が挙手して「じゃあ早速」と口を開く。本当は言い出しっぺの飛鳥から質問しようと考えていたから出鼻を挫かれたようなものだが、飛鳥は気分を損ねるでもなく上機嫌に次を促す。

正直、素直に乗っかってくれた喜びの方が勝っていた。


「これって霧乃ちゃんの入れ知恵?」

「暴露大会のこと?」

「うん」

「んー……半分そうかな?」

「半分?」


飛鳥の要領を得ない答えに志瑞が疑問符を浮かべた。

飛鳥は苦笑を浮かべながら補足を始めた。


「霧乃ちゃん、仕事中に休憩とか気分転換とかで色々話をしてくれるんだけど、大体は『JoHN』の歴史のことでさー。よっぽど『JoHN』が大切というか、大好きなんだなぁって感じるくらい熱弁してくるの。マシンガントークみたいな?」

「あー。たしかにそんなところあるよね、霧乃ちゃん」


心当たりがあると言わんばかりに志瑞は頬を掻いた。

でしょ?と飛鳥は同意を求めた後、話を続ける。


「それでね?その中に、初代がいかに仲が良かったか、という話もあって。なんでも、城月怜と真白唯笑が出会った時、汐宮宥と出会った時、一条有希と日向咲が加入した時に開催して互いの素性を晒して、それで打ち解けたんだって。今、それをやってみようって思いついたんだ」


飛鳥の回答に志瑞は少し首を捻った後、ああ、と合点がいった様子で手槌を打った。


「つまり、今回こんな強引に開催したのは、僕のことをもっと知って仲良くなりたかったってことだね!」


そっかそっかー、と一気にだらけた表情になった彼に、どこか恥ずかしくなった飛鳥はぷいと目を逸らす。

確かにそれはそうなんだけど、なんか恥ずかしい……!


「……だって、私のことは予々聞いていたんでしょ?なのに私だけ志瑞のことを何も知りません、とか嫌じゃん?悪い?」

「ううん。全然そんなことない。というかこんな暴露大会とかにしないで普通に色々聞いてきたらいいのに。ねえ、なんで?なんで僕と仲良くなりたいって思ってくれたの?」

「だーもう!暴露大会のルール違反!アンタはさっき質問したから今度は私の番でしょ!?一回に二つ以上質問しない!」


なんとか話を誤魔化そうと飛鳥が腕でバツを作ってそう返すと、変わらず喜色満面の表情で「分かったよ飛鳥ちゃん!じゃあこれは次の質問ってことで!」と志瑞が頷いていた。


できるだけ長く答えさせて質問を忘れさせよう。


そう心に固く誓った飛鳥は、兼ねてより疑問に思っていたことの一つを尋ねた。


「前、『評議会』にいたんでしょ?あそこってろくな噂聞かないと思うけど、そこに入ったのは何で?」


志瑞は目をぱちくりさせた後、少し落ち着いたのか、いつも通りのどこか胡散臭い笑顔で口を開く。


「飛鳥ちゃん。その理屈なら、そんなロクデナシな組織が百年以上も続く道理がないじゃないか」

「そうなの?」

「人生はプラスマイナスゼロだとか、ホワイトな魔術組織に入るべきとか、性善説とか。それを言うのはいつだって人生プラスの奴だけだ」

「……」


返答に窮する飛鳥に構わず、志瑞は続けた。


「親に見捨てられて、食うに困って、ホワイトな魔術組織は孤児の雇用なんてしてないから『評議会』なんかに入らないといけなくなる。または、自分の欲望を『合法』で満たすにはそこが都合が良かった。そんな人が、ロクでもない魔術組織に入って……いざ都合が悪くなった時にはもう抜け出せなくなっている。だから『評議会』も『御伽学院』も百年間続いてきたのさ」

「……」

「僕は前者だった。どうも僕の体質が気に食わなかったらしくて、売られちゃったから。まあ、在り来りな不幸だね。裏の界隈じゃあ有り触れている。飛鳥ちゃんは……まあ、ちょっと特殊な例かな」


志瑞はそこで締めくくり、「さて、次の質問は?」と促した。


「……質問はないの?」


なんとかその言葉を絞り出したところ、志瑞は「んー?」と首を傾げて少し考えるような素振りをみせたあとに笑った。


「特にはないかな。飛鳥ちゃんみたいに経歴とか聞こうにも、僕は君の経歴はもう充分知ってるし」

「経歴とかじゃなくても別になんでもいいじゃん。たとえばほら、好きな色とか好きな食べ物とか」

「好きな色は天色だし、基本好き嫌いないけど飲み物はマンゴーラッシーが好みってことは把握してる」


何故に知ってるんだ。

ぎょっと目を剥いた飛鳥に志瑞は肩を竦めて、「観察していれば分かることより、『暴露大会』らしく深掘りしようぜ」と話す。

好きな色とかも話していたって霧乃ちゃんは言ってたけどなぁ。

飛鳥の内心はさておいて、志瑞は続ける。


「強いていえば、あとは趣味とか、特技とか聞いてみたい。……けど飛鳥ちゃん、聞かれたら返答に困るんじゃない?」

「……」


ぐうの音も出ないほど図星だった。

今まで『恩人』探し一筋だったし。

趣味を嗜むにも行動の制限があったし。


「かく言う僕も目標を達成するまではそういった気持ちになれないから、僕が聞かれたくないことは避けるってだけなんだけど」


眉が下がった飛鳥だったが、志瑞のフォローで気を取り直す。

咳払いをして、改めて志瑞に「じゃあ、暴露大会改めインタビューになるけど、それでいいの?」と問うた。


「勿論、飛鳥ちゃんからの質問なら極力答えるよ。答えたくないことは素直に答えたくないって言うから、そうなったら深く突っ込まないってことで」

「じゃあ、」


好意に甘えて、飛鳥は今までの疑問を次々とぶつけていった。


たとえば、志瑞が『呵責』を自覚した経緯。


「前線である一帯を確保した時に、情報収集を兼ねて跡地を回ってたら『STELLA』の映像を見つけたんだ」

「いやあ、素晴らしいよね。『心象操作』……洗脳系統の魔術を全世界を対象に発動した人も、その影響で全人類が暴動を起こしてるのに、その絶大な影響力を全て打ち消してしまった座長も。その才能が羨ましい限りだよ」

「おっと失礼、話が逸れたね」

「話を戻すと、曽祖父の異常性……『容赦』と呼ばれるそれは、怒りも、受けた傷も、自分にとって都合の悪い物の一切を信じないのが本質だ。僕の『呵責』とは表裏一体なのさ」

「もっとも、それは今だから言えることであって。当時は、『僕も彼みたいになれるかもしれない』という僅かな期待だったけれど」


たとえば、『評議会』機能停止後の志瑞の動向。


「フリーランスで魔術師稼業をしていたよ。魔術なんて全く使わないから、『魔術師稼業』ではなく『裏に潜っていた』と言った方が正確だけれど」

「『魔術師殺し』『這いよる混沌』と呼ばれ始めたのはその頃からだね。適当にその辺の魔術組織に傭兵として雇ってもらって、情報とか抜いて、気に食わなかったら『釘を刺す』。そしてまた適当に活動する。その繰り返し」

「識名ちゃんと会ってからは、彼女が斡旋してくれる事もあったかな。どうも、僕を味方に引き入れたい……否、敵に回したくない魔術組織はそこそこ多いようで、引く手数多だったね。行先には困らなかった」

「『御伽学院』からもお声がかかってね。鼠を退治したいって依頼で雇われたんだけど……手が滑ってついつい雇い主の方に釘をさしちゃったみたいだ」

「それからは、飛鳥ちゃんも知っての通り。霧乃ちゃんの指示に沿って動いてるよ」


志瑞は飛鳥からの質問に対し、驚くほど素直に、誠実に、詳らかに答えた。

嘘をつくどころか、話を誤魔化す、はぐらかすような動きもなかった。

もちろん、時折「ごめん、それは今答えられない」と返されることもあった。

しかし、それは「ようさんって何者?」など志瑞の核心に触れるような質問内容の時だけで、飛鳥も教えては貰えないだろうと半ば予想していただけに、特に腹を立てることもなくスルーできていた。


そうして話し込んでいると、ようやく観覧車が動き始め、頂上にあった籠はゆっくりと高度を下げていく。

もうそろそろ終わりにすべきか。

飛鳥はそう考え、最後に、と前置いた上で尋ねた。


「『御伽学院』に行った理由は分かったけど、なんで『JoHN』に残ってるの?ほかの魔術組織を巡ってみてもいいんじゃない?」

「……えっと、」


飛鳥の質問に、志瑞は表情が変わらないながらも打ち拉がれたような、絶望一色に染められた雰囲気を漂わせた。

なんか誤解されてる。

慌てて手を横にブンブンと振った。


「どっか行けって言いたいんじゃなくて、その。『JoHN』にいてくれてるお陰で私はこうして自由に動けてるけど、他に行き場所あったなら、私が行動を縛るのもなんだし、自由にしたって良くない?って話で……。私が要請した時だけ、傭兵として雇われたらいいじゃん?的な?」


的なってなんだ。的なって。

何故かしどろもどろ、挙動不審な飛鳥だったが、志瑞の雰囲気は和らいで、通常通りに戻った。


「……まあ、最初はそう思ってたよ。どっか遠くにまた行こうかなって」

「……」

「けど、ーーーーー」

「それは、どういう」


飛鳥が問い返そうとしたところで観覧車の扉が開き、ようやく新鮮な空気が肺に入ってくる。


「それが僕の答えだよ。それ以上でも以下でもない。さあ、帰ろう」


数時間ぶりの地面をしっかりと踏みしめて、満天の人工的な光でぼやける星空の下を、遊園地の出口へ向かって歩いていく。

飛鳥の隣。志瑞は空を仰いでいる。星を見ているのか、光を見ているのか、はたまた別の何かを見ているのか。飛鳥には分からない。

……最後の質問の答えだって、そうだ。


「人と人との出会いは、どうやら無かったことにはならないらしい。だから、僕は残ることにした」


飛鳥を愛おしそうに見つめながらそう答えた彼の真意は、まるで今宵の空模様のようだった。

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